第150話 婚約者達の一時帰国とネデット傭兵団
降嫁に関する話が終わった後、略式的な晩餐会を開き、各国王達をゲートで送り届けた後、2日が経過した。
その2日間も書類に追われていたので、詳しい話は割愛させてもらう。
そして書類決済を始めて7日目、何とか午前中に全ての書類を片付け、午後からは送迎業である。
「皆、準備は出来たかー?」
「「「「「「「はーい!」」」」」」」
今回、一時帰国するメンバーは、ミリア、ラナ、リーゼ、ミナ、ナユ、イーファ、リジア、スノラの8名。
降嫁の話が合った日に「亜人側はどうするんだ?」とイーファ達3人に聞くと、亜人側も大差ないことがわかった。
『結納金や持参金は少額で良いが、輿入れなどはきっちりとせねばならぬのぅ』
とは、イーファの言葉だ。
俺の庇護下にあるのを別にしても、元王族が他国の貴族に嫁ぐので、それなりの形式は必要らしい。
では、同族同士の場合はと言うと――。
『その時折じゃな。国はないが血筋はあるしの。それでも、ある程度で済む話ではあるがのぅ』
『つまり、久々の大規模輿入れになると?』
『元王族が他貴族で同盟盟主であり、我らの庇護者でもある。相応の輿入れは必要じゃて』
イーファはそう言った後、リジアとスノラの方を見る。
二人は静かに頷き、イーファの話を肯定する。
こうして、イーファ達も一度、故郷に戻ることになったわけだ。
ナユに関しては平民出身なので、大規模な輿入れなどはないが、嫁入り道具や持参金などは普通にあったりする。
貴族が平民を娶る場合、慣習に従って多めの結納金を支払う。
商人の場合は、結納金の代わりに御用商人になったりもするが。
逆に貴族が嫁を出す場合なのだが、貴族が平民に嫁を出すことは無い。
だが、借金持ちの貴族の一部は、大商人に嫁へ出したりする場合がある。
その場合は、多額の結納金が貴族に支払われ、持参金の代わりに御用商人になると言う持ち出し状況になるのだが、拍が付くために割と好まれたりするのが現状だ。
世知辛い世の中である。
リリィ、ティア、リアは、ランシェス籍なので暫くは実家に引きこもる事になっている。
ヴェルグは特異な形になるので、現状維持。
残るはリュールになるのだが――。
「ラフィ様は私達を送ってくださった後は、どうされるのですか?」
「傭兵国に行く予定だな。その後は、白竜族の里へ行って帰国の予定だが、時間は余るだろうな」
ミリアの質問に答えるのだが、そこでミリア達が笑顔になる。
うん、なんか怖い……。
「ヴェルグさんと二人旅で行くのですよね?」
「白竜族の里はその予定だが、傭兵国へは3人だな」
「そうですか」
その言葉の後、ミリアはヴェルグへと向き直り――。
「ヴェルグさん、節度ある行動をお願いしますね?」
「う、うん」
ミリアの正妻としての
こういった時のミリアは本気で怖いのを知っているので、誰も何も言わない。
勿論、俺も何も言えない。
ミリアは甘いところも多々あるが、俺への風評を一番に気にして行動してくれている。
だから、誰も何も言えない。
但し、俺への理解度と家族仲を重視するので、俺が必要だと決めたことには文句を言わない。
前世で言えば、大和撫子的な立ち居振る舞いをするのがミリアである。
だから当然、シアの事に関しても話をしたが、賛成することはあっても、反対することは無かった。
色々と注意はされたがな……。
『シアさんの事はラフィ様の考えに賛同しますが、行動にはお気を付けくださいね』
『わかってるよ』
『ラフィ様がそのような受け答えをする時は、軽く考えてらっしゃるときですね。良いですか? そもそも……』
降嫁話が終わった後、ミリア達にシアの事を話した後の事を思い出してしまったが、あの後、1時間近く色々言われたのを思い出していた。
ミリアは〝おかん属性〟も持っている様だ。
子供が産まれたら、教育ママになりそうである。
話が逸れたが、そんなこんなで全員を送り届けにゲートを開く。
神聖国、竜王国、帝国、皇国、神樹国と順に開いていき、最後にナユが産まれた村へと開く。
尚、ナユを最後にしたのには、ちゃんとした理由があるからだ。
「なぁ、ちゃんと話せるか?」
「た、多分?」
「ナユはたまーに、尻込みするからなぁ。やっぱ俺も、一緒に行こうか?」
「大丈夫だから!」
そう言ってナユはゲートを潜って行った。
一応念押しで、事前に話し合っていた事を、再度伝える。
「結納金と持参金は、式の時って伝え忘れるなよー」
「分かってるよー」
元気良く返して、ゲートを潜って行ったが、本当に大丈夫だろうか?
……念の為、手紙を
そして、ヴェルグとリュール以外の婚約者達が一時帰国した翌日、俺達は傭兵国へと赴いていた。
リュールの家にも話をしに行かねばならないので、ついでにもう一つの用事も済ませようと考えた為だ。
そのもう一つの用事とは、傭兵王との会談。
まぁ、ついでなので、時間が合わなければ後回しにする予定である。
他の人が聞いたら「それで良いのか?」とか言われそうだが、俺の中にある優先度では下なのだから仕方ない。
ゲートを竜王国と傭兵国の国境に繋げ、そこから傭兵国内へと入る。
当時、国境砦を守っていた竜王国兵がいるので、物凄く丁寧に、それでいて迅速に通された。
関所の役割もしているので、他の並んでいる方々からすれば「どこぞのお偉いさん?」などと思われていそうだな。
そんなこんなで、馬車を使わず、ひたすら最高速度で走り抜け、半日ちょいで傭兵国首都パスターバへと到着する。
門番が入国審査をしているが、リュールの顔を見て敬礼をする。
「リュール、知り合い?」
「ん。お父さんの弟子。傭兵団だと直ぐに死にそうだったから、お父さんが口聞きして、門番の仕事に就いた……と聞いてる」
「それなりの強さだと思うんだけどなぁ」
なんて話をしていると、門番の人は並んでる方々を後回しにして、俺達の入国審査を先にし始める。
並んでる方々の視線が痛い……。
「ラフィ様は気にしすぎ。傭兵国では強さがそれなりの権力になる。私は少し有名人だから仕方ない」
「ラフィ、気にしても無駄だと思うよ」
「俺は地味に小心者なんだよ」
「あの、お嬢? そちらの方々は?」
門番がリュールをお嬢呼びすると、リュールから素晴らしきボディブローが門番の鳩尾に入る。
そして、リュールが一言――。
「お嬢は止めてと言った。私は傭兵。そして、そちらの男性は……わ、私の旦那、さま」
ふむ、リュールにはこういった耐性は無い模様。
顔を赤らめながら話している。
ちょっとかわいい。
「ラフィ? 何をデレデレしているのかな?」
「デレデレと言うよりは、可愛いと思ってな。って! いたっ! ちょ! 手の甲を抓るな!」
「ふん!」
ヴェルグがヤキモチを焼いたようだが、ちょっと珍しいな。
そんなヴェルグを見ていると、ヴェルグがボソッとつぶやいた。
本来なら聞こえない声量だろうが、俺相手だと聞かれる。
そんなことを失念するとは……本当にどうしたんだ?
「(ボクにはカワイイとか言わないのに)」
あ、そういう。
何とも可愛らしいヤキモチである。
何となく、ヴェルグの頭を撫でる。
「何?」
「いや、可愛らしいヤキモチだ――と」
「聞こえてたの?」
「まぁな。俺相手にこの距離だと丸聞こえだな」
「うぅ……。失敗したぁ」
顔を赤らめて、俯くヴェルグの頭を撫でる俺。
そんな状況化に戻ってくるリュール。
ヴェルグを撫でる俺を見たリュールは――。
「ん。私も」
そう言って頭を差し出してきた。
ちょっとした嫉妬だろうが、これはこれで可愛いので、二人の頭を撫でる。
それを見ていた、入国待ちの方々は――。
「モゲロ!!」
「シね!」
「爆発しろ!」
「刺されてしまえ!」
等々、呪詛の言葉を放っていた。
それは門番も変わらないようで、お嬢と呼んだ門番以外も同じ反応である。
これ以上は、他の方々への精神衛生がよろしくないようなので、さっさと中に入ってしまおう。
首都パスターバに入り、まず思ったことは活気だろうか?
他の国にはない活気と熱気が溢れていた。
ただ、言葉遣いはちょっと野蛮ではあるが、特に気にすることもないか。
リュールの案内で進んでいくと、冒険者ギルドが見えてきた。
確か傭兵国は、冒険者と兼業なんだっけ。
となると、出向くのはギルドなのか?
そう思っていると、リュールはギルドをスルーした。
(まぁ、そうだよな。普通は実家だわな)
なんて考えていると、またもやギルドらしき建物が。
「あれ? さっきもなかったか?」
「ん。傭兵国の冒険者には2種類いる。一つは傭兵と兼業の冒険者。もう一つが普通の冒険者」
「そうなのか。となると、ネデット傭兵団みたいなのは希少なのか?」
「ん。兼業にも種類がある。団に所属する者とフリーな者。質は個人に寄るけど、信用度と言う点なら所属している方が良い。ただ、団もピンキリ」
「そうなると、さっきのは普通の冒険者ギルド?」
「ヴェルグ、違う。さっきのも今のも団の建物。ギルドは商業区と鍛冶区の境目にある」
「治安が悪そうだなぁ」
「ヴェルグの言う通り、治安は悪い。でも、腕っぷしの強い人が多いから、そこまで酷くもない」
「婚約者で危険そうなのは?」
「ん。リーゼとリジアとスノラだけ。後は平気」
リュールは俺と話す前に「ん」と言うな。
恥ずかしいのかね?
他は普通なのにな。
嬉しいような寂しいような……複雑な気分だ。
そんなこんなでリュールに案内されて、大通りを抜けていく。
ほどなくして、他よりも一回り大きい建物に着く。
リュールは建物を指差して「着いた」とだけ告げ、中に入っていく。
俺達もリュールに続いて入っていき――。
「またか……」
「まただねぇ……」
盛大に絡まれ、OHANASHI――物理――を開催して、現在の建物内は死屍累々。
いや、実際には死んでないが、そう言っても良い状況にはなっている。
と言うのも――。
「てめぇか! お嬢を口説き落としたってのは!」
「コロス!」
「お嬢以外にも女連れとか!」
「やっちまえ!」
で、結果が今の状況である。
俺は所見のギルド関連に来ると、絡まれる呪いにでも掛かっているのだろうか?
本気で疑いたくなる。
今度、解呪の魔法でもかけてみようかな。
「こっち」
リュールが指を刺した後、死屍累々の同僚を放置して二階へと上がっていく。
二階に上がると、そこには見たことのある人物が。
「お嬢!? 帰国するなら連絡くださいよ!」
「お嬢は止めて。お父さんとお母さんは?」
「団長はギルドの方に行ってますが、間もなく帰ってくるかと。おかみさんは上にいますぜ」
「わかった。ん。上」
「お邪魔します」
「むさくるしいところですが、ごゆっくり。そういや、下の馬鹿どもがすみません」
「あれはいつもなのか?」
「お嬢に言いよる輩と女連れにはあんな感じですわ。だからモテないってのをわからねぇから困るんですが」
「あんたも苦労してんのな」
「最近じゃ、腹がキリキリしやす」
以前に会った、リュール率いる部隊の補佐役だった男は、自分の腹――胃の部分――をさする。
苦労人で哀愁が似合う補佐役男傭兵。
顔が渋いだけに、哀愁2倍増しである。
俺はそっと彼に薬を渡した。
「(苦労人に効く薬だ。これからも頑張ってくれ)」
「(ありがとうございます)」
小声でやり取りをし、彼はお辞儀して見送る。
「ラフィ、何を渡したの?」
「胃薬だ。ストレスで胃がやられてそうだったからな。原初が手作りした最高級品だぞ」
「ラフィ信者が、また増えそうだね」
「っ! 怖いこと言うなよ」
このヴェルグの言葉だが、後に現実のものとなる。
この時は当然、お互いにそうなるとは思っていないがな。
リュールに案内されて3階に上がり、いくつかある部屋の一つへと通される。
そこは応接室の様で、中には20代後半くらいだろうか?
一人の女性が待っていた。
「ただいま」
「おかえり。聞いてた連絡より随分早いけど、なにかあったのかい?」
「特に。3人で仲良く走って来た」
リュールの3人と言う言葉に反応して、こちらへと視線を変える女性。
すると、鋭い目つきが一転して、穏やかなものになり――。
「初めまして、クロノアス侯爵様。あたしはリュールの母親でプエリーラ・ネデットと申します」
「グラフィエル・フィン・クロノアスです。この度はお招きありがとうございます」
「いえいえ。それよりそちらの女性は?」
「ヴェルグと言います。クロノアス卿の婚約者の一人です」
「あらまぁ! 噂は本当だったんだねぇ」
プリエーラさんは、ヴェルグを見て噂通りだと言う。
一体、どんな噂が流れているんだ?
それとなく聞いてみると――。
「クロノアス卿は美姫ばかりを囲う女たらしって噂と、どんな女性をも虜にする魔性の貴族ですかね。ヴェルグさんを見た時に、噂もたまには当たるもんだと思いましたよ」
「ちょぉぉぉっと、まてぃ!」
思わず素で待ったをかけてしまう。
誰だ!?そんな根も葉もない噂を流した奴は!
見つけ出して、徹底的に尋問してやる!
「ん。落ち着いて」
「リュール、流石にそれは無理!」
「ラフィ、とりあえず探し出すのは後にしよう」
「くっ! 絶対に探し出して、尋問してやる!」
「ん。私も手伝う。でも今は、座ろ」
「……わかった」
ヴェルグとリュールに窘められ、これからの話もあるのでソファに座る。
座ってお茶を出してもらうと同時に、ドアが勢いよく開かれて――。
「貴様かぁ! 儂の孫娘を誑かした野郎はぁぁぁ!」
「え? 誰?」
「ん。お祖父ちゃん」
「ここの祖父もはっちゃけ型だったか……」
懐かしきミリアの祖父――死んでないぞ――の行動と全く変わらない行動をするリュールの祖父。
ミリアの祖父は魔法系だったが、リュールの祖父は物理系らしい。
大斧を振りかぶって、勢いよく振り下ろそうとして――。
「落ち着け、親父」
「あんたは……。孫娘の幸せを壊そうとするんじゃない!」
ネデット団長とリュールの祖母らしい人が止めに入る。
二人に抑えられながらも「うぉぉぉぉ! はなせぇぇぇぇ!!」と叫ぶ、元気なリュール祖父。
この世界で祖父に当たる人間は、もれなく元気で安心?だな。
「ん。ごめん。ちょっと外で黙らせてくる」
「いや、気にしてないから。それよりも、家族総出?」
「ん。弟がいる。一個下。今は訓練中」
「呼ばなくて良いの?」
「大丈夫。ヴェルグこそ、あの人を呼ばなくて良い?」
「ボクは天涯孤独の身だから。あれは親じゃない」
神喰は名前すら呼んでもらえなかった。
不憫だとは思うが、自業自得でもある。
ちょっとした混乱はあったが、顔合わせは無事に終了する。
その後は、輿入れの話を先に行い、ちょっとした雑談をしていたのだが……。
「認めん……。儂は認めんぞ!」
「じじい、うるさい」
「ぐふっ!」
「リュールは、お祖父ちゃんだけには辛辣よねぇ」
「親父、いい加減にしないと本気で嫌われるぞ?」
「ぐはっ!」
「すまないねぇ、騒がしくて。ただ、あたしもちょっと気にはなっているんだよねぇ」
「ラフィは強い。私じゃ、どうやっても勝てない」
「じゃ、ちょいと見せてはくれないかね?」
「構いませんが、誰と何処で戦うので?」
そう聞くと、地下に訓練場があるらしい。
ネデット傭兵団はそれなりの歴史があり、国からの信用も厚く、腕利きも多い。
人材は豊富なので、リュール祖母が見繕った相手と多数対個で模擬戦をすることになったのだが――。
「俺はイヤだ」
「自分も御免です」
「俺達に、死ねと仰る!?」
「遺書、書かないと……」
なんて始末である。
尚、先の発言は、腕利きでリュールと共に帝国内乱に参加していた傭兵達だ。
実力はこの国でも上位に入る者達ばかり。
それが全員〝NO〟と言うから、リュール祖母も驚きである。
「まさか、戦う前から折られているとは……」
「ふんっ! 情けない! やはり儂が……!」
「じじい、黙れ」
「ごふっ!」
「リュール、優しさは大事だよ」
「大丈夫。じじいは堪えない。ヴェルグも辛辣で良い」
「闇リュールが出てるなぁ」
「ん。闇ではなく、じじいがウザいだけ」
「げはっ!」
リュールの辛辣な言葉に、今にも天に召されそうなリュール祖父。
ちょっとかわいそうだと、同情しようとして――。
「貴様になんぞ、同情されたくないわ!」
前言撤回!
このじじい、かなりうぜぇ。
リュールも横でイラっ!としたようで。
「じじい。私に勝てないのに、ラフィに勝てるわけない。お父さんにですら、今は負けるのに、ラフィに勝つとか無謀。身の程をわきまえて、大人しくしといて」
「酷過ぎないかのぅ!?」
「埒が明かんな」
「あなたが戦ってみれば良いじゃない」
「エーラ、俺に死ねと?」
「あなたも団員達と同じこと言うのね」
結果、対戦相手が決まらず、一階の死屍累々の件を話すと、祖父は大人しくなった。
祖母の方も「それなりの実力者を一蹴かえ」と、納得した模様。
こうして、ネデット家との顔合わせは終了した。
ネデット家に一晩お世話になった翌日、リュールの父シャイアス殿に連れられて、俺達は傭兵王との会談に向かうのだった。
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