今度は幽霊船
次の日、終日非常操縦計算処理装置の指示に従い、ユージェニー・ビンガムはタテ号を予定会合点へ向けて、三番水素エンジンを動かしています。
ときどき水素エンジン稼動で余った電力を蓄電もしています。
サルガッソというだけあって、海は凪の状態、鏡のような海面です。
見上げれば雲もなく、タテ号の航跡だけが時間を感じさせています。
「中尉、左前方に小型の帆船がいます」
「帆船?広域監視装置には映っていないぞ、壊れたのか?」
「非常操縦計算処理装置、帆船が左前方に見えるが広域監視装置は壊れているのか?」
「正常に機能しています、船など存在しません」
……おやおや、今度は幽霊船なの?幽子の世界にね……あれ、キャラック船ではないかしら……
この船、ニーニャ号――コロンブスの最初の航海の船団のうちの一隻――となっているけど三本マストよ、ニーニャ号は確か四本マスト……この船、ピンタ号よ、誰の知識?この世界は……
よく見ると三本マストの船はボロボロでした。
長く難破していたようです。
「近くに寄せる、生存者が居るかもしれない」
「中尉、生きているものは居ないと思います、近づかないほうが……」
「怖いのか?」
「……」
テラ号が近づくと、非常操縦計算処理装置が、
「前方に正体不明のエネルギーの塊があります、警告します、物質ではありま……」
このとき、前方の船がはっきりとしたような……
「当装置のエラーでした、前方に帆船、キャラック船です」
……ほう、手の込んだことをするのね……おや、人までいるわね……
なるほど……拷問船ですか……魂をもてあそぶための船……魂をおもちゃにしているの……
これ、男の欲望なの?女しか乗っていないじゃないの……
なにか船内でいっているわ、えっヘンリー八世?許してくれ?なに、それ!
ヘンリー八世って、ハンプトン・コート宮殿でであった男?あの滅した男?まさか今も存在しているの?
メアリ・リード――カリブの有名な女海賊、冷酷非道で有名――が部下?でこの船の主なのね。
で、ヘンリー八世のために、この海域で遭難した綺麗な女を集めている……
腹が立ってきたわ、ユージェニー・ビンガムは確かに其れなりに綺麗、でも私の部下、ひょっとすれば私のものになるかもしれないのよ!
アリアンロッドさん、理不尽な怒りのような、これではヘンリー八世もどきと五十歩百歩ではないの?
アリアンロッドさん、なにやら非常操縦計算処理装置をいじっています。
そして直接タテ号の無線にでました。
「ユージェニー・ビンガム、アリアンロッドです、いま目の前の船は幽霊船です」
「この海域で遭難した女の魂を奴隷として使役する船です」
「指揮するものはメアリ・リードの魂、タテ号は大破していますが、このぐらいの幽霊船、滅することぐらい可能です」
「非常操縦計算処理装置に命令しなさい、全自動で兵器を扱えるようにしました」
「非常操縦計算処理装置に命令、前方の船を浄化せよ!」
『粘着型空間転移振動破壊弾』が発射されました。
「命中しました、前方の敵船、振動崩壊します」
三本マストの船が徐々に消えていきます。
消え行く船から淡い光の塊が無数に浮かび上がり消えていきます。
使役されていた女の魂が、光子(フォトン)のように見えるようです。
「敵船崩壊確認、乗組員はほぼ船とともに崩壊、ボートが一隻残っていますがどうされますか?」
「人が乗っているのか?」
「女が一人、女児が二人乗っているようです」
「そこの変なボート、私たちを救助せよ!助けなければ子供たちも道連れにしてくれる!どうする!」
女が一人叫んでいます。
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