第135話 直轄部隊VS反乱軍

 ヴェルグに声をかけようとして、突如見えた映像。

 その映像には、ヴェルグの消滅する姿が映っていた。


「なんだ……これ?」


 目を閉じて、頭を振る。

 次にヴェルグを見た時、その映像は消えていた。


「何だったんだ、今のは……」


 未来予測?いや、未来予知か?

 まさか……そんなはずはない。

 ヴェルグは特機戦力の中でも、相当な実力者だ。

 きっと何かの間違いだ。


 だが俺は、先の映像が気になり、声をかけられなかった。

 俺はこの事を後で後悔した。

 あの時、話していれば……と。


 そして、皆の顔を見るのが怖くなり、俺は一人ぶらついた。



 時間になり、各人が黒竜達の背に乗って行く。

 俺も背に乗り、ふと何故かヴェルグを探してしまった。


(何を不安になっている……。俺がそんなことでどうする!)


 頭を軽く振り、目の前の事に集中する。

 戦闘がもうすぐ始まる。

 俺は意識を切り替える。


(そうだ。俺が素早く終わらせれば良い。そうすれば、あの映像が間違いだったと証明できる)


 俺はこの時点で気付くべきだった。

 自分の状態が可笑しい事に。

 だが、気付く事は無かった。

 そして、戦端が開かれる。



 帝都が見えて来た。

 反乱軍は帝都を包囲中か。

 動きが遅いな。

 5キロ離れた場所に降り立ち、素早く陣を設置。

 反乱軍もこちらには気付いたはずだ。

 設営を素早く済ませ、防御陣形を構築する。


 500人ほどの部隊なので、防御陣形も素早く展開できた。

 さて……ここからは、蹂躙の時間だ。

 その前に、全員に向けて声をかける。


「突入するのは、俺、ゼロ、ツクヨ、ウォルド、ヴェルグ、リアの6名。遊撃は無しにする。シアは精霊魔法で援護と防衛を。ティアとリリィは後方で援護攻撃。ミリアとナユは回復と支援を頼む。総指揮官はリーゼだが、纏め役の旗頭は皇女殿下とロギウス殿です。負傷はしないようにしてください。ラナは3人の護衛を。イーファはファリジア様とスーノラト様を守ってください」


「なんじゃ? 我も働かせるのかえ?」


「怠けた結果、二人に何かあっても責任は取りませんよ?」


「仕方なしじゃな。本陣の防衛は任せよ」


「任せました。……みんなの命、俺が預かる。全員無事に帰るぞ!」


「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」



 さて、話してる間に向こうも陣を整えたみたいだな。

 だが、関係ない。

 全て潰すだけだ!


「特機戦力、全員突撃!」


「おし、先に行くぜラフィ!」


「私も行きます。ゼロのお守りは任せてね」


「ラフィ、帰ったらボーナスを期待するぜ」


「リアはボクと一緒ね」


「ヴェルグに背中を預けるよ」


「いくぞ!!」




 こうして戦端は開かれた。





 sideゼロ・ツクヨ


「死にたい奴から掛かってこいや!」


 ゼロが刀を振るう。

 それだけで一気に数人の首が飛ぶ。

 そのゼロの後ろでは、ツクヨが支援をしていた。


「ゼロ、いきなり飛ばし過ぎよ。私にも回しなさい」


「狩りたきゃ狩れよ。雑兵共に後れを取る、お前じゃねぇだろ」


 言葉を交わしながら、確実に首を飛ばしていく二人。

 二人揃って戦闘狂。

 二人揃って阿吽の呼吸。

 戦場でこそ、この二人は似たもの夫婦が際立っていた。


 一方、そんな二人を相手にした反乱軍は、軽く恐慌状態に陥っていた。


「な、なんなんだよ! あのバケモノは!」


「ひぃ! くるな…来るなぁ!」


「くっ! 陣形を乱すな! 相手は二人だ! 物量で潰せ!」


 反乱軍の司令官が檄を飛ばす。

 しかし、その数分後、彼の意識は闇に沈む。


「流転変刃! 百華繚乱! 桜花万刃! スキル複合、万刃閃華!」


「狂い咲け! 狂乱刃華!」


「ぎゃぁぁぁ!!」


「うで、うでがぁぁぁ! ぐえっ!」


 中央左翼は阿鼻叫喚に包まれた。





 sideウォルド


 ウォルドは駆ける。

 今までの修練の結果を見せる様に。

 彼もまた、人外となっていた。


「貫け! ミストルテイル!」


「ぎゃぁぁぁ!」


「隙あり!」


 ガキン!


「な、なに!?」


「隙じゃなくて、誘いだよ!」


「ぐはっ!」


 ウォルドは槍をメインに戦っていた。

 だが、彼の持ち方は可笑しかった。

 本来なら両手持ちの槍を片手で振るい、左手には小剣が握られている。

 今のウォルドの戦い方は、変異型二刀流。

 槍で攻撃し、小剣で盾の代わりをしている。

 更には、魔法も進化していた。


「フレアバード! ロックスパイク!」


 魔法、槍術、変異二刀流。

 新しい戦闘スタイルで左翼を屠る。


「おらおら! どうした!? 戦う気が無い奴はさっさと逃げろや!」


 その言葉の後、ウォルドは斬り込む。

 左翼でも阿鼻叫喚の声が上がる。





 sideヴェルグ・リアーヌ


 少女二人は、確実に敵を屠っていた。

 リアは一撃必殺のヒット&アウェイ。

 対するヴェルグは魔剣を使用していた。


「流石に数は多いね。よっと。」


「仕方ないよねぇ。人は群れる生き物だし」


 軽口を言いながら、こちらも確実に敵を屠る。

 しかし、その敵を屠る早さは5人の中では一番早かった。


 その答えは、ヴェルグの魔剣。

 ヴェルグは魔剣に神喰の力を移している。

 自身も少しなら使えるが、以前ほどは使えない。

 そんなヴェルグの秘策は、スキルと魔剣の複合だった。


「行くよ……。闇月の暗剣」


 闇月の暗剣。

 魔剣に移された神喰の力を、スキル万刃と空間掌握とを複合させた剣技スキル。

 その効果は【触れた相手の生命力マナを喰らう】である。

 威力調整は可能なので、気絶させる事も出来る。

 本来は敵を無力化させるスキルだ。

 今回に至っては、その制限を解除していた。

 制限を解除された場合、待っているのは死である。


「う~ん、まだ調整が必要だなぁ」


「え? 十分でしょ」


 スキル万刃を加えてあるのだから、対象は万人の筈だった。

 しかし実際は千人程度。

 実際に万の刃は出ている。

 ただ、複数の刃が一人に対して発動していた。

 空間掌握が上手く機能していないせいなのだが、反乱軍には関係なかった。

 近付く前に殺されるので、関係がなかったのだ。


「さぁて、まだまだ喰らうよ」


「僕はお腹一杯だよ」


 二人はこの後も、最短で敵を屠って行く。

 最初に壊滅したのは右翼であった。





 sideグラフィエル


 中央右翼。

 そこには傭兵たちがいた。

 反乱軍と傭兵の複合部隊。

 それが中央右翼。

 グラフィエルは思った。


(一番面倒な場所じゃねぇか!)


 何故この部隊なのか?

 簡単な話である。

 出遅れただけだ。

 気付いたら、この部隊しか残っていなかったのだ。


 グラフィエルは駆けながら考えた。

 普通は敵対した以上、殲滅するだけなのだが、考えざるを得なかった。

 その理由だが……。


(間違いなく、傭兵国所属だよなぁ。むやみやたらに殺すと、後で問題になりかねないか?)


 とは言え、戦場に出て来た以上、彼らも覚悟はしているはず。

 考えた結果、グラフィエルはなるべく無力化を選択した。


「さて、殺りますか」


 グラフィエルは駆ける。

 そして、飛ぶ。

 矢が迫るが、風魔法で阻害。

 陣中央に降り立ち、双大剣を一閃。

 それだけで、数十人の首が飛ぶ。


「ひっ!」


「恨むなら、反乱軍に参加した自分を恨め」


 その言葉の後、更に一閃、二閃。

 それだけで雑兵の首が面白いように飛ぶ。

 陣が中央から食い破られ、陣形が機能しなくなってくる。


 反乱軍は混乱する。

 包囲しているはずなのに、何故か自身が猛獣の檻に入れられたと錯覚してしまうほどに。

 僅か数分で、軍の3分の1が溶ける。


 グラフィエルは魔法を使わず、手加減しての早さ。

 最早反乱軍は、如何にして生き残るかを考えるかで必死だった。

 そして彼らは、九死に一生を得る。

 傭兵軍の中にいた、一人の少女によって。





 side本陣


 本陣では防衛陣を敷いたまま、待機となっていた。

 攻撃はこちらに届いていない。

 しかし、陣の先頭では戦いが始まっていた。


「やはり伏兵ですか。数はこちらと同等。ならば負けはしませんね」


「リーゼさん、指示は?」


「ナユさんはそのまま支援魔法を。ミリアさんは負傷兵の治療をお願いします。シアさんは敵後方に爆発魔法をお願いします」


「「私達は?」」


「ティアさんは、シアさんの魔法の後、指揮官を特定して牽制を。リリィさんは怯んだ指揮官に矢を放って、確実に仕留めて下さい」


「「りょーかーい」」


「軽いですね……。もう少し、真面目に。っ! イーファさん! 防御結界を! 大規模魔法が来ます!」


「任せよ!」


 リーゼの指揮の元、確実に伏兵を屠る本陣。

 そんな中、帝都周辺の東と西から砂塵が見えた。

 包囲していた反乱軍が集結してきたのだ。


(これは…報告以上の数では?)


 リーゼが持つ大図書館。

 その中には、砂塵から総数を判別する術も記されていた。

 前線の瓦解はあり得ない。

 しかし、時間を食う可能性は否定できない。


 伏兵を殲滅してから進軍させるか悩む。

 だがリーゼは、待機させる方を選んだ。


(乱戦になれば、いくらラフィ様でも後手に回らざるを得ないはず。それならば、動かない方が得策。ですが、このまま何もしないと言うのは、駄目ですね)


 リーゼは動く。

 その指揮の元、直轄部隊は伏兵を包囲していく。

 敵に気付かれない様に、少しづつ広げ、目標まで来たら薄く一気に広げる。

 本来ならば愚策だが、この場にいる者達は武に覚えのある者達。

 その実力は折り紙付きで、伏兵とは実力に差が開いていた。

 結果、15分ほどで伏兵を殲滅することに成功する。


 一度包囲したのならば、こちらに被害が出ない様に、敵中央へ魔法を放てば良いだけ。

 それも範囲魔法を。

 結果、伏兵は中央に穴を空け、壊滅した。


「シアさん。魔法で信号弾を。火の魔法に色は付けられますよね?」


「精霊さんがしてくれるそうなのです!」


「では、色の順番を言いますから、その通りに上げて下さいね」


「了解なのです!」


 ビシッ!と敬礼するシア。

 そんなシアの頭を、軽く撫でるリーゼ。

 本当の姉妹の様であった。


(ラフィ様、こちらは全員無事です。後はお願いします)


 リーゼは警戒しながらも、皆の無事を祈るのだった。





 sideシャルミナ・ロギウス


 二人は絶句していた。

 強いとは思っていた。

 しかし、まさかこれほどとは……。

 そんな中、ロギウスだけは違う事を考えていた。


(親父、あんたの判断は間違ってなかった。あれは人がどうこう出来るレベルじゃねぇ。グラフィエル殿もその婚約者達も、等しくバケモノ揃いだ)


 ロギウスの考えは間違っていない。

 ただ一つ間違っているとすれば、婚約者の大半はそこまでバケモノではない。

 そんな兄の考えを読んでか、シャルミナが声をかける。


「ロギウス兄様、私、夢でも見ているのでしょうか?」


「気持ちはわかるぜ。だがな、現実だ」


 夢ならばどれほど良かっただろうか?

 ロギウスはそう考え、頭を振るう。


(いや、あの方々がいたからこそ、帝国は救われる。ただな、こんなの見せられたら、血が騒ぐじゃねぇか)


「ロギウス兄様?」


 シャルミナがもう一度、声をかける。

 何故、声をかけたのか?

 それは、ロギウスが笑っていたからだ。

 本人も気付かぬ笑み。

 妹に指摘されて、初めて気付くロギウス。

 彼は妹に偽らざる本心を話す。


「俺は笑っていたのか……。だがな、血が騒ぐんだ。そして思った。人は高みへと至れると。今、あそこに立っていられない自分が悔しいよ」


「兄様……」


「シャルミナはどうだ? グラフィエル殿の婚約者みたいに、共に立ってみたいと思わないか?」


「私も……思います。でも、今からでも間に合うのでしょうか?」


「無為に過ごした時間ではなく、努力に費やした時間だと思うぞ。グラフィエル殿の婚約者に、一番新しくなったのがリーゼ殿らしい。それでも、共に立っているからな。そう言う事なんだろうさ」


「全てが終わったら、皆さんとお話したいと思います。私が変わるにしても、そこからだと思うのです」


「変われるさ……。きっとな」


 二人はそれ以降、言葉を交わさなかった。

 だが二人はこの後、とんでもない物を見ることになる。





 sideファリジア・スーノラト・ナイーファ


 亜人代表の3人娘(ロリBBA一名)もまた、言葉を失っていた。

 だが、ナイーファは直ぐに復帰し、リーゼの指揮に応える。

 伏兵が壊滅した後、彼女らはようやく話し出した。


「ほんに恐ろしいのぅ。6人ともバケモノじゃが、グラフィエルは別格だの」


「イーファ、それはどういう意味?」


「イーファ様、私にも教えてください」


 ナイーファは、二人に自身の正体を明かしていた。

 ファリジアはそれでも友達と呼び方を変えず、スーノラトは流石に呼び捨ては無理だと、愛称に様付けしていた。

 そんな二人に、ナイーファは答える。


「あやつ、魔法をほぼ使っておらんようじゃ。それに、スキルも大した物は使ってない様に見えるの。慢心か? それとも……」


「使う必要性が無い? いえ、時間をかけないなら、使った方が効率的よね?」


「使えない理由が出来たとか?」


「では、その理由は何じゃ?」


 二人の疑問に疑問で返すナイーファ。

 それを返された二人が分かるはずもない。

 答えは、スーノラトが正解なのだが、彼女らに知る術はない。

 そして戦いは佳境を迎えるのだが、この後ナイーファは、自身にまだ、この様な気持ちがあった事に驚く。

 そして、ファリジアとスーノラトの二人もまた、その姿を見て気持ちに変化が生まれた。





 …

 ……

 ………

 戦闘はこちらに有利で進んでいた。

 右翼はほぼ壊滅。

 左翼は瓦解。

 中央左翼はまだ持っているが、時間の問題。

 そして俺のいる中央右翼だが、まさかの人物がいた。


 ランシェス武術大会・斧術の部優勝者にして、ネデット傭兵団団長の娘で鬼神と呼ばれた男の曾孫。

 シャリュール・ネデットがそこに居た。


 マジかぁ……ないわぁ……。

 この世界で強者の一角に君臨する者。

 それが彼女、シャリュール・ネデットだ。


 彼女もこちらに気付く。

 そして、その位置から片手斧を投擲してきた。

 ま、当然弾くけどな。


 その間に距離を詰め、俺と対峙する。

 そして一定の距離を取り、第一声は……。


「初めまして。私はシャリュール・ネデット。【蹂躙者】さんはグラフィエル・フィン・クロノアスで合ってる?」


 礼儀正しい挨拶だった。

 何となく、毒気を抜かれてしまった。

 向こうも名乗ったのだし、礼儀には礼儀を。


「そうだ。俺がグラフィエルで合ってる。初めまして…ではないけどな」


「何処かで会った?」


「ランシェスの武術大会で君を見た」


「そう」


「それで相談なんだが、この場は引いてくれないかな?」


「無理。傭兵は契約を守る」


「死ぬことになってもか?」


「死なない。私があなたを殺すから」


「どうしても戦うと?」


 無言でうなずくシャリュール。

 これ以上は不毛…と、戦闘態勢に入る彼女。

 仕方ない…と、俺も戦闘態勢に入る。

 中央右翼、第2ラウンドの幕開けであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る