崩壊の星と異能の願い

風遊桜(ふゆさくら)

第一章/一話 神園アリス編

「…大体こんなものかな、言われた物は全部買えたし」


アリスは大きな紙袋を左腕で抱えながら右手のメモを見ながら買った物を確認していた。ある程度確認し終えると、アリスはニコニコと笑いながらその紙袋をぎゅうぎゅうと背負っていたリュックに詰め込み勢いをつけながらそれを背負った。


「でも、国王さまも急に私にお使いを頼むなんて…珍しいな」


アリスは開放された左手を頬に当てながらそう呟いた。

アリスは隣国の城でメイドを勤めている。今回は国王のめいでこの国――グローロ・エトワール国へとやってきた。

内容はただの買い物なのだが、アリスは生まれてから一度も国から出たことがなかったので今回の使いを喜んでその命を受けた。


「それにしても、ここは…ほんとに凄い所ね……」


アリスは活気に満ちた城下町の市場をキョロキョロと見渡しながら感心したように言った。市場には常に新鮮な野菜やら魚やらで溢れ、人間も獣人も皆垣根なく笑いあっていた。この国はエトワールが示す通り、満天の星空がどこまでも広がりグローロが指す通りいつもどこかで星が砕け流れ星が流れる。アリスはその様子を見て紫の瞳をキラキラと輝かせた。

そして、ずっと空を見上げて歩いていた為か目の前を走ってくる人に気づかず派手にぶつかるのは時間の問題であった。


「……きゃっ」


「わっ……!」


アリスと走ってきた人影は真正面でぶつかり、二人ともしりもちをついてしまう。

アリスは慌てて立ち上がり、ぶつかってしまった人影に手を差し伸べながら言った。


「…だ、大丈夫ですか……?」


フードを深く被り表情は読み取れなかったが、水色の長い髪を見て女性と判断し心配そうに次の相手の動きを見守る。


「え、えぇ……大丈夫ですわ、急にぶつかってしまって申し訳ありません…」


彼女はアリスの手をとり、ドレスの裾を払いながら立ち上がった。


「い、いえ…私の方も前方不注意でした、お怪我はありませんか……?」


アリスは彼女の動作と身に付けている衣服を見て何となく高貴な人間だと思った。仕事柄そういう事に関しては勘がよく働く。

アリスの手を借り立ち上がったその人はフードを脱ぎ、真っ直ぐにこちらを見つめて少し微笑んだ。


わたくしはエレディア、エレディア・スターラインと申します。先程は不注意とは言えすみませんでした」


「私は神園アリスと言います。こちらこそちゃんと前を見ていなかったので……怪我がないようで良かったです…」


お互いに、深々と頭を下げ軽い自己紹介をする。頭を上げたエレディアは柔らかい笑みを浮かべながら、アリスを見つめた。


「…では、私は先を急ぐ身なのでこれで失礼しますわ。アリスさん、貴方に星の加護があらんことを」


軽くお辞儀をし、エレディアはフードを深く被り直し足早にその場を去って行った。アリスは返事をする暇もないまま、ただ手を振って雑踏に消えるエレディアの後ろ姿を見送った。


「……私もお城に帰らない、と……っ?」


リュックを背負い直したアリスは最後まで言葉を発する事が出来ず、背中に違和感を感じた。と同時に目の前の景色がぐらりと歪む。背後に何か気配を感じ、後ろを振り向くとそこには黒く長いローブをまとった数人の姿が一瞬だけ見えたのみだった。


「……な、にも、……っ」


そこでアリスの記憶は途切れた。

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