第11話 神様

 ネオはロランダ街のリリスガール街へ仲間と共に来ていた。

「すまんな、色々と大変な事につき合わせて」

と、告げる目の前には何時もの四人、ハーフドラゴンのドリン、エルフのレリス、鬼人のムラマサ、ハーフリングのルディリがいた。


 ドリンが

「いや、いいって…結構な額を貰っているし」

 

 ムラマサが

「それに、なぁ…」


「ねぇーーーーー」と四人がスケベな顔をする。


 数日前、嘆きの壁へネオがとある検証をする為に、四人を雇ったのだ。

 その検証は、嘆きの壁の向こうにある凍結と極熱地獄には、10℃から20℃の境が存在して、そこを通れるか?という実験だ。


 ネオは、防御最強なので、全く問題ないが…。ネオ以外はどうなるのか?

 これは、帝都からの依頼でもある。

 嘆きの壁の向こう、凍結と極熱地獄を超えた先にオリファルコンの原石が大量に存在する大地へネオ以外の人達を多く派遣して、オリファルコンの原石、アダマンタイトを多く採取したい目的がある。


 如何にせん、ネオの一人が持ってこれる量には限界がある。

 なので、将来的には、ネオに頼らずに嘆きの壁の向こうを踏破する者達を増やしたい。

 そこで、その凍結と極熱地獄の境に出来るルートがどのくらい使えるか?

 調べる為に四人を雇った。

 勿論、四人には説明した。拒否権もあった。

 だが、用意された報酬が金貨100枚の100000Gという破格だったので、すんなりと受けてくれた。


 という事で境が使えるかの実験体にされた四人と一緒に、嘆きの壁の向こうへ入った。

 そして…境の部分を進んだが…。

 まあ、当然ながら、トラブルの連続だ。


 まず、境が安定しない。

 通る度に不安定になり、境が潰れて凍結地獄か、極熱地獄が襲いかかる。


 大きな境の領域はある。だが…そこから次へ繋がる境の道が現れない事も多い。


 絶えず凍結地獄と、極熱地獄が襲いかかるここには、安定なんて皆無だ。

 そして、何より…境の道の空気とマナが薄い。

 雲海を下にする頂上を全力疾走しているように体力とマナが奪われる。

 通れるには通れる。だが、ルートとして使えるかどうかは、疑問の結果になった。


 この四人のデータは、共に調査に来ていた大魔導士戦士ディオ達に回収されて、次の考慮する資料となった。

 もちろん、報酬は払われ、四人とも体に異常はない。

 だが…やっぱり大変な思いを一週間もさせたのだ。

 なので、ネオが慰労を兼ねてリリスガール街へ四人を連れてきた。



 ネオと四人は、午後の昼下がりリリスガール街を回って入るお店を探していると、妙な石像が挟んだ一角を見つけた。

 そこは…ガーゴイルの石像が挟む暗い道。


 ドリンが

「こんな一角なんてあったけ?」


 ルディリが

「さあ…」


 レリスが

「何度も通っているのに気付きませんでした」


 ムラマサが道の両脇にあるガーゴイル像を見つめて

「何か…不気味だよなぁ…」


 ネオは、そのガーゴイルの石像が一種の結界のように思えた。

 ここは、マナ…魔法の世界。

 どこかの文献で、ワザと人の意識に残らない結界を構築する方法があると…呼んだ事がある。

 その方法の一つに、このような不気味な石像で道の両脇を挟み、一種の門のようにすると…あった。

 その類いではないか?とネオは思った。


 ドリンが

「行ってみるか…」

 それに他の三人も続く。


 ネオが

「お、おい…」

と、止めようとするも、四人は入っていった。


 そこが地獄の一丁目だとも知らずに…。




 道を進む。

 少し薄暗い道、窓も何もない。建物の壁が続く道、そして、その最奥に店があった。

 

 狂乱と狂騒の淫魔店。看板に…600Gで好きなだけやり放題。人数無制限、時間無制限。


 レリスが

「何ですか? これは…」


 ムラマサが

「人数無制限、時間無制限って」


 困惑しつつ一同が店に入る。そこは…


 店の魔獣系のかわいい受付の女の子が

「ようこそ…低級淫魔のお店へ」


 受付嬢の後ろにある頑丈な透明ガラスの向こうで、嬌声を上げている淫魔達がいる。

 その数は30名ほどだ。


 獣の唸り声のようは、嬌声を放つ低級淫魔達が、五人を見てよだれと喘ぎ声を放って何か言っている。

 叫んでいるので、恐怖が増す。

 こっちに来いや!とか、はやくヤラセロ!とか、男なら来いや!とか。


 もう、飢えた獣のような状態で騒いでいる。


 受付嬢が

「この強化ドアを潜って入った後、彼女達が満足するまで、帰して貰えませんよ。死ぬまで続きますから」

と、他人事のように告げる。


 ネオが魔獣系の受付嬢に

「あの…彼女達は…何?」


 受付嬢が

「低級淫魔、要するにセクロスしたいだけの衝動に取り憑かれている淫魔ですね。通常の淫魔、サキュバスは…精を取る相手を気持ちよくさせて満足させますが。彼女達は、自分の暴走する性欲を満足する為に、男を道具のように使い捨てします」


 ネオが青ざめて

「ええ…そんな種族がいるの?」


 受付嬢が

「まあ、何というか…そういう風になる発作に襲われて、低級淫魔になっていますから。そうでない場合は、ちゃんと普通にねぇ…」


 ネオが暫し考え

「つまり、ここに来る時に、繋がる道の両脇にあった石像は…」


 受付嬢が

「普段は、ここは閉じられています。ですが…こうして淫魔の狂乱に陥った人達が大量に運ばれた場合に、その閉じられた結界が開いてお店をしているんですよ」


「な、なるほど…」とネオは納得した。


 受付嬢は

「このお店は、皆さんのような五人で来る店ではなく、性欲が溜まった30人くらいで来るお店ですから」


 ネオは

「じゃあ、安い理由は? 街では、不当な値下げを防ぐ為に…料金はどの店でも一律なんだろう」


 受付嬢は

「ここは、淫魔の狂乱に陥ったサキュバス達が、その狂乱を解消する為に来るので、まあ、治療の一環であって、リリスガールの商売ではないという感じにはさせて、貰っています。

 あ、勿論、性病や避妊の魔方陣は完璧に完備していますから」


 ネオは再び、淫魔の狂乱になっている低級淫魔達を見ると、唸り声を上げて叫び、来いと煽っている。中にはあふれ出す蜜の秘部を見せて煽ってくる。

 青ざめるネオ。ここはヤバい。

「なぁ…みんな…ここはって!」


 四人は、身体強化のアイテム薬…エリクサード英雄の薬を飲み、エルフのレリスとハーフリングのルディリが魔法で四人に常時回復リュジュネーションの強化のバフをしていた。


 ネオは青ざめてパクパクと口を動かし

「お、おい…四人とも…何を…」


 ドリンが胸を張り

「ネオ、男には負けられない戦いがあるんだ!」


 ネオが顔を引き攣らせ

「いーーーや、意味が分からない! もしかして…」


 レリスが自信満々に

「あそこまでバカにされて、男の沽券に関わる。行かねば!」


 ネオの口が驚きでO型になり

「ええええ! いや、そんな沽券とかの前にヤバいだろう!」


 ムラマサが覚悟を決めた目で

「後でオレ達の骨を拾ってくれ」


 ネオが驚愕に顔を染めて

「いやーーーーー 拾いたくないよ!」


 ルディリが真剣な目で

「ネオ、ぼく…ネオみたいに真の英雄に、ネオが本国で伝説って言われるくらいにがんばってくる」


 ネオがパクパクと口を泳がせ

「いやーーーーー 何か変な勘違いしてない!」


 ドリンが「行くぞ!」と叫び

「おう!」とレリスにムラマサ、ルディリが続く。

 裸になった四人は、受付嬢が開けた分厚い扉を潜り、いざ…性欲の戦場へ。


「みんなーーーーーーー」とネオの声が虚しく響いた。


 それは始まった。

 最初、四人は健闘していたが…三十分して、それは貪られる餌になった。

 四人は始めは、乱れ楽しんでいた。

 代わる代わる低級淫魔達の攻めを余裕で楽しんでいた。

 むしゃぶりつく低級淫魔達の求めで、各のマイサン、魔羅様はギンギンにそそり立っていた。

 嬌声を上げる低級淫魔のリリスガール達。

 そのむしゃぶりは、伊達ではない。

 ありとあらゆる箇所を貪り、そして…搾り取った。

 そして、形勢は、二十分して逆転した。

 両手をつき、苦しそうにするが、それで低級淫魔達は、彼らの*から彼らの大事な部分に繋がる前立腺を刺激させ、強引に立たせる。

 そして、数人で押さえつけて彼らに乗り、絶えず嬌声を上げて雄叫ぶ。

 もう、限界だ。


 分厚いガラスの向こうで、低級淫魔達に貪られる四人は、動かなくなり痙攣している。


 ネオは青い顔のまま

「ま、まずい…死んでしまう」


 魔獣系のかわいい受付嬢が

「助けにいけませんよ。力がある魔獣系の私でも、あれだけの人数から助けに行くには、ムリですから。貴方が入るしかありませんから」

と、怪しく笑む魔獣系の受付嬢。

「だから、言ったんですよ。死んでも仕方ないって…」


 ネオは額を抱え覚悟する。四人を助ける為に。

 その為にある事をした。

 ドラゴントランス。

 人型でありながら竜族の力を行使する形態。

 竜化の際の翼を持ち、頭部から竜の角を伸ばす。

 いわゆる、竜人となる。

 ネオの場合は、背中からジェットエンジンの翼と、銀色に輝く竜の一本角を伸ばす。


 受付嬢が

「まさか…噂に聞いた竜族の…」


 ネオは指を立て口に置き

「秘密にして置いてくれ」


 受付嬢が

「分かりました。では…」

と、分厚い扉を開いて竜人ネオを入れて、ネオは四人を救出する為に低級淫魔達へ挑んだ。


 死にかかる四人は、神を見た。

 群がる低級淫魔達を、股間に後光が差す魔羅様で昇天させていく神がいた。

 次々と、銀の角と銀の翼を持つ魔羅神様が、淫乱の魔性に囚われた彼女達を、そのご立派な魔羅様で昇天させ、死にかかる四人の前に幸福な顔をした低級淫魔達が寝そべる。

 全てを満たされて、嬉しそうな顔の低級淫魔達。

 

 地獄に仏、淫魔を救う地獄仏を四人は見た。


 その姿は直立で、インドのカジュラーホーにある男女が合体した石像のように神々しかった。

 まさに魔羅神様だった。


 四人は気付くと強化ガラスの前に寝ていた。

 低級淫魔達の入る大きなケースを前にする壁に背中を預けて呆然としている。

 徹底的に搾り取られ焦点が合わない。


 そこへ、回復薬ポーションの瓶を口に当てる中身をゆっくりと流し込むネオ

「大丈夫か?」


 四人は回復薬をネオに飲ませて貰って、何とか焦点が合うだけの意識を取り戻す。


 ドリン、レリス、ムラマサ、ルディリが低級淫魔達がいるケース部屋を見ると、低級淫魔達全員が、そのケース部屋で幸せな顔をして眠っていた。

 そして、そのケース部屋の入口の前に、生まれたままの姿で身震いさせて寝ている魔獣系の受付嬢がいた。


 ドリンが

「ネオ…どう…して…」


 ネオがドリンに

「何とか、相手を麻痺させたり幻覚を見せたりする魔法薬を使って、低級淫魔達から…みんなを助け出したんだ…」


 ムラマサが

「ご…めん…」


 四人とも今更だが、後悔が来た。

 ネオが麻痺や幻覚の魔法薬を使って助けてくれなかったら…確実に死んでいた。

 死にそうになった影響で…神様を見た。


 ネオが背中らかネオデウスの大きなアームの手を出して

「帰ろう。この地獄から…」

と、四人をアームの手に乗せて運んでいると、身震いしていた魔獣系の受付嬢が足を震わせて立ち上がりネオに抱きつき

「また…来てくださいね」


 ネオは青ざめた顔をして

「けっこうです」

と、拒否した。



 その後…四人は近くの病院に入院した。

 病名は過重負荷による心身損耗だった。

 二週間半の治療が必要だった。


 四人が入院した理由が、あっという間に獅子食亭に広まった。

 ドワーフが

「バカだべ…あんな店に行くなんて…」

 鬼人の青年が

「あのお店は、オークの大軍か、インキュバス・ロードが行くみせだよ」

 爬虫類の賢者が

「噂には聞いていましたが…。性欲で自殺したい者がいくお店…」

 悪魔族の青年が

「自ら死地へ飛び込むなんて…」

 ドワーフが

「まあ、ある意味…冒険者だべ」


 そんな会話をネオは、テーブルに着いて耳にしていた。

 そこへケニーが来て「はい」と注文の品を置いてくれる。


「ありがとう」とネオは額を抱えていた。


 ケニーが

「でも、よく助けられましたね…四人も」


 ネオは注文の品の飲み物を口にしながら

「何度か鉄火場となっている戦場を駆け抜けて行った事があったからね。その経験が役立つなんて…」


 ケニーが呆れ気味に

「本当に…四人ともバカですよ」


 ネオは額を抱えて

「無謀と挑戦は違うからね…。はぁ…」


 ケニーは微笑していると、「ネオ」とケニーの双子の姉で、紅い有翼人のアニーが来て

「帝都から手紙が届いていますよ」


「ああ…ありがとう」とネオはアニーから受け取る。


 ネオの手紙には特別な魔法の封印が押されているので、ネオ以外にが開けると燃えて消えてしまう。そして、それは送った相手に伝わるようになっている。


 ネオは封を切っていると、ケニーが

「また…帝都からの依頼ですか? 嘆きの壁とか、入れない秘境とか、新たな鉱石とか…」


 そう、ネオへ来るだいたいの帝都からの依頼は、行き先困難な場所への調査関係が多い。


 ネオは「何だろう」と手紙を読んでいると驚きに顔を変えて

「ああ…なんて事だ…」


 ケニーとアニーが見詰めて、ケニーが

「何か、問題でも?」


 ネオが嬉しそうな顔をして

「妻達が妊娠したらしい」


 ケニーがハッとして、アニーが少し喜ぶ顔をするも、ケニーを見る。

 ケニーが

「ネオは、結婚していたの?」


 ネオは嬉しそうに微笑み

「ああ…週に三日ほど帝都に行く事があるだろう。その時に帝都にいる妻達と過ごしているんだよ」


 ケニーが

「ああ…そう、ですか」

 歯切れが悪い。


 ネオが首を傾げ

「どうしたの? ケニーちゃん?」


 ケニーが直ぐに嬉しそうな顔に変えて

「その…奥さん達が妊娠したんですね」


 ネオが嬉しそうな顔で

「ああ…でも、まさか…三人同時に妊娠とは。明日は帝都へ直行しないと、いや、今からでも帝都にいく船便がある筈だから…乗っていくか!」


 アニーは微妙な顔で妹のケニーを見て、ケニーが優しい笑顔で

「おめでとうございます」

と祝福してくれる。


 ネオが嬉しげな顔で

「ああ…ありがとうケニーちゃん」


 ケニーは笑顔とは裏腹に、もっているお盆を固く握りしめていた。




 ネオは、拠点の宿屋へ戻り、長期に借りている五階フロアーで荷物を整え、宿屋のホールへ来ると、ローブを纏ったあの低級淫魔達の魔獣系の受付嬢がいた。

「こんにちは…」


 ネオは荷物のリュックを背負い直しつつ

「ああ…その…」


 魔獣系の受付嬢が

「その…私、鼻が効くので…」


 ネオは訝しい顔で

「何の用事ですか?」


 魔獣系の受付嬢が

「その…また、お店を開く事になったら…来て欲しいんですよ」


 ネオは訝しい顔のまま

「自分の必要性を感じない」


 魔獣系の受付嬢が

「あの子達は、あんな状態にならなければ…とても優秀な方達なんです。普段は、色んな秘薬や魔法薬を作る魔法薬師の仕事をしていて…収入もそれなりに高いんですよ。

 でも、どうしても…体質的に、あのようになってしまうのです。

 それで…苦しんでいる子もいます」


 ネオは訝しい顔のまま

「つまり…その解消の為に…」


 魔獣系の受付嬢が

「みんな、貴方に助けて貰っている時に、凄く…安心感を感じたそうです。自分が相手を使い捨てている罪悪感を懐く事もなく。

 毎日、ある訳ではありません。数ヶ月に一度…それだけなんです。だから…」


 ネオは

「私は、既婚者だ。最近、妻達が自分の子を妊娠した」


 魔獣系の受付嬢が

「秘密は厳守させます。だから…」


 ネオは魔獣系の受付嬢の隣を通り過ぎつつ

「また…相談に来なさい」


 魔獣系の受付嬢がお辞儀して

「ありがとうございます」

 そして、ネオの腕に抱きつき

「私、貴方とした事…後悔してませんから」


 とある噂が広がる。淫乱の狂騒に取り憑かれた者達を救う魔羅神様がいると…。


 ネオは宿屋を出て船着き場へ向かっている最中…

「難儀だなぁ…」

と、思った。

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異世界現地調査 赤地 鎌 @akatikama

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