引きニートな僕は異世界へ行けるようになったので自分探しをします。

やせうま

プロローグ

 人生ってのは本当にどう行き着くのかわからない。小学生の頃、自分がこんなふうに引きニートになるとは思わなかった。人よりも劣っていた自覚はあったが、ぼーっとしているうちにさらに置いていかれたようだ。あれよあれよと行くうちに、いつのまにか二十五になり、立派な自宅警備員となってしまった。

 こんな俺の様子に、母さんと父さんは寛容な対応をとってくれている。それがなお申し訳なさを感じる今日この頃。

 日々の生活は昼に起き、用意されたお昼ごはんを食べ、誰もいなくなった家の中を掃除することから始まる。流石に弟や兄の部屋に勝手に入って掃除するということはなく、リビングやキッチン、風呂掃除にトイレ掃除。両親は共働きで、なおかつ父さんが単身赴任なので家のことは大体僕が受け持っている。社会に出られないのだから、その分の当然の報いだ。と言っても、料理は全くと言っていいほどできない。作ると大体くろこげのダークマターや、絶妙に美味しくない何かができてしまうので、料理は母さんがしている。

 ということで、俺はあらかた掃除を終わらせると自室に戻り、殻に篭るやうに生活をする。

 まぁ、ネトゲやらドラマ、それにアニメに映画などをしたり見たりしながら過ごしている。

 そうやってこれから何ら変化のない、無味無臭な生活を送っていくのだと思っていた時だった。

 家にインターフォンの音が響いた。家に来る大体の人は宅配の人か宗教の勧誘とかだ。宗教の勧誘とかならばそれっぽいおばさんが大体の相場なのでむしするが、宅配の人ならば出る。そう思い、外の様子を確認すると、黒装束で杖を持ち、顔はフードで隠していて容姿がよく確認できない人がいた。

 いかにも怪しい。というかヤバい人この上ない。出ないほうが吉と思った矢先だった。

 その男は鍵をかけていたはずの玄関の扉を開けたのだ。


「は? うそでしょ?」


 一気に背筋が凍るような感覚に陥った。


「嘘ではない」


 かすれ切った声が背後から聞こえ、素早い動きで振り返るけれど足がもつれてしりもちを付いてしまった。

 尻もちをつく俺に、その俺を見下す謎の黒装束姿の老人。

 老人がこちらに歩みだした。


「ヒっ・・・!」


 恐怖が先行する。後ずさりしたいけれど、もう背中には壁だ。


「...そうおびえるな。少年。」


 肩をすくめながら言う老人。果たして俺の年齢で少年といえるのかは定かではないが、敵意はないのか言葉にとげはない。


「私はおまえに黒魔術を伝授させたいだけなのだ。少年には黒魔術の才がある。そのために異界よりここへ来たのだ」


「は? え?」


 黒魔術? 異界?

 いきなり現れ、唐突によくわからないことをのたまう。情報の処理が全く追いつかない。


「混乱しているようだがもう私には説明している時間はない。少年にはこのリングと魔導書を授ける。後は頼んだぞ…」


 老人は自分にはめていたリングと、手に持っていた魔導書らしき黒い本を机の上に置いた。

 と、それと同時に黒装束の老人はいきなり消えてしまった。その視界からは本当に唐突に消えたのだ。

 後は頼む? いったい自分はなにを頼まれたのか。それに先の老人は何処に? やばい。なにか夢でも見ている感覚だ。

 突発過ぎる非日常に体は硬直状態のまんまだ。けれど何かが起こるような気配はなく、沈黙があたりを支配する。

 と、とにかく現状の把握だ。立ち上がり、机の上にあるものを確認する。そこにはやはり老人が置いて行った装飾のない簡素な金色のリングと古く黒を基調にした表紙の本がある。僕はそれらを慎重に手にし、自室に持って行った。


 自分の机にそれをおき、まじまじと見つめる。


「なんだこれは…」


 取り敢えず本を手に取り、中身を見てみるけれどよく分からない文字が書かれていて、理解はできない。

 指輪も見てみるけれど何の変哲もない指輪だ。

 つけてみるか。そう思い立ち、俺はそのリングを中指につけた。


 その瞬間、室内にいたはずなのに視界は何故か平原の地平線を見ていた。

 ここはどこですか?

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