第3話 聖女のスカウト
次の日、僕は足取り軽く「萌え萌え聖女カフェ」に向かう。
財布には一千万グレアの価値がある魔法石をいれてある。
大事な商売道具だけど、あのアリシアちゃんに会うためなんだから仕方ない。あー今から楽しみでたまらないぜ。
「いらっしゃいませ大勇者様」
店に入ると大合唱で僕を出迎えてくれる女の子達。
「また会えたね、勇者様」と大聖女アリシアに扮するアンちゃん、が出迎えてくれた。
「すぐ来てくれるなんてアリシア感激です!」
この笑顔。やっぱ最高だよなぁ。おっと、見とれている場合じゃなかった。
「実は昨日伝えそびれちゃった事があるんだ。」
席に案内されると僕は早速要件を単刀直入に切り出す。忘れないうちに仕事の話をしないとね。
「アンちゃん、よかったら僕のところで本物の聖女やってみる気はない?」
するとアンは気まずそうな顔をして
「ちょっと、まずいよ?他店へのスカウトは禁止事項だから。ね」と小声で言う。
「いや、別に他の聖女カフェに誘っているわけじゃなくて……。」
「もう、アクちゃんったら。今回だけ大目に見てあげるから、その話は止めて」
だが時すでに遅し。僕の方にボーイたちが寄ってくる。
「兄ちゃん、同業者か?」
「うちのナンバー1引き抜こうとはいい度胸だな?おい?」
え、いや。
「ちょっと別棟の事務所まで来てもらうか?アリシア、お前も証人だ。ついてきな!」
と凄まれる。
なんか誤解されているよなぁ。これはでも、まずいかな。
二人のボーイに事務所へと連行される僕。
「オーナー。不届きもののスカウトを連れてきやした!」
そこには貫禄がある禿げた中年の親父が居た。
「おー兄ちゃんいい度胸やな?気に入ったぞ。うちのナンバー1かっさらいにくるとはな?」
とにこやかに親父は僕に話しかける。
一息おくと
「業界の決まり、理解しとる上でのこと。でいいんやな?」
「いや、僕は同業者では断じてありませんし、他店への引き抜きだなんて滅相もない!」
「ほぉおおおお……」
かれこれ1時間ぐらい弁解に時間を要した……。
脅され凄まれ僕は、アンを本物の聖女として、勇者と聖女の御一行に加える計画であることを洗いざらい話すことになる。
アンが居る手前「世界一のビッチで聖女に見える女」という検索ワードはごまかしたけど。
「一千万円の魔法石を協力していただくフィーとしてお支払いしようかと」
ともみ手をする僕。
「なるほどなぁ、同業者じゃないことは分かった。よし一千万で手を打ってやる」
と肩を叩く親父。
「俺の名前はワルーダ=ネイチャ、これからはワルって呼んでくれていいぜ!」
「ありがとうございます!」
「子分にしてやるよ。何かあったら俺の名前を出しな?色々面倒見てやるから」
「身に余る光栄でございます」
ガッハハと豪快に笑うワル。
「本物の聖女が在籍している聖女カフェか……。最高じゃねーか。金の匂いがプンプンするぜ」
ニヤリと悪そうな笑みを浮かべるワル。
「お前さんの計画にうちのアリシア使っていいぞ。ただ店には在籍したままだからな」
パンと突然ワルは手を叩く。
「おいアリシア、今日はコイツと店外デートコースな?しばらく店には帰ってこなくていいぞ」
「はい、かしこまりましたワルさん」
と頷く聖女アリシア。僕の幼馴染のアン。
「今日だけじゃなくて、しばらく、な。本物の聖女として名前が知られたら、また店で本格的に営業かけるぞ」
そして、僕は聖女アリシア、僕の初恋の人であるアンちゃんと王都の歓楽街へと向かった。ちょっと怖かったけど、なんとか僕は「世界一のビッチで聖女に見える女の子」のスカウトに成功したようだった。
よし、明日早速、冒険者一行にアリシアを本物の聖女として紹介するぞ!
これ以上、納期遅延をして彼らを怒らせる理由もない。
勇者はまだだけど、これで少しは僕のことを許してくれるといいのだが。
だいたい「世界一のクソ野郎で勇者に見える男」なんて、できるだけ会うのを先延ばしにしたい相手だしね。
僕はアリシアとの店外デートを楽しむことにした。仕事の打ち合わせの話がほとんどになるだろうけど、幼馴染との意外な再会と交流に心が踊っていた。
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