第525話 沼に響くファンファーレ

『十年後二十年後三十年後 僕らはどんな風になっているのかな?』







「……まさか彼奴が音楽を嗜んでいたとは」

「それも只の音楽じゃなくって魔法音楽。ったく、こんな趣味隠していたのねえ」

「あ゛ー……うるさっ。まじうるさっ」

「そうか、貴様はその耳の影響で音を拾いやすいのか」

「そうなんだよったく……限界。ぼくちょっと離れるわ……」


「!」

「あー? うん、シルフィ出ていいぞ。勝手に踊ってろ」

「-!」

「♪」

「サリア、アナタも妙に機嫌いいわね……趣味なの?」






『素敵な人に出会えているのかな? 子供は何人生まれているのかな?』






「なのでーす!!」

「おーらっしゃあー!!」

「私の可愛いスノウちゃんが謎テンション!!」

「ジャバウォック、落ち着け」

「これが落ち着いていられるかー!!!」

「こういうのもすてきなのでーーーす!!!」


「がおおおおおーーー!!!」

「うおおおあああああーーー!!!」

「クラリアのみならずクラリスもぶっ壊れた」

「うう……クラリア、おれも!!」

「ああー!! 残されたリーシャちゃんはどうすればいいのだー!! 踊るわー!!!」






『Heygays,too bad 今日もまた退屈な時を過ごして

 Always,boring 量産型のくだらない日々を』


『確かに誰かがそう言った 杓子定規であればいい

 しかし心がこう言った 人形なんかになりたくない』






「いざーくー! かっこいいー!」

「もっと大きな音だしてー!」

「さいりー! いけてるよー!」

「きゃー! こっち向いてくれたわー!」




「あんな力強い若者がいるとはのう。外は本当に広い……」

「あの服チョーかっこいいー!! 外にはああいうの着てる人がぎょーさんいるんでしょ!? ホント憧れる……!!」

「実にいいセンスを持っているな彼は!! 後で教えてもらおう!!」

「魔法音楽、サイコー!」






『信じるべきはどちらだろう 悩み迷って抱え込む

 けれでも答えは見えている 決めて定めて吹っ切れる』


『狭い器に収まらない 好きなようにやるからな!

 雄叫び上げれば無敵になれる 自由はこの手に……Ah!』






「うう……腹が」

「叔父さん、無理しないで家に帰ったら?」

「そ、そんなことはできない。私は族長として、見届ける義務が……」

「なら頑張ってね」

「冷たい……」


「あとソールさん、それに他の皆も。顔顰めすぎだよ」

「だだだだだって!! こんな五月蠅いだなんて聞いてないでやす!!」

「魔物とか来たらどうすんだよー!?!?」

「結界を構築してあるだろうが……第一、これぐらいで村が襲われるなら、とっくの昔に壊滅している。修行の時に悲鳴を沢山上げてるからな」

「それもそうか!!! うおおおおおおーーー!!!」

「……若さが羨ましい」











『可能性なんてゼロじゃない 僕らは何でもできるさ!』






 まさか人生初のワンマンライブが、この森で執り行われるとは。






『くぐもったセカイにサヨナラ 餞別に舌を出して』






 自分の好きな物、自分の作った曲を、喜んで受け入れてくれる人がこんなにもいる。






『さあ両手を上げて踊ろうか 彼奴等に見せつけるぞ』






 大都市リネス、円卓八国に数えられる世界有数の商業都市。しかしイングレンスの世界においてはちっぽけな町でしかない。


 世界は広い。魔法音楽を批判するどころか、存在すら知らない人が山程いるのだ。






『羨んだってもう遅い 加速していくぜ……Let's Go!』






 例えるならばこれはファンファーレ。


 これからの自分、魔法音楽を布教する活動の、偉大なる第一歩なのだ。
















「……いい歌だな」

「うん……頭がすっきりする」

「それに演奏している時のあいつは、とても生き生きしている」

「本当にね……」




 中央広場から少し離れた所から、おぶりおぶられ様子を眺める二人。



 いつの間にかうっとりとその音色に聴き惚れていた。目を閉じてじっくり堪能する。






 なので演奏が終わったことにも、囲まれていたことにも気付かず。






「いよーーーバカップル!!!」

「こんな時でもおデートですかい!!!」

「わぁーーーっ!?」






 危うく転びそうになる。後ろではリーシャとハンスがにやにやして立っていた。アーサーは我に返ったが、エリスは彼の背中でくぅくぅと寝息を立てている。






「な、何だよお前ら!!」

「何だよってあんたらここにいたから来てみたんでしょうがっ!!」

「丁寧に七人揃って来るな!!」

「おれ、やること、ない」

「アタシもだぜー!!」

「暇だからな」

「暇だし」


「……まあ、そういうこと!」

「こいつら……!!」






 そこに最後の八人目がやってきた。








「……」




「えー……」








「言ったでしょ、帰ってから色々してもらうって。いつものテンションに戻りなさい戻れ」

「本音が出たなぁサラ先生!?」

「そういうんじゃねえだろ。ほら、アーサー出ろ」

「ああ……」




 前に出てくるアーサー。エリスはまだ目覚める気配がないが、取り敢えずシリアスな雰囲気である。






「……オレがお前に無理をさせてしまったみたいだな」

「……」


「……済まなかった。オレは、友達として失格だな」

「いや、それは気にしてないよ。ある意味宿命みたいなもんだし……それを受け入れられてなかったボクに問題があっただけ」

「だが……」

「オマエ自身で何とかしようとしてできるもんでもねえだろ。だから必要だったのはボクが変わることだけ。そしてそれも済んだ」




「……素晴らしい音色、演奏だった」




 何とか片手を前に出し、差し出したイザークの手と握り合う。






「その演奏で、これからもよろしくな」

「ああ、任せてくれよ騎士王サマ。オマエの活躍はボクが彩ってやる」



 友人達も、これである程度は片付いたと、安心するのであった。











「ん……」



「んん……」



「……んっ!?」






 エリスはアーサーの背中でもぞもぞ目覚め――



 周囲の状況に気付く。






「……ああああああああーーーー!?!?」

「いよっ!! おはよう!!」

「アーサーの背中でする昼寝は楽しかったかな!? あははははは!!」

「おはようアーサー君のプリンセスゥー!!!」

「ああ、やはり貴様はそうしてもらった方がしっくりくる。誠に遺憾で憎たらしいが」

「どどどどどどどうしてこうなったのー!?!?」




 あたふたしてじたばたしてアーサーから降りる、こともできない。




「うう……動けない……身体重い……」

「ならまだオレがおぶろう。カタリナ、道案内よろしくな」

「任せてよ」


「じー」

「じじー」

「じぃ~~~~~!!!」

「各位じろじろ禁止ー!!!」






 さあ一歩踏み出して一旦戻ろう――




 というわけにはまだいかない。






「「……ん!!」」

「どうしたルシュドにクラリア!!」

「何か……来る!」

「あれは鷹だぜー!!」



 その通り、見るも猛々しい鷹が一羽飛んできて、ヴィクトールの肩に留まった。



「シャドウか?」

「ああ、遣いに出していたんだ。父上に現況報告をと思ってな……」

「……!!!」

「ん?」



 普段通りのヴィクトールの姿に戻るシャドウ。その顔はかなり深刻であった。






「……帰る時も安全とは言えないようだ」

「どゆこと?」


「最初に俺達が通った詰所は、現在逼迫した状況にある。どうやら父上に会いにカストル殿がいらしているとのことだ」

「クロンダインで一番偉い人じゃん!! 見つかったら何されるかわかったもんじゃないな!?」

「本当に父上が目的かどうか怪しい所ではあるが……そして、彼と同等かそれ以上に不味い人物が来ている。エリザベス・ピュリアだ」


「聖教会の偉い人か!! エリスが狙われる!!」

「クラリア、それもだけどもっと突っ込むべき箇所があるわ。エリザベス・ピュリアについて思い出してみなさい」

「ん……んんー?」






ぽく


       ぽく


              ぽく




       ちーん






「……ん!? エリザベス・ピュリアって……大昔の人じゃねえのか!?」

「聖杯時代と帝国時代の境目を駆け抜けた、三騎士カッコラワイの一人……」

「事実だけどカッコワライってウケるわ!! ……ピュリア六十三世とかそんなんじゃなく?」

「!!!」

「ヘンリー八世も同行していたそうだ。彼が最大限の敬意を払っていたのだから……本人の可能性は高いと」


「う……うう……」

「何で昔の人が蘇ってるのかわからなくてルシュドが頭を抱えてしまった。よしよし」

「モードレッドが蘇ってるのだからピュリアだって蘇ってもおかしくはない!! そしてこの理屈で行くと嫌な考えに思い至ったけど今は黙っておく!!」

「……」




 思い至ったのはエリスも同じだ。三騎士の残った三人目の顔が浮かぶ。



 アーサーの身体を掴む力を可能な限り強めた。




「このことを族長殿に話して、今後の方針を考えよう。カムランと交戦してしまった以上戦闘は必ず避ける。父上との連絡も必須だ、シャドウには暫く働いてもらうぞ……」

「……!」


「エリスの回復にあと一日ぐらいはかかるでしょうから、その間に帰ってくれればいいんだけど……」

「聖教会がクロンダインに赴く理由なんて皆無だ。聖杯程度の目的がないと、こんな賎民だらけの辺境に訪れはしない」

「だとしたらエリス来るまで待ってるわね……」

「……ごめんね」

「いいってことよ。エリスも宿命みたいなもんだ。それを謝るのはお門違いだぜ」

「……イザーク」




「エリス、あたしも覚悟決めたから。もう迷わない。エリスの為に戦う」

「カタリナ……ありがとう……」






 こうして十人は来た道を戻っていく。


 帰るまでが冒険であることを噛み締めながら――

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