チンピラが気に入らない奴をボコボコにする話。
九頭龍子
愛羅編1
第1話 オグマの蒼
「こら、華桐、寝るな」
授業が何の科目だったがもう忘れてしまったが、微睡むのが優先だ。しかし、近づいてくる気配を蒼は感じる。
「むっ」
「相変わらず、お前ってやつは……」
チョップが当たる直前、スルッと蒼の手がチョップを防いだ。みごとな技前である。
「……おはござます。授業、俺無視して進めた方がいいっすよ」
「そういうわけにもいかんだろうが。ほら、この問題、お前が解け」
「ちぇーっ……」
渋々といった面持ちで蒼は席を立つ。
教師にチョークを渡され、黒板の前に行く。そこでようやっと今が数学の授業であると思い出した。
「…………あー、途中式……」
「もう少しきれいな字で書けんか」
「チョーク持ちづらいんすよー」
「しょうがないやつだ。うむ、正解だ。戻ってよし」
教室からは何人かのクスクスと笑い声がする。蒼はそれを気にも留めず自分の席に戻った。
オグマ高校2年、華桐 蒼。彼は少し浮いている。
『オグマの蒼』の噂と言えば、やれ人を殺しただの、族を一人で壊滅させただの、挙句は暴力団と繋がってるだの散々な言われようである。
当然のことながらその多くは事実ではない。
「蒼、ご飯の時間だぞ」
「ん……もう昼?」
「そうだよ。今日ずっと寝てたな」
「寝なきゃやってられん……なんでこんな時期に」
「人ごとだけど朝から大変だな」
「ほんっときつい……ご飯食うか」
「そうしようぜ。食って食って回復だ」
蒼の前の席に座ったのはクラスメイトの
顔が良い男である加賀美、通称ガミとは1年の時から同じクラスであり、引き続きクラスメイトとなった。
季節は春。別れを済ませたもの達に新しい出会いを感じさせる風が吹く。桜舞い散る4月。
とはいえ蒼は加賀美以外の仲の良い友人が居らず、新しい出会いなど──最近は豊満なボディの持ち主としかなかった。
「いただきます」
「いただきます。相変わらず弁当美味しそうだな」
「そりゃ当然。道理がわかっている者には神からの褒美をやろう」
「唐揚げが良いなー」
「………………応」
「めっちゃ悩んだな。本当に良いのか?」
「今後もその慧眼を忘れること勿れ」
「ありがたき幸せー。さっそく! ……うわっめっちゃウマ! ヤバ!」
「やばだろ」
加賀美とは長く昼食を共にしている。彼奴には彼女がいるのだが、学校ではあまり仲良くしているところを見ていない。
「そういや」
「何?」
「彼女とご飯食わんのか」
「……あー、うん」
「中学からの彼女」
「優希とはそうだけど、まあ」
「隣の家の幼馴染み」
「うん」
「ただし」
「「メシが不味い」」
このやりとりは定期的に行なっている。加賀美の彼女である
月に1度のペースで改善お弁当を作り、加賀美はそれを食う。ついでに蒼もご相伴いただくのだが、2人して感想が『痛い』というもの。お弁当を食べた後の感想としては不適切だろう。
何故月1ペースなのかと言えば、単純に加賀美が体を壊しかねないからだ。週1で作ろうとした彼女に泣いて謝った男がここにいる。
「きばれや」
「蒼、手伝ってくれ」
「どっかで本腰入れて改善せー」
「うぐぅ」
会話の合間合間にお弁当に箸を伸ばしていた蒼は、綺麗にそれを食べ終えた。そして、机の側面にかけてあるレジ袋から惣菜パンをいくつか取り出した。
「食うねえ」
「食わなきゃやっとれん」
「身長は伸びた?」
「やめろアホバカ」
「なあ、癒し、欲しくない?」
「だるい」
「ノリわるマンめ」
「ノリに乗るんじゃない、俺がノリだ」
「……いや意味わからんな」
「うん」
蒼が加賀美以外と仲良くないのは、単純に蒼が加賀美以外と連まないからだが、それだけではない。『オグマの蒼』はそんなに怖くなかった人物だが、それでも関わるのは危険だ。
同じ中学校に通っていた生徒によれば、蒼は暴行事件を起こし停学になったという。その現場を見たわけではないが、被害に遭った生徒はしばらく学校を休んだらしい。
族の壊滅や暴力団との繋がりがあるなどの噂は高校生になってから出てきたもの。事実ではないにしても、そう思われる何かがあったのだろう。故に、近寄りがたい。
兎にも角にも、華桐 蒼はクラスで浮いている。
蒼はそれをどうでもいいと思っているし、今更身の振り方を変えるつもりはない。
加賀美の言う『癒し』とやらにも興味がない。
単純に優先順位の問題だが、しばらくはこのままだろうと、蒼は思う。
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