第20話 冒険者養成所
冒険者養成所とは冒険者として長く活動する為の教育をする場所だ。
養成所は春季と秋季で2回募集があり、運営は冒険者ギルドが行っていて、教師には引退したBランク以上の冒険者が教壇に立ち、生き残るための基礎を教える。
月に1度位だが現役のCランク以上の冒険者が生徒達の実地訓練を引き受け、稀にBランク以上の現役冒険者が授業をしてくれる場合もある。
主な授業は大まかに分けると。
戦闘訓練・連携訓練・戦況把握・各国の知識・魔法訓練・魔物の種類と知識・生存率上昇方法・実地訓練。
などで、細かく分けると語り切れないので割愛させてもらおう
後、修練と呼ばないのは団体教育になるからである。
修練は個人で訓練は団体と覚えておくと良い。
俺はこの度、特例で冒険者養成所に入学した。
ゼロとの修練で一通り終えているのだが、連携に関しては知識はあるが実際に試したことは無い。
俺が学ぶとすれば連携と魔物関連の知識に各教師達の戦闘経験だと考えている。
前に冒険者ギルドを訪れてから1週間。
今日は養成所の入所式で、所長は引退した元Aランク冒険者だ。
秋季募集の生徒には全員が元Bランクである教師の指導を受ける。
本来特別クラスの教師は元Aランクが担当なのだが、人手が足りずAに近かった者が今回は担当するとの事だ。
養成所の最大在籍可能年数は2年で、見込みの有り無しに関わらず卒業させられて冒険者としての活動を開始する。
尚、最短在籍期間は決まっていない。
教える事が無いと教師に判断されるか教わる事はもう無いと自分で判断して出て行くだけなので決めるだけ無駄なのだ。
ただ、どちらにしても卒業の証を渡さないといけないので簡易ではあるが卒業式はする。
尚、最短卒業年数は今までの記録上13か月が最短である。
俺は来年春には卒業したいと思っているので、現実になれば記録を大幅に塗り替えることになる。
まぁ年齢足りないから冒険者登録は出来ないけど。
案内された建物の中で所長の話を聞きながらどれくらいの早さで学ぶのか考えている間に話は終わった。
秋季入学の生徒達は担当教師について行き教室へと入る。
入学テストを受けた時の結果で実力の近い者が同じクラスになるのだが、俺は実力が他を圧倒しており、更に入学者の中では唯一の実戦経験者なので頭一つ以上抜き出ている存在になっている。
入学初日は教師を含めた全員の自己紹介とお互いの実力を知るための模擬戦が行われる。
教師が相手を務めるのだが、他の生徒は当然何もできずに負ける。
最後の相手は俺だが最後になる様に並んだだけで、結果は当たり前だが圧勝。
他の生徒も負けた教師も唖然としている。
この世界には魔法があり全ての人間が例外なく魔力を持って生まれる。
必ず何かしらの属性を持つのだが生徒全員は魔法も駆使して教師と模擬戦をして負けているのだ。
そんな中、魔法も使わず剣技だけで余裕をもって圧勝したのが俺なわけで、周りは当然唖然となる。
割り当てられたクラスも入学テストで将来有望と評価された者が集まる教室になった。
教室の中には俺より一回り近く年が離れている者もいる中での出来事だ。
模擬戦を終え教室に戻る途中だがクラスメイトはまだ呆然としている。
ある程度は瞬時に切り替えないと冒険者をするには不向きなのではと思ってしまう程であった。
教師は既に気持ちを切り替えているようで流石元Bランクである。
教室に戻り明日からの授業内容を聞いて今日は解散だ。
初日はこんな感じで終わった。
翌日、俺は授業前の所長室に呼ばれた。
何の話だろうとノックして返答を得てからドアを開ける。
そこには所長とギルドマスターとウォルドさんがいた。
「グラフィエル君。かけたまえ」
言われるままにソファに座って話を聞く。
「昨日の模擬戦の話を聞いたのだがね、グラフィエル君はうちで学ぶ事は無い気がするんだが?」
所長から非難してるみたく言われて少しㇺッとするとギルマスが説明をし始めた。
「私も昨日の事は聞いた。ゼロが君に何を学ばせる為に紹介状を書いたかは推測はしていたのだが、今一つ自信が無くなってね。君は何を学びたいんだ?」
推測はしてたのかギルドマスター。
恐らくそれは間違ってないと思うのだが、模擬戦の結果で自信が持てなくなったというところか。
これはしっかりと言わないとダメだな。
「学びたいのは連携と魔物の知識とそれに伴う実地訓練です」
俺は学びたい事をきちんと告げたのだが。
「君ほどの実力者と養成所の者では連携は無理だよ。力の差がありすぎる・・・魔物の知識の授業一択になると週に2回ほどで午前中だけだろうな。君の実力ではうちでは何も学べんよ」
と所長は言葉を返してきた。
言ってる事に間違いはなので反論できない。
だが俺の場合は知識の有無で危険度が段違いに跳ね上がる。
日数は少なくとも魔物の知識だけは学ばないと大惨事になりかねない。
説得しようと意気込む俺に所長とギルドマスターはお互いに目を合わせ、ウォルドさんの方を見て所長が打開案を提示する。
「ウォルド。養成所からの依頼だ。週3日、魔物知識の授業が無い日は実地訓練に連れて行ってくれ。正式な依頼だ。報酬も出る」
「所長、俺達にも稼ぎがですね・・・「特別講師料の2倍の金額」やります!」
特別講師って確か現役の高ランク冒険者の特別授業だよな?
それの2倍って高いんじゃないの?
とか考えているとギルドマスターと所長がニヤッと笑って。
「あいつに良い貸しが出来たな!これで多少無茶な依頼でも頼める!」
「あいつ、口は悪いし粗暴だが教え方が上手いんだよな。これをネタに2~3回はタダで特別講師をさせよう!」
などと話している。
ゼロ、すまん!どうやらお前は生贄にされてしまったようだ。
「嬉しそうにしてるとこ悪いんですが納税の分についての約束は無効じゃないですよねギルマス?」
「それも報酬の内だ。ぼろ儲けだなウォルド!今度、俺と所長に酒奢れよ!」
ウォルドさんも良い笑顔だ。
こうして養成所でゼロを生贄にした話し合いは幕を閉じ、俺は週に2日の午前中だけ授業を受けて残りの授業は実地訓練となった。
魔物知識の授業がある日と養成所自体が休みの日は実地訓練もお休みである。
養成所では張り紙が出され俺は特例中の特例な入学者になった。
話し合い後に早速ウォルドさん達のパーティーと一緒に魔物狩りに・・とはいかなかった。
「まずはパーティーメンバーの紹介だ!んで飯食って親睦を深める!」
とはウォルドさんの言葉だ。
俺達は冒険者ギルドに行きウォルドさんの仲間と合流して酒場へ向かった。
「ある程度は知っているだろうがまずは俺からな。ウォルドで役割は盾と戦士だ」
「バルドで剣士だ。よろしくな!(キラッ)」
「ムムノ。魔法使い。バルドの彼女」
「ヤナでレンジャーよ。ふふ、可愛い子」
「ナユルでヒーラーです!回復と補助が担当です!怪我したら直ぐ言って下さい!」
5人とも結構個性的である。
ヤナだけは貞操の危機を感じたが・・・。
ナユルは元気な女の子。
ムムノはクール。
バルドは見た目チャラ男。
ウォルドが真面目。
って感じだ。
「グラフィエル・フィン・クロノアスです。ラフィと呼んでください。これからよろしくお願いします」
「やぁ~ん!!ラフィ君カ・ワ・イ・イ~~」
ヤナさんのテンションがおかしいのは気のせい・・ではない様だ。
他のメンバーは苦笑いしている。
真面目なウォルドがヤナに注意する。
「ヤナ。ラフィは依頼主からの預かりだから気を付けてくれよ」
「取って食べたりしないわよ~。でも、時間があれば洋服とか一緒に買いに行って色々着せてみたいかも~」
俺、また着せ替え人形にされるんですかね・・・。
ムムノとナユルも頷いているし。
次に口を開いたのはバルドだ。
「ラフィ、依頼とは言え俺達はパーティーだ。だからさん付けは無しな。口調も喋りやすい方が良いぜ。普段から聞きなれてる方がいざと言う時に惑わされないための方法だからな」
「わかりまし・・んっ!わかった、バルド」
「おう!その方が良いな!」
残りの全員もバルドの意見には賛成で呼び捨てもため口も気にしてない様子だ。
まぁこの5人は俺の修練内容も実力も知ってるからかもな。
「ラフィの戦闘職ってやっぱり剣士なんですか!?」
聞いてきたのはナユルだ。
俺は連携も学ぶのでここは正直に答えとこう。
魔法適性は言わないけど・・・。
「剣も魔法も使えるよ。例えるなら、そうだなぁ・・魔法剣士?」
「なんで疑問形なんですか?」
だってねぇ・・・その辺りはわからないしなぁ。
首を傾げていると。
「確か魔法適性が多いってゼロが言ってたから彼と同じ戦闘職じゃないか?」
「それなら魔法剣士でも不思議はないか」
男性陣二人ナイスアシストだ。
でもバルドの言い方だと魔法剣士って希少なのか?
「バルド。魔法剣士って多くないのか?」
「魔法剣士は攻撃系の属性が3つ以上で武器に属性付与が1属性以上必要で結構希少な戦闘職さ。ゼロは4属性付与させてたな・・」
そうなのか!?そんな事ゼロは一言も言わなかったぞ!
驚愕していると「明日、試してみれば?」と言われたので楽しみが増えたな。
実地訓練初日の明日は連携や俺が色々試すために初心者が良く狩る魔物討伐に決定した。
こうして臨時の冒険者パーティーが出来上がり食事を終わらせて自室に帰って来たのだが・・・。
「武器、どうしようか・・・・・」
神剣クラスを使う訳にもいかず俺は考え込むのであった。
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