第3話 勉強会デート

美哉も文治郎も、それなりに勉強が出来る方だ。


美哉を溺愛する正宗のヤキモチへの言い訳として“勉強会”とか“一緒に宿題をやるから”とか“文治郎に勉強を教えてもらうから”を使いまくってきたため、勉強する習慣が身についている上に、現在も一緒に勉強を口実に放課後デートしているのだ。


面倒なので付き合っているとオープンにしてしまおうと美哉が言い出した事があったが、文治郎と文治郎の両親が全力で止めた。オープンにしたら放課後デートを邪魔され、毎日の登下校に同行するようになるのは間違いない。今まで通りの生活を続けたければ絶対に打ち明けてはならないと説得された。


そういう可能性もなくはないかも…とうすうす感づいていた美哉は口を閉じた。



「ごめん、遅くなった!」

「いいよ、でも何かあったの?」


サッカー部の文治郎とテニス部の美哉。部活が終る時間は同じだ。毎日、校門で待ち合わせて一緒に帰る。今日は文治郎がいつもより遅かった。


「県大会のことで監督の話が長かった。三年は最後の大会になるから」

「そっか。大会が終わったら本格的に受験だよねえ」

高校受験が終わったばかりの美哉は、ちょっとウンザリだ。


「俺も来年は受験生だよ」

「予備校とか行くの?」

「うん、さすがに考えてる」

2人とも高校受験は自宅学習で乗り切ったが大学受験は受験のプロに頼りたい。


「そっか」

応援したいが一緒の時間が減るのは寂しい。


美哉の尻尾がパタパタと左右に激しく揺れる。不機嫌のサインだ。


「美哉も行かない?」

「予備校?」

「うん」

「ど、どうしよっかな〜」

美哉の尻尾がピンと立ち上がる。嬉しい時の尻尾だ。


「学年が違うからクラスは別れるけど行き帰りは一緒だし」

「…パパに相談してみようかな」

「美哉と一緒に通えたら嬉しい。来年の話だけど」



「じゃあ着替えてから行くね」

「ああ、待ってる」

エレベーターでいったん別れる。


「ただいま〜」

「美哉ちゃん、おかえりにゃ」

モッフモフでフッサフサな正宗が美哉をハグで迎える。ハグのお迎えは美哉が小さな頃からの習慣だ。


「着替えたらぶんちゃんとこで勉強してくるね」

「分かったにゃ。文治郎には気をつけるにゃ。ハグされそうになったら逃げるにゃ」

正宗の目が光る。

── すでに付き合っているとはとても言えない。



「お邪魔しまーす」

いつも通りズカズカと入ってゆく。文治郎の家は第二の我が家だ。


「おう、麦茶でいい?」

「うん、ありがとう」

「俺、今日は英語やるわ」

「私は数学」


2人とも無言で勉強を進める。

幼い頃から一緒に過ごしてきたので、2人きりでも浮かれることなくやるべきことをやる。


「……あのさ」

「何?」

顔を上げずに美哉が答える。

「今日、監督の話が長かったじゃん」

「うん」

「県大会、レギュラーになれた」

「本当に!? おめでとう!」

美哉が顔を上げて祝福する。


「サンキュ」

「お祝いしたいね!今日のご飯、ちょっと豪華に出来ないかな」

美哉が冷蔵庫の中身を思い出して、うんうん唸る。


「ご褒美にキスして」

美哉の目が見開かれる。

「いつも俺からだから。ご褒美だし。今日は美哉からして欲しい」

「えっと……」

「嫌?」

「嫌じゃないし…」

文治郎が嬉しそうに美哉を見る。

「目、閉じて」

文治郎が目を閉じる。


ちゅ。


「へへっ、サンキュ」

「おめでとぶんちゃん。部活がない日にデートしよ。お祝いのデート」

どこに行こうかと、イチャイチャ盛り上がる美哉と文治郎。



正宗はハグを心配していたが、ハグどころではない2人だった。

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