子供な大人の恋愛事情

高宮 紅露

第1話 オフ会当日~邂逅編~

 池袋駅東口を出てすぐの横断歩道を中途半端に中島まで渡り、ガラス板で区切られた喫煙スペースを正面に見据えた場所でスマホを取り出して時間を確認する。

 AM11:58

 全くもって乗り気ではないのだが、僕は今日この時間、ここに来ないわけにはいかなかった。

 黒い髪は短く散髪されていて、多少ぎこちなさがあるもののちゃんとワックスか何かで整えられているし服装も丸襟のTシャツの上に薄手の黒い上着に少々年季の入ったジーンズというラフな格好でスマホの画面を一瞬見た彼が再びポケットに電子機器をねじ込もうとした時、手のひらにちょっと不快な振動を覚える。

 ――着信:アールちゃん――

 そう表示された画面下部を左から右にスライドして応答する。

 …………やっぱり来たかぁ。

「はい、もしもし……」

『あ!リリちゃん! 今どこぉ? あたし東口の喫茶店見えるあたりなんだけどぉ』

 電話の主はよく通る声でそう告げる。

 対して僕の方は女の子からの着信だというのに、それも待ち合わせをした相手からだというのにちっとも嬉しそうな顔をせずほとんど無表情のままだ。

「その辺は人通り多いから信号渡って喫煙所が見えるところにいるよ」

『はーい! じゃそっち行くねぇ~』

 少々かん高くて耳に残る女の子の声はそれだけ言うとぷつりと途切れた。

 はぁ、気が重いや。

 リリちゃん、と呼ばれた僕は今度こそスマホをポケットにしまい込んでは、死刑判決を待つ被告人のような気持ちでその場に佇む。

 いやもう死刑宣告されてるか、僕。

 予め今日の服装はアールちゃんに伝えてあるから後はあちらが自分を見つけられなければ10分後にこの場を去って終わりだ。

 冷たいかもしれないけどそれが僕と彼女との約束だから。

 しかし、非情にも死刑囚の肩をぽんぽん、と叩く者が現れる。

「はじめまして! アールちゃんでっす!」

 この場では少なくとも僕と彼女だけが知りえるネタを語尾に据えて衝撃を受けた方を反射的に振り向くと。

 薄桃色のワイドスリーブカットソーとデニム生地の膝丈スカートを身にまとい、長い髪を赤いシュシュで束ねた少女が満面の笑みを浮かべていた。

「ど、どうも……リリィ=リィです…………ゴメンナサイ」

 自分よりも10は年齢が下だろうと思われる少女の明るい笑顔と対照的に、僕はその娘に対してとてもとても消極的な挨拶しかできなかった。

 そもそも、どーしてこんな事に……。

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