第434話 双華の塔の大暴動
苺雨の騒動があってから数日後。聖教会とキャメロットの面々がようやく電流玉――そう言っていた、ばちばち痺れる魔力の集合体。をほぼ撤去し終えて、連中が言うにはこれで秩序が戻ったとのこと。
しかし一度燃えだした炎はそう易々と鎮火しない。何せ火が付いたのが巨大な、巨大な、ぎっとぎとにへばりついた油の塊だったのだから。
「おのれぇ!!! 小賢しい生徒共がぁ!!!」
べちーん!!!
「きゃー!!! この人変態でですー!!!」
「なっ「尻叩きが許されるのはまだ性の欠片もないお子ちゃまだけしか有り得ませんことよー!!!」「にょほほほほー!!!」
変態!!! 変態!!! 変態!!!!
あっはは、
きゃはははははははははははー!!!
「ぐ、ぐぬぅ……貴様ら、あの日以来から生意気叩きやがって!!!」
「私は!!! 断じて!!! 変態ではない!!!」
しかし心の隅っこではダメージを受けてる彼はよろめいていく――
「あだっ!!」
「きゃあっ!!!」
女子生徒とぶつかり、体重と体重で即座に世界が物理的な影響を導き出した結果、女子生徒の方が顔から倒れる結果となった。
「おい貴様、何処見て歩いて「王族に対する傷害容疑です!!!」
「……は?」
立ち上がった生徒はファルネア。王族であることを加味しなければ、特に個性のない普通の生徒――
「わたしはグレイスウィル王国の第一王女、ファルネア・ロイス・プランタージ・グレイスウィル!!! 次に王国の未来を担う者に対して、周囲の確認もせずぶつかってくるとは!!! 何たる無礼!!!」
「い、いや、ぶつかってきたのはそちらで「このわたしに罪を擦り付けると申すか!!! あと仮にも一国の姫に対して、貴様とはあなたこそ何様なのです!!!」
「なっ……「そうだそうだー!!! ファルネアはこの国において両指の中に入ってくるぐらいには偉いんだぞー!!!」
「待て……「グレイスウィルは今は王権制!!! 法律は改まっていませんから、ファルネアちゃんの方が偉いのは明白ですわー!!!」
次々と生徒が出てきて男を罵倒する。完全に令嬢になりきったアザーリアに、包帯を巻いた右腕を引き摺るマチルダ等。
特に一番目を引いたのはこのトールマン。
「おらー!!! 何が焚書じゃ言論統制じゃー!!! こちとらてめえらが群れる昔から神々でうっほんおっほんあははははーしてきたんじゃー!!!」
その辺に転がっていた石を次々と魔法で浮かせ、敵意剥き出しにして眼鏡もキラーンと輝かせて猛進するサネット。
掲げた旗には『サンエクはジャスティス』と大きい文字でずかずかと書かれ、同様に表現の自由を訴える腐敗臭がしそうな女子生徒の皆様が大行進している。
「私らがこっそり日陰でこそこそやってきたってのに、私らはお前らを傷付けたかー!?!? えーっ!?!?」
「な、なら言わせてもらうが私は傷付いたぞ!!! 私の信じる神が貴様らに「
「ずんべらぱっぱーーーーーーッ!!!!!
ア゛ーーーーーーッ!!!!」
~蛸殴りにされてゴブリンよりも醜い顔に~
「ヒャハハハハハハハハハザマア!!! ザマアーーーーーーー見やがれってんだーーーーーーーーっ!!!」
「……これが腐れ系女子の本気……」
蛸殴りにされた男は、偶然にもサラの監視を任されていたのだった。
つまりサラは今監視を失い自由ということになる。
「サラ先輩!! ちわっす!! 腐れ系女子は怒らすと怖いんすよ!! うっす!!」
「ふう……それにしても、随分と大暴れしているじゃない?」
「ファルネアちゃんがねーーーっ!! 先ず二年生に声かけたんですよ!! グレイスウィル王女の元に反乱を起こせって!!」
「とてつもないカミングアウトしてる……」
「それで四年生のアザーリア先輩が便乗して……いや、共謀だったのかな?! もう覚えてないんですけど、とにかく演劇部から波及していって、女子お得意の変態攻めから始まっていきました!!!」
「変態攻めって誤解されそうな作戦名ね」
そんな話をするサラは終始口角を上げていた。
「……苺を食べたからかしら?」
「ええそうですよきっと! かのフェンサリルみたいな、苺に宿ってた力とかじゃなくって、連中相手でも騒ぎを起こしてアッカンベーできるって、皆勇気付けられたんですよ!!」
「ん、きっとそうかもね」
部屋に翻し、杖を持って戻ってくる。
「便乗ですか!!!」
「便乗よ。暫く暴れ回ってから――新たなる火種を蒔くつもり」
生徒達の暴動が起こっているのは、
<わーっしょーーーーーい!!!
何も百合の塔だけではない。
<そいやそいやそいやそいやあああああ!!!
男子寮である薔薇の塔でも、
<そーいやさっさあいーやさっさああああ!!!
女子達とはまた違う、しかし派手なのには変わりない、
<わっしょいわっしょいうほほほほほー!!!
大規模な反抗が行われていた。
「ちょっ、おまえ……!!」
「そーれー!!! もっと上げろー!!!」
\わっしょーい!!! わっしょーい!!!/
「ごはぁ!!! うおっはぁ!!!」
胴上げされたキャメロットの魔術師が、遂に天井に顔をぶつけて穴を空けてしまった。
突然の狂気、突然の襲来には、世界でも有数の魔術協会に所属する魔術師でも手が出ないらしい。
「ああっ!? 気絶したぞこいつ!?」
「次だ次ー!! 早く皆をわっしょいさせるんだー!!!」
この時開きっ放しの窓から風の精霊が一人。
ナイトメアのルサールカ、用があるのは今生徒達を率いていたダレンであった。
「ん? おお、ルサールカじゃないか!? そっちはどうなんだ!?」
「――、……」
「ああ、こちらは見ての通りだ!! 名付けてわっしょい大作戦だ!!」
「……?」
「色々考えて、単に襲うんじゃなくって騒ぎまくれば連中も慄くんじゃないかと思ってな!! そこで突然胴上げすることにしたんだ!! 因みにこの衣装ははっぴー☆ って言うらしいぞ!!」
「……♪」
「おう、こっちはこっちで楽しく反抗してるから、アザーリアによろしく言ってくれ!!」
「それーわっしょーい!!」
「……わっしょーい」
「あそーれよいやっさあああーーーー!!!」
「よいやっさー」
「どっこいしょーどっこいしょー!!!」
「どっこいしょーどっこいしょー」
「楽しい楽しいニシン漁!!! 行きつく先はストレミング!!!」
「ストレミングにするなせめて干物にしろ」
とか何とかしている間に、アデルと彼の仲間達が胴上げしていた魔術師は気絶した。
ロビーには他にも気絶した魔術師が転がっており、外からの救援も生徒達の狂気に恐れて様子見を続けている。
イザークの監視を行っていた魔術師も気絶してしまったので、彼は興味ありげに外に出ていた。
「イザークせんぱぁい!! 何でそんなにダウナーなんですかぁん!!」
「……いや、オマエスゲえなあって」
「そんな!! オレの計画に便乗してくれた皆のお陰ですよ!!」
「胴上げするのもオマエの提案?」
「ダレン先輩やあと会議にだけ参加してくれたマイケル先輩やラディウス先輩の影響っす!!」
「演劇部が一枚噛んでたかぁ」
「おっと!! 入り口からいけに……お客様が!! 皆ーわっしょいするぞー!!」
ギャアアアアアアアアアアアア!!!
「……」
「……行くか!」
「行ってから、暴れ回ってから――他の皆にも話をしよう!」
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