#23

 ざっ

 ざざあっ


「あ、陸が見えるよ!」

「おお……なんか、感動」

「面白いよね、この航海に出るまでは水平線に感動してたのに」


 関東平野の中だと、普段は海も山も見ないからねえ。


「……あれ?」

「どうしたの、井上くん?」

「いや、陸が近づいたから、ひさしぶりに地図アプリを起動したんだけど……」


 ピコン、ピコン


「……おいおい、GPS狂ってないか?」

「そんなことはないと思うけど……でも、ズレ過ぎてるよねえ」


 ざっ


「GPSは狂ってないっす! ここはパナマじゃないっす!」

「武藤さん?」

「陸が近づいたからスマホでGNN支局に連絡を取ろうとしたら、なぜかメキシコの基地局につながったっす!」

「「「メキシコ!?」」」


 そうだね。そうなんだよね。ほほほほほ。


真那まな、ウチらを騙したっすね! 上陸するのはメキシコ南部、乗り換える軍艦はメキシコ湾にあるっすね!」

「ええ、そうよ」

「カリブ海で『無効化装置キャンセラー』を使って一網打尽ってのは!?」

「それはそれで作戦遂行中よ。運搬用ヘリで、今頃は既にカリブ海にあるはずよ」

「ウチらを利用したっすね!」

「それが何か問題あるかしら?」

「信用問題っす! ウチらは嘘の情報を世間向けに放送してしまったっす!」

「スパイを潜入させてきたGNNが、今さら信用も何もないと思うけど?」

「うがーっ!」


 だよねえ。でも、森坂さんの場合は、もともと接触をしかけてきた時の意趣返しもあるよね?


「あと、御子神 霞さん!」

「へ? 私?」

「あなたもこのこと知ってたっすね! ぜんっぜん驚いてないから!」

「……御想像におまかせしまーす」

「「「「えええええっ!?」」」」


 あれ、4人とも驚いちゃった。うん、その4人の中に森坂さんもいるのよねえ。


「えっ、えっ、なぜ!? この作戦はAHC上層部の計画であって、『ハルト』は関係なかったはずじゃあ……」

「ああ、ごめんなさい。『特務プラン』はもともとハルトの発案なの」

「えええええええっ!?」


 よしよし、いいねいいね。


「そ、そんな……。じゃあ、御子神さんは、最初から知ってて……」

「プラン策定当事者の『ハルトの中の人』が動けないですからね。私が現地サポート役・・・・・・・ってことで」

「えっ、それじゃあ、御子神さんもヒューム本拠地に!? それを、AHC上層部が認めたんですか!?」

「認めたというか、認めざるを得なかったってことですかねー。まあ、みんな反対するだろうからって、ここまで黙ってたんですけど」

「当たり前よ! あなたはまだ高校生の女の子なのよ!?」


 でもねえ、ヒューム侵攻を半分阻止しちゃった時から……いや、『ヒューム・グランザイアの継承者』になった時から、いろいろと責任があるしねえ。まあ、これもたぶん、ヒュームさんの残留思念の為せる技なのだろうけれども。


「申し訳ないですけど、私が『アイランド』に向かうことは、本来の・・・『特務プラン』に沿ったものなんですよ。もし、それでも森坂さんが反対するなら……『特務司令官』を解任することになるはずです」

「そんな……そんなことって」

「まあ、だからこそ『正式な辞令』にしなかったって話なんですけどね」

「………………」


 ここまで知っていた・・・・・私に、何も言い返せない森坂さん。


「……もし、私が特務司令官を解任されたら、誰が代わりに?」

「え? あー、たぶん、メキシコ現地の士官のどなたかに……」

「……わかったわ」

「ん?」

「わかったわ! 御子神さん、あなたを連れていくことを認めるわ! 私は……あなたを、絶対守る。『ハルト』のこと教えてくれた時に、約束したから!」

「……ありがとう、森坂さん」


 やっぱり森坂さんって、軍人さんの仕事に向いてないよねえ。『ヒューム』とのことが決着ついたら、もーちょっと平和な仕事に転職した方がいいと思うなあ。


「……おい、御子神」

「なに? 成瀬くん」

「……まーさーかー、このまま俺たちも置いていくとか言わないよなあ? ああん?」

「え、なに、成瀬くん、私のこと愛してたの? ダメだよー、みこちんと一緒に幸せにならなきゃ」

「ざけんなっ!」


 おうっ、シリアスな成瀬くん、初めて見たよ。まあ、当然か。

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