地球終焉の日に君と
乱輪転凛凛
第1話
僕はそらを見上げた
信じられない。このそらがあと一日で割れて無くなるなんて。
地球を常々監視していた宇宙人が地球上の全ての生命を滅ぼすと発表したのは今日だった。
「人類は増えすぎた。他の生命体をコントロール出来ると思いあがった。地球全体の生命の調和を失わせた。このバランスの乱れはもはや修正不可能である」
「よって明日隕石を落下させる。ただし正しいものが一人でも人類にいたら滅ぼすのをやめる」
とのことであった。正直まったくピンとこなかった。宇宙人は地球人のスポークスマンを使って発表した。
我が国の総理大臣もこの報道を事実と認めた。どうやら政府関係者は宇宙人と前々からコンタクトをとっていたらしい。
その宇宙人とのコミュニケーションが破綻したからこのような事態になったとのことだ。
「暴動に注意してください!ご自分の身をご自分で守れるような行動をとってください!」アナウンサーが繰り返し言っていた。
「明日滅びるのに自分の身を守ってもなぁ…」
しかし、隕石で滅びる前に暴徒に殺害されるのは確かに困る。
電気もガスも止まってない。まったく実感がない。
僕は外に出て空を見上げた。真っ青な青空。そらには大きな月が浮かんでいた。
とても穏やかでいつもと変わらない朝だった。とうてい明日滅びるとは思えない朝だった。
「死ぬ前になにが出来るか……会いたい人はいるか……なにも思い浮かばない。」
するとスマートフォンにメッセージが入った。
会いたい。今から会える?
とのメッセージだった。僕の初恋のひとだった。僕はこの人に初めて恋をして告白したが振られた。
諦めきれずに連絡先だけは残しておいた。
未だに恋慕の感情が残っているのは認める。メッセージが来たとき心が少し揺れた。
どうしたの?
と返した。
怖い。不安なの。会いたい。
どこにいるの?
家 来てくれる?
僕は悩んだ。外には暴徒がいる可能性があり、襲われる可能性がある。しかし、では何もせずにこのまま隕石に滅ぼされるのを待つのも何か違う。
行くよ。今から車で行く
待ってる。ありがとう。
僕はため息をついた。なにか期待している訳じゃない。ただ、なにもしないよりかはマシなように思えた。
車を走らせて考えていた。宇宙人の言っていた正しいものとはなんだろうか。
人類は他の生物と調和をしないと言っていた。調和が正しいのだろうか…しかし、宇宙人の言ってる調和と僕らが思ってる調和とは意味合いが違うような
道路は意外なことに静まり返っていた。
「暴徒が怖いのかな……みんなどうしてるんだろ……」
少なからず略奪行為も見られた。店のガラスは割られ中に入られていた。
不良のグループが群れをなして歩いていた。
パトカーが大声でスピーカーで叫んでいた
「多くの通報が入っています。自分の身を自分で守れるような行動をとってください!」
警察もほとんど機能してないみたいだった。
僕は彼女の家についた。
インターフォンを押す。
「だれ?」
「僕だけど」
僕はインターフォンのカメラに顔を見せる。
「あなただけ?本当?」
僕は周りを振り返って誰も居ないよ。というそぶりをして笑った。
ドアが開いた。
不安そうに彼女が出てきた。
「早く入って」
僕は促されるままに入った。
「誰もついてきてない?」
「大丈夫。後ろは確認しながらここに来た、でどうしたの?」
彼女は僕にいきなり抱きついてきた。髪の甘い香りが広がった。
「怖い」身体は小刻みに震えていた。
「頼れるのはあなたしかいなくって」
心が締め付けられるようだった。
頼られて嬉しい反面、なぜ今なのだろうか、との思いがあった。
僕は抱きしめ返した。
「最後のとき誰かと一緒にいたかった。ごめんなさいワガママ言って。」
僕は「大丈夫だよ……」と言った。
僕と彼女はソファーでテレビを見ていた。
「現在多くの場所で暴動が確認されています。国民の皆様はご自分の身を守れる行動をとってください。」
「インターネット上で多くのデマが流れています。各自デマには注意してくださるようお願いします」
「はい」
彼女はコーヒーを入れてくれた。
「ありがとう」僕は答えた。
「怖いニュースばかり」彼女はテレビを消した。そしてコーヒーを飲んで僕にもたれかかってきた。
「怖くないの?」僕に聞いてきた。
「怖いというか……実感がない感じ。逆にみんな怖がられて凄いな……みたいな、現実を受け止められてないというか……」僕は言った。
「本当みたいだよ」
彼女はスマホの画面を開いた。
ネットニュースだった。
そこには
政府が国民の地球脱出を計画中。月面をテラフォーミングする予定
「一部の国民だけ逃げられるんだって」
「そうなんだやっぱお偉方かな?」
「国民全員を乗せるのは無理だから無作為に選んで伝えるみたい。政府関係者とか有力者関係なしに」
「ま、それは……」
多分嘘だと思うけどね。
と言いかけたが言わなかった。
為政者や有力者が自分たちの席を確保しないなどありえない。無作為と言う名の作為なのだろうきっと
「私達には関係ないか。無作為の抽選って言ってもそれこそ天文学的確率だもんね。」
恐らくそれよりもっと低いだろう
「ねぇずっと家にいるのは嫌。公園にピクニックにいかない?お弁当私作る!」
と言い出した。
「あの海の見える公園」
初めてデートをした公園だった。デートと言っても付き合ってないのだから二人で遊んだ公園か
僕は彼女との会話を盛り上げられずに残念なデートをしてしまった。結果振られた。
「危なくない?」僕は言った。
「危ないときはあなたが守って。大丈夫。今から公園に行きたがる物好きは私達ぐらいよ」彼女は微笑んだ。
一緒にお弁当を作ってピクニックの準備をした。
僕は車を運転して海の見える公園の駐車場に車を停めた。
「全然人居ないね」
彼女の予想通りガラガラだった。
僕たちは公園の見晴らしのいい場所にレジャーシートを広げてそこに座った。
「ホントに綺麗……もうすぐ地球が滅びるなんて信じられない……」彼女が言った。
僕は黙ってみていた。輝く海が見えた。
「宇宙人の冗談だったりして」
僕はそう言ったら二人して笑った。
「宇宙船に乗れる人は本当にラッキーな人ね」
彼女はそう言った。
「ラッキーなのかな?逆にアンラッキーかもよ多くの人を見捨てて月に行くなんて幸福とは言えないかも」僕は言った。
彼女は笑った「みんなそんな考え方の人ばかりだといいのにね」
二人してお弁当を食べた。
「隕石がぶつかる時ってどんな感じなのかな?」
「多分一瞬だよ。一瞬で蒸発するみたいに全部溶けてなくなる」
「その時はギュッて抱きしめていてね」彼女は僕の顔を見つめた。
僕たちはキスをした。彼女の唇は震えていた。
二人抱きしめ合った。口づけは甘かった。
しかし、心の中で満たされない思いがあった。
なんだろう……この満たされない感覚は……
僕は不思議に思った。
「あの月みたいに永遠に存在し続けられたらいいのに……」彼女は言った。
僕は月を眺めた。
「そうだね。本当に……」と僕は言った。
スマートフォンのアラームが鳴った。
「ごめん。誰からかな?」
メッセージや通話の着信音じゃない。初めて聞く音だ。
僕はチラリとスマートフォンを見ると
通知があった。
メッセージは
「緊急!必ずお読みください。防衛省」
と書かれていた
「あなたは政府が無作為に選んだ1000名の国民保護の対象となりました。あなたは宇宙船による月への移住者として選ばれました。明日軍の基地までお越しください。
なお同伴者1名まで宇宙船に同伴していただくことが出来ます」
とのことだった。
「えっ?!」僕は素っ頓狂な声をあげた。
彼女は「どうしたの?」と答えた。
「政府から……」僕は言うと
彼女はチラリと僕のスマートフォンの画面を見た。
「え?えええええ?」
彼女は僕の両手を手に取りながらスマートフォンに顔を近づけて驚いた。
そしてボソリとこう言った。
「これで死ななくてすむ……」
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