清純なる華に暁天の光を

 上階から光が零れ出す。






 彼が騎士王に向かって、






 とどめの一撃を加えようと、構えた瞬間であった。








「なっ……!?」




「……」




 彼は即座に攻撃を止めた。




 そして光が溢れる先を、瞬きの一つもせずに、ぎろりと見つめる。








 光が収まると同時に少女がやってきた。











「……思い出した。モードレッド、おまえは――」




「わたしが、世界で一番嫌いなやつ!!!」








 その声は力強く、迷いを超えた果てに、信念を滾らせていた。






 白金の鎧を可憐に着こなしている。ありとあらゆる所にフリルやレースをあしらいながら、上半身の胸当ては強固な作りで、下半身は太腿まで隠れるスカート。



 肘まで白金の籠手で覆われ、同様の白金の長靴が太腿より下を包み、露出しているのは肘から肩にかけてのみ。



 指輪は砕け散り、代わりに両手で剣を握っている。ティアラの代わりに緑のヘッドドレスを身に付けた――






 大方、彼のに一切刺さらない服装。











 彼女の姿に失望した後、背後に目を向ける。



 そこには確かに彼女がいた。守護霊のように透いた身体で、そっと佇んでいた。



 金髪のストレート、長さは肩程まで。前髪を留めるピンクのヘアバンドと、憎たらしい程澄んだ翠の瞳。



 着用している鎧には、昔散々見てきた紋章が刻まれて――






「……ギネヴィア」



「結局君は……運命に抗おうとするか」











 憎悪を向けられても屈しない。



 それどころか見下すような視線で迎え撃つ。






「……散々わたしに気持ち悪いことしやがって。その上わたしの友達も、こんなに傷付けて……!!!」

「……友達。それはここで転がっている彼らのことかな?」




 近くにあった友人の身体――カタリナを持ち上げて、



 槍の先を首に当てる――




「剣を下ろせ。私に従え。そうでなければ友達の命はない」

「……あの時からやること変わんないんだ? 昔お姉ちゃんを人質にしたみたいに、今回もそうするんだ」

「そうすると君は従ってくれるからね」

「誰がするか!!」






       うおおおおおおおおおお……っ!!!






「……くっ!」








 放置している間に、一撃入れられるだけの体力を取り戻したらしい。






 両手で剣を構えた騎士王が、




 飛びかかって剣を振り下ろす。






 即座に手にしていた身体を投げ飛ばし、身を翻すことには成功したが――








「あんた……エリスに手を出そうって言うなら、益々承知しないぞ……!!!」

「それは私の台詞なのだがな。君はエリスの何だというんだ?」

「大切な人。おまえなんかよりも、ずーっとね!!」




 悪態をついたエリスが、



 剣を振りかぶって斬り込んでくる。








 当然攻撃は外れた。当たったとしても痛くも痒くもないのだが。



 しかし彼女はアーサーの前に立ち塞がり――








「……」


「何? また人質? 大いなる三騎士だか何だか知らないけど、本当にやることが姑息……」






 今度はイザークの身体に向かい、槍先を喉元にあてがう。身体は起こさず足で踏み付ける。






「一瞬でも剣を動かしてみろ。彼を筆頭に全て殺してやる」








 一切動じないエリスの後ろで、焦りを見せるアーサー。




 そんな最中だ。守護霊の彼女と目が合ったのは。








「……大丈夫だよ」



             「……え」



「エリスちゃんならできるから。見ててね」



            「な、何を……」





      その姿は全く知らなかったが、



      確かに記憶の片隅に存在していた








 刹那、エリスは剣を掲げる。




 僅かな動作を見切ったモードレッドが、魔法を展開し、




 残った八人の首に絶命の一撃を齎す――
















 前に、目が眩む程の光が視界を覆った。











「……」



「逃げられたか……!」











 次に視界が元に戻った時。




 城に乗り込んできた九人と、やっとのことで見つけた彼女は、




 まるで最初からいなかったかのように、その姿を消していた。








「……そうか、そうか。君はその力を使ったか」



「ああ……」








 心臓に重みを感じる。




 耐えられなくなって、膝をついてしまう。






 それを見兼ねた、傍観に徹していた五人が、駆け付けてくる――








「我が主君!! ご無事でありますか!!! がはぁ!!!」

「オイオイオイオイオイオイオイオ何してんだぁもっさん!?!? ア゛ア゛ッ!? グッ!!!!」


「テメエら!!! 血で汚いってのに主君に近付くな!!!」

「グオオオオオオオオ!!! キサマラ、フケツ!!! デテイケ!!!」

「我が主よ、ワガハイの手に捕まりくだされ」






 老人に助けられながら、彼は身体を起こす。



 次に視線を向けたのは――






 肉体より落ちた右腕を握る青年と、血を吐き出すマルティス。



 自分がここに来た時よりも、傷が増えている。






「申し訳ございません!!! ワタシはコイツらの喧嘩を止められず、貴方様が戦っているのにも関わらずそれを穢すような真似を……!!!」

「コイツが不敬なのが悪いんだよ!!!」

「コイツキレやすくて面白れえわ!!! ギャハハハハハハ!!!」

「アアアアアア……!!」







「……」






 彼は静かに笑みを浮かべた後。



 彼は左手を二人に向け、魔力を込めた。






 すると、するとだ--それは起こったのだ。








「……な、ななななっ、なななななあ……!?」

「……我が主君よ。この傷は……!!!」


「もう治せない所まで来てしまった、だろう? 私でもわかるよ」

「で、では……!!!」








 老人が目を白黒させている間に、二人の治療は完了した。






 腕は戻り、折ったであろう骨も繋がり、傷口も全て塞がり、果てには失った量と同じだけの血液も戻ってきた。






 それは、奇跡でも起きない限り不可能だと思われた治療。








「……ああ。やはりこの感覚だ。のあの時と、全く同じ……」






 歓喜に震える様子の彼。そして、腹心の部下達も。








「は……」



「ははは……」




      ハハハハハハハハハハハハハハ!!! 








「ついに、ついについについについについに!!!! この時が来た!!!」




「我が主君が、失われたの力を取り戻した――!!!」

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