あたしがいるのは深い森~鎖国日本の学生エージェント

江戸川ばた散歩

はじまりはアイスクリーム。

「アイスクリーム?」


 彼は口をゆがめた。


「何だって君、まあそんな」


 呆れてる。


「何だっていいじゃない」


 あたしは言い返した。


「だって、あなたいつも言ってるじゃない。終わったら何でも『ごほうび』で好きなものを一つあげるって」


 嘘はいけないのよ嘘は。


「だからってね君…… アイスクリームはないだろう?」


 ほらほら、そうやって眉間にシワを寄せるとどんどん老け込むのよ。ただでさえ、おっさんなのにさ。


「いーじゃないの。あたしはそれが欲しいのだもん」


 そういう態度を取ると、こっちもむきになるからね。


「それも一種類じゃないんだから。そう、基本はバニラよね。一口食べると甘味が舌にふわーっと広がってそれだけですごいシアワセ感じるようなの。それにチョコ。あ、それともチョコチップがいいかな。全部チョコでチョコな、チョコクリームがいいかな。それとそーよね。これははずせないわ、ラムレーズン。絶対それよ。それがいいの。それにして。三種類よ。基本はバニラ。それにチョコチップとラムレーズン。絶対よ。約束。しないとあたしは動かないから」


 あたしは一気にまくしたてた。


「君はねえ……」


 彼はふう、とあきれたようにため息をついた。


「どぉ?」


 ぐい、とあたしは相手に迫る。

 判ったよ、と彼は苦笑いを返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る