異世界現地調査
赤地 鎌
第1話 派遣される者
暗い空間に足音が響く。そして…
「敬礼」
と、彼が右手を上げて額に置き、敬礼をする。
彼の目の前に、光の柱が灯り、その光の柱の中に人影が映る。
光の柱の人影が
「ネオデウス1982号305番。任務ご苦労であった。汝の活躍によって、α23星座の戦闘活動が収束した」
別の光の柱の人影が
「さすが…恒星間戦術兵器だ」
彼は直立まま堅い表情で
「いえ、それが自分の任務ですから」
光の柱の人影は、人では無い。
彼の世界を支えるシステムの根幹、管理維持システムの人工知能中枢、人工知性体である。
彼の世界、西暦2120年の人類は、宇宙まで覇権を広げ、他惑星の文明と接触。
地球のある天の川銀河で、多宇宙民族連合国家を構築していた。
彼は、その多宇宙民族連合国家で、恒星間戦術兵器の一つ、ネオデウスとなった人物だ。
彼、個人の戦闘能力は、惑星を壊滅させる程の力と能力を秘めている。
それは彼と合一したネオデウスという究極の超兵器によってだ。
彼は人という生命でありながら、惑星を破壊する超兵器なのだ。
管理人工知性体達が
「さて、君の次の任務だが…」
彼、ネオデウス1982号305番は
「次の戦場ですか? それとも他銀河の侵攻からの防衛でしょうか?」
管理人工知性体が
「いいや、君には現地調査の任を命する」
1982号305番は、訝しい顔をして
「お言葉ですが…。現在、他銀河達からの侵攻が…」
管理人工知性体は
「その心配はない。とある事で手を打った。この銀河周辺の他銀河からの侵攻はない。いや、その危険性が皆無に等しくなった」
1982号305番は鋭い顔をして
「もし、問題がないでしたら…その理由をお聞かせください」
管理人工知性体の一人が
「これが理由だ」
と、1982号305番に立体画面を見せる。
それに映っているのは白銀に輝く翼を持った装甲の巨人だ。
1982号305番が
「これは? 新型の兵器ですか?」
管理人工知性体が
「これは、数ヶ月前、天の川銀河の
1982号305番は
「これがどのようにして他銀河からの侵攻を防ぐ理由になるのですか?」
管理人工知性体が
「我々は、これをオメガデウスと呼称して、研究を続けた結果、我々が存在する宇宙より遙か高次元と通じるシステムを判明した」
1982号305番は眉間を寄せて
「つまり…このオメガデウスと呼称される存在によって、我々は高次元へのアクセスを確立したと…」
管理人工知性体達は頷き
「そうだ。高次元へのアクセスによって、より簡単に数十億光年単位の転移移動、そして、高次元からの膨大なエネルギーへのアクセス。その恩恵を分配する代わりに、周辺の銀河系達との連合を構築した」
1982号305番は鋭い顔をして
「では、その周辺の銀河系達の現地調査というスパイ活動を」
「いや、違う」と管理人工知性体は否定して
「君には、このオメガデウスの持っている高次元へのアクセスを利用した別の時空への現地調査をして貰う」
1982号305番は
「時空を超えた新たな活動範囲の模索…と」
管理人工知性体は
「建前はね」
1982号305番が「本質は?」と
管理人工知性体が
「ナチュラル派が、男性権利復権を画策しているのは理解しているね」
1982号305番は暫し呆れたような顔で
「ええ…まあ、過去を理想にしている。愚かな回顧主義と」
この世界、この時空、容易に宇宙へ広がる文明と科学、技術を持っている者達…天の川銀河系の多宇宙民族連合国家は、現在、二つの思想派閥に分かれている。
システム派という技術と理論のシステムを重んじる理性と知性の派閥
ナチュラル派とされる人として生きるべきという感性と感情の派閥
この時空の多宇宙民族連合国家の男女比は、3:7。
女性が多い世界なのだ。
宇宙まで広がれる技術の発達は、男女差を無くして平等なシステム社会を構築した。
だからこそ、今まであった男女の価値観が不要となり、結婚というシステムが不必要となり、男女は自由に結ばれたり離れたりするようになった。
子供に関しては、どんな事、シングルでもダブルでも、十分に育てられる程の社会保障と支援が約束され、それによって劇的に虐待や犯罪が減り、充実した社会保障が享受できる世界になっている。
そして、システム派は割合が少ない男性が多く、ナチュラル派は割合が多い女性が主だ。
1982号305番が
「それが、どう…関連しているのですか?」
管理人工知性体が
「ナチュラル派が、この別時空への観測を持って、男性の復権に関する後押しにしたらしい」
別の管理人工知性体が
「オメガデウスの時空移動システム、マルチバーストコネクトは、別時空の様子を観測する事が可能だ。その別時空の一つ、多種多様な種族が共存する惑星がある社会文明レベルが
1982号305番は冷静に
「はぁ…で、それが何の支障に?」
管理人工知性体が
「男女比が半々になっても問題はないだろう。だが…ナチュラル派は、男女比率が同じになった場合、全ての男女は婚姻、つまり…必ず番いになるべきだと…そのルールの準備をしている」
1982号305番はフンと鼻を呆れで鳴らし
「婚姻の復活は良いでしょう。ですが…全ての男女が必ず婚姻するべきとは…愚かな独裁者の考えと進言します」
管理人工知性体が
「君の言う通りだ。男女が半々になるのは別に問題ない。だが、それによって男女が必ず結ばれるべきとは、些か理論として破綻している。男女の結び付きは、互いが平等であり互いが選択できる自由があるからこそ、意味がある」
別の管理人工知性体が
「男女が結ばれる事を良しする理論があるなら、男女は結ばれる必要が無いという相反する理論があってこそ、理論とは成り立つ。始めからこれだけしかないというのは、理論ではなく暴威だ」
管理人工知性体が
「とは言いつつも、ナチュラル派の言い分も無視は出来ない。よって…観測ではなく、派遣による現地調査を…それからもたらされるデータによって様々に問題定義しても遅くは無い」
1982号305番が
「なるほど、理解しました。ナチュラル派の論理破綻の修正の為に現地での、実質が伴った調査を報告せよ…と」
管理人工知性体が
「これは長期的な任務になる。おそらく数十年単位になるだろう。君には選択権がある」
別の管理人工知性体が
「この任務を選択するか、しないか、決めて欲しい」
1982号305番は視線を下げた次に上げ
「この場で…」
管理人工知性体が
「時間が欲しいなら」
1982号305番は
「いえ、この任務を受けます」
管理人工知性体が
「君は、自暴自棄に」
1982号305番が
「いいえ、戦闘任務にもうんざりしていた所です。のんびりと別の世界で、気楽にやれるのも悪くありません」
管理人工知性体が
「よろしい。では一週間後に、出発となる。その間、休養を取りたまえ」
1982号305番は敬礼して
「了解しました」
こうして1982号305番の彼は、別世界への現地調査を任命された。
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