魔法少女、再臨
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プロローグ
第1話【エピローグであり、プロローグ-01】
プロローグ・α
2010年11月11日
アタシたちは、木々生い茂る森の中を歩いています。もう夜も更けている深夜一時。最近は夜に出歩く事が増えたとはいえ、小学生のアタシがこんな深夜に出歩く事を良しとする大人も、どうかと思います。
そんなアタシと手を繋ぐ一人の女の子が、隣に。
身長はアタシより数センチ低いだけの、同い年の小学三年生。首元まで伸びる髪の毛はサラサラと綺麗に下されて、小学生とは思えない程に、落ち着いた子です。
アタシは、
隣を歩く彼女は、
森林を抜けたアタシと弥生ちゃんは、一つのお城にも似た洋館を視界に入れました。
「弥生ちゃん」
「うん。行こう、遥香」
目と目を合わせて、コクリと頷きます。アタシはスカートのポケットから赤い、スマートフォンに似た物を、弥生ちゃんは青い物を取り出します。
『はいっ! ここが最終決戦の場所ですよーっ!』
『弥生、大丈夫ですか? 無理はしないで下さい』
板は、意思を持っています。声は板から発せられているわけでは無くて、アタシたちの頭の中に直接声を届けているような、そんな感覚さえありました。
「ベネット、行くよっ」
「ウェスト、お願い」
『わっかりましたーっ』
『いざ、出陣です』
森林の真っ只中、アタシと弥生ちゃんは、互いに右手で板を前面に押し出すと、そのまま声を張り上げます。
「変身っ」
「……変身」
声と共に、板から眩い光が放たれました。
光はアタシと弥生ちゃんを包み込み、着込んでいた秋音小学校の制服を、何と消し去ってしまいます。
少しずつまとい直される衣服は、身体の線に張り付く様な、しかし動きを邪魔する事の無い、伸縮性の高い防護服へと変わるのです。
最後に、スカートの部分やニーソックスの部分にヒラヒラとしたフリルが付くと、アタシたちは【変身】を終え、再びその地に降り立ちます。
アタシの手には、二本のレーザーブレードが持たれて、弥生ちゃんの手には、小さな拳銃のようなものが握られます。
二人して地面を強く蹴り、空高く舞い上がると、アタシたちは洋館の天辺に向けて、思い切り踵落としを決めました。
崩れる洋館の天井。レンガ造りの建物が、ガラガラと音を立てて壊される光景を――目の前に居る男の人は、溜息を一つと共に見据えています。
「荒々しい登場だね――【魔法少女】」
魔法少女。それが今のアタシと、弥生ちゃんの正体です。
アタシはマジカル・カイスター――双剣の魔法少女。
弥生ちゃんはマジカル・リチャード――銃撃の魔法少女。
魔法少女となった理由は長いので今は語りませんが、目の前に居るこの人のせいで、アタシたちが魔法少女となった事だけは、間違いありません。
「心外だな。君たちに力を与えたのは菊谷ヤエだろう? ボクは何もしていない、濡れ衣だよ」
「お兄さん、ウソつきだ!」
「嘘はついていないさ。何せボクは、あくまで実験をしていただけだからね」
「実験。その実験で、どれだけ皆が迷惑していると思っているんですか? 貴方は、本当に【神さま】なんですか?」
「そうだね。君たちの概念からすると、ボクは間違いなく【神さま】だ。――知識を司る神霊【メーティス】の力を宿した、元人間だけれど」
男の人は、以前アタシたちの前に立ちはだかり、自分の名前を【ドルイド・カルロス】と名乗りました。アタシたちはドルイドさんにこれ以上かける言葉は無いとして、それぞれの武器を、構え直し――
アタシは一直線に駆けていきます。右手に持つ双刃の一振りをドルイドさんの頭部に向かって振りぬくと、しかしそれは何かに遮られました。
黒い、影にも似た何かです。段々と影は犬にも、オオカミにも似ている外観を作っていき、言葉に直せない奇声を上げ、鋭く伸びた爪を振り切ってきます。
――この影が、アタシたち魔法少女が敵とする怪物【レックス】です。
レックスの爪を、左手に握る一振りをぶつけて躱すと、弥生ちゃん――リチャードの手に持たれる拳銃から、光の弾と表現できる銃弾を放ち、倒していきます。
しかしレックスは、ドルイドさんの影からどんどん出てきます。正直両手で数えられる数を超えた辺りで、アタシとリチャードはそれぞれの背中を守る様にして、戦い始めます。
「戦闘053・記録開始」
立ち尽くしたままのドルイドさんがボソリと言葉を溢しますが、今はムシです。学校では「ムシはいけません」と言われますが、ドルイドさんだったらいいでしょう。
「ファースト・ブレイズ!」
放つ言葉は言霊となって、アタシの持つ双剣が光り輝きます。僅かに剣の長さが伸びて、攻撃範囲が広がると、アタシはそのまま真っ直ぐ全速力で駆け出して、無数のレックスに斬撃を浴びせました。
「双剣の魔法少女――【マジカル・カイスター】水瀬遥香は、最大速度・時速二百二十Km/h程度の高速戦闘を可能とする魔法少女である。高出力のマジカリング・スラスターモジュールを背面と両脚部に搭載し、実剣とレーザーサーベルの二つを使い分けるマルチウェポン戦術を得意とする」
アタシが三体のレックスをレーザーサーベルで切り裂くと、アタシの頭部を狙った一体が上空から急襲――しかし。
「ファースト・ブラスト」
リチャードのハンドガンが、僅かに形状を変えました。大口径のマグナムから放った弾丸がレックスの横っ腹を貫き、四散していきます。
「銃撃の魔法少女――【マジカル・リチャード】如月弥生は、マジカリング・スラスターによる速度を捨てる代わりに、出力の六割を砲撃に特化させている。一丁のハンドガンから放たれる熱射式誘導弾頭は熱量を枝分かれさせる事が出来、一撃に威力を集中させる事も、威力を分散させつつも同時に多数の敵を撃ち抜く事も可能となる戦闘方式を取り入れている」
さて、と。ドルイドさんが指をパチンと鳴らした瞬間、レックス達の動きが止まりました。
「ここからが本番だ、魔法少女。――君たちがこれまでに学んだ成果を、存分に見せてくれ」
全てのレックスが、形を崩して影に戻った時には、既に兆候がありました。
影はなんと一つにまとまり、最後には二十メートル程ある天井に頭をぶつけるまでの巨大なレックスとなり、目の前に現れたのです!
「合体……っ!?」
「厳密に言うならば、集合念体というべきかな。ボクは君たちがレックスと呼ぶ存在を『念体』と呼んでいる。それが合わさり、一つの個体となる事を集合念体と呼ぼうと思う」
ドルイドさんが集合念体と呼ぶそれは、更に強調される奇声を上げ、大きな腕を振り下そうとしてきます。アタシは避ける事ができますが、背後にいるリチャードが避け切る事は難しいと判断し、二対のサーベルを構え、集合念体からの一撃を受け止めます。
「ぐぅ――っ!」
単純に重たいだけの攻撃ですが、それだけあって完全に防ぎ切る事も難しいです。
リチャードはハンドガンを構えて銃口を様々な方向へ向けますが、ウィークポイントを見つける事が出来なかったのか「逃げて遥香っ」と叫んできました。
「逃げ、無いよ……っ」
「だって、そのままじゃ遥香が、死んじゃうっ」
「大丈夫、っ! アタシはアタシと――弥生ちゃんを、信じてるからっ」
目いっぱい、背中のスラスターを吹かしての力圧し。あっちが力圧しなら、こっちも同じ土俵で戦ってやります!
「セカンド・ブレイズッ!!」
二対の剣を合わさる様に持つと、再び形状を変化させるアタシの武装。今度はアタシの背丈ほどある大剣へと姿を変え、アタシはそれを二つ、集合念体の腹部へと叩き込みます。
二振りをクロスさせるように振り切ると、集合念体に僅かな傷がつき、いける――と僅かな雑念が混ざった瞬間、すぐに集合念体は傷を再生、再び奇声をあげながら、今度は両手を上げて、その大きな身体自体での押し潰しを図ってきます。
しかし、既にリチャードは範囲外へと逃げています。これを受け止める度胸はアタシにもありません。
「遥香ッ!」
「そのまま撃ってッ!!」
背後からかかる声。叫び返すアタシ。すぐに地面を蹴り付けて、バックステップで跳ぶと、アタシの顔面スレスレを横切る熱線。僅かに髪の毛が焼けますが、一切の無駄が無い一撃として、集合念体の胸部に熱線が直撃します。
「セカンド・ブラスト――」
真横に着地したアタシの事を確認、リチャードが唱えます。すると周囲に光が生まれ、光は段々と、リチャードが持つハンドガンと同じ物へと変化していきます。
銃口を、空中で集合念体へと向ける無数の銃。集合念体の身体が先ほど撃たれた傷を修復させた事を見届けた後に、リチャードが持つハンドガンの、引き金が引かれます。
「ファイア」
一斉に放たれる熱線の雨。顔に、身体に、腕に、足に――無数の弾道は全てが集合念体に命中し、身体を段々と崩していくように見えました。
――しかし、それでも再生を果たしてしまいます。十秒ほどの時間をかけて傷を癒した集合念体は、アタシたちを威嚇する様に、睨み付けてきました。
「愚かだな、魔法少女」
集合念体の背後で、そう声をかけてきたドルイドさんの声が、やけに癪に触ります。
「馬鹿正直な力技。通ると思っているのかい?」
そんな問い、無視してしまっても構わないですが、アタシは何だか悔しくて、ただ叫びます。
『通すッ!!』
しかし叫んだのはアタシだけではありません。リチャードも同じ気持ちを抱いてくれて、同じ想いを叫んでくれました。
「行くよ、弥生ちゃん。――これが、最後の一撃」
「うん。――私と遥香の人生は、これから始まっていくんだから」
互いに互いの持つ武装に、力を籠めます。
アタシの二振りは、光がエネルギーへと変わっていき、それは確かな熱量の渦として、剣の周囲を満たしていきます。
そしてリチャードの持つハンドガンは、形がアタシたち二人分程度の大きさまで成り変わり、巨大な砲塔として生まれ変わりました。
「ラスト・ブレイズ――ッ!!」
「ラスト・ブラスト――ッ!!」
銃口から放たれた膨大な熱線。それが集合念体へ襲い掛かると、段々と溶けていく影そのもの。
しかし焼かれながらも再生していく姿を見据えながら――アタシが再び、駆けます。
熱量の渦をまとう二振りの剣を、両手で確かに掴みながら、焼かれゆく集合念体に向けて、力強く叩き込みます。
「カーテン――コールッ!!」
叩き込まれた刃。叫ばれるアタシの言葉。そして言葉と共に刃より――高密度の熱線が、飛び出しました。
「バカな。君たちに、これほどの力が……!」
真っ二つに切り裂かれる集合念体。奥に居たドルイドさんへと延びていく熱線。彼は高熱に巻き込まれて、その姿を消してしまいました。
――勝った、勝ったのだ。
アタシとリチャードがその場でへたたり込んで、勝利を確信しましたが、その余韻に浸っている暇はありません。今の衝撃によって、今までいた洋館が音を立てて崩れていく事が分かったのです。
アタシが彼女を抱き上げ、力強く飛び上がります。入ってきた時に開けた穴を再利用して外へと出ると――倒壊する洋館が空から分かりました。
「終わったね、遥香」
「うん」
「遥香は、これからどうするの?」
「どうって?」
「魔法少女は、もう必要ない。遥香はこれから、何をして生きていくの?」
「うーん……そうだなぁ」
自然の法則には逆らえません。アタシたちは段々と地面へと落ちていきますが、しかし綺麗な着地を決めたアタシは、すぐにリチャードを下して、彼女の手を握り――
ニコッと笑いながら、言うのだ。
「素敵な大人になれたらいいなって、そう思う」
そう、弥生ちゃんも言っていたではないですか。
――アタシたちの人生は、ここから始まっていくのだから。
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