少年期・神聖国編

第31話 招待状と下準備

 4月初日、今日は高度高等学院の入学式だ。

 高等学校元Sクラスは全員が入学式で顔を合わせる。

 高等学校の時と同様にながいなが~い学院長の挨拶が終り全員が教室へ向かう。

 高度高等学院も成績上位者から順に呼ばれて教室に入って行く。

 1番に呼ばれたのは俺で、教師曰く。


「推薦枠での入学だがクラス分け試験の結果は推薦枠関係無しに主席」


 らしく、上位12席内に入らなくても実績があるので入学取り消しは無いそうだ。

 後、席次は変われど高等学校元Sクラス組は全員が上位成績だった。

 席次は全部で12席あり3人が初顔合わせとなった。


 尚、ここにバカな貴族の子はいない、

 この学院に入るには学校時代にいたバカ貴族の子は試験結果が良くても性格に難ありと学校から申告があれば書類審査で落とされる。

 また、高等学校みたいに面接が無く、学校時代の立ち居振る舞いで全て決まる。

 なので初顔合わせの3人は学校時代は少なくとも性格に難がある人物では無いと思う。

 ただ相変わらず俺のクラスの女子率が高すぎるのは何かの陰謀だろうか?

 12人中9人が女子で新しい男子がいないのだ、

 ティアとリリィが何か睨んでるけど無視して席に着こう。


 席についてだが高等学校みたいに席次順に並んでいるわけではない。

 長方形の机が2つ並んで3列になっていて後方が見やすい様に段差があり好きな席に座れる。

 序列はあるので席次を現す装飾品を在学中は身に着けて過ごす。

 序列=席次だが何席とこだわるのは学び舎だからと示すためでもある。


 席次とクラスが入れ替わる時期は高等学校の内容と同じだが、推薦者は席次は変動しても最上位クラスから落とされる事はほぼない。

 何故か?推薦者の半分を特待生が占める為である。

 そして、特待生は上位か最上位のクラスに絶対に振り分けられるので、そのクラスから落ちるのは特待生では無くなる事と同意義なのだ。

 大抵はは本人が何か罪を犯した場合か学院側が不適切と判断した場合のみだ。

 過去に2人ほどいたそうだが滅多に無いので頭の片隅にでも置いておこう。

 後、席次についてだが。


 主席  グラフィエル・フィン・クロノアス。

 2席  フェルジュ・ラグリグ・フィン・ランシェス。

 3席  リリアーヌ・ラグリグ・フィン・ランシェス。

 4席  ベガドリオ・シャミット。

 5席  ティアンネ・フィン・ランシェス。

 6席  セージェナ・フィン・パグランド。

 7席  リアーヌ・フィン・ティオール。

 8席  ヴィオレッタ・フィン・ダグレス。ト

 9席  クリュレナ・フィン・アグヌステ。

 10席 ミュリアム・フィン・エッカフォルト。

 11席 ナノーア・ワグナール。

 12席 ケアリー・ガウワビア。


 で、新しい級友は6・9・11席の女子3名で貴族2名平民1名だ。

 全員軽く自己紹介も済み、ほどなくして教師が入ってきて挨拶と説明を始める。


 教師は3年間の担任で主に朝の朝礼や連絡事項を担当し授業は別で受け持つ。

 説明を聞いて面白かったのが高度高等学院では授業の選択は自由で、どの選択授業も定員を気にしなくて良いのもあるが、一番面白かったのは選択授業が0でも全く問題ないのだ。

 但し、選択授業0の生徒は1年の間に何か実績を残さなければならない。

 実績については別に研究途上でも良いのだが何か成果を発表しなければならない。

 成果と言っても様々で判断するのは学院側の教師なので、本人が成果と思っていても学院側が認めない成果は必ず毎年出てくる。

 ただ、救済案もあり2年目からは学院側が提示した授業を受けつつ卒業まで毎年成果を出せれば1年目の成績を帳消しにし特待生で卒業できる。

 冒険者志望の者はランクアップが成果になったりもする。


 学院側の通達で俺に関して言えば少なくとも1年間は安泰になっている。

 スタンビード殲滅戦の英雄でAランクスタートの新人冒険者が今年の成果になっている。

 何としても特待生で迎えたかった学院側の配慮である。

 まぁ、それが無くてもマヨネーズとか出せば十分成果になると思うけど。


 次に選択授業だが、授業内容はより高度な授業で高等学校では学べなかった内容もあるそうだが授業に出る者は意外にも少ない。

 学院全体の半分が授業を受けず研究し、成果を上げてはいるが、研究が終了した成果を上げて卒業した者は学院成立以降未だに0人である。

 当然の話だが、授業への出席も1年きちんと出れば成果になる。

 最も俺とリアーヌは冒険者の実績で成果を出すと決めてある。


 ヴィオレッタは冒険者で戦闘経験を積んで女性騎士を目指すそうだ。

 男尊女卑の世界なので貴族といえど女性が騎士になるのは限りなく0に近い。

 だが騎士家系である以上は騎士を目指すとの事。

 本人はその前に何処かへ嫁ぐ可能性が高いとも言っているが。

 ヴィオレッタは冒険者を続けるけど活動出来ない日が多くなるみたいだ。


 他の皆も授業というよりは各々が成果を出しながら長所を伸ばす方向性で行くらしい。

 そんな感じで高度高等学院での生活が始まった。









 学院入学後、リアーヌはCランク試験を突破し無事にCランクへと上がった。

 次はBランクへの試験を受けるために活動するのだがここで問題が発生する。

 俺は暇な時に学院に行けば良いのだがリアーヌは週1出席と言う枷がある。

 CからBになりたくても受けれない依頼が多く、特に遠出の依頼が受けられない。

 Bランク試験を認められそうな依頼は、遠出が必要な依頼も多いからである。

 学院側もある程度の考慮はするが俺達は生徒でなかなか考慮して貰えないのが実情である。


 そんな状況の中、2か月が過ぎ6月のとある日、俺の元に1通の招待状が届いた。

 差出人はと・・・は?何でこの人が俺に招待状を?

 確かに知ってるとは言え簡単に会える人物ではなくなっているだろうに。

 今日も依頼を受けるつもりだったが予定を変更して父にどうしたら良いか聞きに行った。


「ラフィはどうしたいんだ?」


 父の答えはその一言だけだった。

 俺は他国にも行ってみたいと話すがスタンビートの後に倒れて、両親を不安にさせてしまった負い目を感じている事も素直に話した。

 隠すことなく父に想いを伝えると。


「お前ももう13だ。後2年で成人する。私は他国を見に行っても良いとは考えている。後は母さんから許可を取れ」


 そう言って父は話を終わらせた。

 やっぱりスタンビードの事が尾を引いてるよなぁ。

 そう考えつつ俺は母さん達に話をしに行く。

 ・・・・・・・・部屋の前まで来たがなんて話そう?

 躊躇していると中から母さん達がドアを開け部屋へと招き入れてくれた。

 母さん達は俺に一言だけ。


「無事に帰ってくるならしたい事をしなさい」


 と一言だけ言って許可をくれた。

 1人でも大丈夫だが両親にこれ以上心配はさせられないと考え、俺は冒険者グラフィエル・フィン・クロノアスではなくグラフィエル・フィン・クロノアス男爵として向かう事にした。




 さて、先に言ったクロノアス男爵としてについてだが、現在の俺はクロノアス辺境伯家の屋敷ではなく下贈された男爵家の屋敷に住んでいる。

 ただ相手方が男爵になったのを知らないのか?

 手紙は両親の屋敷にクロノアス家三男宛で届いていた。

 だから今回はクロノアス家三男の立場になり両親へ相談したのだ。


 尚、成人した兄姉達はまだ実家である。

 但し、ルラーナ姉は1年後に家を出て王宮に住まう事が決定している。

 フェルの成人まで後2年あるので1年前から王宮に一緒に住んでもらうそうだ。

 王宮住まいは今までとは生活が異なるので王妃様方が教育しルラーナ姉に慣れさせるらしい。

 そこで今年は級友12名に兄姉全員も含めて夏季休暇を過ごそうと考えていた。

 この手紙の場所は夏季休暇に最適では?と考えた俺は皆に今年の夏季休暇の目的地を話した。


 高度高等学院にも高等学校と同じく長期休暇が3回ある。

 但し、その中の1回である春季休暇は取りたい人はご自由にって感じだ。

 夏季と冬季は学院自体が休みになるから強制だが。


 目的地を告げると全員が賛同してくれたので今年の夏季休暇の場所は決まった。 場所はセフィッド神聖国の聖都アルバータ。

 王家の者も共に他国へと行くので陛下に報告はしないとな。


 翌日、陛下に謁見を申し込むと直ぐに応接室へと案内された。

 普通は謁見を申し込んだら順番待ちで早くても数日を要するが俺は大抵待たずに通される。

 応接室へ入ると陛下と王妃5人に王女4名が勢ぞろいしていた。

 そして陛下から聞かされた内容に俺は開いた口が塞がらなかった。


 開いた口が塞がらないのは当たり前だと誰もが思うだろう。

 実は第3王女と第4王女が高度高等学院の先輩で、王家全員がクロノアス家と同じで高度高等学院に通い現在全員が卒業生である。

 更に第1王女と長男と長女が同級生で第2王女と次女が同級生だった。

 クロノアス家と王家の同級生率がおかしすぎない?

 更に陛下と王妃達は残る4人の王女も夏季休暇に他国旅行へ連れて行けと言う。

 無茶ぶり過ぎる言葉にそりゃ開いた口が塞がらないのもわかるだろ?

 何かあったら間違いなく首ちょんぱされる案件だし。


 護衛に対して聞くと近衛騎士から6名出すそうだ。

 内1名は筆頭近衛騎士の長男でヴィオレッタの兄である。

 残りは俺が冒険者を雇えとの事だ。

 依頼料は王家持ちで契約期間については話し合いの末2か月の専属護衛契約にした。

 依頼を任せる冒険者については俺に一任で丸投げである。

 何人かは当てがあるので構わないが殿下と王女殿下全員となると護衛の数はかなり必要だろうな。

 そう考えていると更に王妃も全員参加すると言われ俺はもう勘弁してくれと言いそうになったのを何とか飲み込んだ。


「セフィッド神聖国には近々行かねばならなかったので」


 と第一王妃に言われてしまい、どうあがいても断れない状況になってしまった。

 俺は陛下に依頼料については破格で出す事と近衛を後5名追加要求。

 更に護衛依頼を受けた冒険者の中から国の認可が必要なランク持ちの冒険者で依頼完了した後に俺から申請した名前の冒険者については1ランク上げる事も確約させた。

 こうなったら派手にやったるわー!!


 かくして大所帯になった護衛の選別を冒険者ギルドですることになった。

 依頼期間は2か月で報酬は1人につき白金貨8枚。

 高ランク冒険者だと1か月で白金貨2枚までなら高確率で稼げてしまうので4倍にした。

 高ランクでもAやSでも2か月で8枚はほぼ不可能だからだ。

 ランシェス王国はそこまで高ランクの依頼は無いので稼げても1人辺り月で白金貨1枚位だが依頼が豊富な為に複数受けたりする者も多く割と稼ぎやすい。

 稀に高ランク依頼や高額依頼も張り出され指名依頼もそこそこあるので高ランクが拠点にしやすい。

 ランクを上げたい人は地方の栄えている冒険者ギルドで依頼をこなすが、ある程度のランクになると王都の方へと戻って来て仕事をする者も多いのだ。

 安定か一攫千金かを高ランクは選べるのが冒険者の魅力の1つでもある。


 この世界の通貨で白金貨は前世に換算すると白金貨1枚で約1億位の価値がある。

 今回の依頼料は2か月で8億と超破格な依頼なのだが万が一があると護衛全員の首が飛びかねないリスク付きの依頼なので、ある意味ハイリスクハイリターンだ。

 冒険者の護衛選びは慎重に行う必要があり、高ランク冒険者の雇用は絶対条件になる。

 出発は約1か月後なので募集をかけて週に2度位で面談を行う

 ギルマスには会議場を使わせて貰える様に頼んだ。


 冒険者ギルドの会議場は個人で使う場合には使用料を取られる。

 但し、複数パーティーでの大規模討伐依頼や大規模護衛などの打ち合わせに使う場合は優遇される。

 今回は大規模護衛の面談なので使用料は本来であれば個人使用料の半額になるのだが、事実上は陛下の指名依頼とほぼ変わりないこともあり、ギルマスは同情の目を向けながら。


「会議場を週2回なら無料で使って構わんよ。グラフィエルも大変だな」


 と言って無料使用の手続きをして去って行った。




 面談ではかなりの人数が応募してきた。

 今回は護衛任務なのでDランク以上なら誰でも受けれる。

 しかし王家絡みなので貴族の立場で不相応とみなした者は不合格になる。

 募集人数は最低25人だが条件もかなり厳しめの設定だがランクは問わない事にしておいた。

 チャンスは誰にでも平等にあるべきだが日頃の行いも大事だと安易に告げる為だ。

 尤もその意味を理解できないと面談突破は難しい。

 こちらとしては問題を起こさない冒険者が重要なので、見極め必須だからだ。

 尚、陛下には全て一任する許可を貰っているので問題ない。


 応募してきた冒険者だが、やはりCランクまでが多い。

 だがCランクでくすぶってる冒険者は問題を起こしやすいか実力不足が大半だ。

 ギルドから警告や注意・罰金を受けたことがあったり、ギリギリ犯罪に至ってないグレーゾーンの連中や依頼主と良く揉めたりする連中は当然却下である。

 そうなると必然的にCランク冒険者を雇うのは減り、高ランク冒険者に偏るのは仕方ないだろう。

 そこが悪循環になり護衛依頼の選別は難航し始める。


 現在決まっているのはウォルド達のパーティー5名に俺の試験官をした冒険者2名のパーティー2つで計8名とDランクだが護衛依頼で問題なく仕事が出来ているパーティーが4名で計17名だ。

 最低25人と言ったが出来るなら30名は欲しいと考えているので後半分足りない。

 そこで俺は3名分を無理矢理埋める事にした。

 その3名とは俺・リアーヌ・ヴィオレッタ。

 馬車内での護衛という事にすれば良いと考えた。


 これで残り10名だが護衛依頼決定メンバーから推薦が出た。

 腕は確かで護衛依頼自体あまり受けないが受けた場合も依頼主と揉める事はないらしい。

 更にそのパーティーはどうにかしてAランクに上がってとある魔物を狩りたいそうだ。

 面談は外せない事を言うと。


「餌で釣るから問題ない。最悪白金貨を減らしてもAランクに上げる事を優先して貰えるなら受けるはず」


 との事で面談する事にした。

 陛下にも相談をして俺が判断してAで問題無いなら昇格させる約束も取り付けた。


 後日紹介された冒険者は6人パーティーでかなりの熟練者と一目でわかるほどだ。

 年も全員が20代でかなりの死線を潜ってきた冒険者であった。

 言葉使いも悪くなく、何故これだけの実力者が未だにBなのか理解できない。

 聞いても良いものか悩むが聞いてみる事にした。


 彼らは護衛依頼をほぼ受けておらず、苦手だと思われており、未だにBで足踏みしているそうだ。

 そんな事実は無く人数が6人だから報酬の良い依頼をこなしていった結果、必然的に護衛依頼を避けてしまい噂が広まったらしい。

 俺は問題ないとして彼らを雇用した。

 全員に伝えてあるが万が一引き受けられなくなった場合は1週間前には伝える様にと釘を刺しておいた。


 特に問題も無く月日は流れ1か月後の出発の日。

 近衛騎士11名・冒険者26名の計37名が護衛任務に就く。

 今回の護衛任務だが近衛騎士にも特別任務として白金貨1枚が支払われる。 これについては俺が陛下に条件付きで直訴した。


 護衛任務に就く近衛騎士は選抜を行い総合力上位11名を護衛とする。

 長期任務に就き現地での生活もあるため特別報酬として白金貨1枚を先払いするが2か月間無休。

 無事任務を果たし帰還したら特別休暇として翌日から7日間の休暇を与える。

 かなりブラックだが近衛騎士達は歓喜したそうだ。

 近衛筆頭騎士の息子でヴィオレッタの兄も選抜戦を勝ち抜き護衛任務を見事掴み取った。





 各々の目的の為、一行はセフィッド神聖国の聖都アルバータへと出発する。

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