幕間 新しい嫁候補?と婚約者達

 会議が終わり、皆がそれぞれ慌ただしく動きます。

 ラフィ様も会議終了後、各国首脳陣を送りに行かれました。

 そういえば、ラフィ様が少し嫌な顔をされてました。


『いや、天竜達も一緒に送れば、二度手間にならないじゃないですか』


 この言葉を言った後、即座に却下されていたのです。

 何でも、事は急がねばならないから、効率よりも早さが大事と言われていました。

 その時に嫌な顔をされたんですよね。

 ラフィ様は、変な所で面倒くさがりですから。

 これは婚約者達の総意だったりします。


 そして今、私達は別室にて女子会を開催していたりします。

 この忙しい時に何故?と言われましても、各国首脳陣から言われたのです。


『女性陣にはお話があるので、こちらで待機していて下さい』と。


 ただ待つのも勿体ないので、女子会を開きました。

 議題ですか?勿論、新しい女性達についてです。

 皇女殿下様は、先に少しお話しましたけど。

 進行は勿論、私ミリアが主導です。


「では、何からお話しするべきでしょうか?」


「ミリアンヌ様? その、良いのでしょうか?」


「時間は友好的に使わないといけませんから。それとも、こういったのはお嫌いですか? ファリジア様」


「なんじゃ? リジアは女子会なる物に興味を持っていたではないか」


「あれ? ナイーファさんの喋り方が……」


「お主はリアーヌじゃったか? 先程までのは猫を被っておっただけじゃよ」


「狐が猫被り……トンチか!」


「ヴェルグじゃったか? お主は、変な気配がするのぅ」


「そこは触れるな。のじゃロリババァ」


「口の利き方がなっとらん娘だの。まぁ、年上なのは否定せんが、ババァは酷いじゃろ」


「まぁまぁ、ヴェルグさん。人には触れて欲しくない事もありますし、そこまでにしましょうね」


「リーゼがそう言うなら……」


「あの皇王を父に持つ娘かえ。主は中々に切れ者の様じゃの」


「お褒めに預かり光栄ですわ」


「嫌味を軽く流す…か。流石と言うべきかの」


 ナイーファ様の言葉が止まりません。

 恐らくですが、打ち解けようとしてはいるのでしょうが、言葉のせいかあまり上手く行ってないような気がします。


「そして主が正妻じゃの? よろしく頼むでな」


「ミリアンヌです。ミリアとお呼びください、ナイーファ様」


「様など要らぬよ。我の事は、イーファで良いぞ」


「ではイーファさんとお呼びしますね」


「呼び捨てで良いのじゃが……。してミリアは、何故我の尾を気にしておる?」


「その……フワッとした尻尾を触りたいな…と」


「ほうほう。我の尾に触れたいと申すか? 軽くならば良いぞ」


「! それでは失礼します!」


 イーファさんからのお許しが出たので、軽く撫でます。

 ……フワッフワです!気持ち良いです!至福です!

 もふもふ、もふもふ……ああ、幸せです。

 …………ハッ!あまりのモフモフに溺れるところでした。

 皆さんからの温かい目が刺さります。

 うう、恥ずかしいです………。


「撫でるのが上手いのぅ。我も気持ちよかったぞ。ミリアは撫で慣れているのだな」


「ラフィ様の屋敷には、彼女らがいますので。良く撫でています」


「彼女らとは?」


「えーと、ラフィ様が居れば、直ぐに呼べるのですが……」


 その言葉の後、床に魔法陣が現れます。

 そして出て来たのは、四神獣彼女ら

 ラフィ様に無断でこのような事をして……。

 後で怒られるのではないでしょうか?

 とここで、イーファさんの目が見開かれました。


「なんと……。神狐様がおるとは……」


「神狐のタマモです。え~と、妖狐さん?」


「人語も理解するのか。何とも成長が早いのぅ。我が人語を理解したのは、産まれてから50年以上後だと言うのに」


「ご主人様が、早く覚えた方が良いって言ったから」


 同種族なのでしょうか?

 少し気になります。

 聞いても良いのでしょうか?

 ですが、私の考えよりも早く、リーゼさんが動きました。


「タマモちゃん、イーファさんは同族なのかしら?」


「う~ん、どうなんだろう?」


「神狐様は我らの上位種じゃよ。正確に言えば、神狐様が下界で子を成した子孫が我らじゃな。その本質は変化しておるので、近隣種の方が近いかものぅ」


「従妹みたいなものですか?」


「似て非なるな。遠い血縁者辺りが無難かの」


 リーゼさん、グッジョブです!

 その後、そっとタマモちゃんを抱きあげます。

 タマモちゃんも抵抗することなく、私の膝の上で寛ぎ始めました。

 ルリちゃんは、ナユさんの元へ行きましたね。

 ハクちゃんは、リリィとティアの方へ。

 フェニクちゃんは、リーゼさんの方に行きました。

 あ、リアさんがフェニクちゃんを餌付けしようとしてます。


「何とも豪勢だのぅ。これもクロノアス殿が?」


「ええ。正確には少し違いますが、ほぼ合っています」


「あの者は何者なのじゃ? 大精霊様を従え、神獣様を従える。普通ではないのであろう?」


「ラフィ様ご本人に、お聞きください」


 私は明確な答えを避けました。

 今の質問は、簡単に答えて良いものではありませんから。

 そして会話が途切れます。

 少しの沈黙の後、シャルミナ皇女殿下様が口を開きました。


「先程の話ですが……」


「はい。何かご質問ですか?」


「クロノアス様はどの様な方なのか、もう少し聞きたいのです」


「ラフィ様はですね……」


 そして始まったのはラフィ様のお話ですが、何と言うか取り扱い説明みたいになってしまいました。

 私もまだまだ、だと思います。

 そんな中、少しだけリアさんとナユさんが暴走しました。

 普段は平静を保っている二人ですが、女子会の時は普段抑えてる反動なのか暴走しがちです。

 皆ラフィ様が大好きですが、事二人至っては天元突破しているのでは?と思います。

 私も、二人の気持ちに負けてはいません。

 ですが、正妻候補たる者、皆を取り纏めねばなりません。

 少しだけ、二人が羨ましくはあります。


「今の話を聞いた限りじゃと、全員が政略結婚は反対では無い印象に聞こえるのですが」


 リジアさんが話を聞いて、疑問を投げかけました。

 そうですね……ここはきちんとお答えしないといけません。


「私達は、政略結婚を否定はしませんよ。勿論、ラフィ様が嫌がらなければ、と言う条件は付きますが」


「私の時は微妙でしたわよね?」


「リーゼさんの場合は…仕方ない部分はありましたが、リーゼさん自身が望んでましたし、ラフィ様もそこまで…と言うのはあったので」


「どういうことかの?」


 リーゼさんが婚約者になった時の話をします。

 3人とも、真面目に話を聞きます。

 話が終わった後、イーファさんが爆弾を落としました。

 この部屋に入る直前の人物に聞こえる様に。


「この国の王妃は、頭が可笑しいのではないのか? いや、別にリーゼ殿を否定しているわけでは無いのじゃ。ただのぅ…結果は最良ではあるじゃろうが、過大評価をし過ぎでは無いのでは? と思うての」


「そうでしょうか? 私はまだ、過小評価していると思いますわよ」


「ボクも同じ意見だね。ラフィの器は大き過ぎるから」


「お主等も過大評価しすぎでは?」


 イーファさんの評価判定が止まりません。

 そして、更に爆弾を落とします。


「と言うかの、貴族は王家の所有物ではないのだぞ。賭けで決めるなど、人の親とは思えんな。お主等もそのような事はせぬだろう?」


「イーファさんの言う事はごもっともですが、私はそのおかげでラフィ様の婚約者になれたのです。正直、頭の固い父では、他国の貴族に自国の王女を降嫁などさせなかったでしょう。ですから私は、リアフェル王妃様には感謝していますわ」


「感謝と手段は別物じゃと思うがのぅ。まぁ、我が過小評価しているだけ…と言う事もあるか」


 とここで、扉が開かれます。

 ええ、大ボスのご登場です。

 先程から、扉の外で立ち聞きされていましたから。

 その人物の登場に、流石のイーファさんも度肝を抜かれたようです。


「初めまして。頭の可笑しいこの国の正妃です」


「いや、その、なんじゃ、ナイーファじゃ」


「ふぁ、ファリジアと申します!」


「お初にお目に掛かります。ガズディア帝国の皇女が一人、シャルミナ・ザズ・フィン・ガズディアと申します。お目にかかれて光栄です」


 イーファさん、とても慌てていますね。

 ファリジアさんも、イーファさんの言葉を聞かれていたのを察し、しどろもどろです。

 対するシャルミナ皇女殿下様ですが、先程までとは違い、堂々と挨拶をしてらっしゃいます。

 彼女の中で何か変化があったのでしょう。

 前向きな姿勢は素晴らしいですね。


「私も混ぜて頂いても?」


「いや……「どうぞ、こちらの席に」」


 イーファさんが何か言うよりも早く、私が席をご用意して案内します。

 これも私の務めです。

 ラフィ様の婚約者として、未来の妻として、恥ずかしい事は出来ません。

 私以外の婚約者の皆さんも理解しているので、各々に王妃様に対して準備をしております。


「流石ミリアさんですね。皆の教育が行き届いています」


「お褒めに預かり、光栄です」


「ですが、今日はお話があるので楽になさい。私専属の侍女も連れてきました。彼女らの事は気にせず、話をしましょう」


「ありがとうございます。皆さん、席に着きましょう」


 私の言葉で、皆さんが順番に席につきます。

 ラフィ様はこう言ったことは嫌がるので、ラフィ様の前では絶対にしないのですが、今回は少々事情があるようなので、敢えて公式的な形にしました。

 ナユさんが侍女の方々に引継ぎをして、最後に座り、王妃様のお話が始まります。


「では……頭の可笑しい王妃が、この先の話を始めましょうか」


 リアフェル王妃様、結構根に持つタイプなのですね。

 これは迂闊なことを言えません。

 そんな中、イーファさんはまいっているご様子。


「その、すまんのじゃ。我は思った事は言う性質での。他意はないのじゃ」


「そうですか。ではこれからも、頭の可笑しい王妃でいましょうか」


「すまんのじゃ~。あまり虐めないで欲しいのじゃ~」


 イーファさんが完全敗北しました。

 妖狐として長い年月を生きて来たイーファさんを降す王妃様。

 確かに、イーファさんの言う通り、頭が可笑しいとは思います。

 絶対に言えませんが。

 ああ、でも、ラフィ様に害を及ぼすなら言うかもしれませんね。


「虐めるのはこれくらいにして、本題に入りましょうか」


「やっぱり虐めてたんだ」


「ここはランシェスです。自国の王妃が舐められたのでは、面目が保てません。あなたもお気を付けなさい、ヴェルグさん」


「ご忠告、痛みいるよ」


「あなたの態度一つで、クロノアス卿の評価に影響が出ると理解しているなら、何も言いませんよ」


「……わかりました。ご忠告、承りました」


 あのヴェルグさんが負けました。

 やはり王妃様は、ちょっと可笑しいと思います。

 言ってることは、王侯貴族としては間違ってはいないのですが。

 ヴェルグさんって、一応神様なんですけどね。


「さて、お話ですが、今回の出兵に伴う話です」


「どのようなお話になったのですか?」


 代表して、私が聞きます。

 こう言ったところも、礼儀とか言われるので気が抜けません。


「婚約者全員も出る運びとなりました。但し、安全を考慮してクロノアス卿と同じ部隊への配属となりますが」


「承りました。しかし、理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」


「簡単な話ですよ。今回は同盟国全てが軍を動かします。自国の軍と行動を共にはしませんが、あなた方は旗頭の意味合いも含んでいるのです」


「私は仕方ないと思いますが、リリィさん、ラナさん、リーゼさんには、ご兄弟である兄がいるのでは?」


「彼らは、軍の最高責任者として出るそうです。そして各国とも、旗頭は同盟盟主の婚約者にするそうです」


「リアフェル王妃は宜しいのですか?」


 ラフィ様はランシェスの貴族です。

 そのラフィ様の婚約者たる私達が旗頭では、ランシェスが中心と世間に公表しているのでは?と遠回しに聞きます。

 リアフェル王妃程の方が分からないはずが無いので、答えて下さるはず。

 その私の考えは間違って今いませんでした。


「各国と言いましたよ。当然ですが、ランシェスもその中に含まれます。今回の戦は、同盟盟主が同盟国の申し出に応じた、と言う話にしたいのですよ。それで、リーゼさんは何を考えていらっしゃるのかしら?」


「申し訳ありません。父が良く承諾したと思いましたが、良く考えれば当然だと思いまして」


「では、答えを聞きましょうか?」


「ラフィ様の固有戦力、天竜とその眷属竜達が参戦するからだと、答えを出しました。盟主が同盟国に戦力提供する以上、盟主の手柄にした方が、後々の問題が楽だと考えたのだと推測したのですが、どうでしょうか?」


「流石はリーゼさん。優秀ですね。そんなあなたに、同盟盟主からの命を伝えます。ルテリーゼ・モンテロ・フィン・フェリックは盟主直轄部隊の総指揮官に任命する! との事ですよ」


「本当に、ラフィ様がその命令を?」


「苦肉の策でしょうね。あなた方を戦場に出すのを最後まで反対してましたが、各国の体裁の為に渋々了承せざるを得なかったのですよ。代わりに、直轄部隊の編成はクロノアス卿に一任。ランシェスは黒竜族を部隊に加えない。各国はクロノアス卿の欲しい人材を部隊に提供する。と言う形で合意したのですよ。ああ、流石に大隊長クラスの武官はご遠慮願いました。」


「大盤振る舞いですわね。宜しいのですか?」


「代わりに、固有戦力の提供ですからね。それくらい飲まねば、不公平過ぎます。本当に、あなた方は愛されていますね。……過保護とも言いますが」


 リアフェル王妃が溜息を吐きました。

 通りでラフィ様が中々いらっしゃらないわけです。

 ですが、私達は本当に愛されていると思います。

 だからこそ、情けなくも思います。

 また、守られるのかと……。

 その思いを知ってか知らずか、リアフェル王妃は話を続けます。


「クロノアス卿から、ある程度の配置を聞いてきました。リーゼさんは先程言った通りに。後方支援部隊にはナユさん、ミリアさん、我が娘、になります。本陣に近い場所ですね。続いて、ティア嬢は遊撃部隊に編成されます。前衛はヴェルグさん、リアさん、ラナさんの3名です。そこに、クロノアス卿の家臣が含まれます」


「あの、シアは?」


「シア嬢は留守番です。流石に年齢上、参加させるわけには行きません。これはドバイクス卿と話しをして決めました」


「ラフィ様は、なんと仰っていたのですか?」


「……本人の判断に任せるそうですが、参戦しても後方に配置するとの事です。リーゼさんは戦闘能力がありませんので、ミリアさんと、参戦したならばシア嬢がリーゼさんの近衛になります」


「でしたらシアは、参加したいです!」


「そう言うと思って、別室にドバイクス卿を待機させてあります。これは秘密ですよ? クロノアス卿はご両親を説得できたのなら、シアの自主性を認めると言っていました」


 リアフェル王妃の話は、一言で言うと意外でした。

 いえ、ラフィ様の判断が意外と言うべきでしょうか?

 私だけではなく、全員がその様な顔をしています。

 そして、前衛に婚約者であるリアさんとラナさんを布陣したのも、意外と言えば意外でした。

 ですが、ラフィ様は何故認めたのでしょうか?

 その答えは、リアフェル王妃が話してくれました。


「各国の王達がね、こう言ったのですよ。『もっと婚約者達を信じてやれ』と。『彼女らも、ただ守られる存在ではない』とも言っていましたね。クロノアス卿もその言葉に思う所があったらしく、受け入れました。私としては断固反対すると思っていたのですがね」


「ラフィ様……」


「そのようなわけで、私からあなた達に言う事は一つだけです。五体満足に生きて帰って来なさい。良いですか? あなた達は、私の義娘むすめにもなるのですよ? 死ぬことは義母ははである私が許しません」


「わかりました。それで、お三方はどうされるのですか?」


「こちらの大義名分は、帝国皇女が救援要請を求めて来た事にあります。当然ですが、皇女殿下殿には本陣に参加して頂かないと話になりません。それも、盟主側の本陣にですね。残りのお二方も同様です」


「亜人庇護の為に、ですか?」


「ええ。ですが、どちらか一人だけでも構いません。その辺りはそちらで決めて下さい」


 そう言ってから、リアフェル王妃は部屋を後にしました。

 皆の方を見ます。

 全員がやる気に満ちていました。

 ですがこれは危険な兆候だと、私は判断しました。

 ですから、皆に注意をします。


「皆さん。私達の最大の目標は、五体満足で生きて帰る事です。死ぬことは許されません。そこを間違えない様に。ラフィ様を悲しませることは許しません」


 私の言葉に頷き、気を引き締め直します。

 そんな中、イーファさんが一言。


「我もリーゼ殿の護衛に着くかの。それと、亜人の一部を直轄部隊に編入させよう。シャスト、あ奴らに連絡せい。我らは悲願を果たす…とな」


「わかりました」


 こうして、女子会は終わりました。

 途中からは女子会ではなくなりましたが。

 そして、肝心な話が出来てませんが、今回の戦いが終わってから、皆でまた話そうと思います。

 誰一人、かけることなく……。

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