生の冒険者



 話もあらかたすみ、あとはお互い別れてまた後日という頃合い。俺はすごく不躾だけれど冒険者について聞こうと思った。おかみさん以外で聞ける人なんてそうそういないと思っての判断だ。


「あの、すみません。冒険者について少し聞いていいですか?」


 こちらに振り向くおかみさん。


「どうやったら冒険者になれるのかなって、その少し気になりまして」


「んん、どう入るのかは知ってるけど、冒険のノウハウとかは知らないしね。それにそろそろ仕事に戻らないと、色々まわらなくなる...。あぁ、そうだついてきな」 


 俺はおかみさんに従いついていく。

 すると来たのは先ほどの飲み場だった。ガヤガヤと賑やかしい。


「おーい! カイロー!! ちょっと来てくれないか!」


 腹から出る声に、少しだけびっくりする。


「なんだい、姐あねさん!!」


 反応したのは、中肉中背で年齢は30ぐらいのやさぐれているという言葉が当てはまりそうな人だった。とぼとぼとした足乗りでこちらに来る。


「誰だい。この坊主は」


「この子が冒険者になりたいそうだからいろいろ説明してやんな。一応魔術が使えるとさ」


「えぇ、オレがですかい」


 露骨にいやそうな顔だった。


「それじゃ、頼んだよ。」


 そう言って、女将さんは厨房へと消えていった。なんだかいろいろと豪快な人だ。


 俺と、カイロさんの目が合う。


 カイロさんは深いため息をつけながら、「姐さんが言ったから仕方がないか...。ほらついてこいよ」と言ってくれた。

 俺はそれに頷きついて行く。

 カイロさんの連れてきてくれた席には、一人の女性と二人の男性が座っていた。


「カイロだれそれー?」


 聞いてきたのは、女性の方でなんと言ってもその猫耳が特徴的でかわいらしい方だった。装備は薄く、前衛で戦うのだろうか。


「冒険者になりたい少年だとさ」


 カイロさんはめんどくさそうに答えた。


「あっはっはっは、そりゃまじかい。冒険者にしちゃちょいと体が細すぎやしないか?」


 その長い金髪を束ね、いかにもイケメンと言った男性の方が至極まっとうなことを言う。その隣にいる巨漢の、けれど温厚そうな男の人は何一つとしてしゃべらない。


「んで、姐さんに呼ばれたのはその少年関連のことなの?」


 猫耳さんがきく。


「ああ、何でも新人冒険者にいろいろ教えてやれってさ」


 猫耳さんはクスクスと笑い、「やっぱりカイロは姐さんに信用されてるね」と続けざまに言ったので、カイロさんは照れ隠しなのか、「うれしくねーよ...。」と速攻で返した。


「まぁ、座れよ」


 そうカイロさんに促され「ありがとうございます。」と言って、空いている席に俺は座った。

 そこからはいろいろなことを聞いた。冒険者のなり方、冒険者のいろは、そしてきれい事ばかりではないと言うことも。ただ昔とは違い、だんだんと冒険者の秩序もできだしたとのこと。

 冒険者たちにも序列があるらしく、そんな中でも、カイロさんたちのチームは結構上位の冒険者らしい。

 お酒が回って上機嫌の金髪さんがいろいろと自分たちの功績を高々と唱えていた。

 ちなみに金髪さんの名前はジョギンズさん、猫耳さんの名前はミャシィー通称ミャーさん、寡黙で大きい人はゴンさんとのこと。

 そして俺が魔術を使えることを伝えると、皆んなの表情が変わった。カイロさんは知らされていたので、平生のままだ。


「ほう、ただの夢見る少年ではないってことか。」


 やはり魔術はここでも珍しいみたいだ。あのジョギンズさんが神妙な面持ちになる。


「へー、私火とか水を操っている魔術師は見たことあるけど、君はどんなのが使えるの?」


 ミャシィーさんがきいてくるので俺は少し考えた。はっきりってどんななって言われても、自分自身の魔術に未だ理解してない部分は多く、なんと言えばいいのやら。

 そんなふうに悩んでいると、ミャシィーさんが「ああっ、そうだよね。さすがに今日知り合った間柄だし、聞くことじゃなかったよね」

 ごめんごめん、と、気を使わせてしまった。


「ち、ちがうんです。ちょっと何から言えばいいのかわからなかったもので...ええと、黒魔術? です。俺が使えるのは」


「黒魔術? きいたことないな。まぁ、魔術自体そんなに詳しいわけではないしな」


 カイロさんがそう言う。


「あとそれと、あんまり魔術使えることを他人に言うのはよしたほうがいいぞ。その力を利用しようとする輩は結構いる。姐さんはそこんところを考慮して俺に言ったんだろうけど、本当なら誰にも言わないのが身のためだ。有用なやつは色々と付け込まれるし、それにお前が使えるのは魔術だ。もしかしたら、貴族にも目つけられるかもしれねーしな。とにかく、あまりひけらかさない方がいいぞ」


「は、はい。肝に銘じておきます...。」


 目つけられるの怖い。


「まぁ、俺たちが言えることはこんなところだ」


 カイロさんはそういい、ジャッキに残ったビールを飲み干した。



 と、こんな風に有益な情報がたくさん手に入った。俺はカイロさんにお礼をいい、ここを一旦お暇することとした。

 というわけで、人目のないところに行き、指輪を外す。

 あの子は今頃起きているだろうか、と思いながら。



 

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