第四章 EP(終)


エピローグ



 結集けつじゅうの日より数日後、教国の混乱の終息と霊峰タカチホの天候の安定を待って、レイネリアたちの出立の日が決まった。束の間の休息を過ごし、いよいよ明日に入山するという夜、二人はどちらからともなく寄り添い合い、同じ寝台に身を委ねていた。


 昔話に花が咲いた。まるで時を遡るかの如く、共に過ごした日々が現代から過去へと蘇ってくる。記憶の忘却を補完し合うそれは、まるで少しでも未来に残そうと願っているようにも思えた。


 やがて話し疲れたのか、ミストリアの返事も途絶えがちになっていく。そろそろ明日に備えねばならないと、彼女もまた名残惜しさを懐きながら瞼を閉じた。


「お姉ちゃん…」


 不意に、寝息に混ざって聞き慣れぬ声が漏れた。驚いて目を開けると、ミストリアの瞳から一筋の涙が零れ落ちていた。そう言えば、出会ったばかりの頃はそう呼ばれていた気もする。あの頃は自分も幼かったが、ミストリアは輪を掛けてそのように思えた。


 本当はミストリアも不安なのだ。あれだけ強く、頼もしく、何者をも寄せ付けぬ少女にも、そんな一面があるのだと、見せてくれるのだと、何だか少しだけ嬉しくもなった。


 震えているミストリアを強く抱き締める。大丈夫、大丈夫だから。こんな私でも、きっとあなたのためになれるのだと、今なら自分を信じることが出来る。


 ミストリアもまた力強く、彼女を抱き締め返してくる。二人きりの夜は更けていく。それが『彼女』とミストリアが過ごした最後の夜であった。


 これは、現代に蘇りし空属性を操る少女レイネリア=レイ=ホーリーデイと、伝説を生きる神々の忘れ形見ミストリア=シン=ジェイドロザリーが、秘匿された世界の果てに至るまでの物語である。



 夢を見ていた。


 それは初めて出会った日のこと。


 それは旅立ちの夜に見た夢のこと。


 私は少女に屋敷を案内し、階段の踊り場にある大鏡の前を通る。


 しかし、少女の隣に映る私は、少年の姿をしていた。

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