第134話 帝国領内へ

 昨日は忙しかった。

 朝から晩まで。

 更には、面倒な化かし合いと来た。


 一夜明け、朝の食堂。

 シアを除く婚約者が勢ぞろいの中、昨日宿泊した客人達も一緒に朝食を取っている。

 そんな中、俺は報告をする。


「さて、あまり時間もかけていられない。なので今日、直轄部隊は出陣します!」


「まだ準備が整っていないのでは?」


「きょうの午前中で全て終わらせるから。ミリアもそのつもりで。それと、ヴェルグを護衛にして、王城まで客人を迎えに行って欲しいんだけど、頼めるか?」


「わかりました。ヴェルグさんは……一応ですか?」


「そうだね。今は何処に危険があるか分からないし。皆もそのつもりで」


「「「「「「はーい!」」」」」」


 反乱軍にも暗部がある事が分かったので、暗殺や誘拐と言う可能性は低いが、0ではない以上、警戒は必須だ。

 そして皆と朝食を食べ終わった後、執務室で軽く仕事をしながら、昨日の話の続きをするのだが……。


「お館様? 何故、あのご老人は土下座なされているので?」


「あ~、ナリアにでも聞いてくれ」


 ブラガスの質問をナリア任せにした。

 もうな、朝から面倒なのよ、このご老人。

 レラフォード代表も困っているし、どうにかならんもんかね。

 そう思って、ナイーファ様を見ると。


「わかった。我が言い含めよう。代わりにじゃが、我の事はイーファと呼ぶのじゃ」


「何故に愛称? と言うか、良いのか?」


「構わん。我もお主に興味津々じゃ。これも友好の一つじゃ」


「まぁ確かに。じゃ、遠慮なく呼ばせてもらう」


「うむ。それとじゃ、ファリジアも望んだのなら、愛称を呼びをしてやってくれ。あ奴は友と呼べる者がおらんからのぅ」


「立場的に無理だわな。……わかった。考慮する」


 イーファとの交渉は成立。

 そして彼女は、ご老人を言い含め始めた。

 何か色々言ってるが、全部イーファに任せよう。

 俺の精神衛生的にもそれが良いと言ってるし……リエルが。


 30分後、俺は急を要する書類のみを片付け終える。

 イーファの方もどうやら終わった様だ。


「待たせてすまぬ。思ったより手こずったわ。それでじゃが、お主、覇気を使っておったな?」


「は? 何の話だ?」


「自覚なしとは……。ある意味それが功を成したと言えば聞こえは良いが。あのじゃな……」


 こうして俺は、イーファから注意された。

 普通の精神だと、覇気と言うものは毒にしかならんらしい。

 この老亜人が耐えていたのは、ひとえに同胞の為らしい。

 簡単な話、ちゃんと制御しろ!って話だ。

 まぁ、結果オーライなので、それ以上は言われなかったが。

 結局、国の再建はしないと約束し、俺の庇護下に入ると宣言した。


 話も終わり、レラフォード代表と老亜人は帰って行った。

 だが30分後、何故か老亜人が一人のうさ耳少女を連れて戻ってくる。

 ヤナたちは大忙しだった。


「その、出来ればこの娘も共にお願いできないでしょうか? 昨日申し上げた、王族の子孫でして。是非、ファリジア様にも会わせて上げたいのです」


「まぁ、そう言う理由なら。昨日みたいな嫌な感じも無いですし」


「ありがとうございます。亜人の有志100名は、既に帝国領内でお待ちしております。何卒、早めの御到着をお待ちしております」


 それだけ言うと、老亜人は再び帰って行った。

 残されたうさ耳少女は震えていた。

 なので、イーファを連れてくることに。


「ナイーファ様!」


「ん? お主は……そうか、蒼兎の末裔か」


「はい。スノラと申します。ナイーファ様の事はお婆様から聞いておりました」


「お主、両親は?」


「小さい頃に病で……。私の種族は、病で数を減らしました。全滅も時間の問題かと……」


「……そうか」


 二人の話を盗み聞きしてしまった。

 いや、俺の退出を待たずに話すんだもの。

 これは不可抗力だと思う。

 ただ、残って良かったとも思う。


「イーファ。この娘、病魔に侵されている。まだ初期段階だから、強めの回復魔法で癒せるが、やって良いか?」


「なんじゃと!? スノラ、今直ぐ治療を受けるのじゃ!」


「は、はい!」


「えーと、蒼兎の集落だっけ? その村の人の治療も依頼しとくから。ただ、末期だと依頼者には厳しいかな?」


「っ! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 とまぁこんな感じで、めっちゃお礼を言われた。

 危機察知能力が高いとの話だったが、そうは見えない。

 お人好しに見えるんだよなぁ。

 この娘、大丈夫だろうか?


 尚、依頼する相手は光の精霊達だ。

 精霊達なら、ある程度は色々と把握してるので大丈夫だろう。

 何かあれば、連絡は来るだろうし。


 と言う訳で、ミリアが戻ってくるまでに準備を終わらせよう。

 食料は空間収納内に保存してある。

 昨日の内に直轄部隊の各国精鋭たちは、帝国との国境沿いに運んである。

 残るは俺の私兵のみ。


 やることやって、残りの時間は僅かな休息時間ブレイクタイムを楽しむことに。

 後は時間との勝負になる。

 とは言え、既に後手に回っている状況ではある。

 あくまで最悪の状況ではないだけ。

 この先が勝負だな。


 そこから僅かな時間で、ミリアが同行組を連れて戻る。

 どうやら、ファリジア様も同行するみたいだ。

 守りながらの戦いかぁ……。

 少人数なら経験はあるが、軍単位は初だな。

 上手くやらないと……。

 そんな気持ちを悟ったのか、ナユとシアが声をかけてきた。


「ラフィなら大丈夫ですよ。私も命を救われた身なのですから、保証しますよ」


「ラフィ様なら、きっと上手く行くのです! 緊張は失敗するのです! シアがおまじないをするのです!」


 ナユに励まされ、シアからは頬にキスをされた。

 それを見たナユも負けじと頬にキスをする。

 それを見た婚約者達が「私達も!」と次々に頬へキスをした。

 そんな様子を見ていた独身者達は……。


「リア充、もげろ!」


「禿げてしまえ!」


「羨ましい……」


「亜人の美人な女性を守れば、惚れられるかも?」


「「「お前、天才か!」」」


 等々。

 呪詛と希望的観測を言い合っていた。

 ふむ…気後れするよりかはマシだな。

 俺が呪詛の相手と言うのは、まぁ士気向上の為に我慢しよう。



 そして、いざ出陣!となった。



 クロノアス領・帝国国境。

 俺達は時間となり、クロノアス領にある帝国国境に来ていた。

 そこには、昨日の内に送り届けていたランシェス軍とセフィッド神聖軍が勢ぞろい。

 勿論、有志の亜人達もこの場にいる。

 そして竜達も。


 時間となり、指揮官が挨拶するのだが、何故か大トリは俺であった。

 うん、そんな気はしてた。

 大勢の前で喋るのは苦手なのに……。

 だが、逃げるわけにもいかないので腹を括る。


「諸君! 今回は侵略ではない! 友好国の救援要請に沿うものだ。だから、帝国臣民も我らが同胞である! 同胞からの略奪など、あってはならない! もし、そのような報告がなされたのなら、各国代表に変わり、俺が処断する! そして、仲間を助け、仲間を信じろ! この戦い、生きて帰ることを最優先に! 亜人達も同じだ! 我らは、一つの目的の為に集った戦士である! 一人一人が英雄であり、勇者だ! 皆の奮闘に期待する!」


 言い終わった瞬間「「「「ウオォォォォ!!!」」」」と、叫び声が木霊する。

 うん、我ながら恥ずかしい演説だった。

 なんだよ英雄って。

 勇者って何?

 厨二病全開じゃねぇか!

 もう絶対にやりたくない。

 対する指揮官たちは「流石!」とか「死ねる」とか言う始末。

 後味悪いから、死んでくれるなよ?

 割とマジで。


 出陣式も終わり、全軍出陣!となった所で、報告が入る。

 その報告は更に状況が悪くなった報告。

 一人の兵士が、俺達に報告内容を読み上げた。


「報告! 東の反乱軍と帝国軍が交戦! 帝国軍敗退! 反乱軍はほぼ無傷です! 報告では、古代文明期の魔道具を使用した可能性があると上がってきております!」


 この報告に各国指揮官は、急遽幕僚会議を開く羽目になった。

 情勢が動いた以上、今までの作戦を見直す必要があるからだ。


「さて…クロノアス卿、何かありますかな?」


「軍人の皆さんにお聞きしたい。この後、反乱軍はどう動くと思いますか?」


「帝国の動き次第だが、二つだな。強行突破してきた軍勢を包囲殲滅か、籠城した帝国への攻城戦。どちらが反乱軍にとって楽かと言われたら……」


「強行突破の方がまだ楽ですな。私なら、攻城戦の方が面倒です」


「私も、聖騎士殿の意見に賛成です。そして、彼の皇帝がそれに気付かないはずもない。であれば……」


「帝国は籠城すると見て間違いないか。だが、北から魔物が迫ってきているのに、馬鹿正直に攻城戦をやるのか?」


「魔物が近づく直前まで圧力をかけ、後処理は魔物に任せると言う判断も出来ませんか?」


「その場合だと、撤退の時期はかなり綿密にしないと、反乱軍にも被害が出かねないだろう」


「ひょっとして……」


「クロノアス卿?」


「あくまで仮定だが、もしもジルニオラがダグレストと密約を交わしていた場合、西は捨て駒にするのでは?」


「……西側領土の割譲ですか。代わりに、隠れて軍事提供をする。割譲に邪魔な西側は貴族は、魔物に狩られて全滅。有り得なくはないですな」


「そうなると、話し合っても無駄だな。仮定とは言え、捨て駒があるならば、時間しか浪費しない。こうなると、強行策しかなくなるのが痛いな」


「被害は出るでしょうな。最小限には抑えますが」


「問題は直轄部隊でしょう。クロノアス卿が合わせるとなると……」


「………………よし、決めた。直轄部隊の内、大部分をランシェス軍に回す。彼らの指揮は任せた。代わりに黒竜を一体こちらに回してくれ」


「どうするおつもりですか?」


 俺は自分の考えを伝える。

 黒竜の中でも、特に体の大きい個体をこちらに回してもらい、乗れるだけ乗せて斬り込むことにした。

 斬り込み隊長はゼロとツクヨとウォルド。

 遊撃がヴェルグとリア。

 婚約者とその他の余剰で乗れた者は、リーゼ指揮の元、後方援護と護衛。

 俺を主軸として戦場を蹂躙する。


 その隙に、ランシェス軍と神聖軍で反乱軍の後方を突く。

 獣人軍は竜王国に任せてしまう。

 皇国もここまで早い動きだと、こちらに来るのは無理だろう。

 ならばこちらも、電撃作戦で仕留めれば良い。


「もし、シアが精霊魔法の打ち上げを行ったら、黒竜を城に突撃させて、皇家の人間を救出だな。悪いが、兵達には頑張ってもらうしかない」


「穴だらけですな。ですが、戦場を搔き乱すだけならば、悪くはない」


「陛下から、現場の最終指揮官はクロノアス卿だと伺っています。その上で、意見具申宜しいですか?」


「お願いします」


「ランシェスに参加している黒竜の内、半数を直轄部隊へ回します。神聖国側には申し訳ないが、その際に腕が立つ者を複数人回して欲しい。勿論、ランシェスも回します。その上で、直轄部隊全てをクロノアス卿が立てた作戦には組み込めませんか?」


「可能です。ですが、直轄部隊の任務はあくまでも本陣の護衛ですよ? 特機戦力での蹂躙方法に変更はありません」


「それで構いません。私が考えたのは、守りが少ないと思ったからです。本陣に何かあれば、クロノアス卿は気が気でないでしょう?」


 最後の言葉に、反論できなくなってしまった。

 この人の言ってることは正しい。

 ミリア達に何かあれば、俺は自分を許せないし、世界を破壊しかねないと思う。

 そうなったら、ゼロとツクヨと神々が全力で止めに来るとは思うけど。


 断る理由はない。

 しかしこの案は、個人を優遇し過ぎだ。

 これでは不平不満が出てしまう。

 その考えを伝えると、笑われてしまった。

 解せぬ……。


「今更ですよ。ランシェスは数年前にクロノアス卿によって救われました」


「神聖国もですな。クロノアス卿が居なかったらと思うと……」


「なので、これは我々からの恩返しです。受け取って頂けますかな? 勿論、全ての兵に聞いてはおりませんが、半数以上はこの案を支持しております」


「神聖国は言わずもがな、ですな。神聖騎士様と神子様方をお守りする栄誉なれば、反対する者はおりませぬ」


「しかし……」


「気にする必要はありません。亜人側にも聞いてみては如何ですか? 恐らく、同じ答えですよ」


 そう言われたのならば聞いてみようと思う。

 そして聞いた結果は変わらなかった。


「我ら亜人の庇護を受けて下さった方です。この大恩は返し切れるものではありません。それに亜人は、恩には命を以て報う種族です。クロノアス様が望まれるのでしたら、我らに依存はありません。この命を以て、必ずや奥方様をお守りいたしますとも」


「と言う訳です。たまには自身を優先しても良いのでは?」


「俺は十分、自身を優先してるさ」


「そう言う事にしておきましょう。それで、どうされますかな?」


 ここまで言われたら、断るのは非礼だな。

 彼らの思い、素直に受け取ろう。


「貴殿らの申し出に感謝する。よろしく頼む」


「承知! 皆の者、使命を果たせ!」


「「「応!」」」


 こうして、俺の部隊は増員となった。

 このことをミリアに話すと……。


「皆、ラフィ様に感謝しているのですよ。それは、兵士だけでは無いですよ」


「そうなのか?」


「ええ。ウォルドさんやブラガスさん、ナリアさんを筆頭に大なり小なり感じていると思います。ただ、相容れない方がいるのもまた必然かと」


「ジルニオラとか?」


 とここで、ロギウス殿とシャルミナ皇女がやってきて答えた。


「兄貴はなぁ……。自分が一番じゃないと気が済まない人なんだよ」


「正直、私はジルニオラ兄様は好きでは無いです。女性はアクセサリーでは無いのですから」


「それを言われると、俺の立場が……」


「グラフィエル様は、女性の方が着いてくるだけだと思います。ただ、女難の相はありそうですが」


「否定できないな……」


 そんな雑談をしていると、準備が出来たとの報告が来た。

 さてと……いよいよだな。

 最終確認をするために、天幕へ行く。


「準備、整いました。竜王国側も万事抜かりなしとの事です」


「亜人暗部も人質の救出の成功したと、先程報告が」


「皇国軍は2日後に接敵との事です」


「了解した。ランシェスと神聖国はどの程度で?」


「半日以内には、後方を突きます。クロノアス卿が率いる部隊は、3時間後に出て頂ければ」


「帝都の様子は?」


「随時、包囲しているとの事です。皇帝は籠城を選んだようですな」


「信頼に応えるために、働きますか」


「はっはっは! クロノアス卿は、気負っておられませんな」


「慢心はしないが、何も無ければ此方の勝ちは揺るがないからな。不安要素はあるが」


「お聞きしても?」


「陛下に叱責される覚悟があるなら」


「では、止めておきましょう。……それでは、我が隊は出ます」


「我らも。皆に、神の加護があらんことを」


 そう言って、ランシェス軍と神聖国軍も出陣した。

 後、3時間か……。

 皆の様子を見て回るかな?


 天幕を出て、皆を探す。

 すると、ヴェルグを見つけた。

 声をかけて話をしようとして……。


 ザザッ


「え!?」


 俺の目に見えたのは、ヴェルグの消滅だった……。

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