第131話 直轄部隊

 会議が終わり、各国首脳陣を届け終わった後、今度は天竜達を送り届ける。

 リュミナだけが『私は主様とぉぉぉ!』と駄々をこねていたが、問答無用で送って行った。

 半分泣いていたので、こっちが悪者みたいな気分になる。

 なので、リュミナにはこう伝えておいた。


「この戦いが終わったら、白竜族の里に行きたいから案内宜しく!」と。


 この言葉だけで、リュミナは上機嫌になった。

 案内役がリュミナなので、二人旅だと考えているらしい。

 まぁ、その考えは間違いではない。

 問題はゲートを併用して行くので、時間は短いと言う事くらいだろう。


 ああ、それと、各国首脳陣にはスマホもどきを1台提供しようとした。

 そしたら、各国首脳陣に怒られた。

 いやね、陛下には1台分の代金は返そうとしたのよ。

 そしたら、怒られたのです。


「グラフィエル君。気持ちは嬉しいけど、それは悪手だからね」


 とはヴァルケノズさん。


「こういう物の代金は、しっかりと請求するものだぞ」


 とはオーディール王。


「お主はこういう所で抜けているな。もっと精進しろ」


 とはフェリック皇王。


「美徳なのはわかりますが、流石に……」


 とはレラフォード代表。

 そして最後に……。


「この、ばかもんがぁぁぁ! そう言う事は事前に相談せい! 全く、王家が立て替えるに決まっておろうが! お主の優しさは、時に王家を不快にさせると知れ」


 我が陛下からの雷である。

 何と言うか、初めて怒られた気がする。

 たださぁ、元辺境伯家の三男坊が、そんな教養を受けているはずがないんですよ。

 何も無ければ、平民落ち確定だったんだから。


 勿論、思っているだけで口には出さない。

 出したらもっと怒られるから。

 当然、後から父にも怒られました。

 この戦争が終わったら、再教育するとか言われました。

 え?勿論逃亡するよ。

 だって俺はもう、別家の当主ですから。

 父であろうと、成人した俺に再教育を強制など、他貴族への恥なのである。

 いや、父の場合はマジでやりかねんが……。


 そして翌日、早速スマホもどきの音が鳴る。

 着信は、勿論陛下から。


「起きておるな? 今直ぐ、城へ来るように。門兵には話を通して……いや、なんならゲートで会議室に来ても良い」


「え? 直接ですか? それは良くないのでは?」


「急ぎだ。ちょっとの些事位、この際どうでも良いわ」


 と言う訳で、朝食も取らずに城の会議室に直行となった。

 朝飯位、食わせて欲しかった……。

 そんな願いが通じたのだろうか?

 会議室には、軽い朝食が用意されていた。

 神様、願いを叶えてくれてありがとう!

 ……あ、神様って俺だったわ。


「何を一人で百面相しておる。早う座れ」


「失礼します」


 陛下と二人、会議室で向かい合っての食事。

 気まず!


「それで、どの程度終わった?」


「3分の1ですね。各国はどのような感じでしょうか?」


 ん?何の話かって?

 各国の軍事行動予定と俺の直轄部隊の進捗状況だ。

 昨日は送り届けてから、夜遅くまで城に軟禁されていたのだ。

 ……はい、嘘です。

 いや、半分は本当なんだけど、ちゃんと休憩はあったし、仕事さえしていれば、部屋から出るのも許可はされていたんだよねぇ。


 で、昨日、何故か婚約者達の参加が決まった。

 しかも、ほぼ強制である。

 断固として反対したんだけど、最後は折れざるを得なかった。

 各国の体面とかもあるらしく、どうにもできんらしい。


 なので、色々と条件は付けた。

 こちらも折れるのだから、それくらいは認めて貰わないと。

 結果、こちらの要望はほぼ通った。

 ほぼと言うのは、どうしても出来ない部分もあったからだ。

 それをすると、色々と支障が出るらしい。

 なので、その部分はこちらが折れた。


 で、昨日、シアの参戦も決まった。

 ドバイクス侯爵が自慢半分、怒り半分で来たのだ。

 そして、かなりの無理難題を押し付けられた。

 近衛の一人が、シアの試験の相手だったらしい。

 そしてシアは、見事に完勝したそうだ。


 ただ、ドバイクス侯爵としてはどうしても心配らしい。

 なので護衛を付けようとしたが、シアの実力に見合う人間がいなかった。

 そして決まったのが、試験の近衛が護衛に入るから、俺から陛下に奏上しろって話。

 はっきり言おう……奏上した後の陛下の顔は、そらもう恐ろしかったさ!

 マジで割に合わん!

 だが、俺の要望はどうにか通った。


 理由としては、本人が望んだ、実力は折り紙付き、人に教えるのが上手い、一人くらいならまぁ、等々。

 ギリギリのラインであった模様。

 ただ、釘は刺された。


『これ以上は無理だからな! 本当に! 無理だからな!!』


 かなり厳しく言われてしまった。

 後で城の人に聞いたら、陛下は頭を抱えていたらしい。

 陛下、マジすんません。

 ですが、文句はドバイクス侯爵に言って下さい。

 彼が今回の元凶です。


 後、ツクヨとリーゼの間で一悶着あった。

 俺は全てを聞いたわけでは無いが、どんな感じか様子を見に行ったら、激しくは無かったが剣呑とした感じであった。

 気配を消し、行く末を見守っていたのだったが、ツクヨが俺の存在をバラした。


 その時のリーゼの顔は、しまった!という顔だった。

 同時に、自分の心の内を聞かれて青褪めてもいた。

 だから俺は、リーゼの想いを肯定した。

 普段から凛々しく、自信たっぷりな彼女の弱い部分。

 俺は初めて、彼女の気持ちを知った。

 だからだろうか……俺はリーゼを本能のままに抱きしめていた。

 このままでは壊れてしまいそうな彼女リーゼを。


 そして、リーゼの話を聞いた俺は、この騒動が終わったら、きちんと話をしようと思った。

 多分皆、心の内では何かを抱えていると思ったから。

 俺は婚約者として、何をしているんだろうな。

 婚約者失格だと思う。


 それと皇女殿下だが、何故かトリップしていた。

 あの皇女、意外にポンコツな所もあるらしい。

 何か『尊い…』とか言ってたし。

 皇女と言うより、メイドに近い発言の様な気もするが、まぁそれはこの際置いておこう。


 で、現在。

 直轄部隊の進捗状況の報告と言う訳だ。

 部隊の内訳は……。

 俺、婚約者達、ヴェルグ、ゼロ、ツクヨ、ファリジア、ナイーファ、シャスト、亜人数名と皇女殿下とロギウス第三皇子。

 それに加え、我が家の家臣で戦闘と護衛に適した者達。

 クランに依頼を出して、腕利き数名にナリア。

 それと、各国の軍から数十名の引き抜き。

 以上が直轄部隊となる。

 別名、超少数精鋭戦力。

 部隊総数は250名弱。


 借り受ける戦力も個々の能力が高い者が多い。

 但し、各国の軍が戦力低下にならないように配慮してだが。

 ああ、それと各国の近衛も一名参加する。

 その近衛が各国から借り受けた部隊の指揮官となる。

 その頂点がリーゼになるわけだ。


 因みに、何故、各国の近衛が一名参加することになったのか?

 それは、ランシェスから偶然とはいえ、一名参加することになったからである。

 それならば各国とも出そうと言う話になったらしい。

【災い転じて福となす】とは、正しくこの事を言うのであろうか?


 尚、神聖国と竜王国では、急遽選抜戦が行われたらしい。

 陛下の話を元に組み立てると……。


『神聖騎士様が、我らを欲しているだと!? ならば私が参加する!』


『貴様では話にならん! 私が!』


『いや、私こそが!』


 と荒れに荒れたらしい。

 竜王国でも同じで、神聖騎士が神竜騎士に変わるだけの話。

 で、選抜戦が行われ、優勝者がこっちに来るらしい。

 既に準備は整いつつあると、連絡も来ているとの事だ。

 フェリックはそこまで酷くはないらしいが、熱烈なファンはいた模様で、その近衛や軍の人達で選抜戦があったとも言われた。


 神樹国は流石に軍を用意できないらしい。

 代わりに後方支援と補給路の確保。

 それと直轄部隊に数名連絡要員を送ると言われた。

 神樹国も条約破棄は流石に見過ごせない様で、積極的に動いている。

 元皇太子ジルニオラが、世界の半分を敵に回した瞬間だった。


 そして、直轄部隊が3分の1しか準備できていない理由を、今から陛下に説明しなければならない。

 ぶっちゃけ、気が重い話だ。


「準備に、後どれだけかかる?」


「数日中には。早ければ2日後でしょうか」


「遅い。せめて今日中には、どうにかならんのか?」


「無茶を言わないでください。王国軍と直轄部隊は食料や備品の調達方法が違うのですから」


 そう、問題は物資の調達方法にあった。

 直轄部隊の戦費は、最終的に帝国が支払う事で合意しているが、それまでは俺の持ち出しだったりする。

 だから超少数精鋭部隊なのだ。

 大部隊を養える金は無くはないが、あっという間に底をつくのは目に見えている。

 戦争とは金が掛かるのだ。


 そして、調達方法も自分達でやらなければいけない。

 完全独立部隊なので、参加出来る者は名誉ではある。

 更に言えばこの部隊は、一番危険な場所には行くが、一番安全な部隊とも言われている。

 特機戦力が集う最強部隊なのだが、弱点はある。

 それが物資の調達であった。


 国に属さない、けれど国同士の柵が満載の部隊。

 そんな部隊だからこそ、独自で確保しないといけない。

 スペランザ商会とシャミット商会を中心として物資を集めているのだが、予定数には届いていない。


 これが3分の1の理由の一つ。

 で、もう一つの理由だが……。


「情報が錯綜しすぎです。これだと、狙い通りにいかない可能性が」


「精査はしておる。しかし、反乱軍は何を考えておる?」


 挙兵した反乱軍の位置が不鮮明になって来たのだ。

 報告があってから、僅か1日で詳細不明など、意味が分からん。

 隠れる理由も不明だし、では転移したのか?と言われれたら、俺以外にそんな転移魔法の使い手がいるのか?という話になる。


 こうなると、完全に後手に回るしかない。

 あくまでも最短で速やかに事態を収めるのが最良なのだから。

 こうなると、最良は難しいかもしれない。


 俺達の目標は3つ。

 一つ目は、元皇太子ジルニオラの捕縛と反乱軍の討伐及び捕縛。

 二つ目は、スタンピードの殲滅。

 そして、3つ目が一番大変な作業で、一番危険な仕事。

 神喰の捕縛及び消滅。


 その為に必要な事は、ジルニオラの居場所を確実に捕捉する事。

 逃がして、また同じことをされたら敵わんからな。

 確実に今回で潰す。

 次は恩情をかけない。

 皇帝にも、前にそう言ってある。

 とは言え、帝国をかき乱した罪がある。

 最良なのは捕縛した後、処刑をさせる事だな。

 あ、当然だが、処刑なんざ見たくない。

 もしかしたら、捕縛せずに殺っちゃうかもしれん。

 状況次第だな。


 その後も陛下と話を続ける。

 とは言え、報告は終わったので、ただの雑談だ。

 今回陛下は、自国の貴族ではなく、同盟盟主として扱うらしい。

 なので今の俺は盟主としての発言が必要っぽい。


 自国の王で、将来の義父で、今は盟主と王の立場。

 ややこしいし、めんどくせぇ。

 なので、いつも通りにする。

 陛下もその考えに乗ってくれたようだ。


「それで陛下、姉上はお元気ですか?」


「元気だな。今日も朝からイチャコラしておったわ」


「フェルたちの結婚は、夏でしたっけ?」


「流石にずれ込みそうだな。だが、年内には行おうと思う。収穫祭の時に同時でも良いかもな」


「確かに。祝い事は重なると楽しさも倍ですからね」


「一応、問題はあるのだがな」


「そうなんですか?」


「貴族は何かとパーティーを催す…と言えばわかるか?」


「そっちの面倒事ですか。確かに問題ですね」


「なので、出来れば収穫祭前にやりたいの」


「頑張って早く終わらせます。俺もちょっとは休みたいので」


「婚約者達とイチャコラか? 若いな」


「そう言う陛下も、リアフェル様と仲が良いではないですか。何でも、フェルとリリィの兄弟が出来そうだとか?」


「何処で聞いた?」


「秘密です。但し、城の人間では無いです。勿論、平民でも貴族でもない…と言えば、察して頂けますか?」


「地獄耳め。まぁ良い。で、一つ聞かせろ」


 おや?陛下の言い方が変わったぞ。

 ここから先は、オフレコ&本音&口調も気にするなと言う事か。


「なんですか?」


「今はタメ口で良い。でだ、あの女は本当に何者だ?」


「ツクヨの事ですか?」


「そうだ。本当にゼロの嫁なのか?」


「疑っていたとは…」


「お前は時に、盛大な嘘を吐く。それも真実の中に僅かな嘘をな。俺が知らんと思ったか?」


「バレてましたか。じゃ、はっきり言いますけど、この話、マジでヤバいですよ? メナト事件並にヤバいですけど、本当に聞きます?」


「…………そんなにヤバいのか?」


「ガチでヤバいです。俺ですら、墓まで持っていく秘密です」


「そこまでか……よし、聞こう!」


「うぉい!?」


「安心するがいい。誓約でもなんでも飲んでやる。防音魔法もすれば良い。それよりも詳細の方が気になるからな」


「【好奇心は猫をも殺す】ですよ?」


「俺もリアフェルと同じでな。事、神秘や伝承には弱いのさ。だから……早よ言え!」


 ニヤリと笑った後、急かす陛下。

 ん?なんでこんなに気さくなのかって?

 実はですね、陛下がお忍びで我が家まで来て、飲み明かしたことがあるのです。

 それも未成年の時にな!

 その時に口が滑って、つい世界の秘密と言うか、世界の七不思議の一つの答えを喋ってしまったのです。

 以来、陛下とはこのような仲になりました。

 因みに喋った秘密の内容は、魔石について。


 魔石は魔物の体内から取れる。

 だが実は、とある場所からも極小確率で発見されるのだが、どこで、どれくらいの魔石が発見されるのか、つい言っちゃったのだ。

 その答えは、今は置いておく。

 ゼロに聞かれたら、間違いなく怒られるからな。

 あいつ、たまーに俺の表層心理を読むし……。

 油断も隙もあったもんじゃない。

 因みに、結界を張れば防げる。

 なので、陛下との内緒話には、必ず結界を張っている。


「はぁ…わかりましたよ。結界構築。これ、マジでヤバいので、ゼロにも知られないでくださいね」


「そこまでか。で、あの女の秘密とは?」


「まず、ゼロの嫁と言うのは事実です。しかし、肉体が古代文明期から持つはずがないでしょう?」


「では何か? あの女は人間ではないと?」


「人間ですよ。魂も肉体も。魂はゼロが保護して、自身の内に封印していたんですよ。で、肉体は俺が用意しました」


「おまっ! ……本当にヤバい話じゃないか!」


「だから言ったでしょう! この話はヤバいって!」


「当然だが、それだけではないんだろうが!」


「そうですよ! 俺がゼロの後を継いで、二人は俺の使徒化してますよ! で、ゼロにも知られていませんが、彼女の精神年齢が生前よりも若返っているんですよ! 副作用か何か知りませんけど、ゼロに知られたら、マジでヤバいんですって!」


「マジでアカン話だったのか……」


「だから言ったのに……」


「俺は何も聞かなかった。そう言う事にする」


「そうしてください。俺の平穏の為にも」


 こうしてここに、奇妙な協定が生まれた。

 そしてこの協定は、お互いが死ぬまで守られるのだが、どうでも良い話である。


 寧ろそれよりも、何故陛下とこんな形になったのか?

 そちらの方が謎だ。

 グラフィエルの中では、世界最大の謎として、死ぬまで解明できないのであるが、それもまた、どうでも良い話である。














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 ラフィ・陛下『どうしてこうなった!?』

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