第117話 向かう者、待つ者

 誕生日パーティーが終わり、書類処理も終わらせ、2日後に指定された場所に向かう


「大丈夫なの?」


「う~ん、指定された場所の魔物自体は問題無いんだけど……」


「何があるか、分からないわけだね。僕も行こうか?」


「でしたら私も」


「僕も」


「俺も行くぞ」


「はいはい、皆さん落ち着いてください」


 ヴェルグの質問に答え、その答えに対してついてくると言う、ナユ、リア、ウォルド

 それを、ミリアが止める

 そこへ乱入してくる者達が


「失礼します」


「ラフィ君、2日ぶり」


「何を揉めているんですか?」


「シアもお話に混ざります!」


 リリィ、ティア、ラナ、シアである

 これはかなりの修羅場になりそうな気が……

 しかし事は、想定外の方向になる


「皆さん、今回は全員がお留守番ですよ」


「私も、ミリアさんの意見に賛成です」


 ミリアとリーゼが止めに入る

 二人とも「ついて行きます」と、言うと思っていただけに、意外であった


「ついて行きたい気持ちはありますが、邪魔をしてしまいそうですし」


「積もる話もあるでしょうから」


 二人の言葉に全員が渋々納得する

 1名を除いて……


「皆さん、何を言ってるのですか?ご主人様の秘密ですよ?ついて行かないと損ですよ?」


「リュミナ、ちょっと黙ろうか」


 リュミナの言葉に、笑顔で対応する俺

 その言葉に「素敵!もっと罰をー!!」と、かつての威厳を無くしたリュミナがそこにいた

 ……どうしてこうなった?


 とりあえず、リュミナを簀巻きにして放置し、話を元に戻す

 横で「はぁ、はぁ」する息遣いが聞こえるが、無視を決め込む

 とは言え、場所は少し遠いので、竜に乗って行くのは決定事項ではあったが


「う~ん、今回はブラストに頼もうかな?」


「承知しました」


 俺の決定にブラストが了承する

 その言葉を聞いたリュミナの目が竜眼になり、ブラストに殺気を込めて睨む

 しかし、ブラストも華麗にスルーした

 今、この場にいる全員の気持ちは一つだ


【触らぬリュミナに祟り無し】だと


 早急に準備を整え、昼前に出発する

 リュミナは最後まで往生際が悪かったが


「いい加減にしろ!」


「無様だな」


「当時の面影が残って無いなぁ」


「全く…」


「主を煩わせるな」


 バフラム、シンティラ、コキュラト、アルバ、ブラストからの冷たい視線が、リュミナに突き刺さる

 その視線に対してのリュミナの言葉は


「あなた達に蔑まれても、何とも思いません。寧ろ止めて頂きたい。私を蔑んで良いのはご主人様だけです!」


 酷く残念な回答だった

 竜達を含めた全員が、溜息を吐いたのは言うまでもない

 ほんと、残念な竜になったものだ



 茶番劇を終え、ブラストの背に乗りながら、指定された場所へと向かう

 念の為、冒険者ギルドで情報を集めたのだが、その時の冒険者達やギルマスの顔は青褪め、引き攣っていた


『帰らずの森か…無事に帰って来いよ』


 これがギルマスの言葉だった

 帰らずの森は冒険者達にとって、非常に危険度が高い魔物の領域らしい

 ただ、珍しい魔物が多いらしく、一獲千金を狙って活動する冒険者は少なからずいるそうだ


 尤も、その名の通り、9割近い冒険者が帰ってこないそうだが

 ここ十数年では、侵入規定ランクがS以上に上がっていた

 尚、ランシェスだけでなく各国に、危険度が少なく見積もってもA以上の規定ランクを設けている魔物の領域は一つはあるとの事だ

 唯一無いのは、神樹国だけとも言われた


 そんな危険領域への呼び出し

 ゼロは一体何を考えているのだろうか?

 答えは出ないが、ブラストと共に帰らずの森へと向かう








 帰らずの森・中心部地下


 結界の中で、作業をするゼロ

 彼は、最終調整をしていた

 ラフィに贈る、成人の祝いもの

 それはとても大きく、この世界では、完全にロストテクノロジーの塊だった


「こんなもんか。後は、試運転だな」


 炉に火を入れ、稼働を確認する

 問題無く稼働はした…が


「出力調整がまだ必要か?いや、出力が上がらないのが問題点か。どうすっかなぁ」


 稼働は安定

 暴走は無い

 しかし、予定の出力には達していない


「やっぱ試運転だと、確認に限界があるか……仕方ない、後はあいつに任せよう」


 あいつ…すなわち、ラフィに丸投げである

 相変わらずのゼロであった


「さて、あいつは、どれくらいで来るかな?」


 久々に会う愛弟子に、心がざわつく


 どれほど強くなったのか?

 世界に対して、どんな答えを出しているのか?

 こいつを見たら、どんな反応を示すのか?


 楽しみで仕方なかった


「早く来いよ、ラフィ。お前には、俺の全てをやるからよ」


 その言葉の後、ゼロは眠りへとつく

 ラフィが来ることに胸躍らせながら







 帰らずの森・入口


 ブラストの背に乗って、数時間

 俺達は、帰らずの森の入り口にいた


「主、我はここでお待ちしても?」


「いや、帰りはゲートで帰るから、先に戻っていてくれ」


「承知しました。しかし、宜しいのですか?」


「ゼロが何を考えているか、分からないからな。俺一人の方が動きやすいんだよ」


 もっともらしい理由でブラストを帰そうとする

 しかし、実際の理由は違う

 ブラストもそれは理解しているようだった


「(危険度が高く、邪魔されにくい場所を、わざわざ選んだんだ。絶対に何かあるはず)」


 そう考えてはいるが、それを伝えると「危険です!我も行きます!」と言うのがブラストだ

 リュミナが恋慕の感情ならば、ブラストは忠誠心が天元突破している方に入る

 忠誠心と言う観点だけで見るならば、間違いなく、ブラストが1位である


「奥方様には、なんとお伝えしましょうか?」


「少し、日にちがかかるかも、と言っておいてくれ。多分、一月以内には戻るから」


「そんなに掛かりますか?」


「あくまでも、最長を予定した目安だな。本音では、一週間くらいで帰りたい」


「わかりました。では、そのようにお伝えします」


 了承の後、ブラストは飛び立って行った

 さぁて…とりあえず、指定のあった中心部に向かいますか



 帰らずの森に侵入して30分

 そこまで強い魔物は出てこなかった

 いや、危険度の高い魔物は出て来てはいるのだが、俺にとってはそこまで強くない、が正解かな


 サーベルタイガーやビッグポイズンフロッグにタイラントベアー等々、どれもこれもBランク指定の魔物が沢山いた

 まともに戦闘をすれば、時間だけが浪費されていくので、探査魔法と射撃魔法の組み合わせで倒している


 射撃魔法とは、言ってしまえばボウガンみたいな魔法だ

 土魔法で弾丸を作り、尖端を尖らせて鋭くし、徹底的に固くして、標的の急所に打ち込むだけ

 打ち込む場所は、脳天、心臓、脊椎のどれか

 これが面白いほど良く決まる


 問題があるとすれば、空間収納に納めているのだが、数が膨大な事くらいか

 予想していた速度よりも、少し遅かったりする


「このままだと、領域内で野宿になるな。速度を上げるか」


 弾丸を複数個纏めて作り、浮かばせておく

 襲ってくる魔物については、風魔法で強制紐無しバンジーの刑にするとして、進路上の魔物は撃ち殺していくかな


 考えも纏まり、速度を一気に上げる

 襲ってくる魔物は風魔法で上空へ飛ばし、自由落下で始末していく

 進路上に落ちると、他の魔物が寄ってきて面倒になるので、落下軌道を計算して打ち上げている


 進路上の魔物は、先手必勝で打ち抜き、通り過ぎる際に空間収納へと納める

 そんな感じで、3分の一を踏破したのだが、ここで空気が一変する


「なるほど…中心に近づくほど、魔物の強さが上がるのか」


 殺気マシマシの魔物達が、辺りにひしめいている

 木陰がガサガサと揺れ、そこから群れを成した魔物が出てくる

 出て来た魔物は、前世で恐竜の本に描かれていたものと寸分違わぬ姿をしていた


「恐竜?小型の肉食恐竜みたいだが」


 その言葉を発した直後、襲い掛かってくる小型恐竜

 だが、その牙は俺に届くことなく空を切る

 小型恐竜が大型恐竜に食われたからだ

 ただ、その大型恐竜の姿は……


「Tレックス!?うぉ!更に奥からもう一匹!?やっべ、倒すの大変じゃねーか!」


 しかもかなり素早いというオマケつき

 これは三十六計逃げるに如かずかな?

 幸いにも、小型と大型で食い合いを始めたので、こちらには目も向けていない模様


 食うか、食われるか


 ここの魔物は、他の領域よりも本能が強いらしい


「って、そんなことを考える前に、この場を離れるか」


 そう思って動こうとしたのが不味かった

 気配に敏感だったのか、この場を離れようと少し動くと、見た目弱く見える俺に、この場にいる恐竜が狙いを定めてきた


「あはは……やっぱ、そうなるわけね」


 結果、小型恐竜十数匹と大型恐竜2体との戦闘に突入

 当然だが、怪我も負わずに勝利はしたのだが


「こいつらの硬さってヤバいな。まさか、射撃魔法が通じないとは……」


 土魔法で固めた弾丸では、急所を貫けなかったのだ

 更に言えば、強力な風魔法で首チョンパしたのだが、それが出来たのも小型の奴だけ

 大型の方は、風魔法でも首チョンパは出来なかった


 そこで、前世の知識を使った、ウォーターカッターの魔法を瞬時に開発して使用

 金剛石ダイヤモンドすら斬り裂くので、首チョンパ出来たわけだ


「俺に不可能は無い」


『開発したのは私ですけどね』


 全智さんの鋭いツッコミ

 そこは言わなくても良くない?


『事実を言っただけですよ。それよりも、ちょっと危険ですよ』


 全智さんの言葉の意味が分からず、言われるがまま、探査魔法を使用する

 使用した瞬間、確実に顔が引き攣ったと思う


「ちょ!?なんだこれ!物凄い魔物の反応があるんだけど!しかも、一部はこっちに一直線で向かってるし!」


『血の匂いに釣られたようですね。幸い、進路上にはいませんので、速やかに移動することを推奨します』


「言われなくてもそうする!」


 予想外過ぎる出来事に、速やかにこの場を離脱する

 血の匂いに釣られたって全智は言っていたけど、流石に鼻が良すぎませんかね?

 本能のままに生きる魔物の怖さを知ってしまった瞬間だった


 あ、言っておくけど、余裕で倒せはするからな

 面倒なのと時間を使うのがイヤだったから逃げただけだぞ

 本当だぞ!嘘じゃないぞ!

 ……俺は、誰に向かって言い訳してるのであろうか?




 そんなこんなで、討伐と撤退を繰り返しながら進む事2時間弱

 指定された中心部に辿り着く

 うん…辿り着きはしたんだが


「ここで結界かよ」


『かなり強力な結界ですね。しかも、再生付きです。強行突破しますか?』


「解除方法は?」


『あるにはありますが……時間が掛かりますよ?』


「よし!強行突破しよう!」


 普通には破壊不可能なので、ゼロ直伝の結界やぶりを使う

 え?どんな方法かって

 とても簡単な方法です!


 まず、拳に圧縮できるだけの魔力を集めます

 次に、圧縮した魔力に膜を張り、膜を張った上から更に魔力を圧縮し、二重構造にします

 最後に全力で殴ります

 以上!


 ……ただの脳筋方法でした

 ただな、これが一番楽で、確実に破れて、応用も聞くんだよ

 まぁ、応用と言っても、3重構造や4重構造にしたり、圧縮量を増やすだけではあるが

 ……やはり、脳筋方法だな


「さぁて、ぶち破りますか」


『腕チョンパには、気を付けて下さい』


 全智さんが不穏な事を言う

 何、腕チョンパって!?そんなに危険な結界なの!?

 ちょっと怖くなってやめようかと思うが、時すでに遅し

 異常なまでの魔力圧縮をしていたので、退くに退けない状況になってしまっていた


 仮に別の何かに攻撃しようものなら、確実に爆散してしまう

 生き物ならまだ良いが、地面に打ち込もうものなら、確実に地面が陥没する

 いや、陥没ならまだマシか……最悪、大地震を引き起こしかねない


 覚悟を決めて、結界を殴りつける

 結界は見事に大きな穴を空ける

 しかし消滅には至らず、直ぐに再生が始まってしまった

 ゼロよ……こんな強力なの必要だったのか?


 再生が終わる前に結界を抜け、中に入る

 結界内に入り終えると同時に、小型恐竜が俺を喰わんと突っ込んできたのだが、ちょうど頭一つ分の穴しかなかった結界に頭を突っ込み、結界が再生されて穴が閉じると


「うわっ……首チョンパされちゃったよ」


『腕チョンパにならなくて良かったですね』


「…………」


 最近、全智さんが毒を吐き過ぎではないかと思う

 自立型スキルでも、ストレスって溜まるのだろうか?

 怒らせてはいけないリストに、全智さんがランクインしたのは、きっとこの時だった


 結界内を歩き、中心点に辿り着く

 中心点には、洞窟の入り口とまたもや結界

 どれだけ厳重なんだよ!

 結界の種類を全智さんと一緒に解析していく


「これって……」


『原初の結界ですね。マスターなら、普通に解除可能ですよ。ただ、マスター以外に解除不可能でもありますが』


「力技でやったら、空間跳躍付きか」


『何処へ飛ばされるか、興味はあります』


「俺は興味ないから、安全策でいくわ」


『チッ』


 全智さん、隠そうともせずに舌打ち

 最近、人間味が増してきているが、舌打ちまで増さなくて良いんですよ?

 全智さんの病み具合が、とにかく凄かった

 その内【闇落ち全智神核】とかにならないだろうな?

 一抹の不安を抱えながら結界内部に侵入する



 洞窟の中を進むと、明かりと人の気配があった

 岩の上に座る人物、久しぶりに見たゼロの姿であった


「久しぶりだな、ゼロ」


「…………」


 返事が無い

 まさか……

 そう思い、少し近付くと


「zzzzz」


「…………」


 寝てんのかい!

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