第1章 Never End World編

第1話 初ダイブ

日本初のVRMMO【Never End World】通称NEWニュー

内容は至ってシンプルなモノだが、フルバーチャル技術を使った所謂いわゆるネットダイブしてプレイするタイプのゲームが話題を呼んでいる。

発売は今年の夏とまだ先だが、βベータテストの抽選に当たったユーザーは今日からプレイ出来る。

今までのオンラインゲームならβテスト当選者はソフトをダウンロードするだけだったが、NEWはVR機器が必要となる。


「うわぁ、すげー並んでんな」

当日だけあって長蛇の列が出来ていた。

俺もVR機器購入の為最後尾に並んだ。


βテストと言っても機器は正式発売後も使える正規品になるので販売価格が54800円とチョイお高い。

並ぶ事約30分…やっと俺の番になり、当選番号を伝え60280円払いVR機器を手にした。


「消費税だけで約5000円かよ…10%もバカにならないな」

目的を達したので一目散に帰路についた。

部屋に戻って直ぐにゲームを起動し、さっき購入したばかりのVR機器を繋ぐ為に箱を開けた。


「おぉっ、これがヘッドギアか…ロボコップをイメージしちゃうな」

ヘッドギアは鼻まで隠れるタイプで、外装の目の部分は赤い一文字のLEDが付いている。


「こっちがグローブで…ん?これは…エレキバン?」

某製薬会社の有名商品をチョッと大きくしたような見た目のシートが20枚ほどあった。

説明書を確認したら身体のあちこちに貼り付けるようで、説明書通りに肩・肘・脇腹・膝・踵の5か所に左右対称で貼り付けた。


「残りは予備か」


全ての準備が出来たので機器をゲーム機に繋いだ。

モニターにはVR端末読み込み中と表示され1分程で認識が完了し、使用説明のチュートリアルに変わった。


チュートリアルを終えモニターにゲームタイトルが表示された。

キャラ作成画面に変わったが、昨日1時間近く掛けて先に作って居たのでセーブデータをロード。


「動作確認か」

機器がしっかりと認識されているかのテストだろう。

「すげーなVR技術ってのは…ちゃんと思い通りに動くんだな」


俺はモニターに映し出されているキャラクターを見ながら手を動かしたり首を傾げたり立ったり座ったりしているところだ。


「次は職業選択だな」

選択画面には[ウォリアー][バーサーカー][ハンター][アサシン][マジシャン][ヒーラー]の6職業があり、いつもは魔法職を選んでプレイしているが、今回は[ハンター]を選んだ。


「ハンターの派生職はアーチャーとガンナーか」

職業説明を確認し、次の設定へ進んだ。


「サブ職業もあるのか…」

[鍛冶][裁縫][調理][錬金]4つの職業が表示されていたので悩まず[錬金]を選択した。

錬金を選んだ理由は、大抵のゲームが矢や弾丸を錬金で造るからだった。


「よし、これで職業関係の設定は終わりっと…次はキャラ名か」

誰もがゲームで一番悩む設定がキャラ名だと思う。


「これからずっと付き合っていくキャラになるんだから安易な名前は避けたいところだなっ」

暫く考えたが結局いつも使ってる名前を入力した。


最終確認画面が表示された。

********

名前:ツキシロ

職業:ハンター

副職:錬金術師

********

俺は決定ボタンをクリックした。


初期設定が全て終わり、いよいよゲームにダイブする。

モニターの指示通りにヘッドギア横のボタンを押した。


視界が一気に変わり、目の前が見慣れた俺の部屋ではなく真っ白な空間なり、目の前には1人の女性が居た。


〈ネバーエンドワールドへようこそ!〉

〈ここは始まりの世界です…アナタの行動は全てここに記録されます〉

――ゲームサーバー側でセーブされると言う事か


〈それでは声紋を記録します…ここに書かれた文を読んで下さい〉

そう言い目の前の女性は俺に端末画面を見せてきた。


そこで一つの疑問が浮かんだ。

――そう言えば会話はどうやってするんだ


〈発声については、アナタの思考が会話と認識されれば、そのまま声になります〉

「は?頭に思った事がそのまま声に出るって事かよ」

〈いいえ違います。アナタが会話と認識していれば声になり、思考と思えば発声されません〉

「普段通り良いって事か」

〈はい〉


〈ではこの文を読んで下さい〉

文を読めって執拗しつこいので読んでやった。


「私はネバーエンドワールドの住人として、ルールに従います」

文を読んだ途端に端末の画面が眩く発光し、思わず目を伏せてしまった。


時間にして2~3秒程度だったが、再び目を開けた時には先程の白い空間ではなく、中世ヨーロッパを彷彿させる様な街の風景に変わっていた。

「おぉ!!」

思わずそんな素っ頓狂な声を出してしまった。

俺がログインした場所は、円形の台座の様な所で中央は時計塔になっている。


周りを見渡せば結構な人がログインしている。

「みんなキャラクリ凝ってんなぁ」


NEWの特徴のひとつがキャラクリで、顔や髪型な至っては細かく設定が出来た。

但し、体型と性別だけは一切設定出来なかった。


いつまでも同じ場所に立って考え事をしてたのだが…

「…ドンっ」

「あっ!」

いきなり後ろに人が現れ、俺はつかった反動で前のめりになり危うく転ぶところだった。


「危なっ!」

「…いたーっ」

「ご、ごめん」

「初ログインで人と打つかるなんて…ツイてないなぁ」

「怪我はない?」

「大丈夫だから」

――怪我をしそうになったのは俺だけどなっ


「同じ場所に居た俺が悪いから、マジごめんな」

「いいよ別に…怪我した訳じゃないし…それよか」

「ん?」

「このゲーム痛覚までリンクあるんだ。知ってた?」

「いや知らなかった」

そう言われ当たった時に衝撃を感じていた事を思い出していた。


「さてとっ、こんな所で立ち往生してたらお兄さんと同じ目に遭いそうから、じゃあね!」

そう言って彼女は匆惶そそくさと走り去って行った。


「結構可愛かったなぁ、あの娘」

エメラルドグリーンの髪が印象深く残っていた。


俺もまた誰かと打つかるのは嫌だったので、その場を後にし街を見学しながらブラブラと歩き始めた。


「へぇーゲームでもしっかり造り込まれてるんだなぁ」

石造りの建物はプログラムで造ったとは思えないくらい触ると石の触感があり俺は感心していた。


さらに街の中を歩いていた時、鐘の音が聞こえアナウンスが流れた。


《住民登録をされていない方は、中央広場の役場までお越し下さい。繰り返します。住民登録をされていない方は、中央広場の役場までお越し下さい》


「住民登録まであるんだな。生活する上での市民権ってやつかな」

アナウンスに従い、俺は役場を目指した。


「っつーか、中央広場ってどっちだよ」

今までのゲームならMAP開いて即解決だが、地図も無く初ログインなので地理も詳しくない。


街中を迷いながら歩き回り、やっとの事で広場に辿り着いた。


「役場は…あぁ、あれだな」

役場の入口は人で溢れ返っていた。

「ま、こうなるわな…」

どんなゲームでもイベントなどのスタート地点は人集ひとだかりになるのは必然。


「こうなるとは考え無かったのかよ運営さん…まぁ文句言っても仕方ねえーな」

不服はあるが並ばななければ先に進めないので俺も人集に紛れた。


並ぶこと数十分…

やっと俺の番になり住民登録が完了した。

市民証とガイドブックを役場のNPCから貰った。

このゲームの特徴のもうひとつがNPCのAI人工知能機能だ。


俺は貰ったガイドブックを開き、これからの行動を模索していた。


「街も見て回りたいが、取り敢えずレベル上げからだな」


ガイドブックによれば、街の東西南北に市門があり北は【ベルリック卿国】、南は【フォーランド大樹林】、東は【ガーナル王国】、西は【アイゼルン皇国】へ繋がっていると書かれていた。


ガイドブックを一通り読み、狩りを始める前にステータスの確認をする。

「ステータスオープン」

ガイドブックに書いてあった通り、目の前にステータスウィンドウが表示された。


※ ※ ※ ※ ※

名前:ツキシロ

Lv:1

HP:100/100

MP:40/40

AP:100

職業:ハンター

副職:錬金術師

所持金:5000G

所持品:アイテムバッグ(小)

※ ※ ※ ※ ※


「体力と魔力は分かるがAPって何だ?」

ガイドブックを見直し、AP=行動力と書かれていた。

APは戦闘したり走ったり等の行動で減り、休息や専用ポーションで回復するらしい。


「この腰のバッグがアイテムバッグ(小)だな」

中を確認する為に手を入れた瞬間、目の前のウインドウの表示が変わった。


※ ※ ※ ※ ※

アイテムバッグ(小)

◇初心者ハンターの短剣


※ ※ ※ ※ ※


バッグに入っていた短剣を取り出すと、ウインドウに表示されていた短剣の欄も消えた。

短剣は怪我をしない様に鞘に収まった状態だった。


「当分の間は、この弓と短剣で狩りをして金を貯めるしかないな」

この時の俺は矢が無い事に全く気付いていなかった。

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