好きすぎて

廿日

第1話 恋多き女

 ーわたくし高橋楓たかはしかえでは、今日を持ちまして山岡武志やまおかたけしさんとお別れさせていただきます!ー


 昼休みが終わるギリギリの12時55分。隣の席の中村涼子なかむらりょうこに私は宣言した。


「はい、はい。楓は本当長続きしないなあ。つか、武志くんと付き合ってるの知らなかったわ(笑)まだ祐司くんと続いてるかと…」


「祐司とは先月別れてますー。すっごい束縛魔だったんだもん。LINEも1分返さなかったらすぐ電話してくるし。まじ、ウザー。その点、武志はそんなことないし良かったんだけど。まあ、色々合わなくて」


 私は周りから恋多き女だと思われているが、好きで恋を多くしている訳ではない。付き合う男達が、私と合わないのだ。本当は一人のヒトと。運命のヒトと。ずっとずっと付き合って結婚して幸せに暮らしたい!

 そう思っているのに…。


「色々合わないって、楓は彼氏に合わせるとか少しもないじゃん。全部が全部ぴったり合う人なんていないと思うけど」


 そう言う涼子はもう付き合って4年目になる恋人がいる。中学3年生からと言うから驚きである。


「涼子くんにはわからないのだよ。4年も付き合ってる彼氏がいるんだもん。君は恵まれているのだ!」


「まあね。うらやましいだろー(笑)私のことはいいけど、そんなに取っ替え引っ替えしてたら、学校中の男子みんな楓の元カレになっちゃうかもよ(笑)」


「失礼なこと言わないでよね。私だって次こそは運命のヒトと付き合うんだから!」


 昼休みを終えるチャイムが鳴り、私たちは慌てて机に散らばるメイク道具を片付け始めた。


 上の空で受ける数学の授業中、わたしは武志になんて別れを告げようか必死に考えていた。


 いつもは具体的な理由があったのだ。

 祐司なら束縛が嫌で…。その前の彼はお金にだらしなくて…。その前の前の彼は時間にルーズで…。その前の前の前の彼氏はなんだったろうか(笑)もう思い出せない。

 でも武志にはそんなはっきり言える理由がない。なのに別れたい!付き合って3週間。何かが合わないのだ。


 あっという間に帰りのホームルームも終わり、武志が教室まで迎えに来た。


「楓!今日帰りにゲーセン行こうぜ!山田と坂谷も誘ってさ!」


「あ、あ、うん。山田くんと坂谷くんと。あ、なら涼子も誘っていい?ね、涼子、一緒にどうかな?」


 私は慌てて帰ろうとする涼子の腕を掴んだ。


「んー。ごめん。今日、予定が…。また今度誘って。また今度があればだけど…(笑)」


 謎の微笑みを武志に向けて、涼子は帰ってしまった。ああ、なんで別れたい彼氏とその友人二名を連れて、ゲーセンに行かなければならないのか。私は何をしているんだ。


 窓から校門を出る涼子を見て、ため息が出た。後ろ姿が浮かれている。彼氏と会うのかな?


「羨ましい~!!!」


 突然声を発した私に、武志はきょとんとしていた。

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