第12話 美少女レンタル2

「話を戻すが、研究所は、表向きは『美少女レンタル』をしてる会社だって言ったな。つまり、なにか裏があるんだよな?」


 おおよその予想はついていたが、確認のためにひなこに問いかける。


「優也くんも見たと思うけど、研究所には人工的に作られた生物がいるの」

「ああ、人造人間とかいうんだろ」

「うん。それに加え、わたしたち『美少女』はみんな、不思議な力を持ってる」


 ひなこは右手を前に差し出して、手のひらを上に向けた。

 すると、なんということか、手のひらからまるでマッチに火がついたように、炎が出現した。


「あんまり力を使いたくないから抑えてるけど、ほんとは、もっと大きな炎だって出せるよ」

「まるで魔法だな」

「わたしたちは、異能力いのうりょくって呼んでる」


 炎を消し、今度は、手のひらを前に出した。すると、その手の中に、一本の輝く刀が現れる。


「あん時に見た刀か」

「そう。七星ななほしっていうんだ。わたしの愛刀」

「そういや、さっきの戦いで、今みたいな炎を使ってなかったが、なんか理由があるのか?」

「ううん、とくにはないよ。でも、わたし、あんまり、あの異能力は使わないようにしてるんだ。この刀があるからね」

「そうか」


 七星と名付けた刀のことを、ずいぶんと気に入っているらしい。刀に名前を付けているあたり、なんとも彼女らしい気がした。


「これが、研究所に裏の顔があるっていう根拠かな」

「なるほどな」


 再度言えば、研究所は『美少女』と呼ばれる人間をレンタルしている会社だ。これが法律に反するかどうかは今は置いておいて、そのレンタルに、先ひなこが見せたような異能力は必要ない。もちろん、あの人造人間という存在も。

 つまるところ、研究所は何かしらの目的があって、そのような力や生物を扱っている。

 その目的がなんなのか。


「それに、わたし聞いちゃったの」

「聞いた? 何を」

「研究所にはね、『美少女』が生活する区域があって、ほんとはその外に無断で出ちゃダメなんだけど、たまたま区域の外に行っちゃって、そこで聞いちゃったんだ」

「だから何を」

「『世界美少女化計画せかいびしょうじょかけいかく』のことを」

「世界美少女化計画だぁ?」


 その名前を聞いた途端、今まで優也が真剣にひなこの話を聞いていたことがアホらしくなった。

 それでも、ひなこは、その計画について真面目に語り出す。


「なんでも、研究所は、世界中を『美少女』で埋め尽くそうとしているみたいだよ。『美少女』にこんな力があるのも、制約を破ると存在を消されるのも、きっと全部この計画のためなんだよ」

「………………」


 『美少女』といい、『美少女レンタル』といい、もう少し捻ったネーミングはなかったものだろうか。


「てか、なんのために研究所は世界中を『美少女』であふれ返そうってんだ? そんなことして、なんの得になる?」

「わかんない。そこまでは聞けなかったの。でも、どうにかしなくちゃって思って。研究所を飛び出してきちゃった」


 かわいらしく言ってみせているが、その結果研究所から命を狙われることになってしまったのである。改めて思えば、そんな彼女に手を貸した優也も、どうかしていたのだろう。ただ一時の気の迷いだったとしか言いようがない。

 『世界美少女化計画』と名付けられた計画。その目的などは不明だが、世界中を『美少女』であふれ返すというのは、馬鹿馬鹿しくも恐ろしいものだ。

 自分に何ができるのだろうと考えて、何もできないことに気がついた。結局、優也はひなこの後ろから、彼女を応援しているだけしかできないのだと。


「そういえば、さっき見せてくれた異能力だが、どうやって使ってんだ?」

「優也くんも興味あるの?」

「興味あるっていうか、あんな不思議な力、テレビとかでしか見たことないしな。純粋に気になるんだよ」

「いいよ。わたしが知ってる範囲でだけど話すね」


 すると突然、ひなこは背筋を伸ばし、可愛らしく咳払いをした。


「えー、コホン。それではお教えいたしましょう」

「誰だよお前」


 普通に喋れよ、という優也の心境も叶わず、そのままの口調でひなこは語り出す。


「『美少女』は誰かと契約を交わすことにより、契約者の願いを叶える代わりに、代価として、その契約者の寿命をエネルギー化したもの『生力せいりょく』を得ます。その『生力』が、すべての『美少女』に埋め込まれている『結晶』に集められることで、先ほどのような異能力を発動できるのです」

「なんかよく分からんが、どうやって?」


 ひなこは小さく首を傾げ、頭上にクエスチョンマークを浮かべる。どうやら、質問の意味がわからなかったらしい。


「いや、『結晶』に力が集められて異能力を使ってるのは聞いたが、どうやってんだろうなって。この世界は、マンガとかみたく魔法とかが当たり前とかじゃないんだから、なにか原理があんのかなって」

「んー、わかんない」

「わかんないて……」


 じゃあ誰に聞きゃいいんだよ。


「だって仕方ないじゃん。聞いたけど、よくわからなかったんだもん」


 なら仕方ない。

 ……なんてなるわけもなく。しかし、その気持ちが分からないでもない。優也だって、学校の授業を聞いていて、しょっちゅう起こることだ。


「他に質問は?」


 ひなこは、まるで餌を求める子犬のごとく、次の質問を待っている。どうやら、質問を受けている間に、説明するのが楽しくなってきたらしい。


「てか、質問攻めは女の子に嫌われるんじゃなかったのかよ」

「好きな女の子に、って話だからね。わたしは大丈夫だよ」

「そうかい」


 ならいいんだが。


「さっきひなこが使ってた異能力は火だったよな。他にも使えたりすんのか?」

「他にもって?」

「ほら、アニメとかだと、火とか水とか、属性があんだろ? そんなんが使えたりすんのかなって」

「たしかに異能力には属性があるよ」

「やっぱ、地水火風の四属性なのか?」


 魔法とかによくありがちな四つの属性だ。他にも色々とあるが、メインは、この四属性だろう。


「そだね。その四つと、あとっていう属性があるかな」

「無?」

「簡単に言ったら、四属性のどれにも当てはまらない属性のことだよ」

「例えばどんなのがあるんだ?」

「いろんな種類があるって聞いてるよ。わたしも無属性の異能力をもった友だちはいなかったから、よくわからないんだけど」


 分からないのかよ。


「しかし、やっぱ、『美少女』同士でも友だちとかってあるんだな」

「もちろんだよ。レンタル待ちの『美少女』は、みんな、研究所で暮らしてるからね」

「さっき言ってた、生活する区域ってとこか?」

「そうそう。居住区きょじゅうくっていうんだけど、その区域も、同じ研究所でいくつかあるから、おんなじ場所に住んでても、顔も見たことないってよくあるんだけどね」

「なんか、話だけ聞いてると、刑務所の牢屋みたいだな」


 本物の牢屋がどんなものであるか、よく知らないが、優也のイメージはそんなものである。


「暮らしてるときはどうも思わなかったけど、いまふり返ってみると、普段から研究所に管理されてたんだろうね」

「そうなのかもしれねぇな」


 研究所は一体、人の命を何だと考えているのだろうか。

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