第32話 セフィッド神聖国

 7月中頃に夏季休暇に入り王家ご一行を含めた級友と兄姉は快適な馬車の旅を順調に進んでいた。

 かなりの大所帯になったので俺は時空間魔法と創造魔法を駆使して馬車内を快適空間に変えて旅をしている。


 出発前に王家が使う馬車と俺達が使う馬車の内部空間を広げて固定させた。

 馬車の大きさに比べ内部は小さな屋敷程の広さがある空間になっている。

 更に就寝時には男女別で寝れる工夫もばっちりである。

 馬車内には限定転移陣を設置し馬車から降りずとも条件を満たせば馬車~馬車へと移動できる仕組みも作っておいた。

 転移陣はゲートを床の一部に付与して馬車内に設置したのだ。が、王家の馬車には男子は1人では訪問不可や女性陣も許可がなければ訪問不可など色々と縛りを含ませるのは苦労した。


 3分の1近くが王族なので使用人の馬車もある。

 そちらも同じく拡張していて内部にはキッチンも完備しトイレは転移陣を応用して水洗式にしてあり大層喜ばれた。

 女性が旅で大変なのはトイレ事情と清潔感で、皆苦労していると護衛の女性冒険者から聞かされた。

 快適さを求めると水洗式トイレは必須だ。

 快適さも苦労してると聞いたので風呂も備え付けてある。

 最もこちらは女性用と男性用しか作る時間が無かったのだが王家の方々は皆フレンドリーなのか冒険者・平民など入り混じっても文句は出なかった。

 王妃曰く、


「贅沢を言えば際限がないですし、寧ろ諦めていたものがあるこの状況に満足すべきなのです」


 との事で、半分無礼講になっているちょっと異質な旅だった。

 食事も一緒に取るのだが近衛騎士と冒険者は流石に別々だ。

 彼らは護衛なのだから流石に立場をわきまえる。

 王妃は順番制で数名毎に時間を決め一緒に取れば良いと言ったのだが全員が申し出を辞退した。

 気持ちはわかるぞ護衛諸君。 護衛達は食事の際は先ず近衛と冒険者の前衛と後衛の半分ずつが食事を取り、その後に残った者が食事を取るようにしていた。


 馬車は全部で5台あり俺達級友組と兄姉達の馬車に王家の馬車2台と護衛用の馬車2台で、隊列は進行方向から護衛<俺達<王妃<使用人<護衛の順番で並んで順調に進む。

 セフィッド神聖国迄2週間ほどだがここまで快適な旅はまず無いだろう。

 馬車の中は冷暖房もきちんと完備してあるし。

 王妃様方からは帰国した際には元に戻さずこの馬車を買い上げるとまで言われていたので俺は売っても良いものか悩んでいたのは秘密だ。

 作った俺が言うのも変だが明らかにヤバい馬車だからな。






 出国して1週間ほど経つが魔物の襲撃は一切無い。

 護衛依頼をよく受けるDランクの冒険者がかなり活躍している。

 感知能力がかなり高く回避できる魔物は回避し無理な場合はこちらから先手を打てるからだ。

 被害は最小限でその被害も冒険者が少し傷を負うくらいで回復魔法でどうにでもなる状況。

 戦闘は高ランク者がいるので余程の事が無い限り苦労はない。

 旅は更に進み残り3日で到着と言う所で初めて襲撃を受けた。

 魔物ではなく盗賊の襲撃だ。


 護衛人数が多いので価値があるものが多いと思われたのだろうがこれだけの護衛がいる一行を襲うなど正気の沙汰ではない。

 俺は警戒度を上げ探知で強敵がいないかを探るがそこまで強い者はいない。

 この盗賊は全員アホなのだろうか?

 200人以上はいるだろうが盗賊一人一人の実力はEランクで高くてもDランク中位ほどだ。

 当然相手にならないと思っていたのだが結構苦戦していた。

 あれ?おかしくね?そこで俺は探知の精度を上げると理由が分かった。

 弱体化魔法と強化魔法が何重にもかけられていたのだ。

 これなら数で潰せば普通ならば十分勝機はある。

 俺という普通とはかけ離れた者がいなければな。


 俺は即座に魔法を中和しつつ馬車から降り戦闘へ参加する。

 戦闘態勢でないのは別に脅威ではないからだ。

 弱体化魔法を中和しつつ相手の魔法使いの位置を把握していく。

 盗賊側の魔法使いは中和されてる事に気付いていないので魔力がだだ洩れだ。

 これなら探知魔法を使わなくても弱体化を使ってる者は全て把握できる。

 そもそも打ち消しが基本で中和は出来る者が限りなく少ないのだ。

 打ち消しは同じ魔力量をぶつけて相殺して解除させるのに対し、中和は拮抗させての押し合いになるので魔法は発動したままになる。

 更に言えば中和が出来る=中和されてるのが分かるが実力のある魔法使いだ。

 魔力の流れが肌で感じられるから当然である。


 盗賊側の魔法使いはせいぜい使えても上級と判断した俺はレジスト出来ない様に魔力を込めた魔法を盗賊側の魔法使い達に放つ

 広範囲に20人位るので探知で狙いをつけ雷魔法を使う。

 使う魔法はサンダースコールでそれを広範囲の狙い撃ちで放つ。

 多分後衛は全て魔法使いだろうと判断もしていたので強化魔法も解ける筈だ。


 落雷の轟音が十秒ほど響き、収まった時には魔法使い達は全員息絶えていた。

 魔法効果も当然消滅し不利を悟った盗賊が逃げようとするが俺は瞬時に土魔法で壁を作り一人も逃がさないようにする。

 護衛達に馬車迄集まる様に告げ全員集まったところで馬車を中心に風魔法で竜巻を発生させる。

 こちらに被害が無い様に馬車の周りは全て竜巻で外は盗賊共だけだ。

 複数人の盗賊が意を決して竜巻に飛び込むも、飛び込んだ瞬間風刃によって細切れになる。

 盗賊共に逃げ場は無く竜巻が止んだ後には盗賊共の残骸だけが転がっていた。


 全て片付けた後、少し後悔した。

 辺り一面の惨状が酷い。

 ただ、幸いなのは調整したせいもあるが盗賊たちの死体が区別できることだ。

 護衛の際に情報カードが渡されるので盗賊の情報は登録しないといけない。

 護衛全員で手分けして盗賊の情報を登録して行く。

 登録し終えた死体は全員で決めた場所へ一纏めにして置いておく。

 小1時間ほどで全ての作業が終わり俺の蒼炎にて死体を骨も残さず焼き尽くす。

 最後の作業も終わり一行は旅を再開するのだがやっぱりと言うか色んな人達から質問攻めにあった。

 もう慣れたので「魔法に関しては幼少期からの修練」で片づけた。

 最後に盗賊襲撃があるも、3日後に一行はセフィッド神聖国の聖都アルバータに到着した。





 聖都アルバータ

 セフィッド神聖国建国時に用いられた神器の名前を使ったとされるが詳細は不明である。

 アルバータの入り口は大きな門があり門番達が入国審査をしている。

 俺達も本来は並んで受けないといけない。

 しかし馬車は入国審査待ちの人達を追い抜き御者が門番に話をする。

 話すこと数分、門番達が左側の門を開き俺達を中に入れる。

 流石は王家で、フリーパスである。

 いや、一応確認はしてるからVIP待遇が正解かな?



 アルバータについた一行は先ずは宿の確保が最優先と言った所で待ったをかける。

 手紙で現教皇に連絡をしているので護衛を含めた全員の寝床は確保済と告げる。

 観光は翌日から行おうと決まった。

 俺は手紙の件があるので暫くは別行動だと伝えると全員からブーイングが上がった。

 つうか王妃様は公務あるんじゃねぇのかよ!と突っ込みそうになったが何とか堪えた。


 寝床が確保できているとの事で指定された場所に向かうとそこには超デカい屋敷が建っていた。

 実家の屋敷よりもデカい。

 全員馬車から降りると王家の者以外は屋敷を見上げてポカーンとする。

 王妃様達が中に入るように促す。

 外観で分かっていたがやはりこの屋敷はデカい。

 使用人と護衛含め90人位いるのだが全員が一人一部屋与えられる程デカいのだ。


 王妃様方が言うには、両国の親睦の為にランシェス王国が土地も含めて買い上げて、現地の職人に頼み1か月半で建てた大使館みたいな役割の屋敷である。

 使用してない時の清掃と管理はセフィッド神聖国側が定期的に行い、外交や避暑の際には両国合同警備が行われる。

 屋敷内への滞在時は万が一を考慮してランシェス王国側の使用人のみ雇用となる。

 一通り話も終わり順番に部屋へと案内される。

 男性陣は2階に女性陣は3階に各々案内され荷物を降ろす。


 現在昼過ぎ、荷物を部屋に降ろしとりあえずベッドに座り寝転ぶ。

 今日はこれからどう動こうかな?と考えていると、降ろした荷物の一つがゴソゴソ動き出し中からルリとハクが出てくる。

 毎年夏季休暇の遊びの時にも二匹を連れて行ってたのだが今回は迷った。

 王家に粗相とかしたらヤバいかもと思ったので二匹専用の簡易部屋バッグを作って連れてきたのだ。

 護衛としても優秀で強さも折り紙付きだしな。


 バッグの中は時空間魔法で拡張し二匹がのんびりできる部屋を作るだけだ。

 食事は中に大量の肉と野菜を入れておいて二匹に管理して食べる様にと告げて運動不足にもならない様に走り回れる場所も作っておいた。

 二匹は旅が終わったので出てきたわけだ。

 バッグの中じゃ風とか吹かないし日差しも無いからな。

 外の空気を吸いたいのも理解できるので二匹の頭を撫でてから少し窓を開け風を入れる。

 二匹は目を細め気持ちよさそうに寝そべっているので部屋からは緊急時以外は許可なく出ない様に言って俺は部屋を後にした。


 1階に降りると使用人を除いて全員が集まっていた。

 一応外出時の護衛なども決めないといけないからだ。

 当然だがフェルは護衛優先度1位である。

 2位が第1王妃と思っていたが優先度2位はまさかのルラーナ姉であった。

 第1王妃の言葉は至極真っ当でもあるが意外と言えば意外であった。


「後継者の王太子と婚約者が生き残れば子を為して王家は続きますから」


 自分の身より先の未来だが、最悪の事態が起こらないようにするのが近衛騎士と護衛の役目だ。


 王妃様方は集団で行動する為、近衛騎士3名とDランクパーティーが護衛に着き、フェルとルラーナ姉には近衛2名にウォルド達のパーティーが護衛に、王女様4名には近衛4名とSランクが護衛に、学生には近衛1名でクロノアス家の兄姉4人には近衛1名とAランクパーティーが護衛する。

 学生たちの護衛が少ないのはヴィオレッタとリアーヌが護衛の数に含まれているからである。

 それと他にもそこそこ戦闘できる級友がいるためだ。

 だがそれでも少ないので念の為にハクを護衛につけよう。


 俺にも護衛をと言われたが断った。

 ぶっちゃけこの中で1番強いのが俺だし、万が一を想定してルリを護衛にするからだ。

 外出時はなるべく単独行動は控える様にと言われ、外出予定の無いものは外出する際に他の護衛を数名連れて行く等を相談するようにと言われた。

 他国なので念には念を入れるって事だ。


 話は終わったのだがまだ陽は高い。

 使用人数名は明日からの料理の為、買い出しに出るそうだ。

 今晩は全員で外食にすることが決定している。

 まだ時間もあるし俺は手紙の差出人の元へ向かう事にした。

 とりあえず到着したことを伝えておけば会え無くても向こうから呼びに来るだろう。

 ルリを連れて外出する事をたまたまいたフェルに伝え中央へと向かう。


 セフィッド神聖国の中央には教会本部があり手紙の差出人もそこにいる。

 受付のシスターに手紙を見せて会えるか確認してもらう。

 30分ほど待ち、明日は昼以降ならば予定を開けておくと伝えられたので了承し、次にセフィッド神聖国の冒険者ギルドへと向かう。

 片道分の依頼報告をしなければいけないからだ。

 今回の護衛依頼のリーダーは俺になっているので俺が報告しに行かねばならなかった。

 教会本部を出て街中を歩き冒険者ギルドへ向かう。


 15分程で冒険者ギルドへ着き入り口を開け中へ入る。

 誰か入れば当然何人かは入って来た者を見るが13歳の子供が入って来たので当然絡まれる。

 まぁ、例によって実力行使で黙らせましたが何か?

 年齢の事もありギルド内で見ていた人間は驚いていたが俺はそれを無視して受付のお姉さんに用件とランシェス王国のギルマスからセフィッド神聖国のギルマスにと預かっていた手紙を渡す。

 ギルドカードの提示を言われたので見せるとまた驚かれた。

 まぁ13歳の子供がAランクならそりゃそうなるわな。


 手紙をセフィッド神聖国のギルマスが確認して返事が必要なら再度預けるので待っていて欲しいと言われギルド内にある椅子に腰かけて待つこと5分。

 上から騒がしい音がして二人の人物が降りてきた。

 セフィッド神聖国のギルマスとサブマスである。

 二人は俺を見付けると「詳しい話は上で」と言ってきたので案内されて執務室で話をすることに。

 何故わざわざ執務室で話を?とも思ったがいくつか理由があった。

 1つ、王家の護衛依頼であった事。

 2つ、スタンビードでの功労の件。

 3つ、ランシェス王国とセフィッド神聖国の両国のトップがそれなりの旧知。

 4つ、Aランクである事。

 なのだが、最後のランクはさして重要ではなくね?


 また手紙の内容は俺への扱いについて。

 絡んでくる冒険者が絶対に居るから騒ぎにならない様にして欲しいとの内容だった。

 スタンビードの事は各国の冒険者ギルドで話題になっているらしく、出来るならば自分の元に引き入れたいギルドが多く、また国家間でも引き抜きの話が出ているらしく、未成年を言い訳にして問題を先送りにしているそうだ。


 セフィッド神聖国側はトップが知り合いで引き抜き合戦には参加してなく、隣国でもあるのでギルマス同士も相互協力体制にしているそうで、何かあった場合に万が一を考えて手紙を書いたそうだ。

 俺はセフィッド神聖国内では護衛任務が最優先である事を伝え、基本セフィッド神聖国内では依頼を受けないと告げる。

 ギルド側もランシェス王国の護衛任務に来てる冒険者には騒ぎになるようなことは慎むよう注意喚起をするとの事。

 万が一ランシェス王国の様なスタンビードが起こった場合には教皇様経由で指名依頼として出す可能性があることだけ了承して欲しいと言われたのでそこは了承しといた。


 小1時間程雑談も含めて話をして執務室を出て下に降りる。 ギルド内の冒険者は興味津々な者と嫉妬している者がいた。

 ギルマスに俺は男爵家当主である事を今回は表に出して良いから極力騒ぎにならない様にしてくれと頼んでおいた。

 貴族相手に騒ぎを起こす者は0とは言わないがかなり少ないので出来る限りの安全対策をしとこうと手を打ったのだ。

 ギルマスも了承し騒ぎを起こした者は罰金ありとして張り紙をしたのを見てギルドを後にする。

 時間は夕方前になっていたので一度屋敷に戻る事にした。


 屋敷に戻ると各々が寛いでいた。

 王家の方々と会話が弾んでいる女性陣はリビングで談笑中

 男性陣は別室で会話をしているそうだ。

 護衛の者達は半分を屋敷の警護に回し残り半分は街の中を散策して危険な場所や要注意人物に冒険者の質等を調べているそうだ。

 万が一を考えて現地で護衛を雇う事になった際の下調べもしているらしい。

 俺はリビングでその話を聞き、軽く挨拶して部屋に戻る。

 部屋に入るとルリとハクが寝転がっていた。

 夕食まで時間がまだあるので二匹を撫でて時間を潰した。


 2時間位経ち今日は外食が決まっていたので護衛含め全員で夕食を食べに行く。

 食事の場所は高級レストランである。

 王族がいるから当然だよな。

 特に何事も無く夕食は談笑しながら楽しく進み1日が終わった。

 明日は手紙の送り主との面会だ。


 どんな話になるのやら。

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