第116話 誕生日パーティーと手紙

 遺跡での捜索と探索を終え、会議も終了し、これで少し休めると思った翌日、またも王城へと呼び出しを食らう


「(今度は何の用なんだ?)」


 通されたのは会議室ではなく、謁見の間

 ここに通されたと言う事は、賞罰があるんだよな?

 そう考えながら、臣下の礼を取り、陛下のご降臨を待つ

 臣下の礼を取りながら横を見ると、あの私財で後方支援物資を揃えた貴族もいた

 二人で礼を取りながら待つこと数分、陛下がご降臨される


「二人とも、楽にするが良い」


 陛下のお言葉で、顔を上げる

 俺は普段通りだが、お隣さんは顔色が悪い

 多分、罰が下ると思っているのだろう

 俺は違うと思うんだがな


「この度は、誠に大儀であった。クロノアス卿が捜索と探索をし、王家の資産も増えた。1陣の冒険者達は残念であったが、存命者を連れ帰ってくれた事に感謝をする」


「はっ!」


「後方支援で物資を1日で用意したことも、存命者の救出に大きく貢献した。そなたの功績も大きい」


「ありがとうございます」


「うむ。よって二人に勲章の授与を行う」


「「ありがたき幸せ」」


「皆の者、二人の勇者に盛大な拍手を!」


 パチパチパチパチ!!


「これからも、諸君らの働きに期待する」


 こうして、俺は勲章をもらったのだが、もう一人の顔は優れなかった

 名誉な事なのにと思ったが、フェルに呼び出されて話をした時に、その理由を聞いてしまった


「あれは、一種の罰みたいなものだからね。彼は貴族派では肩身の狭い思いをする羽目になる」


「何故、そうなるんだ?」


「貴族派は無能の集まりだけど、中には切れ者や力を持った者もいる。前者は問題無いけど、後者は嫉妬が凄いのさ」


「ああ、そういう話か」


「これだけでわかるなんて、ラフィもお貴族様になってしまったんだねぇ」


「うるさいわw」


 フェルの言いたい事

 要は、貴族派の彼は勲章をもらい、貴族派の中では裏切者扱いに等しい存在になってしまったわけだ

 ただ、後方支援能力は問題無いと判断されたので、陛下が取り込みと切り崩しを図った様だ

 彼は近い将来、軍部の後方支援担当の席を与えられる予定らしい

 但し、最低でも中立派に変わってからみたいだが


 王城での用事も終わり、これで今度こそゆっくり出来ると思ったが、そうは問屋が卸さなかった

 捜索と探索に1週間程抜けた穴は、大きかった


「お館様、次はこちらの書類です」


「なぁ、ブラガス。法衣ってこんなに仕事あるのか?」


「普通はありません。で・す・が!お館様の場合は別です」


「何故だ?」


「一つは新興貴族であることです。中立派や王族派との繋がりはある程度しておきませんと」


「それが、このパーティへの招待か?」


「断るにしても、お館様に書いて頂きませんと」


「わかった。それは、理解した。だけどな…なんだ?この誕生パーティーの招待状は?」


 執務室の机の上に並べられた、招待客のリストと大量の便箋

 どう考えても、こちらから送る招待状であった

 しかもそのリストに、とんでもない名前がいくつかある


「なぁ、なんで同盟国の各頂点たちの名前があるんだ?」


「え?同盟の中心人物で立役者の誕生日パーティーですよ?招待するのは普通でしょう?」


「待て、その考えは可笑しい」


「可笑しくは無いでしょう。寧ろ招待しないと大変なことになるかと。招待することに意味があるのです。出席は自由ですよ」


「…………」


 絶句しか出なかった

 ブラガスさん、マジ有能

 多分、ミリアやリーゼ辺りも言いそうではあるが


「さぁ、さっさと書きましょう」


「自分の誕生パーティーの招待状を自分で書く……あれ?兄姉達はしたっけ?」


「ご兄姉様方ですか?多分ですが、お父君がされたかと」


「俺、呼ばれてないんだけど?」


「お忙しいと思われたのでは?」


 おい、さっき招待は必須とか言ってなかったか?

 俺、家族にハブられた?

 もしそれが事実なら……ヤバい、ちょっと泣きそう

 いや、ちょっと待て?兄姉は父上が準備したんだよな?


「俺のも父上が準備するべきなんじゃね?」


「そこは、爵位の関係で無理ですな。親子であっても、別家の当主が準備すると問題ですので」


「二人の兄達も爵位持ちだが?」


「当時は持っていなかったのでは?そうなると、グラキオス様の子弟となりますので」


 Oh…何たる不幸

 兄上達が物凄く羨ましい

 兄達からすれば、特大ブーメランであったが


「そう言えば、資金はどうしたんだ?」


 良く考えたら、誕生日パーティーの資金を承諾した覚えが無かった

 どこから捻出したのか、気になるところだ

 それを聞くと、ブラガスの口からとんでもない事実が飛び出す


「お見合い大会の予算に混ぜておきました」


「おい…」


「言ったら、素直に承諾して頂けますか?どうせ、渋るに決まってますし、説得を終えた頃には、大急ぎで準備とかになりそうですし。おかげで、余裕を持って準備出来ました」


「ぐぅの音も出ない」


「それと、他国への迎えは、お館様のゲートでお願いします」


「はっ?」


「招待状を送り、返事が来る頃には、日数が迫っておりますので。領主の方々については、謝罪の手紙を作成して頂き、ご納得いただく所存です。法衣は間に合いますので、他国の王のお迎えをお願いします」


「俺の誕生日なんだよね?」


「そうですが、お館様の力が無いと、どうにもならなくなったのです」


「鬼!悪魔!人でなしー!」


 俺の叫びはスルーされた……




 誕生日パーティー当日、屋敷には大勢の貴族や商人が集まっていた

 その中でも目を引くのが、やはり陛下を筆頭とした、各国の王達であろうか

 我が国ランシェスに始まり、神聖国、竜王国、フェリックと勢揃いだ


 帝国と神樹国は今回、お断りを入れてきた

 帝国はどうしても都合がつかないとの事

 神樹国は場違いなので、と断られた


「招待はしましたので、問題はありません」


 そうブラガスは言った

 今回は仕方が無いとの事だが、帝国からは代理人として、出向組が参加する事となった

 出向組本人達は「皇帝の代理人は名誉なことですが、場違い感が」と軽く引いていた


 神樹国はレラフォード代表と懇意にしている自国の商人が代理人として参加していた

 本来なら、軽く見られたとして、ブチ切れ案件なのだが、そこは今までの経緯もあるので問題は無い

 一部のお貴族様は裏でコソコソと、何か言っていたようだが

 主催者で主役が問題無いとしたので、表立っては言えんわな


 開催時刻となったので、グラスを片手に挨拶をする


「本日は、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。あまり、長い話は苦手なので、一つだけ。今日は、是非、楽しんでいって下さい。それでは…乾杯!」


「「「「「乾杯!!」」」」」


 こうして、俺の誕生日パーティーが始まった


 こういったパーティーの場合、こちらから挨拶に行く人、相手からくる人に分かれる

 代理人はその人の代わりなので、誰の代理人かによって対応が変わったりする

 今回は皇帝とレラフォード代表の代理人なので、こちらから挨拶に出向かないといけない


 挨拶に出向く順番としては、陛下、教皇、竜王国国王、皇王、代理人の順番になる

 同列の者が参加している場合、代理人は一番最後と言う慣習があったりする

 話の順番も決まっているとは、貴族ってのは本当、面子に拘る厄介な生き物だと再確認してしまうな


「グラフィエル、15歳おめでとう」


「ありがとうございます」


 陛下からの祝辞を頂き、お礼を言う

 それを他の者達にもひたすら繰り返す

 一通り挨拶に回り、少し休憩を入れていると、陛下達が近づいてきた


「ご苦労様だな。気持ちはわかるぞ」


「陛下の場合、自分の数倍になりませんか?」


「数倍で済むならマシだな。お主も少しずつ、慣れたら良い」


「慣れるもんですかね」


 この様なやり取りをしていたのだが、傍に控えている父上は落ち着かないでいた

 俺が何かやらかさないかと、心配な模様

 父上、流石に信用が無さすぎませんか?


「グラフィエル殿も大きくなりましたね。家庭教師をしていた頃が懐かしいですよ」


「ヴァルケノズさん、年寄り臭いです」


「8年ですよ?流石に、老いますよ」


「余と出会ったのは、2年前か。そうなると、この中で一番付き合いが長いのは、教皇殿かな?」


「ゼルクト王はまだ良い方だと思うぞ。俺なんて1年経つか経たないかだぞ」


「ディクラス皇王の場合は、仕方ないでしょう。縁が出来ただけでも儲けものですよ」


「教皇殿に言われてもなぁ……」


 俺を交えて雑談をしている各国の王達だが、フットワークが軽過ぎると思うのは、俺だけではないはず

 普通は、自国の貴族の誕生日パーティーすら参加しないはず

 そんな人達が、他国の貴族の誕生日パーティーに参加する

 どう考えても、異常であった

 いや、我が国の王が参加してる時点で異常か……


「にしても、お主の考える食べ物は、奇抜だが美味いの」


「グラフィエル殿ですから……としか、言えませんな」


「我が竜王国の食材を良くもここまで……」


「ゼルクト王よ。グラフィエルは竜王国に所縁ゆかりがあったりするのか?」


「皆さん驚いていますけど、これって大部分は基礎からの派生ですよ?」


 パーティーに向けて、せっかくなので料理を調べてみたのだ

 調べて分かった事は、基礎料理は沢山あるのだが、派生料理が殆どないと言う事実だった

 例えば、シチューはあるのだが、グラタンやドリアが無かったり、味付けを変えていなかったりしていた

 なので、そこからの派生料理で今回は固めてみたわけだ


「そう言えば、婚約者殿達は一緒では無いのか?」


「皆で対応を分担してもらってます」


「それは良いのかの?」


「一人では対応しきれませんし、陛下達がいますので、言い訳は出来ますよ。それに……」


「余の息子にも群がるか……フェルも大変よの」


 当然だが、フェルとルラーナ姉も招待をし、参加してくれている

 そして、未だ側室が決まっていないフェルにも、参加者たちは群がり、自分の娘や妹を紹介するわけだ


 先程から「我が家には、今年13になる娘がおりまして」「殿下、メイドは足りておられますでしょうか?良ければ紹介した娘が」「我が妹は器量も良く、歳も近いですし」などと聞こえていた


 フェル本人は、当たり障りなく断っているが、流石に人数が多い様で、笑顔が少し引き攣っていた

 そんな中、婚約者達では紹介も出来ず、他愛もない話でお茶を濁す貴族や商人もいる

 皆大変だなぁ、と半分他人事の様に見ていた



 パーティーも終わりに近づいた頃、ヴァルケノズさんが近寄ってくる


「グラフィエル君、実は預かってる物があってね」


 その言葉の後、手紙を渡される

 殿ではなく、君呼びと言う事は、私事プライベートであると言う事か

 ヴァルケノズさんから手紙を受け取り、この場で読んでも良いかと確認する

 ヴァルケノズさんは軽く頷く


 封を切り、中を確認する

 中には、普通の便箋が入っていた

 手紙の差出人は……とても懐かしい人物だった


『ラフィへ


 満15歳おめでとう

 冒険者ランクはどのくらいになった?

 お前の事だから、俺と同じところまでは来ているだろう

 

 そう言えば、嫁は何人になった?

 予想だと10人くらいだとは思うが

 まぁ、20人でも30人でも好きなだけ嫁にしろや


 さて、本題に入るが、お前にプレゼントを用意した

 だが俺は、理由があって動くことが出来ねぇ

 そこでだ、場所を書いておくから取りに来て欲しい

 つうか、来い!

 ついでに、色々と教えてやるよ


 P.S. 一人で来い』


 なんだろうな……非常にイラつく

 そして、命令形な所も相変わらず

 よし!一発殴りに行こう!

 場所も明記されてるしな

 ただ、なんでこんな場所にいるのか?

 謎ではあったが、考えても仕方ないのでスルー

 会った時に聞けば良いや


「なんて書いてあったのですか?」


 恐る恐る、ヴァルケノズさんが訪ねてきた

 俺はどうやら、とても素敵な笑みを溢していたらしい


「ゼロからですよ。パーティーが終わったら、指定の場所に来いってだけです」


「そう言う事ですか……実はその手紙、6年前に預かったのですが、成人してから渡してくれ、と頼まれたものでしてね」


「そうだったんですか。迷惑分を代わって殴っておきましょうか?」


「後が怖いので、遠慮しておきますよ」


 そして、パーティーは無事に終了した

 それから二日後、俺は一人で指定された場所へと向かった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る