第四章「地に足がついていないのが落ち着かないだけよ!」

#17

 バリバリバリバリバリ


「うおおおお! ヘリコプター乗ったの、初めてだぜ!」

「私は、空飛ぶ乗り物が、初めて……」

「僕も、1回飛行機に乗ったことがあるだけだなあ」


 日本の領海にギリギリ入らないところに留まっている空母に向けて、私たちを乗せたAHCの軍用ヘリが海の上を飛行していく。ヒューム侵攻時に『フェザーズ』を乗せた軍用ヘリと同じくらいの大きさだけど……あれ、もしかして奪取して流用? ペンキ塗り直し? うわー、せこーい。あははは。


「おい、御子神、さっきから静かだな? っていうか、乗ってからずっとだな?」

「……別に、いいじゃない」

「ははーん、さてはお前、高いところが苦手だな?」

「ち、違うわよ! 地に足がついていないのが落ち着かないだけよ!」

「地って、ヘリの床も地じゃねえのか?」

「その床から下が何もないじゃないのよ! 窓から丸見えだから!」


 白状しよう。私は、飛行機の類が苦手だ。ジェット機はもちろん、こうして浮きながら飛んでいく乗り物は特に! こればかりは、何度乗ってもキツい……。


「しかたがないよ、御子神さん。ここじゃダンクシュートも決められないよね」

「よくわからない慰めありがとう、井上くん」

「冗談で気を紛らせたかったんだけど、ダメだったかな……」

「井上、お前も少しテンパってねえか?」


 うん、まあ、でも、あと少しだよね、あと少し。でも……ああっ、ハルトのライブ映像観て落ち着きたい! なんか知らないけど、ヘリコプターの中ではスマホ使っちゃダメとか言うんだもん!


「そんなんで、『フェザーズ』を飛ばす・・・なんてできるのかよ? ……おっ、空母が見えてきたぜ!」

「えっ、ホント!?」


 そうして見えてきた、巨大空母。通常であれば戦闘機がたくさん乗っているのだが、それらは最小限に留められている。その代わりにあるのは、運搬用のヘリコプターに、仮設住宅のように作られた高い建物がいくつか。その建物の中に、しばらく生活できるだけの施設と各種研究設備、そして……接収された『フェザーズ』が数体、格納されているはずである。



「……うえっぷ」

「ヘリで私をバカにした成瀬くんが、空母の上でヘロヘロとか」

「いや、この微妙に揺れてるんだか揺れてないんだかの感じが……うええ」

「空母で船酔いするって聞いたことないけどねえ」


 すぐに慣れるはずってのは聞いたことあるけど。いずれにしても、慣れてくれないと、フェザーズの飛行テストどころの話ではない。これから何日もここで暮らしていかなきゃならないんだから。


「成瀬くん、大丈夫……?」

「ああ……あー、さすってもらったら、ちょっと落ち着いた」

「おー! 衛星回線経由でも結構なめらかだよ、『ハルト』のライブ中継!」

「うがあああ、近くで踊るなああ!」


 いや、回線確保は重要なのだよ、私にとっては。でも、衛星回線だとアクセスログが参照されやすいよねえ。実態は極秘任務中だからなおさらだ。ヒューム圏内はもちろん、今からハルトと直接チャットをするのは避けておこう。作戦上必要になったら、ハルトの中の人と旧知の仲ってことで納得している森坂さんの端末を使わせてもらおう。寂しいけど、それ以外はライブ映像だけで我慢しよう! 不在分の素材撮り溜めとか大変だったし!


「おー、やっと来たか―」

「ミーアさん、御無沙汰してます。森坂さんは?」

「ああ、秘匿回線でAHC上層部と会議中だ。それよりも……あいつら、なんとかならんのか?」

「あはは……」


 だだだだだっ


「おおおお! 『フェザーズ』本体がこんなに! しかも、4台はカッコよくカラーリング・・・・・・までしていて!」

「武藤さん、森坂さんから注意を受けていませんか? あまり無茶な撮影はしないようにって」

「撮影しているだけっすよ! あ、ここでリポート入れるっす! あー、んん。『今、私たちは、フェザーズ解析のための施設を設置した空母におります! この空母は、現在……』」


 あ、カメラの前では言葉遣い違うんだ。まあ、当然か。


「『……そして! これらのフェザーズを解析するために搭乗するのが、この4人の日本人高校生たちです!』」

「ふあっ!?」

「ちょっと武藤さん、予告なしに振らないで下さいよ!」

「あー、ごめんっす。後で撮り直しさせて下さいっす」

「うっし、それまでに船酔い治すぞ!」


 治るといいねえ。期待しないけど。

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