第95話◇シュクラン主役回◇誰が殺した私の父を

◇◇エルフもどきに襲われ、ドリンとサーラントに助けられた人間ヒューマンの親子。グレイエルフの町に保護された兄妹の妹、シュクランの主役回になります◇◇



「私の名前は、シュクランです。大草原の開拓村で、お父さんとお母さんとお兄ちゃんと暮らしていました」


 両手を胸の前で組み、大きな声で集まった人間ヒューマンのみんなに語ります。


「大草原で畑を作り、村のみんなと暮らしていました」


 壊れた教会の前で語ります。

 みんなで叩き壊したユクロス教の教会。唯一神ユクロスなんていう、なんの加護も無い嘘っぱちの神様を崇める教会。

 人間ヒューマンこそが神の写し身であり、人間ヒューマン以外の種族はそのでき損ないなんて、なんていう自分勝手で非道い教義の、邪教の教会。

 そんなのは許せない。

 そんな嘘もデタラメも、もう許せない。


「ある日、私の村が襲われました。黒い覆面をつけた騎馬兵の集団に襲われました」


 あのときのことを思い出すと、胸が痛いです。苦しいです。


「いきなり現れた黒い覆面の人達は、村の人達を襲いました。走って逃げるおじさんを馬に乗って追いかけて、背中に剣を振り下ろしました。いつも一緒に雑草取りをしてた、隣のお姉ちゃんの叫び声が聞こえました」


 右手で胸を押さえます。胸が痛い。涙が出ます。

 集まった人間ヒューマンの中には私と同じ目にあった人達がいます。思い出して泣き出してしまう人達がいます。


「お母さんが私とお兄ちゃんの手を引いて、3人で走って逃げました。お父さんは私達を逃がすために、クワを持って黒い覆面の騎馬兵を止めようと、立ち向かいました」


 お父さん。大きな手で私の頭をちょっと乱暴に撫でるお父さん。


「走りながら振り向いて見たのは、胸に剣を刺されて倒れるお父さんでした」


 お父さん、大きな背中のお父さん、その背中から剣が突き出ていた。血がいっぱい出ていた。お父さん。


「お母さんが手を引いて、必死でお兄ちゃんと走りました。大草原の中を、村から離れようと必死で走りました」


 泣きながら、私とお兄ちゃんの手を痛いほどに握りしめて走ったお母さん。


「それでも馬には敵いません。がんばって走っても、後ろから黒い覆面の人達が追いかけてきます。お母さんが息を切らせて、つまづいて転びました。私もお兄ちゃんと、もつれるように転びました。倒れたお母さんに泣きながらしがみついたその時、

 ――救いが、私達の英雄が来たのです」


 私とお母さんとお兄ちゃんは、助けられました。追い回されて殺される所を、命を救われました。


「駆けつけたのは人馬セントールでした。その背中から降りたのは小人ハーフリングでした」


 颯爽と駆けつけた人馬セントールから飛び下りて、『死にたくなければそこを動くなよ』と言った小人ハーフリングの魔術師。

 ひとりで私達を守るように、黒い覆面の進路を塞ぐように草原に立つ小人ハーフリング

 黒い覆面の集団にフレイルを振り回して飛び込んでいく人馬セントール

 ドリンお兄さん、サーラントお兄さん。


「私とお母さんとお兄ちゃんは、駆けつけた人馬セントール小人ハーフリング蝶妖精フェアリーに助けてもらいました。襲ってくる黒い覆面を人馬セントールのお兄さんがやっつけてくれました。飛んでくる魔術から私達を守ってくれたのは小人ハーフリングの魔術師でした」


 飛んでくる炎の矢も雷の槍も、片手で振って消してしまうドリンお兄さん。

 あの怖い人達を簡単にやっつけてしまうサーラントお兄さん。

 怯える私達をお花の魔術で慰めてくれたシャララお姉さん。


「私達を助けてくれた彼らは、私達をグレイエルフの町まで連れて行ってくれました。グレイエルフのお姉さん達は、私達を暖かく迎えてくれました。森の恵みを分けてくれました。まるで新しい町の住人を迎えるように、優しく暖かく受け入れてくれました」


 ここにいる人間ヒューマンの中にも、私のようにエルフに助けてもらった人達がいます。治癒の魔術で、癒しの加護で、ケガを治してもらったり、森の恵みで作られたシチューをもらったり。


「どうして、どうしてこんなに優しくしてくれるのですか? 私は人馬セントールのお兄さんに聞きました」


 後で知ったことですが、私のいた村は勝手に大草原に村を作っていたのです。小人ハーフリング人馬セントールにとっては、神の加護を受ける大切な土地。その豊かな草原に私達は勝手に住み着いて、その大事な草原を壊していたのだと、後で知りました。

 それなのに、そんなことをしていたのに、


人馬セントールのお兄さんは言いました。襲われる子供がいれば、種族問わずに助けようとするのは当たり前のことだ、と」


 集まった人間ヒューマンは静かに私の話を聞いています。ところどころから泣き声が聞こえます。


「私達の村を、家族を襲ったのは人間ヒューマンです。私達を人間ヒューマンの領域から追いやり、そして殺そうとしたのは、アルマルンガ王国です。そしてお父さんを、何人もの人達を殺したのは、ユクロス教の信徒です」


 涙が出ます。胸が痛いです。息が苦しいです。


「そんな私達を助けてくれたのは、エルフです。人馬セントールです。小人ハーフリングです。小妖精ピクシーです。心優しい、人間ヒューマン以外の種族です。みなさん! 本当に悪いのは誰ですか? 本当に邪悪な者はどこにいるのですか?」


 あぁ、どうして私は人間ヒューマンなのですか? どうして私は神の加護無き種族なのですか?

 涙が止まりません。次から次へと溢れて来ます。


「私のお父さんを殺したのは、誰ですか? 私を助けてくれたのは、私の家族を助けてくれたのは、誰ですか? ここにいる皆さんを助けてくれたのは、誰ですか?」


 お父さん、私のお父さん、私を助けてくれたお父さん。私とお母さんとお兄ちゃんを逃がすために、胸を剣で突かれたお父さん。


「皆さん、このアルムスオンの大地で、共に生きたいと願うのは、誰ですか?」


 もう2度とお父さんのように死ぬ人がいなくなりますように。

 悲しい別れが無くなりますように。


「私は嘘っぱちのユクロス教を信じる同族よりも、心優しい彼らと共に生きる世界を望みます」


 私の言葉がどれだけ他の人達に届くのでしょうか? 不安でした。

 でも大槌でユクロス教の教会を壊した人達から、声が上がりました。


「そうだ、もうユクロス教なんていらねえ」

「俺達を大草原で殺そうとしたアルマルンガ王国もいらねえな」

「悪魔を喚んだアルマルンガ王国に裁きを!」

「そんな戦争を支えたユクロス教会も同罪だ!」

「今こそ断罪を!」

「我らが人間ヒューマンの正しき未来の為に!」

「希望の断罪を!」

「偽の神を捨て、本当の神の為に!」

「希望の断罪を!」 

「在母神アルムに人間ヒューマンの正義を捧げる為に!」

「希望の断罪を!」


 私達、『希望の断罪団』は今ここ、ロウメンの町まで来ました。

 アルマルンガ王国の町のひとつ。

 大草原で希望の断罪団に集まった人間ヒューマンはその数、約3万。

 戦争の為に集められた身分階級の低い人達。税が払えなくて徴兵された人達。

 それと大草原の隠れ開拓村の住人。ドルフ帝国の兵に開拓村を追い払われ、その後、人間ヒューマン領域からも追いやられて、行くところを失った人達。住むところの無い人達。

 そしてアルマルンガ王国に黒い覆面をつけられて、無理矢理働かされていた人達。

 お父さんを殺したあの黒い覆面の集団もまた、アルマルンガ王国に毒の仕掛けのついた覆面をつけられて、嫌々任務についていたというのです。

 つけ耳をつけられ髪を染められて。エルフに虐殺と略奪の汚名を着せるために。

 彼らもまたかわいそうな人達だったのです。

 なんて残酷なことをするのでしょう。

 恨むべきはアルマルンガ王国。

 憎むべきはユクロス教会。


 希望の断罪団の正義はこのロウメンの町を落としました。

 3万の人間ヒューマンの集団。加えてドルフ帝国の多種族連合軍から4千の勇士が来てくれました。

 エルフ同盟とドワーフ王国から食料と武器の援助もあります。

 人間ヒューマンが自ら人間ヒューマンの過ちを正すのであれば、協力してくれるというのです。

 なんて優しいことなのでしょう。彼らの期待に応えるためにも、私達が彼らと共にアルムスオンに生きる未来の為にも。

 私達はアルマルンガ王国に希望の断罪を。


 希望の断罪団が近づくだけでロウメンの町の人達は逃げ出しました。残った住人と守備隊も、町の門を重カノンで吹き飛ばしたら降伏しました。

 邪教、ユクロス教の教会を破壊してユクロス教の信徒には改宗を薦めました。

 改宗を受け入れない頑固なユクロス教徒はロウメンの町から追い出しました。

 この町から正しい人間ヒューマンの未来がはじまるのです。


 話を終えた私の手をお兄ちゃんが握ります。お父さんのことを思い出して、お兄ちゃんの目にも涙が浮かびます。


「シュクラーン」


 名前を呼ばれて上を見上げます。空から私の名前を呼ぶ、その方は、蝶妖精フェアリーでした。

 フワリと青い蝶の羽根で舞い降りて来ます。


「ソミファーラ様」


 蝶妖精フェアリーの族長、ソミファーラ様です。30センチくらいの小さな身体に青い美しい蝶の羽根。

 可愛らしいお姿ですが、百歳を越えて生きる叡知を持っています。

 グレイエルフの町で私とお兄ちゃんに算術をはじめ、いろいろと教えて頂いた先生でもあります。

 ソミファーラ様は小さな身体に大きなハンカチを持って、


「シュクラン、泣いてばかりいては目の回りが腫れてしまいますよ」


 そのハンカチで優しく私の顔を拭いてくれます。


「あの、ソミファーラ様。ありがとうございます」

「シュクランはまだ幼いのに、まだグレイエルフの町にいても良かったのに」

「ありがとうございます。でも、私、あのまま町にいることはできません」


 なかなか子供が生まれないというエルフは、子供というだけで他の種族の子供にも優しいのです。

 でも人間ヒューマンの私があの街で、いつまでもグレイエルフのお姉さん達に優しくされると、罪悪感で胸が裂けそうになるのです。

 人間ヒューマンの私に、優しくされる資格など無い、と。

 私がグレイエルフのお姉さん達と共に在る為には、しなければならないことがある、と。

 そんな思いが、この胸から湧き上がるのです。


「シュクランがこんなに賢い子とは、ですが無理をしてはいけませんよ」

「私は賢くなんてありません。ただ、私がしなければいけないことがあると、気がついただけです。それをしなければソミファーラ様と共に生きることはできない、と」

「そんなふうに思う気持ちがあれば、シュクランは私の友達なのよ」

「ソミファーラ様の友達として、恥ずかしくない人間ヒューマンに成りたいのです」

「頑固な子。だけど人間ヒューマンが皆、シュクランのような思いがあれば、私達は共にアルムスオンで生きていけるわ」


 ソミファーラ様は私の頬にチュッと音を立ててキスをしました。

 人間ヒューマン蝶妖精フェアリーと、そして他の種族と、手を携え共に生きる未来の為に。

 私の頬に手を当てるソミファーラ様を、回りのみんなが見ています。

 きっと私とソミファーラ様に、これからの人間ヒューマンの未来を見ているのでしょう。


「私は神を見ました」


 壊れた教会の前で司祭様が語ります。


「エルフもどきにされ、毒入り仕掛けの覆面をつけられ、ですが非道な虐殺を嫌い、森に逃げました。仲間達と少ない食料を奪いあい、その食料も無くなり、食べられそうな葉っぱをかじって飢えを凌いでいました」


 エルフもどきにされていた人間ヒューマンが、この希望の断罪団にいます。

 エルフに耳を治してもらいましたが、つけ耳を縫い付けられていた跡が今も耳に残っています。

 司祭様と彼らがこの希望の断罪団を率いています。


「エルフに見つかって、逃げようと森から出ました。そこを人馬セントールに蹴られて宙を舞い、気を失いました。そのとき、私は神を見たのです。

 上も下も夜の星空、大地の無い、前も後ろも夜空の世界。明るい星々が遠く瞬く空間、そこに女神がいました。

 青く輝く水晶の珠を、いとおしげに胸に抱いたその女神は、口元は優しく微笑み、目は悲しげに青い水晶を見つめていました。


 私が見ているのに気がついたのか、女神は私の方へ顔を向けました。

 その瞳を見るだけで、その女神の慈悲と慈愛が夜空を埋めていることが解りました。

 その眼差しを見るだけで、胸の奥から熱が溢れてくるのを感じ、身が震えました。


 私がその女神に1歩近づこうとすると、大きな男神が現れ、険しい顔で私の前に立ち塞がりました。

 私が怯えて固まると、大きな男神は私を親指と人指し指で摘まんで、そう、まるで虫のように摘ままれたのです。それほど大きな男神でした。

 その男神が私を指で摘まんで、ポイと投げつけたのです。


 私は悲鳴を上げることもできずに宙を飛びました。投げつけられた先は、女神が持つ青い水晶の珠でした。

 ぐんぐんと迫る青い水晶の珠に飲み込まれる時、私にはそれが何か、解りました」


 司祭様は両手を大きく広げ、大きな声で皆に語ります。


「その青い水晶の珠こそがこの世界アルムスオンだったのです! そして水晶を抱く女神が慈悲深き在母神アルム! 迷い混みアルム様に近づこうとした私を摘まんで投げたのは、厳しき時父神スオンだったのです!」


 司祭様は空を仰ぎ、そこに女神の姿を仰ぎ見るように、


「時父神スオンは私をこの世界へと戻しました。それは私に真の神の姿を伝えさせるためでしょう。

 この世界は在母神アルムが慈しみ守る世界。なのに私達はそれを忘れ、加護も無き唯一神ユクロスなどという偽物に、これまで騙されてきました。

 国の政に都合良く作られた、人間ヒューマン優位主義の作られた宗教、ユクロス教は間違いです。人間ヒューマンの過ちです。

 在母神アルムと時父神スオンの子神達が、アルムスオンに住まう様々な種族の加護神となりました。

 皆さんも人間ヒューマン以外の種族が神の加護を得るところを見たでしょう。

 小人ハーフリングの加護神、その食事の加護を分けていただいた皆さんなら解るでしょう。

 真に加護を持つ神と、人間ヒューマンの国に都合がいいだけの偽の神の違いが」


 そう、この町に来るまでに私達は他の種族の方々と共に来ました。彼らに助けてもらいました。

 狼面ウルフフェイスのお兄さんは私を怖がらせないように、牙を見せないように気を使っていました。

 大鬼オーガのお兄さんは大きな身体で地面に膝をついて、背中を丸めて小さくして、指先でそっと私の頭を撫でました。

 蜘蛛女アラクネのお姉さんは、始めは私達を睨んでいました。

 猫尾キャットテイルのお姉さんが、蜘蛛女アラクネはかつての故郷を人間ヒューマンに焼かれたのだと、教えてくれました。


 私は自分が人間ヒューマンであることが、蜘蛛女アラクネのお姉さんの故郷を奪った種族の一員であることが、情けなくて、恥ずかしくて、申し訳無くて、蜘蛛女アラクネのお姉さんにごめんなさいと泣きながら謝ると、お姉さんは困ったような顔で、


「お前のせいじゃ無いだろう」


 と、私の涙を優しく指で拭ってくれました。その指の優しさがたまらなくて、私の涙が止まらなくなると、あぁもう、と言いながら私を持ち上げて抱きしめてくれました。

 様々な姿形を持つアルムスオンの種族。

 私が子供だからと優しくされる度に、胸を締め付けられるような罪悪感にたまらなくなります。


人間ヒューマンが神の加護を失ったのは、その傲慢さゆえのことです。神への感謝を忘れ、種族の誇りを忘れ、他の種族とその神々を蔑ろにしたからです。

 非道と傲慢に溺れた我ら人間ヒューマンは、神に呆れられ、見限られたのです。

 それを誤魔化そうと偽物の神をでっち上げて、人間ヒューマンが他の種族より優れているなどと、嘘の教義をこれまでユクロス教に教えられてきました。私達はそうしてユクロス教会に騙されてきました。

 ですが、人間ヒューマンの愚かな歴史はもう終わりです。

 私達、アルムス教が真の神、在母神アルムの伝導者となり、邪教ユクロス教の過ちを正すのです。

 人間ヒューマンが正しき神への感謝と祈りを取り戻し、他の種族の神々もまた、在母神アルムの子供達と敬意の念を持ち、我々がアルムスオンに住むひとつの種族として、再び人間ヒューマンの誇りを取り戻したならば、慈悲深き在母神アルムは、再び私達に、種族の加護神を遣わせてくださるでしょう」


 司祭様のお話に、集まる人々が声を上げます。


「我らに再びの神の加護を!」

「慈悲深き神々に祈りを!」

「邪教に正義の鉄槌を!」

「我らを騙した偽りの神に裁きを!」


 次に次にと声を上げ、拳を天に突き上げて、私達、アルムス教徒はこの世界アルムスオンに正義をもたらすことを誓います。

 希望の断罪団のリーダーが司祭様の横に立ちます。

 もとはエルフもどきにされ、その前は山賊の頭領をしててアルマルンガ王国に捕らわれたという人です。

 今は改心して正しき神の教えに目覚めた、アルムス教徒です。


「俺達はみんな、1度死んだ。アルマルンガ王国に大草原に送られて殺された身だ。みんな、俺達は戦争で1度死んだんだ」


 険しい顔で皆を見渡した後、ニヤリと笑って、


「死んだからにはもう身分階級も貴族も平民も関係無い。4級貴族とか5級市民とか、鬱陶しいものとはおさらばだ。王族も騎士も知ったことか。偉そうにしてた神官も、俺達をずっと騙してた邪教の信徒だ。そしてこのロウメンの町は、今は我らアルムス教の町だ! ここから俺達の、アルムス教の正義を世界に広めて! アルマルンガ王国への正義の断罪を神に捧げるんだ!」

「「オオーーーー!!」」

「次はアルマルンガ王国の街、マルーンに進む! そしてアルマルンガ王国首都、アルマーンを陥とす! 悪魔を呼び出しアルムスオンに危機をもたらした、邪悪なアルマルンガ王国を許すな! そして人間ヒューマンの罪は俺達、正しき神の信徒の人間ヒューマンが裁く! それが俺達を助けてくれたエルフ達への恩返しだ!」

「「オオーーーー!!」」


 リーダーが腰から剣を抜き、天へと掲げます。皆も武器を両手に持って、空高く掲げます。


「アルムスオンに共に生きる者の為に! 我らの新しき時代の希望の為に! 在母神アルムよ照覧あれ! 我らが希望の断罪を!」

「「希望の断罪を!」」


 人間ヒューマンがアルムスオンで生きる為に。エルフと、ドワーフと、小人ハーフリングと、人馬セントールと、小妖精ピクシーと、猫尾キャットテイルと、狼面ウルフフェイスと、大鬼オーガと、蜘蛛女アラクネと、まだ見たことも無いいろんな種族と、在母神アルムと時父神スオンの子供達と、手を携え仲良く共に生きる未来。

 それを思うと胸が熱くなります。熱狂する人達の中で、同じ志の仲間達と声を上げます。

 隣に立つお兄ちゃんの手をギュッと握りしめます。


「お兄ちゃん、私は、アルムス教の司祭になる」


 お兄ちゃんは私の手を強く握り返しニコリと笑い、


「じゃあ俺はアルムス教の聖剣士になる。そしてシュクランを守ってやる。サーラント兄ちゃんみたいに強くなって、それでふたりで、アルムスオンのいろんな種族に会いにいこう!」

「うん!」


 お父さん。お父さんが助けてくれた命を私は無駄にはしません。

 正しき神の教えを広めて、人間ヒューマンが他の種族と共に生きる未来の為に、この命を使います。


 拳を天に突き上げて叫びます。正しい神の教えに目覚めた仲間達と共に。在母神アルムよ、時父神スオンよ、照覧あれ。


「希望の断罪を!」

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