第98話◇さあ、発表会といこうか


 隠れ里の中、塔の上に立って下を見下ろす。地下迷宮からこの隠れ里に繋がる洞穴が見える。

 その洞穴からカゲンとヤーゲンが走って出てきた。


「誘きだしたぞ。こっちに来る」


 俺を見上げて言うカゲン。よーし、予定通り。続けてグランシアとゼラファが出てきた。


「調子に乗って追いかけて来てる。先頭は古代魔術鎧アンティーク・ギア5機、人間ヒューマンは50ってとこ」

「50って、よくそんな多人数で地下迷宮に来るな」

「けっこう数を減らして、今50なんじゃない? 赤線蜘蛛の部屋からぞろぞろ並んで来てる」

「よし、こっちは準備良し。カゲン、ヤーゲン、グランシア、ゼラファ、隠れてくれ」

「応」


 応えてカゲンとヤーゲンは走っていく。

 グランシアは、


「ねぇ、ドリン。私もそこから見物したいんだけど、いい?」

「んー、ま、いいか。ここが特等席ではあるか。じゃ、早く登って来てくれ」


 で、ゼラファとグランシアはこっちに登って来る。

 地上のマルーン街では近づいてくる希望の断罪団に対抗しようと防衛を固めているところ。

 探索者がいなくなって魔晶石の採取量が減ったアルマルンガ王国は、百層大迷宮のあるマルーン街を守るのに必死になってる。

 古代魔術鎧アンティーク・ギアを動かすにも、古代の品アンティークを使うにも魔晶石は必須。

 百層大迷宮にも兵を入れて、魔晶石を集めようとしてる。

 そしてムキになって俺達を探している。

 

 仕掛けは整えた。これから人間ヒューマンの王国、アルマルンガ王国から百層大迷宮を奪ってやろう。


 百層大迷宮から繋がる洞穴を見張るように立つ、高さ6メートルの石の塔。俺はそこに立っている。頭に乗るシャララがワクワクして身体を揺するのがくすぐったい。

 背後には隠れ里、年中晴れてる地下の草原は、今も明るい擬似陽光に照らされている。

 隣に立つサーラントを見る。


「サーラント、そろそろやるぞ。準備はいいか?」

「抜かり無い」


 応えながら両手に持った暗灰色の金属の筒、黒浮種フロート製新型軽カノンを構える。

 ドルフ帝国製よりちょっとだけ威力は落ちるが、対魔術兵器としての性能は十分だ。

 サーラントが対古代魔術鎧アンティーク・ギアの牽制役だ。


 手に持つ集音器のチェックも問題無し。

 黒浮種フロートの作った黒い四角い金属。黒いコードが延びて足元の金属の箱に繋がってる。網目になってるとこから音を拾って、仕掛けた拡音器で大きくした音が出る。

 これで大声出さなくてもこっちの声を拾って拡大できる。


 この隠れ里に初めて来る奴等には、美人の白蛇女メリュジンが全裸でお出迎えして、そのあと紫のじいさんとご挨拶。そんなビックリドッキリが洗礼というか、お約束が自然とできた訳だけど、これから来る奴等にも、とびっきり驚いてもらおうか。

 やるならやるで派手に徹底的にやってみよう。

 登ってきたグランシアとゼラファに振り向いて、


「みんな静かにするように」

「解ってるって」


 ニヤニヤ笑って応えるグランシア。


「ちょっとぐらいなら私が隠せるから大丈夫だって。うっふっふー」


 頭の上のシャララも堪えきれないように笑う。

 俺達が待ち構えているとギュアアと通路から出てきたのは古代魔術鎧アンティーク・ギア。絶対防壁を持つ奴が盾になってまず出て来るか。

 こいつらが何も考えず突っ込んで来るならサーラントに潰してもらうけど。

 通路が狭いから1台ずつ。いち、にー、さん、し、ご、と順番に赤、青、黄、深緑、黒、の5機が出てきた。

 そのまま走ってきて5機が並んで止まる。サーラントがこの塔の上から軽カノンで狙ってるのは見えてるハズ。

 その5機は、なんだかポカーンという感じで動きを止めた。

 続いて出てくるのは鎧を着けた人間ヒューマンの騎士達、他には魔術師、兵隊、傭兵がぞろぞろと。数えたところ52人。

 古代魔術鎧アンティーク・ギアを盾にするように並んで陣形を作る。

 魔術師を中心に円陣を組んでる。

 古代魔術鎧アンティーク・ギアだけがこの場の異常にに気がついたように、呆然としている。

 その円陣の中から一人の騎士が大声で言う。


「そこにいるのは賞金首のドリンとサーラントか! 地下迷宮の自然模倣エリアに隠れているとは! だがここで終わりだ! お前らには聞きたいことがある! おとなしく投降しろ! そこから降りてこい!」


 こっちは高さ6メートルの塔の上、人間ヒューマンが何をしてるか良く見える。

 これで全員、集まったかな? 通路から出てくるのはもういないようだ。


「聞こえているなら返事をしろ! 今から10数える間に降りてこい! そこの人馬セントールも武器を捨てろ! そのカノンが本物でも5機の古代魔術鎧アンティーク・ギアは止められんぞ!」


 ふむ、いきなり突っ込んでこないあたり慎重な性格なのか? それとも古代魔術鎧アンティーク・ギアが止まったから一緒に止まっただけかな?

 まずはここまで来た人間ヒューマン諸君にご挨拶だ。

 右手に持った集音機のスイッチオン。このときの為に考えていたセリフを、と口を開けようとしたときに、頭の上からシャララがフワリと降りてきた。

 俺の顔と集音機の間に割り込んで、赤い蝶の羽を広げて腕を組み、俺より先に話し始める。おい、シャララ。


『くっくっくっくっく。よくぞここまでたどり着いた、人間ヒューマン達よ』


 シャララが悪そうな笑顔を作ろうとしてるけど、なんか失敗して可愛くなってる。


『百層大迷宮を30層まで下りてきた、その実力は誉めてやろう』


 なんで悪の帝王風なんだ? お前は謎の組織の女帝か? ノリノリだなシャララ。

 俺の後ろではグランシアがしゃがんで口を押さえて、笑い声が出ないように身をよじって、うくくくく、と堪えている。

 集音器から通して、拡音器から聞こえるシャララの可愛い声があたりに大きく響く。


『だがお前達は知らないだけだ。真の絶望というものを!』


 赤い蝶の羽根をパタパタさせて、ちっちゃな可愛い蝶妖精フェアリーが背伸びして、悪の組織の首領を気取る。

 これを見にここまで来た人間ヒューマンは楽しんでくれるだろうか。


「うくくくく、シャララ、最高、くくく」

「グランシア、頼む、静かに」


 人間ヒューマンの騎士は続けて叫ぶ。


「遠くてちっちゃくてよく見えんが、小妖精ピクシーか? わけの解らんこと言ってないでさっさと降りてこい!」


『ほおう、なかなかに勇敢だ。だが愚か者だ。人間ヒューマンよ、優しき夢より覚める時だ。微睡みの中の勇ましさから目覚めて、悪夢のごとき真実の姿を見るがいい!』


 シャララ、それだとお前が真の姿を現すみたいになってるぞ。まさか変身するのか。

 ある意味、脅かすための変身ではあるのか。今これをやってるのはシャララだから任せてもいいかと好きにさせてみたけど。

 あー、俺が考えてたセリフ、ひとつも言えなかったな。

 下の方ではさっきの騎士が古代魔術鎧アンティーク・ギアに喚いている。


古代兵器武装騎士団アンティークナイツならばあの塔ひとつ、叩き壊せるのではないか? なぜ動かない?」

「はぁ? 塔? どこにある? こんなの、どうにもできるものか! あれが本物なら、今すぐに撤退、いやそれも、もう無理か?」


 絶望的に叫ぶ赤い古代魔術鎧アンティーク・ギア。やっぱりあいつらには見えてたか。

 片手を高々と上げたシャララが声を張る。


『今こそ、その姿を現すときだ。永き時、地下を統べる、百層大迷宮の支配者たる王国の、真の姿を!』


 シャララが指を鳴らすポーズをする。シャララが指を鳴らしても、ちっちゃい手では大きな音は鳴らない。

 シャララ、お前はこのときの為に練習してたのか。指を鳴らすポーズに会わせて、残響音が長く響く、なにか割れるような音を幻覚系の魔術でさせるあの練習を。

 そういうとこで妥協しないからシャララの幻影は細かくて精密なんだろうけど。


『姿を現せ王国の門! 今、幻のベールより解き放つ!』


 パキィィィィン


 高く澄んだ音が鳴り響いて、シャララの幻影の魔術が消える。俺が増幅して、このあたり一帯にかけた広範囲を隠して覆う幻影の魔術が。

 広がる草原の中にポツンと立つ石の塔が人間ヒューマンには見えていた光景。

 魔術の効かない古代魔術鎧アンティーク・ギアには幻影に隠したものが見えてたようだが。

 その幻が消えて、これまで隠されていた防壁がユラリと揺らめき現れる。


「お、おおお?」

「な、なんだ?」


 驚き慌てる人間ヒューマン達。

 現れるのは地下迷宮の出入り口、そこをぐるっと囲む高さ6メートルの壁。

 上から見れば通路のある岩壁が直線となり、防壁が半円の形で通路から出てきた者を閉じ込める。

 人間ヒューマンの集団を囲んでいるのは、石材とセラミクスで造られた明るい灰色の重厚な防壁。

 壁の中の通路は大鬼オーガ人馬セントールといった大サイズの種族も通れるように作ったから、街を守る防壁としてはかなり分厚くなった。


 壁の上にはズラリと並ぶ探索者達。

 全員が余裕の笑顔で人間ヒューマンを見下ろして、この舞台を楽しんでいる。

 中には踊る子馬亭の店長とその娘さんとか、預かり所のシャロウドワーフの兄妹もいるから、探索者だけじゃ無いけどな。

 大鬼オーガ達とドワーフは手に持った軽カノンをガチリと鳴らして、人間ヒューマンに向ける。

 防壁に取り付けられた重カノン4門が、ゴンと重い音を立ててその砲身を動かす。


「……なんだ? これは?」


 元気に喚いていた人間ヒューマンの騎士が、呆然と呟いた。

 落ち着き無く辺りを見回す人間ヒューマン達。

 何があるか解らないところに踏み込んで、素早く円陣組んだ慎重さはなかなか良い。

 それでも対処不可能な戦力、ズラリと並んだ歴戦の探索者達、重カノン4門、大鬼オーガとドワーフの構えた24門の軽カノンに囲まれて見下ろされている。幻影が解かれ、誘い込まれたことを知って、驚いている。

 ドッキリ大成功かな?


 俺が立っている塔は、実は搭では無くて防壁。俺の下には大きな門がある。

 この門がこの地下の街に入るための大門。

 今はしっかり閉ざして金属の格子も下りている。


「て、撤退を!」


 人間ヒューマンのひとりが叫び何人かが地下迷宮への通路に顔を向ける。

 だけど逃がさない。まだこっちの戦力アピールタイムだ。人間ヒューマンが闘う気力を無くして投降するまでこっちのターンだ。

 そのために仕掛けを施して、演出も考えて、練習もした。

 それでは、灰剣狼よろしく。

 人間ヒューマンが地下迷宮通路へ逃げようと動いた時、


「ふさげ炎壁」


 通路の入り口が突然現れた炎の壁に塞がれる。炎の壁の前に立つのは、こちらに背中を向けて立つスーノサッド。

 紫のドラゴンをあしらったマントを身につけて、赤く黄色く揺らめく炎の壁の前に堂々と立つ。


「あれは!」

「ドラゴンを背負う、黒衣の炎……」


 スーノサッドの後ろ姿を見て動揺する人間ヒューマン達。

 その前でスーノサッドは右手でマントをバサッと翻しながら振り向く。

 おー、カッコいいぞ、スーノサッド。

 銀の仮面で顔の上半分を隠して、グローブの銀の紋様を見せつけるようにビシッと決めポーズ。


「我、義に因りて、白蛇女メリュジンと共に立つ!」


 炎の壁で逃げ場を無くした人間ヒューマンが浮き足だって、カッコつけるスーノサッドを見てざわめく。


「あれは、まさか!」

「無尽の炎術使い?」

「恐怖を運ぶ黒衣の魔術師!」


 人間ヒューマン一同、怯えて声を揃えて叫ぶ。


「「無限のホムラ!!」」


 ……え? 無限の? ホムラ? ナニソレ?


 スーノサッドは人間ヒューマン達の、無限の焔! の声に合わせて右手で仮面に触れ、左手は手刀で斜め下の地面を刺すように向けて、両手の指ぬきグローブの銀糸の紋様が良く見える角度で、腰をキュッと捻って、ズギャアアアン!という効果音と共にポーズを決める。

 今のズギャアアアンて音はシャララの仕業だな。芸が細かい、打ち合わせしてたのかな。


「あれが噂の炎使い?」

「下位悪魔を一瞬で消し炭にしたという魔術師の!」

「烈火騎士団をたったひとりで潰滅させたというあの!」

「火炎の支配者、無限の焔が、なぜこんなところに!」

「く、くそ! 防御陣を! 魔術防御陣を!」

「無限の焔はラウドル魔術師団の防御陣を焼き尽くしたと聞いてるぞ!」

「終わりだ! もうダメだ!」


 えーと、人間ヒューマンに徹底的に恐怖を刻み込めって言ったのは俺だけど、ちゃんといろいろやってたみたいだな、スーノサッド。

 そのおかげで人間ヒューマンがかなりビビってる。

 スーノサッドの後ろには灰剣狼のカゲン、ヤーゲン、ガディルンノ、エルカポラが並ぶ。エルカポラの肩にはパリオーが座ってる。

 人間ヒューマンの怯える声にスーノサッドが何か言ってる。


「フン、烈火騎士団だと? あの程度で烈火を名乗るには、まるで熱意が足らん。苛烈なる炎とは如何なるものかを、教えてやろう」


 なんか言ってるスーノサッド。その後ろでガディルンノがハンドサインでこっちに伝えようとしてる。

 手をパッパッと動かして。

 こっちは気にしないで、先に進めてくれ、と。

 あー、うん、そういうことなら。


「無限の焔かぁ。カッコいいじゃないかスーノサッド。じゃ、次は俺達だ。俺は何がいいかなー、えーと」


 そう言いながら俺の後ろから出てくるのは白銀の巨体。銀の全身鎧に身を固めた大鬼オーガのディグンだ。

 首を振って兜から出た白い角を煌めかせて合図する。背後に合図する。

 準備して待ってた白銀の巨人8体が壁の上に立ち現れる。一斉に防壁から飛び降りて、6メートルの高さからズドドドドンと轟音を立てて着地。


「今度はなんだ?」

「あれは、古代魔術鎧アンティーク・ギア?」


 振り向いた人間ヒューマン達の前、門の前に並ぶのは全身を隙間なく白銀の装甲に包んだ、身長2メートル30センチの細身の全身鎧。

 左手には大きなカイトシールド。右手には2メートル近い巨大な剣。

 身長は大鬼オーガ並み、ただしスマートなシルエット。この全身鎧の中に大鬼オーガは入ってない。

 中に入って操縦しているのは黒浮種フロートだ。


 これが初公開、黒浮種フロート自身が初めて自分達の手でアルムスオンで使う新武装。

 異星の技術、テクノロジスの守護者に成ると誓った、彼らが作った、彼らのための第三の秘密兵器。

 テクノロジスの誇りを守るために、黒浮種フロートが初めて見せた力への意思の具現した姿。

 白銀の甲冑剣士。

 黒浮種フロート強化装甲殻パワードシェル

 種族の誇りと信念と意志を籠めて、何度も探索者からアンケートをとってデザインしたその姿は、アルムスオンで今最もカッコいい全身鎧だ。

 彼らがつけた名前は『スプリガン』、黒浮種フロートの過去の言葉で、意味は叡智の守護者。

 奇塊キカイで合成した音声が白銀の鎧から響く。


「「我ラハ叡智守護者スプリガン! 白蛇女メリュジント共ニ在ル種族ナリ!」


 黒浮種フロート叡智守護者スプリガンを名乗ってもらうのは、今後の彼らの目的の為だけど。

 全員が1列に並び、8体が動きを揃えて右手の巨大剣をブオンと回して、逆手で地面にズガッと刺す。

 巨大剣の柄に右手を沿えて、一糸乱れぬ同時行動、8体が全く同じ姿勢で並び立つ。


「「地下ノ王国ノ守護者ナリ!」」


 新型の動作訓練も兼ねて、練習してた成果でバッチリ決まる。


「あれは古代魔術鎧アンティーク・ギアか?」

「あんなスマートな古代魔術鎧アンティーク・ギアがあるのか? あれじゃ中に誰も乗れないぞ?」

「ゴーレムじゃ無いのか?」


 口々に喚く人間ヒューマンを遮るように、


「失礼な奴らだな、叡智守護者スプリガンと名乗っているのに」


 次はディグンが飛び降りた。

 地響き立てて地面に降り立つディグン。大鬼オーガ複合装甲鎧ハイブリットアーマーで全身を覆っているので、その身体は叡智守護者スプリガンより太くて厚い。

 1見して叡智守護者スプリガンと同じ種類のように見える白銀の全身鎧。

 左手には大型カイトシールド、右手に持った巨大剣は右肩にのせて。

 違うのは兜から伸びる白い角。ディグン自慢の大鬼オーガ1本角ユニ種の白い角。

 鎧の上には戦上衣ウォーコート。バサリと翻る戦上衣ウォーコートには竪琴を奏でる白蛇女メリュジンが描かれている。

 並ぶ叡智守護族スプリガンの前に立ち、人間ヒューマンと相対する。


「俺は叡智守護者スプリガン、戦闘指導官――」


 左手の大型カイトシールドを頭上に振り上げて地面に振り下ろす。

 このカイトシールドの裏には試作型の杭打ち機パイルバンカーが仕込まれている。それを作動させて、ダガン! と地面に鋼杭を刺してカイトシールドを立てる。

 ドラゴンが彫刻された白銀の大型カイトシールドに左手を置き。


「『不退絶盾』この盾より先には、何人たりとも通さん」


 ……ディグンもスーノサッドに影響されたか? 変なスイッチが入ったか? 上手く決まったから暴走しなきゃいいか。


「くそっ、舐めるなよ! この古代魔術鎧アンティーク・ギアを!」


 黄色い古代魔術鎧アンティーク・ギアが、赤い奴の、やめろ! という制止を聞かずにディグンに走ろうとする。

 カノンに囲まれてるのを忘れたかな? ドカンという爆発音がひとつ。


 カノンの中で精石を爆発させて鋼の玉を打ち出すのがカノンの原理。魔術以外の方法、テクノロジスで精石の力を取り出そうとしたら一瞬で力を全て放出して爆発してしまった。それを利用した兵器がカノン

 爆発した精石が力場を作り、魔術を歪める。それが対魔術兵器カノンの原理。

 発射したカノンの砲身周囲ではしばらく魔術が使えない。

 そして精石の力場を纏った弾丸は魔術効果を打ち消して突き進む。

 古代魔術鎧アンティーク・ギアの絶対防御。対魔術防壁、対物理攻撃防壁、どちらも紙のように食い破り突き進む。

 人間ヒューマンの侵略を食い止め、人間ヒューマンをその領域へと追い返した、多種族国家ドルフ帝国の力にして切り札。

 その鋼の弾が走る黄色の古代魔術鎧アンティーク・ギアの下半身を撃ち抜く。足を無くす、黄色の金属の樽。足の無い胴体が、走る勢いのままゴロゴロと転がって止まる。動かなくなる。


「これでカノンが本物と解ったか? 人間ヒューマン。動けば撃つ、おとなしくしてろ」


 カノンを撃ったのはサーラントだ。

 城壁の上で手持ちの軽カノンに水精石と鋼の玉を装填しながら、サーラントが警告する。

 動けば撃つって、撃ってから言うなとか言いたくなるが、今は堪えて人間ヒューマンの様子を見る。

 これで抵抗する元気が無くなってくれると後がやりやすいんだけど。

 足を無くして転がる黄色い金属樽。

 呆然として佇む人間ヒューマン、あれ?

 なんだかどいつもこいつも、今にも気絶しそうだ。なんか立ったまま魂が抜けたような顔をしてる。

 もう心が折れたか?


「このあとカノンの一斉警告射撃の花火大会で脅かしてやるつもりだったんだけど」


 俺が呟くと後ろからグランシアが、おやおやと。


「それをすると怯え過ぎて発狂しそうだね」


 サーラントが俺を見下ろして、


「花火大会は無しだ。ドリン、またやり過ぎか?」

人間ヒューマンに俺達を相手にしても勝てないって教える為に、戦力アピールが必要だろに。スーノサッドひとりにあんなに怯えるとは思わんかったけど」


 無限の焔、いったいどれだけ頑張ったんだ?

 シャララが、え? と振り向いて。


「花火大会は無し? じゃあ、幻花の舞闘姫の登場は?」

「それは人間ヒューマンがヤケクソになって暴れたときにしようか。なので残りの予定は飛ばして次の舞台に進もう。シャララはそっちの演出よろしく」

「えー? 残念。花火大会は見たかったなー」


 ヒラヒラ飛んで行くシャララを見送って、右手の集音器を俺の口の近くに。

 呆然と、なんだかいろいろなものを諦めたような顔で立ってる人間ヒューマンに告げる。


『――聞け、人間ヒューマン


 拡音器から俺の声が大きく響く。

 脅かしておとなしくさせるとこまではこれでよし。

 こっから本題に入ろう。

 第2幕の開演だ。

  

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