第180話 結婚式RUSH!

 8月中旬、今日は長男であるグリオルス兄上の結婚式である。

 この半年近くで色々あったが、未だに忙しい日々を送りながらも、数日は休暇となっている。

 兄上様々だな。

 まぁ、今も働いてはいるのだが……。


「すまんな、グラフィエル」


「いえ。それよりも、父上は少しやつれましたね」


「まぁ……な」


 現在、クロノアス辺境伯領に前乗りしているのだが、久々に見た父上はげっそりとしていた。

 母上は元気そうなのに、何があったのやら。

 聞くと藪蛇になりそうなので、詳細は聞かないが。


「しかし、ゲートとは便利だな」


「普通はこんな使い方は出来ませんよ。もし使ったら……」


「どうなるのだ?」


「頭がパーになって、廃人まっしぐらですね」


「……お前は大丈夫なのだろうな?」


「頼んでおいて今更ですか? まぁ、大丈夫なので心配無用です」


 ゲートについて雑談しながら、式に参加する来賓たちを出迎える俺達。

 俺達と言ってはいるが、本来であれば父上が出迎えるだけで良い。

 俺も一緒にいるのは、ゲートを発動している事と独立貴族になったからだ。

 一応、クロノアス侯爵家の当主だからな。

 後は直系の兄弟で、出世頭なのもあるか。

 グリオルス兄上は別として、父上とアルキオス兄上は恩恵を受けているからな。

 望む望まないは別としてだが……。


「久しぶりだな、グラキオス殿」


「久しぶりです、オーガス殿。おや? そちらは?」


「娘のレッシィだ。ほら、ご挨拶しなさい」


「レッシィと申します」


「可愛らしい娘さんですな」


「はっはっは。娘はこの子だけでな。少々甘やかしすぎと言われとるよ」


 軽い雑談をしながら、挨拶をして行く父上。

 俺は何も話さない。

 話すとまた、娘や妹紹介が始まり、婚約者に――で長くなるからな。

 貴族として……いや、人として礼儀がなって無いのは重々承知しているが、今の俺には免罪符がある。

 そう!ゲートの制御があるのだ!

 ゲートの制御で手一杯なので――と招待状を届けに行く時に話してあるのだよ!

 だから、誰も何も言わない。

 もし、制御に失敗して何かあっては大変だと理解しているからだ。

 来賓が全て揃った後はいつも通りになると思うがな……。

 時間通りにゲートを多重展開し、来賓も粗方揃い始めた頃、一人の人物に話しかけられた。


「やぁ、ラフィ。相変わらず凄いな」


「グリオルス兄上ですか」


「ですかは酷くないか?」


「ちょっと疲れているので。それよりも、準備は良いのですか?」


「粗方済んだよ。後は来賓が揃うのを待つだけさ」


「それは何よりです」


 兄上は俺と雑談した後、花嫁さんが待つ部屋へと向かって行った。

 父上と母上は……来賓のお相手中か。


「少し遅れたかしら?」


 ゲートを潜って聞こえてきた声。

 それは、一番に結婚したエルーナ姉上の声であった。

 隣には旦那さんもおり、続けて親戚となったツェイラ伯爵夫妻も姿を見せた。


「お久しぶりです、エルーナ姉上。時間は間に合ってますよ」


「久しぶり。遅れていないのなら良かったわ。……それにしても」


「何ですか?」


「ラフィにだけ仕事をさせて、お父様は何をしているのかしらね」


「来賓のお相手ですよ。俺が相手をしなくて良いのは助かってますので、適材適所ですね」


「ラフィが納得しているのなら良いわ」


 相変わらずの弟loveなエルーナ姉上であった。

 昔と変わらず、全くブレてない。

 隣で旦那さんも笑っていたからな。


「久しぶりだね、グラフィエル殿。この度は招待して頂き、ありがとう」


「お久しぶりです、グルグランデ殿。姉上に振り回されてませんか?」


「グラフィエル殿も言うね。まぁ、その辺りは上手くやってるよ」


「それは何よりです」


「二人共? 振り回してるって言うのは、聞き捨てならないわね」


「怒らせてしまったか……」


「姉上、皆さん待っていますので」


「旦那様は後でお話があります。ラフィは……お義父様とお義母様に幼少期の話でもしておきましょうか」


「姉上! ごめんなさい!」


「分かれば宜しい!」


「グラフィエル殿も苦労してるんだね」


 最後にグルグランデ殿はそう言うと、姉上に引っ張られて来賓たちの元へと向かって行った。

 バルボルデ夫妻も軽い挨拶だけして、エルーナ姉上たちの後に続いて行った。

 残された俺は、最後のお客を待つ。

 ほどなくしてゲートから出てくる人物。

 最後にルラーナ姉上が来て終わりかと思ったら、まさかの人物が!

 いや、これは予想出来たな。

 なんで対策しなかったのか……。

 父上、どうなっても知りませんからね。

 ルラーナ姉上と共に出てきた人物と軽く挨拶して、来賓たちの元に案内する。

 当たり前だが、そりゃざわつくわな。

 父上も天を仰いでるし……。


「皆、そんなに気を使わないで欲しいな。今日の僕はルラーナの付き添いだし、主役は別でしょ」


「そう言う訳にもいきませんよ、殿下」


 そう……まさかの人物とは、ランシェス王国第一継承者にして王太子であるフェルだ。

 ルラーナ姉の婚約者――もうすぐ旦那か――なのだから、付いてくるわな。

 これは対策しなかった父上が悪い。

 これはちょっとヤバいか?


「父上」


「そうだよな……。ルラーナの婚約者なのだから、当然だよな。ハハハ……これはやってしまったな」


「やってしまったではありませんよ。どうするのですか? この空気」


 参列者全員が、どうするのが正解なのか?と、頭の中でプチパニックを起こしている模様。

 いや、思考放棄か?

 どっちでも良いが、マジでどうしようか?

 そこへフェルからの合図。


(え? マジで? 余計に空気がヤバくならね?)


 そうは思うが、横目で視線を流すフェル。

 偶にウィンクも混ぜてくる。

 気持ち悪いから止めろボケ!

 だが、フェルの合図も分からんでもない。


(ええい! どうにでもなれ!)


 結果、フェルに乗っかる事にした。

 後の事?知るか!


「やぁラフィ。今日は絶好の式日和だね」


「まぁな。仮に天気が悪くても、魔法でどうにかしただろうけど」


 俺とフェルのやり取りにざわつく来賓たち。

 家族に関しては……あ、今にも卒倒しそうだわ。


「とまぁ、ラフィとは私事プライベートだとこんな感じでね。無礼講だと考えてくれ」


「ぶっちゃけたな、おい」


「だって……こうでもしないと、一向に進まないだろ?」


「確かにその通りだが。まぁ、無礼講とは言え、礼節は弁えるだろう」


「そうそう。僕とこんな風に話せるのはラフィ位だろうさ」


 うっさいわ!人の気も知らんで。

 ただ、フェル自身の言葉と俺とのやり取りで、大分マシにはなった模様。

 ちらほらと動き出す人が出てきたからな。

 父上はまだ放心してるが、母上達は参列者たちに話しかけてるし、兄上や姉上達もそれとなく話しかけてるな。

 だから父上、早く現実に戻ってきてください。

 王太子殿下参列の余波はあったが、ほどなくして式が行われた。

 まぁ、男衆はほぼ壊滅状態だったが……。

 やはり女性の方がこういう時には強いのかねぇ……。

 そして式も終わり、グリオルス兄上とそのお嫁さんが参列者たちに挨拶して行く。


「今日はご参列頂き、ありがとうございます」


「こちらこそ、素敵な式を見せて頂いたよ」


 社交辞令半分、本音半分の挨拶が行われていき、最後に家族への挨拶となる。

 挨拶だけでも結構な時間を取られているが、それは仕方ないと思う。

 我がクロノアス家は、俺のせいで本来貴族が行う順序とは別になってしまっているからな。

 本来は結婚してから、領地を継ぐのが普通だ。

 例外も色々あるが、我がクロノアス家は新しい例外を作った貴族家になってしまっているので、本来なら代理人で済ます貴族家も詳しい話を聞くために来訪していたりする。

 そのせいで、しきたりに添った挨拶が長引いてるわけだ。


 因みに、本来は参列者たちへの挨拶は色々な順序を付けてから行う。

 その付け方が、爵位、付き合い、寄り親、寄り子に分けられる。

 我が家の場合は寄り親が無いので3つだけなのだが、同爵位で付き合いと言う面倒な部分が存在する。

 そして、フェルが参列したことによって順番を変更するかなどの話し合いも裏で行われていたそうだ。

 結論から言えば、我が家は王家の縁戚になるのと、フェル自身が付き添いと公言していることから、順序の変更は無しになった。

 なので一番手は、我が家と親交のある神聖国寄りの辺境伯家になるのだが、当人からしたら気が気では無いだろう。

 王太子殿下であるフェルを差し置いて一番手なのだから……。


「心中、お察ししますよ」


「グラフィエル殿……分かってくれるか!」


 俺の順番が来るまでの間に、こんなやり取りすらあったからな。

 本当に気の毒である。

 そして、家族への挨拶になるのだが、どの貴族家も基本は、家族への挨拶が最後である。

 その理由なのだが、家族だけは嵩張らない類の贈り物は手渡し出来るからだ。

 実はこの内容、貴族法にしっかりと記載されていたりする。

 何でも、過去に招待された貴族同士で祝儀を張り合った挙句、式を台無しにしたことがあるらしい。

 またそれが、降嫁した王家の者の式だった。

 当時は法も無かったので罰せられなかった代わりに、貴族法に組み込んだそうだ。

 以降は張り合えなくなったのだが、良かったと思う反面、いらん法を追加しやがってと、両家は他貴族から大変嫌われたらしい。

 まぁこれ、有名な話で本にもなってるんだよね。

 因みにその子孫たちは、今も肩身が狭いらしい。

 最後のは噂なので、実際は知らんがな。

 と言う訳で、俺はグリオルス兄上とそのお嫁さんに手渡しをするのだ。

 だから順番が一番最後なわけなのだよ。


「グリオルス兄上、メアルージェさん、ご結婚おめでとうございます」


「ありがとう、ラフィ」


「ありがとうございます、グラフィエル様」


 お互いに挨拶を交わした後、兄上の家人――俺にとっては元家人――に頼んでいた物を持ってきてもらう。

 各貴族家別に山の様に積まれた祝儀の中から、俺が出してる祝儀の列に置いてあったものだ。

 その品だけは、別で丁寧に扱われていた為に、参列者たちも気になっていた祝儀であった。


「兄上、メアルージェさん、こちらを」


「ラフィからの手渡しかい? 何か恐ろしい物じゃないよね?」


「もう、あなた! グラフィエル様に失礼でしょ!」


「あはは……。まぁ、色々とやらかしてるので、仕方ないですよ。ですが、兄上も奥様もきっと気に入ると思いますよ」


 二人に渡した贈り物――それは、あの精霊石を使った一点物だ。

 布を取って見せると、二人の顏が驚きに代わる。

 奥さんであるメアルージェさんの方は、風の精霊石を使った髪留めで、デザインもオーダーメイドの一点物。

 そして、グリオルス兄上の方は炎の精霊石を用いた護身用の武器だ。


「これは……」


「あなた、これはかなり高価な物なのでは?」


「兄上の結婚式なので。あまりお気になさらず」


「気にするなって方が無理だよ。な? 怖いだろう?」


「何となく、怖さがわかった気がします……」


「えー……」


 ちょっとした笑いが起こるが、精霊石を使ってどんな物に仕上げ、贈ったのかが気になる参列者一同。

 兄上に許可を貰い、実演する事にした。


「髪留めの方は、普通に精霊石を用いたものと同じですので、こちらの武器のみ実演しますね」


 そう言ってから炎の剣を出現させる。

 剣幅や長さから見てわかる通り、片手直剣である。

 続いて、持ち手の部分を伸ばし、剣幅と長さを共に大きくする。

 剣の種類で言えば両手剣の大きさだが、それを片手で扱って見せた。


「その大きさの剣を片手で扱うのはちょっと……」


「大丈夫ですよ兄上。魔法なので重さは皆無です」


 続いて、更に持ち手を伸ばして槍に変え、その持ち手の状態から杖へと変化させる。

 最後に持ち手を短くして短剣に変え、実演を終了させる。

 一連の動きを終えた俺に、周りから拍手が木霊した。


「これは凄いね。ちょっとやってみても良いかい?」


「大丈夫ですが、1つだけ注意点が」


 兄上に話した注意点。

 それはイメージについてだ。

 兄上に贈った精霊魔道具だが、出力の安定と消費魔力の燃費に重視した結果、通常よりも強いイメージが必要だと伝える。

 ただ、強いイメージで発現させてしまえば、後はイメージを続けなくても固定できる様にはしておいた。

 要は、発動時のみ強いイメージ、それも強ければ強いほど良いとしたのだ。

 ただ、形態変化をする場合、新しくイメージし直す必要がある事も伝えておく。

 それ以外は他の精霊魔道具と大差ないので、後は後日に試して欲しいとだけ伝えた。

 因みに、可変する場所は鍔と握りのみである。

 剣身は全て魔法で、柄頭は固定だ。

 流石にそこまで弄る時間が無かったってのもあるけど。


「これ、普通に国宝級じゃない?」


「あなた、殿下より先に貰っても良いのでしょうか?」


「ああ、それは大丈夫です。フェルにはあの馬車を贈るので」


「えー! 僕も欲しいな」


「えーい! 家族の語らいに割って入るな!」


 最後にいつもの調子でフェルと話し、周りがハラハラする出来事が起こる。

 新婚の2人もハラハラしていただろうが、フェルはこんな事では怒らないから安心して欲しい。

 公の場はきちんと弁えてるからな。

 そして、参列者たちが色々語らいながら、式は滞りなく終了する。

 だが一つ、俺には別の不幸が舞い込んだことだけ話しておく。


「クロノアス様! 是非! その技法を我が商会に!」


「抜け駆けはズルいぞ! クロノアス様、是非とも我が商会と締結を。そこの木っ端商人よりも良い工房を揃えていますので」


「誰が木っ端商人か!」


「黙れ! お前の所の工房はこの前不祥事を起こしたばかりだろうが!」


「あの二人は放っておいて、我が商会と今後の話を」


「「貴様!! 割って入るな!!」」


 とまぁ、商人同士の醜い争いに巻き込まれたわけだ。

 妹や娘の紹介がいつもより減りはしたが、逆に疲れる結果になってしまう。

 ただ、途中からもの凄く不機嫌になったのを理解したフェルが間に入ったのだけどね。

 兄上の結婚式に来て、途中から祝いもしなかったから、急いだ商人は俺の不興を買ったと言う訳だ。

 この争いに参加しなかった商人とは、後日にきちんとした話し合いの場を設けて、売れない理由も説明して丁寧にお断りしたけど。

 売れない理由は……まぁ、あの場にフェルが居た事で分かると思う。

 分からない人は、地獄耳で分かると思う。

 まぁ、そう言う事なのさ……。



 そして翌日、連日で兄達の結婚式が敢行され、アルキオス兄上にも同じ武器を贈った。

 奥さんには、精霊石を組み込んだネックレスを贈った。

 まぁ、当然ながら驚かれたが……。


「え? グリオルス兄貴にも贈ったよね?」


「こっちは水属性ですので」


「そう言う事じゃない! はぁ……。あのな、一体いくら使ったんだ?」


「そこは聞かないでください。野暮ですよ」


「あの、あなた……」


「こいつはこういうやつなんだよ……。気にするだけ疲れるぞ」


「いえ、そうではなくて……。グラフィエル様って、まだご結婚してらっしゃらないのですよね?」


「あ……」


「私達、グラフィエル様にどんな贈り物をすれば良いのでしょうか?」


 アルキオス兄上の奥さんが何気に言った一言に、グリオルス兄上とその奥さん、そして、フェルとルラーナ姉も固まる。


「兄貴……」


「アルキオス、今、考えるだけ無駄だ。殿下、ご都合が良い時で構いませんので、ご相談に乗って頂けませんでしょうか?」


「奇遇だね。僕もルラーナの兄君と弟君に話があったんだよ」


 三人共、何故か分かり合った顔をしていた。

 俺への祝儀なんて、そこまで気にせんでも良いのに。



 アルキオス兄上の結婚式が終わった翌日、今度は全員を王都へと送迎する。

 フェルとルラーナの結婚式まで約1ヶ月しかないのだが、今から領地に帰って出発だと、間に合わない貴族が結構いたりする。

 なので、我が兄達の結婚式に参列する時に、1ヶ月は代官に任せられるように段取りをしてきたらしい。

 領地に帰ってから王都に向かっても間に合う貴族もだ。

 1ヶ月ほど、王都の屋敷で休暇を楽しむそうだ。



 そして月日は流れ、約1ヶ月後。

 王城にある大聖堂にて、フェルとルラーナ姉上の結婚式が執り行われた。

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