第24話

 ヨハンの言う店には、剣の看板が吊るされていた。

 ヨハンがあいさつもせずに店に入ったので、わしも言葉をかけずに後に続いた。


「パウル。

 盗賊ギルドの連中をぶちのめして、戦利品をせしめて来た。

 そのつもりで手間賃を引いて買い取ってくれ。

 それとこの男はさる貴族家の公子様だが、御師匠様の弟子でもある。

 何かあったらここに逃げ込むように言っておくから、そのつもりでいてくれ」


「おい、おい、おい。

 とんでもないモノを持ち込んでくれるなよ。

 盗賊ギルドからの戦利品なんて、売りさばくのに苦労するんだぞ。

 それに盗賊ギルドともめるなんて、命がいくつあっても足りなくなる」


「待ってくれ、ヨハン。

 そんなの大事になるのなら、別に無理に剣や衣服を売る必要はない。

 あと腐れないように捨ててくれればいいのだ」


 明日何かあった場合、ヨハンはわしをここに逃がしてくれるつもりだろう。

 だが凄腕のヨハンがここまで心配するほど、盗賊ギルドともめるのは危険なのだ。

 そんな危険な事に、見ず知らずの人間を巻き込むわけにはいかん。


「そんな心配はいりません。

 これは単なる値段交渉ですよ。

 買い取る側は色々難癖をつけて、できるだけ安く買い叩こうとするんです。

 若様もこういう事に慣れておかないと、女を養っていくことはできませんよ。

 本当に好いた女と、どんな苦難を乗り越えてでも結婚する気なら、冒険者になってでも稼がないといけなくなりますよ」


 最初は冗談のように軽く話しながら、ヨハンの言葉は徐々に真剣な声色になった。

 パウルと呼ばれた男には少し殺気を送っていたが、これも値段交渉というモノなのかもしれない。

 ヨハンの言う通り、クリスさんと結婚するには、色々と弊害があるだろう。

 駆落ちなどしたくはないが、両家の家臣達を説得できなければ、非常手段を取らなければいけなくなるかもしれない。


 人の道に外れないようになどと、クリスさんに偉そうなことを言ったが、わしも自分の欲望を抑えられなくなるかもしれない。

 その時のためにも、わしも軽くヨハンに殺気を送るべきなのだろうか?


「ヨハン。

 わしもパウエルに殺気を送った方がいいのか?」


「止めてくださいよ、若様!

 どこの貴族家の若様かは知りませんが、こんな話が家臣の耳に入ったら、密かにバッサリ斬られるかもしれません。

 分かりました。

 ちゃんとした値段で買わせてもらいますよ。

 何かあった時は、ここに逃げてきてくださっても構いません。

 だけどそのかわり、マンフレート先生の名前は出させてもらうからな!」


 わしに話しかけていたパウエルが、最後はヨハンに話しかけて念押ししている。

 やはり剣術指南役のマンフレート殿の名前を使えば、盗賊ギルドも黙って後に下がるのだな。

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