第五章 4-2


 御隠れになった天人と地姫の探索というお題目のもと、多くの民衆に見送られ西の大海へと出航した帆船はんせんは、私の魔法による後押しもあり、およそ一月の航海を経てヌーナ大陸南東部に上陸した。


 そこで私たちを待っていたのは、神皇しんのうの崩御により内乱状態に陥ったネビケスト皇国と、後のハナラカシア王国の太祖たいそヤチホコを旗頭とした独立戦争であった。


 かつてお父様から聞いた話によれば、皇国の神皇には代々、火の天人アグニが宿るという。故に新しい天人を封禅ほうぜんするため、お姉ちゃんたちと一緒にいた筈なのだが、これは一体どういうことなのだろう。


 にわかに湧き起こる不吉な予感に私の気持ちははやったが、霊峰タカチホは大陸の最北端に位置しており、帆船では航路が未開拓で補給もままならないことから、陸路による移動を余儀なくされた。


 しかし、南部では戦闘が激化しており、馬車の調達はおろか徒行にも危険が伴うため、いずれかの陣営に与する必要があった。また、ここまで随行してくれたハヤト一族を置き去りにも出来ず、私は彼らを率いて独立軍に加勢した。


 幸いにして、私の魔法技術はヌーナの水準を遥かに凌駕しており、表向きはハヤトの長を首領とする土豪ということで、特に詮議を受けることなく与力よりきとなることが出来た。


 当初は一進一退の攻防を繰り広げていた南部戦線は、皇国軍最大の拠点であったオハリダ探題たんだい、後の王都オハリダの陥落により情勢は一気に独立軍へと傾き、ヤチホコはハナラカシア王国の建国を宣言した。


 この攻略戦には幼女にふんした、というよりも外見は幼女そのものである私による潜入工作が決め手となったのだが、不名誉な行為であるとのそしりを避けるため、また後の六大諸侯への配慮もあり、独立戦争の公式記録からは除外されている。


 しかしながら、今回の功績により王国の東部、コトミナ領の更に先にある東海岸一帯は、名目上は王領ではあるが、実質的にはハヤト…いや、王国の慣習に合わせて隼人はやとと改称した一族が自治権を有している。


 彼らはヌーナの民と交じり合いながら、今日に至るまで東の大陸への航海術を伝承している。本当は自分たちだけであれば故郷に辿り着けたかも知れないのに、律儀にも私が共に帰る日を待ち続けているのだ。


 私はヤチホコの戴冠たいかんを見届けると、特別に宛行あてがわれた戦闘用の馬車を駆って大陸を北上した。そう言えば、ヤチホコは最初からずっと私の正体に気付いていたようだ。おそらくは彼にも地姫、いや天人と交信する素質があったのだろう。


 その後、王国はディアテスシャー帝国、バラトリプル教国と三国同盟を締結、旧皇国勢力はことごとく壊滅し、独立戦争は終結することとなる。

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