第10話 県大会

いよいよサッカー部の県大会が始まる。

今日は開会式と第一試合だ。


「にゃん、にゃ〜、にゃにゃ〜ん」

朝5時から正宗が機嫌良く唐揚げを揚げている。


正宗がいつもより早起きして文治郎のお弁当を作っている。大事なイベントの時のメニューはいつも同じだ。


唐揚げ、甘い卵焼き、タコさんウインナー、ピーマンの肉詰め、餡掛けミートボール、エビフライ。おむすびは鮭と梅。

正宗はこういう日のお弁当で野菜を食べろとは言わない。文治郎の好物ばかりを詰めてやる。昼が野菜不足なら栄養バランスは野菜たっぷりの晩ご飯で調整すれば良い。


喉が乾かないよう塩分は控えて出汁の旨みで味付け。飲み物はミネラルたっぷりの麦茶。


早起きと午前中の開会式でお腹が空くだろう。文治郎たちの試合は午後3時にキックオフだから昼にガッツリ食べても大丈夫だ。


タコさんウインナーは、昨日の夜に美哉が作ったものを入れるが、その他はすべて朝に正宗が作る。


夏はお弁当が傷みやすいので、きっちりと火を通して、冷ましてから詰めるので早くから調理している。

夜行性の正宗は朝に強いが、愛娘の美哉は人間寄りで朝に弱い。文治郎に渡しに行くタイミングで起こすつもりだ。


── 毛皮をカットしたから、いつもの夏より涼しくて快適にゃ、お風呂も楽だし。美哉ちゃんもパパがカッコいいと喜んでいるにゃ。

でも揚げ物をすると熱いにゃあ。


もちろんクーラーをガンガン効かせているが揚げ物の熱はきつい。


── エビフライも良い色に揚がったにゃ。

次は卵焼きを作るにゃあ。にゃにゃにゃ〜。



*******

「文ちゃん、頑張ってね!」

「サンキュー美哉、おじさんもいつもありがとう」

美哉が文治郎にお弁当を渡すと、嬉しそうに受け取った。

「タコさんウインナーは美哉ちゃんの手作りにゃ」

「嬉しいな、サンキュー美哉」

「えへへ」

作ったというほどのものではないが得意顔だ。


さき健太郎けんたろうも今日は起きているにゃ」

「そりゃあ息子の大切な日くらいはな」

「見送って応援したいじゃない」

いつも昼近くまで眠っている文治郎の両親は眠そうだ。2人ともサロンのお客様には見せられないほど寝起きだ。


「これは2人の分にゃ。文治郎と同じお弁当だにゃ」

「わあ、正宗さん。いつもありがとう」

「野菜は自力で摂取するにゃ」

「嬉しいな、肉肉弁当だな!」


イベントの時だけ文治郎の両親にも同じメニューのお弁当を渡している。

文治郎のイベントに行きたくても行けない2人が文治郎と共通の話題が出来るよう、イベントの時だけ同じメニューのお弁当を渡すのが習慣になっている。


「俺、そろそろ行くよ」

「頑張ってね」

「うん。後で来るだろ?」

「もちろんだよ。キックオフは3時だよね。応援してる」

「サンキュ、行ってきます」


甘酸っぱい2人を咲と健太郎がニヤニヤと見送る。


「美哉ちゃん、応援に行くのはいいけどナンパには気をつけるにゃ。いざとなったらケットシーの爪の出番にゃ。迷わず両眼を潰すにゃ。そうにゃ! パパ愛蔵の格闘漫画を貸すにゃ、相手を一気に無力化する3巻の虐殺シーンがオススメにゃ」

正宗はいつも通り過剰防衛を勧めている。


自分たちの息子が美哉と付き合っていることは絶対に秘密にしなければと強く思う咲と健太郎だった。

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