第111話 責任追及、貴族は口だけは達者

 ガマヴィチ財務卿からガラケー代を受け取り、部屋に戻ると、雑談会は終わっていた

 部屋には、リリィ、ティア、リアの3人が待っていてくれた

 3人と軽く話をして、リアと共に帰宅する

 リリィとティアも成人の義に出ているが、満15になるまでは両親と過ごすことになっている

 シアに関しては、ダズバイア卿の匙加減となっているが、将来はどうなるのだろうかね



 そして、成人の義から2週間が過ぎ、俺はまた王城に呼び出されていた

 この2週間は、冒険者の仕事と言うか義務と言うか、そんなことをして過ごしていたのだが、何か問題があったのだろうか?

 特に何もしてないはずなんだけどな


 王城に着き、通されたのは謁見の間

 と言う事は、何かしたのではなく、何か問題が発生した方か

 壁際には暇人な貴族派閥の貴族が並び、反対側には王族派閥の役職持ちや官僚と中立派閥が並んでいる


「(あれ?かなりの大事?)」


 謁見の間の空気もピリピリしており、緊張感も漂っている

 そんな中、陛下が玉座に座り、本日の議題が開始される



「クロノアス侯爵、楽にせよ」


「はっ」


 陛下のお言葉で顔を上げ、お言葉を待つ

 そして、陛下からのお言葉は予想を超えた内容だった


「先の遺跡探索と先の二陣の捜索であったが、第三陣とも連絡が途絶えた。さて、何か意見がある者はいるか?」


「陛下、宜しいでしょうか?」


「許す。申してみよ」


 陛下と貴族派の者が会話をしているが、俺は別の事を考えていた

 冒険者ギルドのギルマスと陛下から、第三陣の派遣者の情報は貰っている

 運良くSランクが参加していたことも覚えている

 あのメンバーで連絡不能で生死不明となれば、流石におかしい

 あらゆる可能性を考えていると、貴族派の貴族が嬉しそうな気を出しながらしてきた


「今回の三陣は、陛下のお考えの元、クロノアス侯爵の意見具申によって行われました。クロノアス侯爵の責任は大きいかと。そこで、何らかの罰が必要と思われます。陛下のお考えを汚した

 のですから」


 一人の貴族が、雄弁に俺への責任を追及する

 対する王族派はと言うと


「貴様!陛下が最終判断を出されたことに異を唱え、罰を要求するか!それは陛下に対して不敬であろう!」


 当然、このような問答が始まる

 ちなみに、どっちも小物貴族である

 あ、いや、誤解があるので訂正しよう

 貴族派閥の方は伯爵なので、爵位で言えば小者ではない

 考え方が小者なだけ

 王族派閥の方は男爵なので、小者貴族であるが、一応は貴族だ

 そしてこれを皮切りに、どうでも良い紛糾が始まる


「私は陛下に対して、異を唱えてはいませんよ。ただ、クロノアス卿に必要だと」


「クロノアス卿の意見を取り入れたのは陛下だ。貴殿は、陛下を侮辱するつもりか?」


「いえいえ。ですが、このままと言う訳にも行かないでしょう?」


「それを決めるのは陛下だ。貴殿の出る幕ではない!」


「では、何も罰は必要ないと?貴殿こそ、陛下のお考えに反しているのではないか?」


「私は、陛下のお考えを聞いてからでも遅くないと言っている!貴殿こそ、やけにクロノアス侯爵を罰したいように見えるが?」


「それは偏見でしょう。私は、罪には罰を、と言っているだけですよ?」


「減らず口を!ならば、陛下のお言葉を聞いてからでも良いではないか!」


「貴殿こそ、クロノアス卿を庇い過ぎではありませんか?もしや・・クロノアス卿と何か悪だくみをしてるのではありませんかな?」


「貴様・・・それは、私とクロノアス侯爵に対して不敬であろう!」


 とまぁ、不毛な言い争いが続いている

 陛下は黙って聞いているが、内心は「馬鹿どもが!」と叱責したんだろうな・・・出来んけど

 とここで、ファスクラ軍務卿が口を開く

 どうやら、不毛な言い争いに耐えかねた様だ


「この馬鹿どもが!陛下は対策を立てよと言っておられるのだ!いい加減にせんか!!」


 謁見の間に、軍務卿の怒声が響く

 両派閥とも黙り、静けさが戻る

 そんな静けさの中、口を開いたのはドバイクス侯爵でだった


「陛下、まずは情報を頂けませんでしょうか?何も知らないでは、対策の立てようもありません」


「そうだな。ドバイクス卿の言う通りであるな。陛下、私もお話を聞きたいと具申致します」


 ファスクラ軍務卿もドバイクス卿の意見を支持

 更には、中立派、王族派もドバイクス侯爵の意見を支持する

 貴族派は苦虫を噛み潰したような顔をするが


「そうですな。ドバイクス侯爵の言い分は正しい。私も情報が聞きたくあります」


 今まで黙っていた、貴族派の重鎮の一人っぽい貴族がドバイクス侯爵の指示に回った事で話が進む事となる


「情報か・・・実はな、先の話とさほど変わらん」


 陛下は静かに告げる

 そして、陛下の話は先に聞いた話とあまり変わらなった

 一つを除いてだが


「クロノアス卿の意見を尊重し、時空間適性のある者を二名、内外に配置して動向を監視しておった。連絡などは無かったが、順調に進んでいるようであると報告に上がっておったが、と連絡があった。余が知る情報はこれだけだ」


 その言葉に全員が再び沈黙する

 ただ、一つ疑問が残る

 突如反応が消えた、と陛下は仰った

 そうなると、内部に居た者が即死していなければその反応は出ないはずだ

 何か情報が欠けている気がする

 だが、そんな考えも貴族派閥の声で中断する


「やはり、クロノアス卿の進言が間違っていたのでは?となれば、クロノアス卿の責任は免れぬかと」


 子爵家の者がそう言うと、周りも追従し始める

 ただこうも思う


「(お前ら口先だけで、何にもしないんだろう?)」と


 陛下も分かっているのか、先程から冷めた視線を送っている

 その視線に気づかないから、君らは裏で穀潰しとか言われるんだよ?

 いや、陛下からすれば

 陛下は良く、こんな者達を上手く使うよな

 俺には無理なので、感心する

 チートでバグキャラでも、無理な事は沢山ある

 人には適材適所と言うものがあるのだと、気付かされてしまうな

 そんな陛下を見ていると、陛下が口を開いた


「ではお主に問うが、何か妙案があるのか?余も、クロノアス卿の案が最適であると判断して、許可を出したのだがな」


「い、いえ・・・私は、その・・」


 あ~、陛下も少し怒っていたようだ

 陛下の逆撃に答えられない貴族は、口を紡ぐ

 そこへ陛下は、追い打ちをかける


「言うだけ、責めるだけなら、誰でも出来る事だな。代替案が無い以上、お主の言葉は届かぬ。して、誰か案はあるのか?」


 陛下の言葉に誰も答えない

 全員が口を閉ざしたままであった

 時間が無駄に過ぎていく


「(はぁ~、助ける義理は無いけど、時間は有限だからなぁ)」


 陛下が上手く使うと信じて、俺は陛下に聞きたい事を聞く事にした


「陛下、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」


「なんだ?申してみよ」


「はっ!先程、陛下は『突如、反応が消えた』と申されました。そこで一つ不思議に思ったのですが、内部の者は即死したのでしょうか?」


「わからん。お主の考えはどうだ?」


「情報が不足しております。ですので、どんな些細な事でも良いので、何かないかと」


「ふむ・・・・そう言えば、不思議ではなかったので問題にしていなかったが、探索速度が急激に落ちたと報告に上がっていたな」


「速度が落ちたのですか?」


「うむ。ただ、強い魔物がいたり、怪我人が出れば落ちることもあるのだろう?」


「その通りですが・・・・どの程度の日数が経ってからでしょうか?」


「確か・・・半月経たぬうちだったと思うが・・誰か、報告書を持ってまいれ」


「はっ!」


 陛下の言葉に、近衛騎士の一人が謁見の間から出て行く

 数分後、書類を持った騎士が帰って来る

 陛下は書類を一通り見た後、俺に書類を渡すように騎士へ告げる

 書類を貰い、目を通していく

 特に可笑しな報告は無い

 無いのだが、何かが引っ掛かる

 とここで、気になる一文があった


【探索速度が4分の1に落ちたように感じる】


 この一文を見て、思考加速、全智神核を稼働させる


『なぁ、時空間って時間にも干渉できるよな?』


『出来ますよ。普通じゃ無理ですけど』


『条件は?』


『言葉にするのが難しいですが・・・仮の話をしましょう。魔法を使う時には内部と外部の魔力を使いますよね?』


『そうだな。でも、それがどう繋がるんだ?』


『時間干渉には、魔力を使いますが、外部からの観測と時間に触れる粒子と言うか、時間に干渉できる何かが必要になります』


『偶発的に出来る可能性は?』


『未知数ですね。あるかもしれませんし、無いかもしれません。ただ、空間を土台にして、一部の範囲を遅らせたりすることは可能です』


『ちょっと待て!おかしくないか!?空間収納は完全に時間を止めているだろう!?』


『空間収納は、この世界と別世界の次元の狭間を利用してますからね。時間の流れない宇宙の一部を利用してる解釈でお願いします』


『OH・・・聞かなきゃ良かった』


『あ、でも、今回の場合は、空間収納に似てはいますね』


 そう言った後、全智さんは引っ込んだ

 つまりは、これが答えなのだろうと思う

 そしてもう一つ・・これ以上は教えられないのだろう

 思考加速を切らずに、陛下にどう説明しようか考えるが・・・はっはっは、何も出てこねぇorz

 仕方ない・・・出たとこ勝負だな

 思考加速を切って、陛下に仮設を説明する


「陛下、一つだけ可能性がある部分が出てきました。ただ、確証はありません」


「申してみよ」


「遺跡内部の途中から、外の時間と内部の経過時間が違う可能性があります」


「何故、そう思った?」


「報告書にある一文です。そこには【探索速度が4分の1に落ちたように感じる】と書かれてありました。この文章から考えられる状況は二つ。一つは怪我人による速度低下、もう一つが・・」


「お主が言った事か・・・だが、認識不能になった事への説明が足りておらんな」


「ですから、前者ではなく、後者である可能性を進言させて頂きました」


「・・・・そうか。後者の場合だと、時空間魔法に何らかの干渉があるとみておるのだな?」


「はい。ただ、あくまでも仮説です。もしかしたら前者で、怪我人過多の為に全滅した可能性もあります」


「確率は?」


「半々としか。こればかりは、潜って見ないとわかりません。ただ、3陣ともとなると・・・」


「後者を疑わざるを得ないか・・・4分の1だと、内部での経過時間はそこまで経っていない。生存してる可能性は十分にあるわけか」


「もしかすると、全員が生き残っている可能性が」


「問題は、誰を送り込むかであるが」


 陛下はそこで言葉を区切り、軍務卿の方を見る

 軍務卿は静かに首を振る

 まぁ、そうなるよな


 遺跡探索は、王国から冒険者ギルドに指名依頼として出している

 向こう冒険者ギルド側が音を上げて返してこないのに、王国側の判断で勝手に派兵は出来ない

 どちらにもプライドがあるから尚更だ

 そうなると、お互いの顔を立て、事を荒立てないようにするには、一つしかない

 俺の派遣だな・・・・


 王国の貴族で最高ランクの冒険者

 俺が出れば、双方の面目は保てるわけだが、ここで貴族派閥の馬鹿が言ってはならない事を言う


「でしたら、クロノアス卿を派遣すれば問題無いな。元々、貴殿の責任もあるのだから、貴殿が行くべきだ」


 爵位が下の者が偉そうに言葉を発する

 この貴族とは親でも子でもない

 貴族としても、血の繋がりとしても・・な

 そして、その判断をするのは陛下だ

 貴族の・・それも、子爵如きが命令するような言葉で言ってはならない

 若造で、新興貴族で、王家のお気に入り

 嫉妬も結構だが、時と場所を選ばないと大変なことになる

 そしてそれは、現実の物となる


「ほう・・・では、お主も監視として共に出向くのだな?それならば、余からも許可を出そうではないか」


「え?は、いや・・・私は、その、後方担当・・・物資などの補給専門でして・・・」


「そうか・・・ならば、クリンバソ子爵が全ての物資を一人で用意せよ。勿論私財でな・・・余が命令を出すにしても、動くのは冒険者としてのクロノアス卿であるからな」


「そ、その・・・」


「嫌だと申すのか?ならば、クロノアス卿に着いて行けばよい。物資はこちらで用意しよう」


「そ、それも・・・」


「どれもこれも嫌では話にならん。お主には失望した。以降、会議への出席を禁じ「お、お待ちください!」」


 おや、雲行きが怪しくなってきたな

 陛下も大分、怒ってらしたからな

 表情にも雰囲気にも出してはいないが、気付いてる人は気付いてる

 特に近衛や役職持ちのお偉いさんとか

 後は、ダズバイア侯爵や先程、意見に賛同した貴族派の侯爵も気付いているな


 クリンバソ子爵は退くも地獄、進も地獄状態だ

 自業自得ともいうが

 結局、物資の経費を自腹で全て出すことに同意したクリンバソ子爵

 彼の家は暫くの間、金欠だろう

 もしかしたら、借金濡れになるかもな


 で、俺には遺跡内の生存者捜索が言い渡された

 ただ、ガマヴィチ財務卿は渋い顔をしている

 俺は何故そんな顔をしているのかわからないまま、謁見の間にて勅命を受け、翌日に出立することになった


 翌日までに物資を集めないといけないクリンバソ子爵は、必死に資金繰りをして間に合わせてきた

 風の噂では、商人ではなく、王家に借金の申し込みをしたらしい

 クリンバソ子爵は、次代になっても借金まみれであったが、それはまた、別のお話

 と言うか、俺には関係ないしね

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