第2話 大聖女アリシアとの再会

 まずは「世界一のビッチで聖女に見える女」とやらに会いに行くか。男より女が先だろ、こういうのはさ。「クソ野郎」は当然後回しだ。


 水晶玉が示す場所と王都の地図を照らし合わせると一軒のカフェがあった。どうやら今彼女はここで働いているらしい。


「門よ現れよ、そして開け」

 遠隔ドア召喚の呪文を唱える。この呪文は遠くの建物の入り口を呼び出し、瞬間移動することができる。


 だから僕はその建物の外にある看板に気づかなかった。


 それには「萌え萌え聖女カフェ」と書いてあり、カフェの名前を示すとともに男を魅惑するイカガワシイ雰囲気を醸し出していた。


「いらっしゃいませ!勇者様」と聖女に扮する女の子たちが僕を出迎える。


「あ、ああ?」あまりのことにドギマギする僕。女ってやつは苦手だ。


 気を取り直し。

「この店で一番聖女らしい子って誰?」

 と女の子に聞くと。突然店中の女の子がベルを鳴らす。


 そして声を揃えて、

「ナンバー1大聖女アリシア様、勇者様がご指名です!!」

 と突然ボーイ風の男達が叫ぶ。


 な、なんだ。このノリは。


「また会えたね?勇者さま?」と奥からいかにもゴージャスな聖女風の女性が姿を表す。あ、水晶玉の「世界一のビッチ」と同じ顔だ。


 「う、うん」あまりの展開に硬くなる僕の口。若い頃は勉強ばっかりだったから、こういう盛り場はちょっとね。普通のカフェではないことをようやく理解してきたぞ。


 ボーイが

「聖女さま、勇者さま、こちらで歓迎いたします」と言い席に案内する。


 僕が席に座るとそのアリシアという少女は僕の横に磁石でくっついているかのような距離で座り僕にしなだれかかる。


 恥ずかしさのあまり、僕は目を下に向けると彼女の下のスカートがスケスケであることに気づく。ど、どこに目をやればいいんだ。


「勇者さま。素敵。再会に乾杯です」

 と言う彼女。飲み物のメニューをさっと出すボーイ。値段がヤバイ。おい、ここは、ぼったくりか!


「勇者様……。なんとお呼びいたしましょう?」


「大賢者アクトと呼ばれています。アクちゃんでいいですよ?」と応える僕。

 仕事のことなんて僕はもうすっかり忘れていた。ここ楽しい。女の子の良い香りと上質な酒!この子はめちゃ僕のタイプ!カワイイなぁ。


「乾杯!」

「私小さいころアクトって子と仲よかったんですよ?」と聖女アリシアは言う。

「そうなんだ、めずらしい名前なのに不思議なこともあるものだね?」

と言って僕たち二人は同時に気づいた。


「村の学校の」

「アクト=クー=カニング君?」

「アンちゃんじゃないか!」


 そう。僕たちは幼馴染だった。しかし、ただの幼馴染ではない。実は彼女にはちょっとした恨みがあるのだ……。


「ごめんねー。昔決死の告白されたのに、いい返事できなくて。この店はどうやって探したの?」

 卒業するとき。僕は彼女に告白したのだが、友達としか思えないと言われたのである。


「その魔法の水晶玉で検索したんだけど」と応える僕。


「へー、なんか凄いね。アクちゃん昔から頭よかったものね。今は賢者やっているんだ?そういや大賢者アクトって有名だよね?君のことだとは思わなかったよ」

といってコツンと僕を小突くアンちゃん。カワイすぎるよ。


 僕は彼女を本物の聖女に仕立て上げる計画のことをついぞ忘れ、楽しくアンちゃんと飲みまくった。


「すごーい」を繰り返す彼女。

「いやー賢者ってやっぱりお金持ちに見えちゃうのかなぁ?大したことはないんだけどね?」

 本当に大したことねーのが虚しい。半年間赤字だしな。


 僕は結局いつまでもズルズルと店に居座り続けた。

「お客様。閉店です。お会計お願いします。」


 ナンバー1大聖女アリシア指名料:10万グレア

 お酒飲み放題パック:30万グレア


 え、ええええええ。ヤベー払えるのか僕。


「ちょっと今手持ちなくて……」

 と言うとボーイは

「大賢者アクト様ですよね?ツケでよろしいですよ?次回まとめてお払いください」

「かしこまりました」

 敬語になる僕。あーあ。40万グレアか。夢から覚める僕。しかも今頃になって目的を達成してないことに気づく。


 ツケもあるし、これじゃぁ、もう一度この店に行かざる得ないよなぁ?

 

 帰りは歩きで帰った。あまりに高額の支払いのせいで、帰りのタクシー代はケチりたくなるってもんだろ?豆知識だけど、タクシーっていうのは異世界の瞬間移動の召喚魔法のことね。召喚魔法に使う触媒って、まぁまぁ高いんだよね。


 でも僕は清々しいぐらい気持ちよく気分が晴れていた。

 

 よし、また明日聖女アリシアちゃん指名しようっと!



























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