嗤う男・前編
突然の化物に砂浜は驚然とした。魔法学園の関係者が安全確認に奔走し、避難と調査を行う。
旅館前では生徒達が一ヶ所に集められている。美しい夕暮れが混沌を告げる黄昏と化した。
「どうだ!? 全員避難は終わったか!?」
「今点呼中だ! そちらは!」
「散々暴れ回っていたようだが、化物は姿を消したようだ――砂浜が抉れてしまったが、それも復旧するだろう――大方問題ない!」
アドルフとルドミリアが話している所、そこに雪崩れ込むように、二年生の教師陣がやってきた。
「ほ、報告します! 四組、リーシャ・テリィの姿が見当たらず――リーシャが!! リーシャがどこにもいないんです!!」
「ヘルマン先生、落ち着いてください!!」
「ディレオ先生、五組は?」
「ああ、すみません、こちらも一人だけ――サラ・マクシムスがいません!」
「報告しますぅ。二組、ルシュドの姿だけ確認できませんでしたぁ」
「三組です! クラリア、ヴィクトール、ハンスの三名! 応答がありません!」
「……」
「ハインリヒ先生、一組は?」
「……四名です。カタリナ・リグス、イザーク・グロスティ――エリス・ペンドラゴンに、アーサー・ペンドラゴン」
一同に緊張が走る。
「何てことだ……十人もいないってだけでも緊急事態なのに……!」
「よりにもよってエリスとアーサーか……!! キャメロン!!」
「フォンティーヌ、島中飛び回って探してこい!!」
「サタ子も手伝ってきて!! ああ、私も行った方がいいんでしょうか!?」
「各担任は生徒達への指示をお願いします。状況を見て、捜索に人員を追加する方向で――」
「先生!」
「ニース先生。丁度いい所に――私に代わって、一組の生徒に指示をお願いします」
「構いませんが――一体何が――」
ニースの問いに答えぬまま、ハインリヒは街に駆け出していく。
……
……サー
アーサー……
「……アーサー!! おい!! 起きろ!!」
「……!!」
イザークにあちこちを叩かれ、ようやく目を覚ました。
そこは冷たい石の上。広さはおよそ三メートル四方。狭い、とにかく狭い。見慣れた顔の十人がここに詰め込まれている。
入り口と思われる所には鉄格子、そこから見えるのは廊下のみ。壁には手の届かない位置に窓があり、これも格子がついている。
今いる場所が牢屋であると、判断できない者はいないだろう。
「な、何が……」
「知らねえよ!! ボクだって知りてえよ!! ここは一体何処なんだよ!?!?」
「イザーク、落ち着け!!」
「落ち着いて――落ち着いているよ!!」
「冗談を――くそっ!! シャドウ、何故出てこない!?」
他の面々も、ナイトメアに呼びかけているが――
彼らは一向に姿を現さない――
「……いないんだわ」
「サラ?」
「出てこないんじゃない――ここに連れて来られる途中で、はぐれた。きっとそうだわ――」
「じゃあはぐれたって、一体どこに――!!」
彼らが思いのままに発する声を、
一つの足音が黙らせる。
「……!!」
「誰か、来る……!!」
「え、何、イカ臭いっ……!?」
そうして、彼は姿を現した。
「ハロークソガキ!!! 腐ったサクランボキッズにペチャパイ貧乳メスガキ御中!!! あっ、テメエは例外だぞっ♪」
極限まで髪を剃り落した所謂スキンヘッド。魔力水晶の影響だろうか、濁り切った細い目が、ぎろりと睨み付けている。
上半身は全裸、下半身は太腿程度の腰巻を一つだけ。そこに酷く汚れて、元の色がわからないローブを羽織っている。
そして――
「んで、そこのポニテ貧乳!!! テメエ聞こえたからな!!! 俺様のこと臭いって言っただろ!!!」
「……!!」
「ごてーねーにもイカ臭いってかぁ……? ざっけんじゃねーぞ!!!」
男は牢屋の中に乱暴に乗り込み――
リーシャの腹を蹴り飛ばす。
「ああっ……!!」
「おーおーおーおー見るも無残なツルツルペッタン。こんなん人間じゃねえ。畜生以下だ畜生」
「……!!」
「眼鏡も緑髪も狼もまーつまんねー胸してるなクソがよ。しかし、しかし、しかししかししかししかししかしだ!!!」
目が醜然と輝く。
そのまま視線を変えて、リーシャの隣にいた、
エリスの腕を掴む。
「きゃあっ……!!」
「テメエは例外だ!!! 何て胸してやがる!!! 尻も腰も顔も全てにおいてパーフェクト、これだよ俺様が求めていたのは!!!」
「離して、離して……!!」
「うん、お望み通り離してあーげるっ♪」
立ち上がらせた勢いのまま、牢屋の外に放り投げる。
壁にぶつかり、地面に横たわったまま悶えた。男はそれを見て嗤う。
受容するしかない。今この場の支配者は、奴であった。
「ああ、ぐぅ……」
「ぎゃはははははははははははははは!!! 今ので完全に勃ったわ!!! いいねえいいねえいいないいないいないいな俺様の予想以上を行く!!!」
そうして男は牢屋を出て行く。
背後から、不意打ちを取って殴りかかろうとしたアーサーを、
左足で蹴り飛ばしてから。
「ぐ、っ……!!」
「アーサー!!」
「はー何なのテメエ。彼氏面? 彼氏面なの? そういう関係なの? クッソムカつく!!!」
「……!!」
「睨みつけたってムーダムダ。ガキンチョは俺様に敵わん敵わん。『魔法の鞘』を生み出した俺様にはな!!! ここに来た以上、テメエら全員エサになる運命なのさぁ!!!」
そう言うと男は、外に設置してあるスイッチを押す。
「……!?」
牢屋の地面が開かれ――
そのまま、滑り落ちていく――
「んじゃあ精々、残された時間で人生を振り返ってねー☆ バイバーイ☆」
「アーサー……!! みんな……!!」
「エリスッ……!!」
彼らが叫ぼうとした言葉ごと封じ込めて、
牢屋の地面は元の形に変形する。
「そう肩を落とすなよ、エリスちゃん♪」
「……!」
男は肩を抱いてきて、顔を近付ける。
そのまま腕を身体の前に降ろしていき――
手先が、胸に、
「俺様は物覚えがいいからさぁ……今一瞬で聞こえた名前、覚えちゃったんだわ……エリスちゃん♪」
「やめて……」
いたい
「やめない♪ だってエリスちゃんが嫌がると、俺様は楽しいから♪」
「嫌……!!」
いたいいたい
「エリスちゃんはエサにはならないよ♪ だってー、だってだってだってだってぇー!!!」
「嫌だ……!!」
いたいいたいいたい
「これから俺様と、
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
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