第66話 奈良の猫

昨日の湯豆腐も夜間拝観も、今日の体験教室も楽しかった。しかし今日1番のお楽しみは体験教室では無かった。


体験教室の後、奈良に移動する途中で立ち寄った梅宮大社が2日めのハイライトだ。


保護した野良猫から子猫が生まれたことがきっかけで猫が増え、猫のいる神社として知られるようになったらしいが、猫で知られるようになったのは最近のことらしい。


「賽銭箱の上に座って動かないにゃ」

「ここの猫たちは堂々としてるね」

お参りと猫ウォッチを楽しんだ。


「はあ、楽しかったね!」

「みんな良い子たちだったにゃ」

だいぶ長居して猫との触れ合いを満喫した2人だった。


奈良に移動して今夜の宿にチェックインした。夕飯は柿の葉ずしだ。


「今日はゆっくり休むにゃ。明日は春日大社で猫の国宝にゃ」

「実は展示よりもお土産物の猫が楽しみなんだ」

「パパもにゃ。」

罰当たりな親子だった。


正宗と美哉は、あまり興味がないようだが、春日大社は平城京の守護と国民の繁栄を祈願するために創建された歴史ある神社だ。


「神が白鹿に乗って奈良の地にやってきたとされていることから、鹿が神使とされています…だって」

「そういえば鹿も有名だったにゃ」

「ええ、猫の国宝の方が有名だよねえ」

神をも恐れぬ罰当たりぶりだ。


「ふわあ…自然がいっぱいだね」

「タイムスリップしたみたいにゃ」

一之鳥居から、2人でのんびり歩いて参拝した。影向の松や馬出橋で写真を撮って、春日荷茶屋(かすがにないぢゃや)で休憩した。


「浄らかな火で煮炊きしたものを食して心身を清めるためのお茶屋さんだそうにゃ」

「万葉粥、美味しいね!」

「万葉集にちなんだ季節の野菜が入っているそうにゃ」

「この後は万葉植物園に寄ろうね!」

約3ヘクタールの園内は見応えがあった。植物園を出て、再び歩き出す。


「すごい数の石灯籠だね」

「平安時代から現代まで奉納が続いているらしいにゃ。その数は約2000基だそうにゃ」

伏見稲荷の鳥居のような非現実的な空間に迷い込んだような感覚になる。


お喋りしながら歩いていたら二之鳥居に着いた。

「美哉ちゃん、この二之鳥居は平安末期の建造だそうにゃ」

「なんか…違うね。空気が」

「聖域に足を踏み入れたような恐れを感じるにゃ」

罰当たりな割に感覚が鋭い親子だった。


二之鳥居を入った祓戸神社の脇にある伏鹿手水所(ふせしかのてみずしょ)で手と口を清める。伏せた姿の金属製の鹿が咥えた筒から水が流れている。


罰当たりな親子は

『また鹿か。』

『猫でもよくないかにゃ?』

と心の中で思ったが口に出せない雰囲気だった。


剣先道を進み、南門に到着した。

「ここから御本殿にゃ」


楼門や回廊、釣灯籠なども見応えがあるが、正宗と美哉の本命は国宝殿だ。


「国宝殿の導入部は暗闇の中に光と水で聖地を表現した空間になっていますだって」

「境内で撮影された映像を投影してる水のスクリーンて幻想的にゃ」

「来て良かったね」


展示は素晴らしかった。

2人のお目当てだった国宝、金地螺鈿毛抜形太刀以外にも、その時代を代表する太刀が展示されていたし、刀剣以外の美しい工芸品や装束なども見事だった。

うっとりと大満足で国宝殿の見学を終えた。


外に出て、改めて見ると境内にはたくさんの鹿がいた。

「見慣れてくると鹿もけっこう可愛いね」

「鹿もまあまあにゃ。でも毛皮はケットシーの方がフサフサにゃ」

古来から神様の使い「神鹿(しんろく)」として信仰を集め、大切にされてきた鹿に対して、ずいぶん上からだ。


「美哉ちゃん、カフェで腹ごしらえするにゃ。ここは自然由来で奈良県産の素材にこだわってるそうにゃ」

「美味しそうだね!ランチには、にゅうめんがセットになっててお腹も満足だね」

「食後にソフトクリームも食べるにゃ!パステルカラーの“あられ”みたいなものが散りばめられて可愛いにゃ。写真も撮るにゃ」

正宗が女子高生のようにはしゃいでいた。


食後はもちろんお土産に猫グッズを大人買いした。その日も奈良に宿泊し、翌日ゆったりと埼玉に帰った。

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