第34話【2018年9月18日-04】
秋音市の郊外に存在する第一公園。その昔、弥生と遥香が初めて共闘した公園の調節池に、如月弥生はウェストを連れた上で、降り立った。
雨水等を集めて貯水施設や排水施設へと送る施設は広々とした空洞へ、僅かに濡れる足元を気にすることなく突き進む。
空洞の奥へと進む度、光が薄くなっていく。
ウェストがカバンから取り出した懐中電灯を灯し、足元の安全と視界を確保した上で、分かれ道が。
「二手に別れよう」
「危険ですよ弥生」
「ううん。今回はレックスの討伐より、実際にここが奴らの根城になっているのか、それともここは通路で移動しているだけのか、何を企んでいるかを突き止めないと。あのドルイドが出す情報は、役にこそ立つけどあてには出来ない」
背中に背負うアサルトライフル、AK-47と腰ホルスターに備えたグロック26の装填及びサブマガジンを確認した弥生が、ウェストから懐中電灯を受け取った。
「大丈夫。こっちに何かあると分かれば、ウェストもすぐに来れるでしょう? その間にこの武装だけでも相手は出来る。殺しきる事は出来なくてもね」
「ですが」
「お願いウェスト。何が起こってるのか、これからどうしなきゃいけないのか、それを早く突き止めて対処しないと、遥香がまた戦わないといけなくなるもの」
普段の弥生らしからぬ、強い願望を持った故に発言に、それ以上ウェストは何も言う事が出来ず、左右の分かれ道をそれぞれで向かう。
右の道は弥生が。
左の道はウェストが。
構造図が確かならば、右の道から続く先は水道会社の貯水施設の筈だ。そこからレックスが出現して被害が拡大する可能性もあるが、しかしこれまで水道会社の人間に被害が出ている報告がない事から、弥生側の道に出現する可能性は薄いだろうとしていた。
左の道へ向かったウェストの進行ルートこそ、ウェストの読み。こちらは三段階ほどに分けられた仕切り以上に雨水などが入り込んだ場合、冬海市の海へと放出される仕組みとなっている故、長い。レックスが根城にしたり、それこそ冬海市へと逃げたり、冬海市から秋音市へと訪れるには最適だ。
ビシャ、ビシャ、と。足元の水に触れる音だけが響く中、ウェストはスマホを取り出し、電波状況を確認。電波が立ち、通話やネット通信が出来る。通信モードを衛星通信に切り替えれば、より強く電波を受信できた。
スマホではなく通信機を手に取る。弥生の持つ通信機へと発信する周波数帯に調節しながら、耳元のマイクへと声を吹きかけた。
「こちらウェスト。弥生、どうですか?」
返事は無い。こうした作戦中は五分ごとに報告を行うという決まりがあるにも関わらず、あの真面目な弥生が通信を取らないとは考えられない。
「弥生、応答してください。弥生」
声を張り上げる。すると僅かにノイズが耳に響くけれど、ウェストは気にすることなくノイズに意識を集中。
僅かだが、人の声が聞こえる。ノイズはただの環境音などから発せられているものでなく、人の声がノイズとなっているように聞こえているだけなのだ。
舌打ちをしながら、今度はスマホで弥生の持つ携帯電話にかける。しかし『おかけになった電話は、現在電波の届かない所にあるか、電源が』と聞こえた所で、電波状況を見る。
ウェストのスマホはまだ通信が出来る状況だ。対して弥生の方面は元々水道会社の設備へと繋がる方面なので、電波が通じていないのはよりおかしい。
オマケに、弥生とウェストの間には、こうした通信機を用いずに行える脳内通信も存在する。普段はあまり使わないようにしているので今久しぶりに使用したものの、それも同様に通じず、目をひそめた。
「……まさか、通信妨害?」
ゾワリとした気配を感じ、ウェストは来た道を戻って弥生の元へと駆け出そうとする。
しかし、そんな彼女の行く手を阻もうとするかのように、先ほどまで進んでいた道の先から、三体のレックスが駆けてきた。
「っ、こっちに!」
ホルスターからグロック26を抜き放ち、二重のセーフティを解除しながら、トリガーを引く。
正確に三体のレックス目掛けて放たれる弾丸、それによって動きを止めたレックスだったが、しかしあくまで動きを止める程度でしかない。
チッと舌打ちをしながら、ウェストは通信機の電源を入れつつ、後退しながら声を吹き込む。
「こちらウェスト! レックス三体と交戦中、弥生、至急こちらに応援求ム!」
『ウ……~~、こ――弥……』
ノイズが激しすぎる。ウェストは今一度レックスに銃弾を撃ち込み、隙が出来た瞬間を見計らって、駆けだした。
追いかけてくるレックス、それの猛攻を避けながら銃弾を撃ち込みつつ、弥生の向かった方向へと駆け抜け、今彼女の姿を視認した。
「弥生っ」
「ウェスト! 通信が繋がらなくて」
「っ!」
弥生の方へ向けてグロックのトリガーを引く。
今水を蹴る様にして弥生へ襲い掛かろうとしたレックスの顔面に銃弾が着弾、それによって弥生もAK-47を構え直し、威嚇射撃を行う。
前面を弥生が、後方をウェストが守る事で、二者にようやく余裕が出来た。
「詳しく話してる時間は無いか――ウェスト!」
「ええ。変身、どうぞ」
スマホ形態に身体を変形させたウェストが、今弥生の手に収まった。先端部の電源ボタンを押しながら、短く唱えた弥生の「変身」という言葉に合わせ、画面が強く光を放ち、彼女は光に包まれた。
一瞬の内に変身を終えた弥生――マジカル・リチャードは、まずウェストを追って来た三体のレックスに向けて、持っていたままのAK-47で撃った。
放たれた銃弾は本来ならばレックスという異端に対して有効ではない。
しかし、銃撃の魔法少女、マジカル・リチャードとして変身した場合、その銃は『魔法少女の武器として』殺傷能力を付与される。
故に銃弾は空を切りレックスへと着弾すると、露となり消えていき、有効であることを再確認。
反動を気にする必要もない為、弥生はAK-47を右手に、左手にグロックを握りながら、双方のトリガーを連続して引いていく。
放たれる弾丸は総勢七体のレックスを全て消し去っていき、敵意が感じなくなったところで、銃を下した。
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