第16話

「エル。

 もう買い物に行きましょう」


「そうですね。

 そうしましょう」


 さて、だがどうしたモノか?

 茶屋娘はついでのおりに代金を支払えばいいと言ってくれたが、迷惑をかけるのは本意ではない。


「娘よ。

 茶代の代わりに剣を置いて行きたいのだが、受け取ってもらえるだろうか?」


「そのような事をされなくても大丈夫でございますよ。

 先ほども申し上げたように、ついでのおりで大丈夫でございます」


「さようか。

 そう言ってくれるのなら借りておく。

 それでは少々たずねたいことがある。

 この剣を売り払いたいのだが、近くによき店はあるか?」


「左様でございますね。

 ここから一番近い刀剣屋はヨネザにございます。

 店を出て左に行っていただいて、小さな橋の手前の小道を右に行って下さい。

 剣の看板がかかったハンスの店と言う刀剣屋ございます。

 桜茶屋で紹介されたと言って下さい」


「分かった。

 助かったぞ」


「どういたしまして。

 お気を付けておいでください」


 茶屋娘が笑顔で店の外まで案内してくれた。

 店も前はあいかわらず人が多い。

 だが春の日差しはうららかで心地よい。

 ずいぶん長く店にいたと思ったのだが、それほどでもなかったようだ。


 早く剣を売ってしまわなければ、買い物をする事ができないし、茶屋に借りを返す事もできない。

 ゴロツキから手に入れた剣だから、どれくらいの金になるのかはっきり分からないが、剣や防具はそれなりの値段がすると聞いている。


 剣術指南役が教えてくれた話では、剣や防具は元になる金属を集めるにも多くの人手と時間がかかり、集めた金属を鍛えて剣や武器を作るにも、熟練職人が多くの手間と時間をかけるそうだ。

 当然それに係わった人間がその日数分生きていくだけの金と、それぞれの利益が上乗せされるのだから、高くなるのだそうだ。

 一振りで金貨一枚くらいの値がついてくれればいいのだが。


「エル。

 手を繋いでください」

 

 クリスさんがまた手を繋いで欲しいと言って来た。

 わしに異存などあるはずがない。

 よろこんで繋がせてもらう。

 だが改めて手を繋いでくれと言われると少々照れる。

 何か話さないといけない気になってくる。


「ところでクリスさん。

 さっきの金貨はどうしたのですか?」


「あれはわたくしが小さい頃に、父上様にいただいたのです。

 お金というモノを見たことがなかったので、父上様にお金とはどう言うモノですかと聞いたら、あれをくれたのです。

 それから金貨を使って買い物をする遊びをしていたのですが、今日はどうしても本当に買い物がしたくなったのです」


 なるほど、おままごとに金貨を使っていたのだな。

 何となくその気持ちは分かるような気がする。

 わしの場合は買い物欲より冒険欲の方が強かったが、買い物欲が全くなかったわけではない。


 

 

 

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