第120話 VS原初の神ゼロ

「救ってやるよ。ゼロもツクヨ=カシマも。俺の全てをかけてな」


その言葉の後、空気が一変する

お互いに睨み合い、少しずつ距離を空けていく


「大きく出たな。てめぇが、俺を殺れんのか?」


「はっ!希望すら見えなくなった男が、何を偉そうに」


「……今直ぐ、死にてぇらしいな」


「死なねぇよ。俺も、ゼロも、ゼロが愛した女もな!」


一定の距離が空き、お互いに獲物武器を抜く


静寂


壁から石が転がり、地面にぶつかる

それが合図となり、お互いに距離を詰めて、武器を振るう


「しっ!」


「はぁっ!」


ぶつかり合う剣と刀

一閃してぶつかり合う度に、火花が散る

ゼロが扱うのは、劣化版神刀ゼロ

対する俺は、ミスリルの双剣


何度も何度も、相手の力量を測る様にぶつかり合う

だが、その応酬は突如として破られる


「へっ、中々に強くなったじゃねぇか」


「ジジィはさっさと引退しとけ」


「よし!ぶっ殺す!」


「ぜってぇ後で、土下座させちゃる!」


またも距離を詰め、ぶつかり合う

しかし、次に起こったのは俺の双剣が破壊される音だった

そのまま首を狙うゼロ

身体を逸らして避けるが、ゼロは変幻自在に追撃の剣戟を繰り出す


「うぉっ!」


「はっ、あめぇ!」


皮一枚で躱し続けるが、武器を取り出す隙が無い

何とか距離を取ろうとして、ゼロの誘導に乗ってしまう

何とか躱し、距離を取る事には成功した

だが、首筋からは皮一枚切られ、血が滲み出る


「斬り落とし損ねたか」


「あ、あぶねぇ……」


首筋を治療しながら、武器を取り出す

空間収納から取り出したのは、神刀ゼロに似せた神刀無名

それと、神銃リュシフェル


大口を叩いた俺であったが、戦闘経験には天と地ほどの差がある

こうなると、遠距離を含めた攻撃で翻弄するしかない

ここからは、魔法も駆使していこう


「どうした?でかいのは、口だけか?」


「うっせぇ。ここからが本番だ!」


魔法を多段方式で撃ち出す

同時に、リュシフェルで牽制しながら距離を詰め、無名で一閃と考えていた

だが、その考えは簡単に打ち砕かれる


「だから甘いと言った」


「ちょ!?マジかよ!」


放った魔法は、ゼロの振るった一閃によって、全て掻き消される

リュシフェルの弾丸も同様だ

急ブレーキをかけ、後方に飛んで距離を稼ぐ

しかしゼロは、その行動を見逃さない


「おせぇ!」


一気に距離を詰め、刀を振るうゼロ

回避には成功するも、後手に回る俺

その後も、連続攻撃を繰り出すゼロに、回避と防御しかできなくなってしまう


「くそ!」


何とか距離を取りたいが、絶妙な攻撃で体制を崩しに来る

揺らめく刃は、確実に命を狩りに来ていた

だが、やられっぱなしは癪に障る

ゼロが踏み込む直前に、土魔法で反撃

流石に回避は無理と判断したゼロは、攻撃を防御へと転じ、土魔法の一撃を防ぐ


その間に、距離を取って体制を立て直す

使った土魔法は岩棘だが、意表を突く位は出来たな

初級や中級でも、使いどころによっては役に立つ

身を以て実感した


「今のは良かったぜ。尤も、同時攻撃しなかったのは減点だな」


「体制を立て直したかったからな。おかげで、仕切り直せた」


「強敵との戦い時にはな、立て直すよりも一撃加える事が重要事もある」


「ご忠告、どうも」


と、同時に、リュシフェルで奇襲

それを読んでいたゼロは、一閃してまたも掻き消す

しかし、今の一閃でゼロはミスを犯す


「(おかしい。今のは、そう簡単に消せない弾を放ったのに)」


不審に思い、更に魔力を注ぎ込んだ弾丸を放つ

結果は同じ

ゼロの一閃によって、やはり掻き消される


「(技量で掻き消されてるわけでは無い?)」


その後も同じように撃ち続けるが、結果は変わらない

ゼロはつまらなさそうに、欠伸あくびをしている

あ、なんかムカつく

思わず乱射してしまったが、これが良い方向に転ぶ


ゼロが一閃した直後、少しだけ空間が揺らめく

それも一つではなく、多数

更には、放った魔力弾の軌道上を複数で囲むように揺らめき、多数の方向から斬撃が飛ぶ位置

なるほど…見えない無数の斬撃で掻き消していたわけか


種はわかった

では、対処法は?……どうしようか

ほぼ不可視の斬撃で、軌道も自由自在

どれだけの数が出せるのかも不明

……対処法が思い付かねぇ!


ゼロもこちらが気付いたとみたのか、徐に刀を振るう

同時に寒気がし、左後方へ飛んでから、右後方へと飛ぶ

勘に頼った回避方法だったが、これが見事に大当たり

今まで自分のいた場所の空間が揺らめき、斬撃が飛ぶ


「こっわ!」


「やっぱり、気付いたか。だが、対処方法は確立してねぇみてぇだな」


「そ、そんなことないし~」


嘘である

そんな簡単に対処法など思い付くわけがない

こちらが思考加速すれば、相手も思考加速してくるのは明白

戦闘しながら対処法を探す?油断したら、首チョンパが確定する


「(駄目だ。完全に手詰まりだ……あれ使うしかないか?)」


あれとは神大剣の神器開放

47の大剣に相当な魔力を流せば、簡単には壊せないはず

その考えを実行すべく、神言を唱えようとするが


「その考えはお見通しだ!」


「がはっ」


腹に思いっきり蹴りを入れられ、後方に吹き飛ぶ

地面を転がりながらも、考える事を止めずにいたのだが、痛みのせいなのか、とある天啓が降りてきた


「(もしかして、あれは神器開放なのでは?)」


この考えは、大正解であった

しかし、先程の現象が神器開放だったとしたら、何時の間に真言を唱えたのか?

一つの正解を導き出し、新たな疑問が生まれた瞬間であった


転がるのを止めて、立ち上がり、体勢を整える

ゼロの方は追撃をしてこず、何かに警戒しているように見える

いや、何か考え込んでいる?

その時、ゼロがこちらに問いかける


「おまえさぁ、神器開放の時にまだ唱えてんのか?」


「唱えないと発動しないだろう?」


「え?マジで?うわぁ~、超恥ずかしい奴。あれだな、厨二病ってやつか?…厨二病のグラフィエルか。案外、違和感がねぇな」


「コロス!!」


殺意マシマシでゼロに肉薄し、大剣を振り下ろす

ゼロは刀でいなし、反撃しようとして、右後方へと飛ぶ

ちっ!勘が鋭い!


「あぶねぇあぶねぇ。まさか、至近距離でぶっ放そうとするとはなぁ。自分自身にも、ダメージがあるってのに」


「そんなことは言われなくても分かってるわ!対策はきちんとしてるつーの」


リュシフェルで放とうとしたのは、爆発魔法の一つである

当然だが、至近距離で放てば、こちらも大ダメージは喰らう

しかし、前もって分かっていれば、魔法の同時使用で事無きを得る事なんて造作もない事だ


今回の場合は、遅延魔法を使っている

ダメージを負うのと同時に、回復魔法が発動する仕組みだ

遅延魔法を使うには、時空間魔法の適正か時空間魔法そのものが使える必要がある


前者の場合、習得難易度は天井知らずだが、ステータスに時空間魔法のレベルが無くても使える

つまり、遅延魔法が使える=時空間魔法を習得できるとも言える

後者は、習得までにそれほどの手間は掛からない

時空間魔法でも、初歩中の初歩だからな


しかし、この手も通じないとなるとヤバいな

……あれ?そう言えば、何か聞き逃した気が……あ!神器開放についてだ!

それとなく、ゼロに尋ねる


「殺意が昂って聞き逃してたが、神器開放には神言が必須じゃないのか?」


「あん?初めは必要だが、後は必要じゃねぇぞ。要は慣れだな。神言はイメージを固めるために必要なだけだ。原理は魔法の発動と変わらねぇぞ」


「そう言う仕組みかよ……」


これで、ゼロが使う神器開放の謎も解けた

そこで、一つの閃きが起こる


もしかして、イメージさえ出来ていたら、手に持つ必要性すら無いんじゃね?


思い付きを試そうと、大剣をしまい刀に変える

空間収納は開けた状態でイメージを作り、大剣の神器開放を試す

結果は……47本の大剣が示す通りだ

ついでに、空間収納を閉じて試してもみたが、こちらは失敗

外に繋がっている事が前提であるらしい


ゼロも47本の大剣を見て「ほぅ」と驚いていた

仕切り直し、お互いに距離を詰める……訳が無く、俺は一定の距離を保ちながら戦う


「てめぇ!男なら、近距離戦だろうが!」


「うっさい!戦闘経験に差がある以上、戦略は練って当然だろうが!」


不毛な言い合い?をしながら、戦闘を継続

しかし、ゼロに戦闘教育されてる気分になるのは何故であろうか?

何となく、昔を思い出す

……そう、あの地獄を……


「(あ、なんかイラっとした)」


良い記憶風にしようと思ったが、出てくる思い出は地獄の修練だけであった

叩きのめされては気絶

死ぬ一歩手前まで行っては気絶

……よし!やっぱりボコボコにしちゃる

一気に殺意マシマシとなった


「おらおらおらおらー!」


「くそっ!地味にうぜぇ!」


47本の大剣がゼロを襲う

先程までとは違い、弾きはするが破壊できずにいた

フヨフヨと浮き、複数本が同時にゼロに向かって飛び掛かる

途中で軌道を変え、振り下ろし、薙ぎ払い、下から上へ、上から下へと縦横無尽に襲い掛かる


しかし、これでもゼロは隙を作らないでいた

47本の大剣VS無数の斬撃

半分、千日手になりかけていた

ここでゼロは、一つの賭けに出る


「マジ、うぜぇ!こうなりゃ、あの手を使うしかねぇか」


「負けを認めても良いのよ?」


「なんで、オネェの喋り方なんだよ!その余裕がマジでムカつく。ぜってぇに泣かしたる」


ゼロは刀を納刀し、居合斬りの姿勢を取る

迫る47本の大剣に向かい、一閃!

それだけで、47本の大剣全てが破壊される


「んなっ!?」


「余裕ぶっこいてるから、そうなるんだよ!」


そう語るゼロであったが、言葉とは裏腹に満身創痍であった

傷があるわけでは無い

だが、魔力消費が尋常ではない模様

若干ふらついていた


そのふらつきは僅か数秒ではあったが、高密度な戦いにおいては、致命的な隙となる

一気に近づき、刀を突きさそうとするが


「あまい!甘過ぎんぞ!」


まるで酔拳の様に回避し、カウンターを繰り出してくる

致命傷は避けたが、下段から上段への斬り上げに、胸をザックリと斬られてしまう


咄嗟に後方へと飛び、流れ出る血を回復魔法で塞ぐ

思ったよりも傷が深く、治療に手間取る

その間にゼロは立て直し、回復しきった頃には、仕切り直しとなってしまった


「くそ!決めきれ無かった!」


「今のは危なかったぜ。だが、経験値の差で俺の勝ちだ」


その言葉の後、最速で距離を詰めに来るゼロ

その速さは、今までの比ではなかった

油断はなかった

しかし、結果は……


「ごふっ」


「俺の勝ちだ」


腹を貫かれ、血を吹き出す俺

勝利を確信したゼロ

だが、これしか方法が無かったので、この際割り切る!


ゼロの手首を左手で掴み、逃げられないようにする

そして、咆哮


「舐めるなぁ!!」


「なっ!?」


無名をゼロの胸へと突き刺す

そう……


お互いの血が、地面へと落ちていく

血は地面で交わり、どちらの血か分からなくなり


「ごほ……」


ゼロが吐血する


「がはっ」


俺も吐血する


しかし、お互いの顔は笑っていた

お互いが目的を達成したと思っていたからだ


「(残念だったなゼロ。俺の勝ちだ!)」


ゼロの目的は、自身の消滅

しかし、その願いは叶わない

何故なら、この無名は……


そして、ゼロの身体が透け始める

原初神格が身体から消え始めた証拠だった


ゼロは笑う

己の目的達成を確信して

だから俺は、その確信を打ち砕いてやった


「何、勝ち誇った顔を…しているんだ?…ごほ……この勝負は、俺の勝ちだ」


「なに…言ってやが…る…ごふ……どう見ても、俺の勝ち……だろうが」


「直ぐに、わかるさ」


そして消えゆくゼロ

この場に残されたのは、腹に刀を突き刺された状態の俺であった


腹から刀を抜き、急いで治療を始める

気取られる訳には行かなかったので、遅延回復魔法すらかけていない状態だったので、魔力消費度外視の回復魔法で治療


どうにか血も止まり、傷も塞がるが、失った血までは回復しない

数歩後ろに下がり、尻もちをつくように、ドカッと地面へ座る

一息吐き、天井を見上げる


今まで戦ってきた中で、最強の相手だった

実力では遥か格上の相手

勝てたのは、相手の油断と肉を切らせて骨を絶っただけに過ぎない


メナトやセブリーが知ったら、間違いなくZI・GO・KUの修練ツアーに強制参加させられるだろうな

そう考えた後、ブルっと身震いする



1時間程休憩し、無名を手に取る

相変わらず、神刀ゼロに瓜二つの刀

何故、この刀に拘ったのか

それは……


『ん?なんだ?……おい、何で俺の意識がここにある!?』




そう、この神刀・無名は、神殺しではなく、封印刀だったからだ

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