第4話【2010年9月28日-02】

「なんで――必要ないの?」


「私は戦う事以外、必要とされない。でも貴女は違う。安穏とした生活の中で、友達と一緒に勉強をして、遊んで……そんな日常が、貴女は許されている。それをどうして手放そうと言うの?」


「手放すなんて言ってない。アタシは、アタシの暮らす世界を守る為に、レックスと戦う。それをどうして否定するの?」


「これでは、平行線ね」


「じゃあ、どうするって?」



 僅かに感じる殺気。アタシは急いでベネットの手を取り、彼女へアイコンタクトを取ります。ベネットも既に準備を完了させていて、後はアタシの命令一つです。


 弥生ちゃんが、再びゆっくりと振り返ります。ウェストさんの手を取ったまま、彼女は殺気を隠す事無く、言葉を口に。



「変身」



 彼女の言葉と共に、アタシも同じ言葉を口に。



「変身っ」



 ベネットとウェストさんの身体が光を放ち、それはアタシたち二人を包み込みます。光から解放されたアタシたちは、互いに展開される戦闘服と獲物を持って、前進。


アタシ――マジカル・カイスターの持つ二対の剣と、弥生ちゃん――マジカル・リチャードの持つ拳銃の銃身がぶつかり合い、火花を散らします。互いに互いを殺しちゃうつもりはありませんが、戦うと言うのならば容赦はしないと言う、敵意だけがそこにあります。


リチャードは、銃身がこちらに向いていないにも関わらず、引き金を引きます。放たれた光は最初こそ天に向けて放たれますが、しかしそれは軌道を変え、アタシに向かって襲い掛かります。


急ぎ、銃身を弾いて後方へ跳ぶ。地面へ着弾する光の弾、しかし距離を空けた事によって、近接戦闘特化のアタシは中・遠距離戦闘特化のリチャードに対して、不利になりました。



「ファースト・ブラスト」



 唱えられた言葉と共に、リチャードがリボルバー式の拳銃をアタシに向け、放ちました。幾多にも枝分かれした熱線が、最終的には全て襲い掛かって来る光景が、どこか恐ろしく思いました。



「ファースト・ブレイズっ」



 僅かに伸びる剣、そして噴出されるアタシのスラスター。全速力で地面を駆け、放たれる熱線の一つ、二つ、三つ――四つ目を全て紙一重で避けた後、残る一つの熱線を一振りの剣でかき消したアタシは、強く地面を蹴り付けて、上空からリチャードに向けて剣を振り込もうとします。


しかし、一瞬遅かったのです。彼女は既に拳銃を構え直していました。トリガーは引かれ、そして放たれる高出力の熱線を、二振りを重ねる事で防ぎましたが、しかし衝撃によって吹き飛ばされてしまいました。


空中で身体を一回転させ、何とか着地。フゥ、と息を付いたアタシとリチャードは、次の一手を考える様に、互いを睨みましたが――



「そこまでだ」



 そこで、男性の声が聞こえました。アタシたちのような子供の声では無く、成熟した大人の声です。



「キミが、水瀬遥香ちゃんだね」



 暗闇から姿を現したのは、二十代前半程度の男性でした。整ったお顔立ちと高い身長は、まるでドラマに出てくるヒーローの様に、カッコ良いです。



「あの、お兄さんは?」


「俺は笹部蓮司。世界を守る秘密結社――【レックスハウンド】のリーダーさ」



 リチャードが、笹部さんと名乗った男性の登場により、戦闘態勢を崩します。変身を解き、私服へと戻ると、彼女の隣にウェストさんが再び現れました。



「笹部さん、なぜ姿を現したのですか」


「弥生も、あまり彼女を邪険に扱うな。君と一緒に戦ってくれると名乗り出ているんだ。協力関係にあってもいいじゃないか」


「必要ありません」



 ムッと、アタシは頬を膨らませつつも、変身を解きます。ベネットも怒り心頭と言った様子ではありますが、一先ずウェストさんへ視線を送っていました。



「……ベネット、何か?」


「べーつーにーでーすーよー」



 苦笑と共に、笹部さんはアタシへ手を差し伸べました。



「遥香ちゃん、弥生は恥ずかしがり屋だから、つい君のような同年代の女子を邪険にしてしまうが、本当は優しい子なんだ。仲良くしてあげてくれないか?」


「えっと……弥生ちゃんが良いなら、アタシも別に」


「必要ない」


「弥生……はぁ、難しい年頃だな」



 小さな溜息を溢した笹部さんの手を、取る事は簡単です。――しかし、気になる事が、一つだけ。



「あの、いいですか?」


「ああ、何だい」


「レックスハウンドって秘密結社さんは、どうしてレックスを」


「世界の平和を脅かす存在――レックスを倒す事に、理由が必要かい?」



 首を傾げ、フフッと微笑んだ笹部さんの表情がカッコ良くて、アタシはつい、彼の手を取ってしまいそうになりますが……しかし、すぐに引っ込める。



「アタシ――今の弥生ちゃんと一緒に戦う事、出来ないと思います」


「遥香ちゃん」


「良い子かもしれません。もしかしたら、アタシより強いかもしれません。……でも、信じちゃいけない、理由があります」



 と、そこで弥生ちゃんがアタシへ、再び鋭い視線を向けてきました。



「……それは、何」


「弥生ちゃんが、アタシを認めようとしない事」



 ――そうだ。アタシは皆を助けたいと思います。その為に弥生ちゃんと一緒に戦う事は、喜ばしい事です。


 けれど、一緒に戦う人なら尚の事、互いが互いの事を信じていたいと思うんです。


 それを怠り、ただ人の事を邪魔者扱いする弥生ちゃんとは、上手くやっていけるかが分かりません。



「意見の一致ね」


「アタシはこれからも、自分のペースでレックスと戦うよ。弥生ちゃんもきっと、そうだと思う。別に、それでいいよね」


「そうね、貴女が邪魔をしないのならば、それでいい。――けれど、私の邪魔をするのなら、容赦はしない」


「それはこっちのセリフだよっ」



 フンッと、アタシは表情を膨らませながら、振り返ります。そして帰路へと就いた所で――



「あ」


「? どうしたんですか、遥香さん」


「今日のパパ、お仕事遅帰りだったっ!」

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