悪魔がくれた夢
アール
悪魔がくれた夢
とあるアパートの一室。
そこに2人の男が一緒に住んでいた。
彼らは学生時代からの友人。
高い家賃をうまく折半して今日まで暮らしてきたのだ。
片方をA、もう片方をBとしておこう。
そんなある日の朝。
先に目覚めたAが呑気にコーヒーを飲んでいると、突然リビングへとBが飛び込んできた。
「おい! 聞いてくれよ!
すごい夢を見たんだ」
「なんだよ、こんな朝っぱらから。
すごい夢だって?」
朝の優雅な時間を邪魔されたAは、不機嫌になりながらそう答えた。
「ああ、そうなんだよ。
突然、夢の中に悪魔を名乗るツノの生えた化け物が現れた。そして言ったんだ。
お前の願いを叶えてやろうってな」
「なに、悪魔?
そりゃ、お前。あれじゃないのか。
"叶えて欲しくば、お前の魂をよこせ"
と言うヤツだろう」
「ところが違うんだ。
どうやら夢の中の悪魔はタダで叶えてくれると言うんだ。
俺は喜んで言ったね。
"何人もの美女をくれ"ってな。
そうしたら俺の周りに、たちまち何十人もの美女が現れたんだ」
「……そいつはすごい夢だな。
優しい悪魔もいたもんだ」
「そうなんだよ。
しかもその悪魔が言うには、
その美女は毎晩現れてくれるそうなんだ。
だから今晩も夢を見るのが楽しみだぜ……」
そう言うと、Bはとても機嫌の良い様子で会社へと出勤していった。
在宅勤務のAはその後ろ姿を静かに見送る。
そしてその次の朝のこと。
Aがリビングでくつろいでいると、Bが寝室からやってきた。
だがその顔は昨日と違ってどこか曇っている。
「おい、どうしたんだよ。
元気がないじゃないか。
夢の中で、美女と楽しんでいたんじゃないのか?」
不思議に思ったAは、そうBに尋ねた。
するとBは、どこか疲れた様子で答えた。
「ああ……、初めのうちはそうだったんだ。
だが、悪魔の野郎。
外見はいいが、
とんでもなく性格に難がある女を寄越しやがった。
独占欲が強いっていうのかな。
俺が女と遊んでいると、
他の女どもが嫉妬しやがるんだ。
そのうち女同士で髪を引っ張りあったりと喧嘩を始めて、それはそれは大変だったよ……」
Bの話を聞いて、Aは納得した様子でうなづいた。
「やっぱり相手は悪魔だったんだな。
そんな女どもだったとは……。
そいつはお前も災難だったな」
「ああ、全くだよ。
今夜もまた夢でヤツらは現れる。
もう夢を見るのが怖いよ……」
やがて、Bは重い足取りで会社へと出勤していった。
そしてまた次の朝。
Aがいくらリビングで待っていても、 Bはやってこない。
「もう出勤の時間なのにな。
どこかおかしい……」
そう思ったAは、Bの寝室の扉を開けた。
そしてBを見つけた。
激しく荒れたベッドの上で、膝を抱えて小さく震えている。
「おい、どうしたんだ?
また夢の中で何かがあったのか?」
「…………ああ、やっちまった」
「や、やっちまった?
いったいどういう事なんだよ」
「…………昨日、いつものように夢の中で美女の1人とデートを楽しんでいたんだ。
バレると色々と厄介だから、他の女には内緒で。
でもそれがまずかった。とっくにバレていたんだ。
嫉妬に狂った女の1人が、もう1人の女を突然刃物で刺してきやがったんだ。
女は即死。
そしてその女は、次に俺を殺そうと狙ってきやがったんだ。
だからつい、その……、やっちまったんだよ……」
そう言って再びBは膝の間に顔を埋めた。
彼の服は既に汗でびっしょりと濡れてしまっている。
「……つまり、殺してしまったって事なのか?」
恐る恐るAは尋ねた。
Bはゆっくりとうなづく。
「……夢とはいえ、人を殺してしまったんだ。
気分が悪いよ。
悪魔はこんな俺を見て、ほくそ笑んでいるんだろうな。ちくしょうめ…………」
あまり寝てないのだろう。
Bの目の下にははっきりとしたクマが浮かび上がっていた。
その日、Bは会社へ休むという旨の連絡を入れた。
会社に行ける精神状態ではなかったからだ。
Aはそんな彼を心配そうに見つめていたが、仕事もあった為に慌てて仕事部屋へと入っていった。
その時最後に見たBの姿は、眠らないよう必死でコーヒーを飲んでいる様子だった…………。
そしてそれから数時間後……。
仕事のひと段落ついたAは、Bの様子を見に、リビングへと戻ってきた。
そこで彼は目撃する。
うなされながら、こんな事を叫ぶBの姿を……。
「おい、ここから出してくれ!
これは正当防衛だったんだ…………。
女の方が先に襲ってきやがったんだ。
それなのに、懲役20年なんてあんまり過ぎる……」
そして、15年経った今でもBの元には毎晩刑務所の檻が現れ、彼を収監している。
悪魔がくれた夢 アール @m0120
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