第122話 原初でも、嫁には勝てない

ツクヨ=カシマの救済

本来なら有り得ない確率での救済

それは、リエルとゼロの手によって、無事になされた

…ゼロの尊厳を犠牲にしてだが


尚、リエルに聞いた話だと、呪いは強力だが、ゼロでも解除可能だと言う

では何故、出来なかったのだろうか?

その答えもリエルは持ち合わせていた


『大方、ブチ切れて、思考が回らなかったのでしょう。ホントにクソ虫ですね!』


『うるせぇ!そもそも、演算と処理はどうすんだよ!?』


『はぁ、これだから劣化原初は……良いですか?1割の力が残っていたのなら、0.1を残してメインに廻し、残りを元に演算と処理をするスキルを作れば良かったのですよ。原初の力が0.5あれば、RE・コードを動かせたはずです。時間が経てば経つほど、演算量は多くなるのですから、直ぐに取り掛かれば出来たはずです』


『ぐっ……』


『そもそも、それだけ愛しているのなら、世界を破壊する前にやれば良かったんですよ。そんなことも思いつかないから、クソ虫なんですよ!』


『クッソォ!何も言い返せねぇ!んで過去の俺、何でそれに気付かねぇんだぁぁぁ!!』


ゼロの魂の叫びが木霊した

リエルがゼロに辛辣なのは、こう言った理由もあった訳か

リエルの中でのゼロは、使えない原初に分類されたのね


その後も言い合いが続いていた

現在は、ツクヨ=カシマの覚醒待ちだったりする

何時目覚めるか分からないので、この間に色々と聞いておく


『ゼロ、ちょっと良いか?』


『ああん!?』


『俺にキレんなよ。リエルも少し黙ろうか』


『了解です。マスター!』


『犬かよ…』


『何か言いましたか?ゴミ虫原初』


『ああ!?』


『やんのか、ゴルァ!』


『てめぇら、いい加減にしろ!!』


遂にキレる俺

リエルはスッと引っ込み、逃走

ゼロは逃げられない…が、用事があるので仕方ないと諦めに入る


『話を戻すぞ。幼少期の事から聞くから、全部答えろよ?』


『わかる範囲ならな。俺だって知らねぇ事もある』


『わかった。第一にだが、何で幼少期の俺は、キレやすくなってたんだ?』


『そんなもん、肉体年齢に精神が引っ張られるからだろ。いくら魂の力が強くても、現世で生きるなら、肉体の干渉は避けて通れねぇしな。後は、そうだな…恐らくだが、原初の使徒になったせいで、若干俺色に浸食されてた可能性もあるか』


つまり、半分はゼロのせい…と

貴族共に、ちょいちょい裏で言われてた、人格破綻者って言葉はゼロのせいだと

これは、OSIOKI確定案件だな


『あばばばばば!』


『良し!次に行くぞ』


『ちょっと待てや、ゴルァ!なんで神雷しやがる!』


『俺の幼少期に起きた事への仕返し』


『俺か!?俺のせいなのか!?』


『半分はゼロのせいだな』


『うぐぐぐ…』


『さぁて、次な。俺の精神年齢って、今なら35だよな?となると、幼少期なら20代後半から30代前半の筈だが、なんで考える事が出来なかったんだ?』


『理由はさっきと同じだが、もう一つ付け加えるとするなら、この世界での経験値が少ないからだな。現にお前、今でも貴族って面倒だと思っているだろ?』


『思ってるな』


『だが、躱し方が幼少期よりも上手くなってないか?』


『言われてみれば、確かに』


『そう言う事だ。他に聞きたことはあるか?無ければ、俺からも話しておくことがある』



その後、聞きたい事を全て聞いて行く

何故、ミリアが嫁だったのか?


この答えは、ミリアのスキルに起因するらしい

そのスキルが気に入らない者もいるとの事

過去には、暗殺などもあったそうで、俺に保険をかけたそうだ

神聖騎士については良くわからんらしい



次に新竜騎士と腐竜、そして竜達について


新竜騎士は、初代竜王国国王に力を貸していたゼロが受け取った物らしい

だが、一部歴史が変わってると言う

その部分についてゼロは『俺は一人旅に戻っただけだ。当時の女なんざ知らん』との事だ


腐竜については『俺の力の残滓だな。そこまで強力じゃなかったから放置した』との事

この答えに対する回答は『あばばばばば』で返答しておく

当然文句を言われるが、そのせいで苦労したので文句を言われる筋合いは無いと断言した


そして、竜達の話だが


『天竜ねぇ…俺は知らねぇなぁ。大方、ジェネスが何か仕込んだんじゃねぇのか?それと、竜王帝だっけか?そっちには心当たりがある。と言うか、それって暴竜じゃねぇの?』


『暴竜?初めて聞くな』


『暴竜ってのは、元は神竜だ。確か、龍神とマジ喧嘩して、負けて、地上で国を築いたんじゃなかったっけか?』


『いや、疑問を疑問で返されても知らんがな。で、そいつはどうなったんだ?』


『俺に喧嘩売って来たから、ボコって泣かしたぞ。その後は…ああ、そうだ!その後、精霊共に喧嘩売って、八つ裂きにされたんだった。時の精霊の方が詳しいぜ』


つまり、俺は暴竜と同じだと?

……精霊達に八つ裂きにされないだろうな?

そう言えば、これも聞きたかったな


『精霊王ってわかるか?』


『あん?なんでその名前が出てくる』


『任命されてしまったので』


『マジで?あの頭が凝り固まってる精霊共が?誰に言われた?』


『時の大精霊。確か、精霊王の代行者とも言ってたかな?』


『精霊共の中でも、一番融通の利かねぇ奴じゃねぇか。一体何を考えているのか、全くわかんねぇな』


ふむ…そうなると、もう一度会いに行く必要性があるか?

ゼロの話だと、食わせ者な一面もあるみたいだし

あ!そう言えば、あれも聞いておかないと!


『転生する前に、神喰を倒した…正確には、楔を解き放ったんだが、その時に妙な事が起きたんだ』


『言ってみな』


『11の光が俺に礼を言ってきたんだ。後は、残った力を渡すとか、伝言を頼むとか』


『……ログが残ってる可能性があるな。神刀ゼロを出してみろ』


言われた通りに、ゼロを取り出す


『今のお前なら、ゼロとの意思疎通が可能なはずだ。問いかけてみろ』


『わかった』


言われた通りに意思疎通をしてみる

言葉は無い

しかし、何かしらの意思はあった

その意志に尋ねてみる

すると、一つの記憶が流れ込んできた


『ジェネス、エステスには気を付けろ。やつは……』


ここで記憶は途切れる

恐らく、残っているログがこれしかないのだろう

残っているログの内容をゼロに伝えると


『ふむ…注意は必要だが、確定には至らねぇな。お前の考えはどうだ?』


『わからない…が、答えだな。証言だけだと何ともな』


『だが、何かあるとは考えた方が良いな。お前には圧倒的に経験が足りない。そこを補え。ムカつくが、リエルはスキルとして優秀だ。上手く使いこなせ』


『わかった』


残るはヴェルグの事と大図書館についてだ

まずは大図書館についてだが


『それを持ってる人間がいるのか。しかも、使いこなしていると。……見てから決めるが、もしかすると、お前の嫁で一番怖いのはその女かもな』


『どういうことだ?』


『大図書館には、更に上位スキルが存在する。禁忌書庫と言う名だが、劣化アカシックレコードと思えば良い』


『普通にバグキャラじゃねぇか』


『だから怖いと言っただろう。とは言え、今のお前なら知識量で負けることはねぇよ』


『だと良いが…』


そして、最後にヴェルグの事だ

正直、ヴェルグが神格を得られるとは思っていなかったりする

ただ、性格は割と好みなんだよなぁ

一緒にいて疲れないし

性格的にはリアも似たようなものかな?


『使徒にしちまえば良いだろうが。そうすれば、裏切りも回避可能だしな』


『それは、どういう意味だ?』


『使徒にする際に、誓約も付けれるのさ。お前には付けなかったが、危険と判断した相手には付ければ良い。尤も、獅子身中の虫を買う気は、俺には無いがな』


『う~ん…使徒にはするかもだけど、誓約は付けないかな』


『ほう…それはどうしてだ?』


『裏切る気が無いからだな。俺が気になっているのは、本当に神格を持てるかだけだしな』


『そうか。なら、お前の好きにしたら良いさ』


とりあえず、確実に聞きたいのはこれくらいであろうか?

仮説が確信に変わった物もあれば、未だに謎な物もあるが

また何か思い出したり、気付いたりしたら、その時に聞こう


俺の話が終わり、今度はゼロが話始める

その内容は、原初としてあるべき為に必要な事であり、同時に世界についての考え方であった


『原初は世界を作る下地を作る。その後に創世神が世界を作る事は、既に教えたな?』


『ああ』


『なら、世界とはなんだ?』


『俺達が生きている場所じゃないのか?』


『50点だな。良いか?何故、神に破壊神が存在すると思う?』


『世界に終わりをもたらす為だろ』


『そうだ。では、その世界に住む生命体はどうなる?』


『共に滅びる…あれ?破壊神は世界が終わるから、その余波が他に行かないために破壊するんだよな?』


『そう言う認識だったか。半分は正解だ。だが、もう半分は違う』


『どういうことだ?』


『破壊神は滅びに向かう世界を壊す。だが、一定を超えないと壊さない。それは何故か?次の世界に繋げるためだ。世界を誕生させるのがジェネス、その世界を長く生かすのが神々、世界に終わりを告げるのが破壊神だ』


『どこぞで聞いたワルツみたいだな』


『言いえて妙だな。確かに、歴史上でも平和>戦争>革命で成り立って入るからな』


『だが、それとさっきの点数がどう繋がる?』


『人もまた、己だけ世界を持っていると言う事だ。悪事を働けば、それを討伐する者がいるだろう?腐った魂に終焉を与える破壊神ってわけさ』


『ちょっと待て!それじゃ俺は…』


『気に病むことは無い。だが、覚えておけ。人は創世者であり、破壊者であることを。そして、それこそが原初の根幹であると。人の世界は、時に広がり、時に狭まると。だが、それを見守り、時に同じ目線に立ち、時に破壊しなければならない事を』


『ゼロは、原初の根幹を変えたんじゃないのか?』


『かもな……だが、悔いは無い。俺も、大切な者を見つけたからな。だから、お前も手放すなよ』


『わかった。俺も大切な者達を守るために、後悔をしないようにする。ゼロみたいになるのは、御免だしな』


『最後に一言多いんだよ!』


そしてお互い笑い合う

そして気付いたこともある

どの様な世界でも、無限は無い

全てが有限であると

だから、今、この瞬間を大切にしよう


その後はリエルも参加し、またも言い合いが始まる

なんだかんだ言って、仲は良いのかもしれない

そんな中、彼女ツクヨが覚醒する


『ここ、は?』


『目覚めたか!良かった…』


『ゼロ?あなたも死んでしまったの?…子供は!?』


ゼロは首を横に振る

いや、実際には振ってはいないよ

イメージでそう見せているだけ

そして、それを聞いた彼女は、顔を覆って泣き出す


彼女が泣き止むのを待ち、ゼロが説明を始める

それを聞いた彼女は、予想外の行動に移る


『ゼロ、あんたって人は……』


『待て、落ち着けツクヨ。ちょ、マジ勘弁…アーーーーッ!』


俺は何も見ていない

ツクヨ=カシマが、ゼロに飛び蹴りを食らわせ、腕十字固めからのコブラツイストを決め、その後に往復ビンタなど、見ていない


リエルも((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルしてらっしゃる

流れてくるイメージは黒髪ロングでちょっとツリ目な感じではあるが、まさしく大和撫子って感じなのに

ゼロは、何処に惚れたのであろうか?


気が済んだのか?無名の中では、ズタボロになったゼロと怒っているツクヨ=カシマのイメージが見える

ゼロよ…マジで報われてないな

とここで、ツクヨ=カシマからお声がかかる


『旦那が迷惑かけて、申し訳ありません。ついては、旦那よりあなたからお話を聞きたいのですが』


『でしたら、リエルに聞いてください。ゼロを除けば、俺よりも詳しいので』


『!?』


『リエルさん。よろしくお願いします』


『ひゃ、ひゃい…』


この言葉の後、リエルは懇切丁寧に状況を説明

説明途中で、ゼロがツクヨ=カシマに殴られると言う事態も発生

リエルさんは常に((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル中だ


小一時間ほどで説明は終わり、改めてお礼を言われる


『この度は、救って頂き、感謝いたします。お礼をしたいのですが、生憎とこんな状況でして』


『気にしないでください。俺もゼロには世話に……一応、世話にはなったので』


『ほんっとうに!うちの旦那が申し訳ない!』


『いや、もう大丈夫ですので』


謝罪とお礼を言うツクヨ=カシマ

ゼロ?彼女の後ろで屍となっております

どうやら、ゼロとツクヨ夫妻は嫁天下の模様

俺はこうならない様に気を付けたいと思う

いや、マジで!!


とここで一つ、気になっていたことを聞いてみる

ゼロではなくツクヨ=カシマにだ


『失礼なのですが、ゼロの正体は知っていらっしゃったのですか?』


『はい。生前に聞いています。尤も、信じてはいませんでしたが』


『なのに結婚を?』


『この人、他の女性には目もくれなかったんですよ。ずっと私を口説いてばかりで。最後には、その……』


『失礼な事を聞いてしまい、すみません。で、ここからが本題なのですが』


俺はツクヨ=カシマに判断を委ねる

これから行う事は、100%禁忌の行為だ

しかし、このまま無名の中にと言うのもどうかと思う

だから、彼女とゼロに判断を委ねた


二人して何やら話し合って……あ、ゼロが宙を舞った

おお!そのまま連撃のコンボ!

ゼロの滞空時間が引き延ばされてる

と言うか、彼女、何気に強くね?



30分ほど経ったころ、ゼロが声をかけてきた

送られてくるイメージは、ボロボロだったことだけは言っておく


『わりぃが頼めるか?代わりと言ったら何だが、俺とツクヨを使徒にしてくれて良い』


『別に気にすんなよ。これからも色々聞くと思うし』


『この借りはでけぇからな。ちょっとやそっとで返し切れるもんでもねぇ』


『じゃ、先に一つ頼みごとをしておくかな』


『なんだ?』


『俺が原初を継いだことは、秘密にしてほしい』


『うっかり喋らない様に気を付けるわ』


『そこはわかったと言いなさい!』


ゴンッ!


ツクヨさんの拳骨が、ゼロの頭に突き刺さる

ゼロ……以前の威厳は皆無だな

これ以上待たせるのも悪いので、早速作業に取り掛かる


使う魔法は原初魔法内にある、創世魔法

造るのは、二名分の肉体

ゼロとツクヨさんがイメージを送り、リエルが固定・制御

俺は大量の魔力をリエルに送る


そして発動される創世魔法

前方に光の球が現れ、収縮していく

光が収縮した後に残るのは、男女の肉体


次に無名を身体の上へと掲げる

刃先と身体の隙間は2センチほど

魂の移動制御をリエルが行い、身体に無事、魂が入る


あ、裸じゃないよ

ちゃんと、服も一緒に作ってあるから


男女共に魂の移動が終わり、両者とも目を開け、立ち上がり……


「こんの、大馬鹿者がぁぁぁ!」


「ひでぶっ!」


ゼロが宙を舞った

見事な放物線を描き、地面に激突するゼロ

呆気に取られて、一部始終を見るしかなかった俺

微妙な空気が流れる中、ツクヨさんは俺に向かって頭を下げる


「この度は、本当にありがとうございました。呪いの解呪どころか、新しい生と身体まで。返し切れるものではありませんが、少しでも恩返しさせて頂けないでしょうか?」


「あ~、本当に気にしないでください。ゼロが言うには、魂だけの繋がりなら親子らしいので」


そう告げるとツクヨさんは目を見開き、静かに身体を引き寄せて抱きしめてきた


「ごめんね。ちゃんと産んであげられなくて」


彼女は泣きながら、愛おしい我が子を撫でる様に頭を撫で謝る

彼女の言葉を聞いた俺も泣いていた

いや、きっとこれは始まりの俺だ

母親の声に魂が反応したのだろう

だから俺は、魂の赴くまま話す


「大丈夫だよ、母さん。あなたの元へは産まれて来れなかったけど、魂はちゃんと生まれたんだ。その後もきちんと生を謳歌してる。だから泣かないで。今、俺がここに居られるのは、母さんのおかげなんだから」


「ごめんね……ごめんね!そして、ありがとう。私と会ってくれて、ありがとう……」


5分ほど抱き合った後、ツクヨさんが離れる

眼は赤く、涙の跡が見える

涙を拭い、俺に対して頭を下げる


「ありがとう、あの子に会わせてくれて。ありがとう、生まれて来てくれて。私に出来る最大の感謝を」


「頭を上げて下さい。お子さんは、満足している様ですから。もう今は、彼の思いは感じられませんが、最後にお礼を言われた気がしますので」


その言葉で、顔を上げるツクヨさん

その顔には、悲壮感はもうなかった

最後に笑って、もう一度ありがとうと言われる

何とも照れくさい


その後、地面で伸びているゼロを叩き起こし、俺に土下座をさせるツクヨさん

強者であったゼロは、もうここにはいなかった



その後、3人で話し合った結果、暫くはうちで過ごしてもらう事に決まる

ただ、もう暫くは、洞窟内に留まる事となった


あのでかい艦、マジでどうしようか……

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