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部屋の鍵を閉めて、ベッドに倒れ混む



さとり『社交辞令って、疲れるよねぇ…』



はぁ、と溜め息を吐きながらベッドに顔を埋める



温かい、柔らかなベッド



私はふと、彼に抱き締められた時の事を思い出した。



彼は基本、後ろから抱きつくことが多く、目隠ししてくることもあった。



「誰だか分かるか?」なんて笑いながら言う彼に、「んー、誰でしょうか(笑)」と返すのがお決まりで。



「分かってんだろ~」と目隠しをやめる彼に、私はいつも笑顔にしてもらっていた。



彼の胸元は温かくて、逞しくて、綺麗な顔立ちではあっても、矢張男性なのだなと思った。



もっと、彼に甘えておくべきだったかもしれない。



彼は甘え下手な方で、素直に「甘えたい」とは言えない人だった。



甘えたいときは、私を正面から抱き締めて、首に頭を埋める。



そんな彼に、私は彼が甘えたいと思っていながらわざと分からない振りをした。



「何ですか?口で言わないと分かりませんよ、読心術なんて使えませんし…」



と、本当に困ったような顔をしながら彼に問いかけた。



彼は私の演技に気付くことはなく、本当に私が分からないのだと思っているようだった。



本当に、純粋な人だ。



『ライトさん…』



あの人の、彼の名前を読んだ。



呼び捨ては慣れなくて、ましてや名前呼びは本当に苦手で、名前を呼ぶまで何れくらいかかったか。



今となれば、いい思い出だけれど。



いつも呼んでいた名前なのに、何だか変な気持ちになった。



胸が、キュッと苦しくなった。



どうして、、、、?



彼が生きていて、私がこの事を話したなら、彼はきっと、笑っただろうな。



そんな風に考えていたら、更に胸が苦しくなって、私は仰向けになった。



そして、そのまま目を瞑って、睡魔に身を委ねた。

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