すべてが死体になる後に

韮崎旭

すべてが死体になる後に

冠水した区域の放課後の防災無線の聞き取りにくさには原因はない

水没する、涵養、養魚鱗の竪琴のオルフェウスは沈黙する。

彼が唖だからではない。かたるに足る言葉の少なさがすべてを嫌った。

私はこの場にいないことを強く言明する。私がこの場にいないことは私の数少ない望みだと強く言明する。街灯の偏った光源の下で、うずくまっている、行き先がなかったからか?

軒に干された羊羹と蛭の干物、羊飼い。脂身を切り分けて依拠する、七面鳥の腐敗する頃に。

言文の端々に失敗がにじみ出た、この場でもはや会うこともない、カラーコーンの凱歌に。

意思のない冠水の先に、満ち足りた死の廃墟。現状をそばだてた耳はなにも。なににも。

物を知らない悲しみが存在の不要を告げていく、去ること。

あなたが知らない乾電池の実質、不適切な兆候の顕現。


水没した人間の墓碑銘は明るく輝く、恒星のランプの先で踊る死神は、輪を描いて

手を離せ。

あなたが引き受けた人間性のゆがみが土間にいついている。もうこの場所であるべきでなかった、犬神の。あり得た死の形態をすべて必ず壊して台無しにしている、半壊した居室。

意思はなく、観るものとてない、診察室の小劇場の、映像の、朱。

開ける夜を彩る悲嘆が自我と名乗る日は近いか?

その筆跡で顧みてごらんよ、嘘をおっしゃい、出来損ないが。

分割された統率の範囲を信号灯が食い荒らした、蝗のように。それは黙示。あなたに知らせるのはもう遠い日に。変わりつつある判じ物の誤謬はすべてが誤謬であることを明らかにした。

さて遠く、どこぞの遺骸の知る術よ。

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すべてが死体になる後に 韮崎旭 @nakaimaizumi

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